4
寮長から連絡が来たのは、話しをしてから一週間後の事だった。
朝学校へ向かうために、寮を出たところで呼び止められたのである。
「エルド君おはよう、ちょっといいかい」
「おはようございます。何でしょう?」
「この前の剣の稽古の話。先方が受けてくれるって」
「本当ですか!」
一応授業や剣に関する基礎の本を読んで練習を進めてはいたのだが、やはり専門的に教えてくれる人がいないと細かいところまで見てもらえないためか、上手くなっているように思えなかった。
まあ、一週間程度剣を振って上手くなれるんなら誰も苦労しないが――
「それでね、今日の夕方こっちに来てくれるって話なんだけど、いつから見てもらう? 向こうは今日からでもいいって言ってくれているけど」
「もちろん今日からお願いします。剣技じゃ周りに大分置いて行かれちゃってるんで」
授業中、一人だけ打ち合いをさせてもらえず、ひたすら基礎の素振りを続けることの辛さが分かるか? すごく恥ずかしいぞ。
その間にもレイラやバティス、レオンたちは凄い剣技の応酬をしているんだ。なんか一振りするごとに、近くの地面にズパンッて亀裂が入る。だんだん動きが速くなっているようにも見えるし、正直あいつらの練習中には近づきたくない。
「分かったよ。じゃあ授業が終わったら管理人室においで」
「はい、では行ってきます」
「行ってらっしゃい」
管理人さんにお辞儀をして、俺はアカデミーへと向かった。
授業を終え、そのままの足で管理人室へと向かう。通常の授業でも軍人を育てるためのメニューで組まれているため結構ヘトヘトになる。しかしここからさらに努力しなければ上には行けない。疲労を振り払い俺は管理人室をノックする。
「エルドです」
扉が開き、いつもの管理人さんが出てきた。
「いらっしゃい、もうあの子も来ているよ。紹介するから中に入って」
「お邪魔します」
促されるまま管理人室に入る。
中は学生用の部屋を二つ繋げた程度の大きさだ。
そして、中央に置かれたテーブルに、その女性は座っていた。女性が視線を上げ、俺と目が合う。
第一印象としては、少しきつめの女性だろうか。見た目はかなり若く二十代に見える。
銀色の髪がクールな印象を与え、やや上がった目尻が視線に鋭さを与えている。
もっと年配の人が来ると思っていたため、内心かなり驚いた。
「その子が?」
「ええ、剣を教えて欲しい子よ」
「あ、エルドと申します」
「ルネよ。聞いているとは思うけど、今日からおばあちゃんのサポートもしていくからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
ルネさんが立ち上がり手を出してきたので、俺は握手で返す。
「じゃあさっそく練習と行きたいんだけど、おばあちゃん良いかしら?」
「話すことはだいたい話したしねェ。しっかり教えておやり」
「分かったわ。じゃあ荷物を置いて裏庭に来なさい」
「はい」
俺は急いで部屋に戻ると、持っていた鞄をベッドに放り投げ、運動できる服に着替える。
階段を駆け下りて裏庭に出れば、ルネさんがすでに剣を持って待っていた。
「準備運動は――必要無さそうね。まず素振りから見るわ。この剣で素振りしてみて」
「分かりました」
ルネさんからミドルソードを受け取り、アカデミーで習った通りの型を作る。
基本的には中断で構え、右足を前に、左足を後ろにする。剣道の構えに似ていたので、これは意外とやりやすかった。
そこから剣を振り上げ、まっすぐに振り下ろす。
剣の切先が自分の胸の高さまで振り下ろした所で止め、再び頭上へと掲げる。
それを数度繰り返した所で、ルネさんがおもむろに近づいて来た。そして背後に回り、俺が剣を振り上げた状態で腕を掴む。
「ちょっと止まって。足はそのままでいいわ、肘をもう少し引いて、力が伝わりやすいように」
そう言って俺の型を少しずつ直していく。
俺は言われた通りに注意しながら、再び剣を振るう。すると、先ほどより剣の重みを感じなくなった。
たった数センチ構え方を変えるだけで、これだけ力の加わり方が変わるのか……
少し楽になったため、剣を振るう速度を上げる。
もともと筋肉はしっかり付いているのだ。素人のようにすぐに疲れることも無い。
「うん、いい感じになって来たわね」
全身を舐め回すように見られるのは少し恥ずかしいが、これも集中するための試練だと割り切って剣を振るう。
フッフッフっと若干息が切れ始めたところで、ルネさんからストップがかかった。
「基礎はこれで十分でしょう。後は毎日の繰り返しです」
「ありがとうございます」
「けどこれだけでは満足じゃないんですよね? 成績の上位を目指していると聞きました」
「はい、今日入学式の時の試験の結果が出たんですけど、操縦士学科の中で四位でした」
「四位ならばかなりいい成績だと思いますが?」
確かにその数字だけ見れば、十分かもしれない。だが、操縦士としてアルミュナーレ隊に配属される可能性としては半々になってしまう。
毎年必ず隊に配属されるのは、成績の上位二名。残りの数名は、隊の空き次第なのだ。だからこそ、目指すならば上位二名でなければならない。
それに――
「自分の上との差が大きすぎるんですよ」
一位は案の定レイラだった。ついで二位がレオン、三位にバティスと続いている。そして、俺とバティスの成績の差は四十点もあったのだ。レイラとの点差に至っては百点近くある。
「自分の欠点は歴史と剣技です。他はほぼ満点に近い数値でしたから、差を埋めるにはこの二つを押し上げるしかないんです」
「そうでしたか。となると、今年の生徒はかなり優秀な生徒が揃っているようですね。全成績ほぼ満点が二人に、もう一人も惜しいところまで行っているとなれば、確かにエルド君の年代はかなりの激戦になるかもしれません」
「ほぼ満点じゃないんですよ」
納得する様に頷くルネさんの言葉に、俺は修正を加える。
「え?」
ルネさんが顔を傾げ、銀髪が揺れる。
「一位のレイラっていうんですけどね、全教科で満点なんです。一部のミスも無く、オールパーフェクト」
そう、レイラは全ての試験で満点を取得した。これは、アカデミー始まって以来初めての出来事として今日大々的に発表されている。
教官たちの間では、レイラのアルミュナーレ隊入りはすでに確実と噂され、もしかすると副操縦士では無く、いきなりメインを務める可能性すらあると言われていた。
「あいつに追いつかないといけない。そうしなければ、俺は自信を持ってアルミュナーレ乗りになれない」
「なぜそれほどまでにアルミュナーレ乗りになりたいのですか?」
「え?」
今度は俺が首を傾げた。
「私がサポートメイドだったことは、おばあちゃんから聞いていると思います」
「ええ、後輩だったと」
「そうです。だから実際の戦場という物を目にしてきました」
ルネさんの表情には沈痛なものが浮かんでいた。瞳は揺らぎ、僅かながらその目尻には光るものが見える。
肘を抱くようにたたずむ姿は、先ほどまでのクールな女性とは一変、守りたくなるような儚さがあった。
「ジャカータのさらに先、オーバードとの緩衝地帯の警備が私の配属された隊の任務でした。私が待機していた町でも、怪我人の受け入れをしていましたから、私はそこで臨時に働いていたのです」
サポートメイドは隊員が戦場にいる間、近くの町に待機することになる。その間は、生活のサポートが無くなるため、近くの救護所の手伝いをするのだ。
「来る日も来る日も怪我人が絶えることは無く、痛みに苦しむ声だけが私の中に残り続けました。眼を閉じれば、怪我人の苦悶が聞こえてくる。そのせいで碌に眠ることもできずに、働いていなければ正気を保てなくなりそうでした」
「それは……」
「ええ、正気を保つために治療を続け、その治療のせいで余計に苦痛にあえぐ兵士を見ることになる。負のスパイラルに取り込まれた私は、心を閉ざしただ機械のように治療を続けたんです」
永遠に終わらない治療。それはどれほど苦痛だったのだろうか。サポートメイドは救護用に訓練を受けたわけではない。騎士達の生活面を助けるための訓練を受けたメイドたちだ。だからこそ、兵士達の声はルネさんの心を抉ったはずだ。
「そんな日を続けて二週間ほどした頃でした。私が働いている救護所に一人の兵士が運び込まれてきたんです。その人は、私の隊の整備士でした。片腕は無くなり、足は折れ、額からおびただしい量の血を流していました。幸いにも治療が間に合い一命こそ取り留めましたが、それだけでは終わらなかった」
整備士の怪我。けど、整備士は基本キャンプ地などに篭り、アルミュナーレが戻ってきた際に修理を行うはずだ。前線に行くのはアルミュナーレ乗りのみ。なのにその整備士が怪我を負っていたということは……
「ええ、隊のアルミュナーレが破壊され、キャンプ地まで進軍を許してしまったということです。そして、私の隊で生き残っていたのは、その整備士の方だけでした」
それは最悪の結末だ。
「多分その時です。私の心が折れてしまったのは。隊が解散され、新しい人員と共に私は再び派遣されることになりましたが、それを断りこの町に戻って来たんです」
そう語るルネさんの瞳からは、止めどなく涙が流れ続けていた。
「怖かった。短い期間とは言え、一生懸命支え、共に笑い合った仲間だった。だけど、最後は私の知らないところで、いつの間にか死んでしまっていた。また同じことが起こるのではないかと、またあの苦悶を聞き続けるのかと思うと、私は耐えられなかった」
ルネさんが語ったのは、戦争の現実だ。
映像や資料だけでは分からない、生の現場。その凄惨さや虚無感、そんなものがひしひしと伝わってくる。
「あなたは、何故アルミュナーレ乗りになりたいのですか? それほどの努力をしてまで、あの戦場へ自ら行こうとするのですか?」
「それは……」
言葉が続かなかった。
ただアルミュナーレが好きだからと、ただそれだけだと答えることができなかった。その答えは、今の彼女の思いを踏みにじるようにさえ感じた。けど――
「あの戦場で、あなたは自分が死ぬかもしれないことを分かっているのですか? 残された者の思いを考えたことはありますか?」
「ええ、ありますよ」
「ではなぜ!」
「自慢じゃないですけどね、俺ここに来る前に幼馴染から告白されたんですよ」
そう言って俺は胸元からアミュレットを取り出す。貰ってから家にいる時以外は必ず着けているお守りだ。
「かなり嬉しかったです。けど断りました。アルミュナーレの操縦士の死亡率が高いということは知識ではしっていましたから。もしあいつに縋り付かれて、行かないでと言われたら、かなり迷ったかもしれません」
だが実際は、俺の夢を応援してくれた。手に火傷を作りながら、アミュレットまで作ってくれて、送り出してくれた。
「俺は、アルミュナーレの操縦士になるのが夢だから。アルミュナーレを動かすことが大好きだから」
「それは……それは、自分を愛してくれた人よりも優先することなのですか?」
「どうなんでしょうね。正直自分にも分かりません」
生の戦場体験を聞いて、やっぱり自分の覚悟はまだ足りないと思い知った。
けれど、それで操縦士を諦めようかと思う気持ちは欠片も湧いてこなかった。たぶん、それが俺なんだろう。
転生してまでロボットを操縦したいと思った、俺の紛れもない本心なんだろう。
だから、諦めるつもりはない。
「分かりませんけど、自分の心に嘘は吐きたくないんです。あいつもきっと、そんな俺だから好きになってくれたんだと思うし。だから俺は真っ直ぐに目指しますよ。アルミュナーレ乗りの地位を」
「……」
「こんな答えじゃ、納得できませんか?」
「国民のためや、王のため、騎士として。そんな風に答えてくれたら、簡単に切り捨てられたのに…………あなたも隊長と同じなんですね。私が配属になった隊の隊長も言っていました。戦場は怖いけど、それ以上にアルミュナーレを操縦するのは楽しいって。戦いの無い世界で、これを操縦できたらどれだけ幸せな事だろうと」
確かにそれも面白そうだ。ロボット同士の戦いは心躍るものがあるが、建設や土木工事をする人型ロボットと言うのもなかなか乙なものじゃないだろうか。丸太を担ぎ、石を持ち上げ、泥にまみれ、一日が終わったら汚れたロボットを掃除する。現代にそんな仕事があれば、俺は間違いなく就職していたはずだ。
「良いですね、それ。ならさっさと戦争終わらせないと。指導の続きお願いしますよ。俺がアルミュナーレ乗りになって、さっさと敵のアルミュナーレ全部鹵獲してやりますから」
オーバードとの小競り合い、その終着点ははっきりと見えている。
絶対的な武力であるアルミュナーレ。それを全て奪ってしまえば、それは埋めようのない差となって相手の国にのしかかる。それがこの戦いの終わりだ。
「頼もしい言葉ですね。分かりました、では私の持てるすべての剣技をエルドさんにお教えします。私の指導は厳しいですよ」
涙を拭き、そう言ってほほ笑むルネさんは、とても優しそうに見えた。
ルネさんの指導を受け始めてから半年、アカデミーではバディスと正面から撃ち合えるレベルまで上達した俺がいた。
「なんでそんなに上手くなってんだよ!」
「死にもの狂いで訓練したからに決まってんだろうが!」
ガチンと剣をぶつけ合い、鍔迫り合いをしながらバディスと話す。
ルネさん、あの時は本当に優しそうな笑顔だったのに、練習の時はまさしく鬼だった。
容赦のない打ち込みに、徹底的な実践訓練。もちろん型が少しでも崩れれば容赦なくそこを指摘してくる。言葉では無く、剣で斬り込みを付けることで……
服を脱げば、俺の体中に剣で皮膚一枚を斬られた痕が何本も見つかるはずである。ちなみに、一番多いのが右腕で、次に多いのが左足である。
最初こそ、服を斬らない様にと気を付けながらやっていてくれたらしいが、途中からは面倒になったのか容赦なく運動服を斬りはじめた。なので今では、上半身裸で練習している。
ちょっと小細工かけて一本取ってやろうとした時は、首筋と頬に赤い線を作られた。正直あの時は死んだと思ったよ……
「こっちだって何年も練習してんだ! 簡単に抜かれてたまるか!」
「時間じゃねェ、密度が問題なんだ!」
激しい剣の応酬を重ね、お互いに体力が減ってくる。
少し疲れはじめたところ、それが戦いの重要な分岐点だ。ここで有利にならなければ、そのまま押し負ける。
バティスの剣を受け流し、柄で腹を狙う。それは躱され、俺の背中に隙ができた。
そこにバティスはすかさず切り込んでくる。だが予想できていれば隙では無くなる。
片足を軸に、体を回転させさらに倒れ込みながら強引に剣を躱す。片手で地面を叩き衝撃を流しながら、バティスの足に向けて剣を振るう。
それは跳躍によって躱されるが、飛んだ分だけこっちに時間が与えられる。
着地までの間に距離を取りつつ、体勢を立て直し、剣を構えなおした。
「お前なんでそんなに避けられんの! おかしくね!?」
「もっぱら回避と防御を重点的に教えられてるもんでね」
「何もんだよ、エルドの師匠!」
ルネさんは俺に回避と防御を徹底的に教えてくれている。個人的には攻撃方法も色々と知りたいのだが、ルネさんいわく「全部回避していればそのうち相手は疲れます。疲れたところであればどんな攻撃でも当てられます」とのこと。確かにそうかもしれないけど、この戦い方は時間がかかり過ぎますよ……
すでに三十分以上戦い続けている俺達を、周りの観客がやや呆れぎみに観戦している。剣技の試合なんて大抵が十分か長くて二十分には決まるからな。
「そろそろ勝負付けろ。もうすぐ昼になるぞ」
「なに!?」
「くっ……バティスが体力馬鹿なのが悪い!」
「おめぇもだろ!」
結局昼まで勝負はつかず、俺達の勝敗はお預けとなり、食堂へ持ち越しとなった。
「ほんと男子ってバカよね?」
「おい、俺をこいつらと一緒にしないでもらいたい。こいつらだから馬鹿なんだ」
俺とバティスの前にはうず高く積まれた肉と野菜の山。それを呆れた表情で見るレイラとレオン。
「いいな、どっちが先に食べ終わるか。これで勝負だ」
「望むところだ」
「レイラ、スタートの合図頼む」
「はいはい、じゃあ始め」
気だるげにレイラが開始の合図をだし、俺達は目の前の山を切り崩しにかかる。
ステーキに齧り付き、野菜をむさぼる。水で流し込み、パンを齧る。
むしゃむしゃもぐもぐと一心不乱に食べ続け、時折敵の様子を窺う。
バティスもかなりの勢いで食べている。俺と同じぐらいだろうか。ならここでさらに加速する!
俺はパンを水に浸して流し込むように食べる。バティスは最初俺の行動に驚いていたが、その意味を理解すると即座に真似をして食べ始める。しかしスタートダッシュは俺が貰った。
少しだけ差をつけて、食事は進む。いつの間にか観客が集まり始め、俺達のテーブルは生徒たちに囲まれていた。
「両者半分を過ぎて、すでに七割がたを平らげております! 現在リードしているのは、なぜかガツガツと食べているのにやけに眠そうな目をした少年、情報によれば操縦士学科一年のエルド選手! 対戦相手のバティス選手も必死に喰らい付いてはいますが、同じペースで食べているためかその背中を捕らえることができないでいるぞ!」
眠そうは余計だ。つか、いつの間に実況が付いてんだよ……情報調べられてるし。
「ここでエルド選手が野菜を食べ終えた! 後は肉だけか! しかしバティス選手は肉を今食べ終えた模様! この選択の違いが勝敗にどのように影響してくるか非常に楽しみです! っと、ここでバティス選手の手が遅くなったか! しかし、エルド選手も肉を噛みちぎるのに苦労している様子! 量確保するために固い肉使ってるから仕方がないね!」
バティスは野菜が苦手だ。だから最後まで残ったのだろう。対する俺は、肉のくどさを消すために野菜を食べていたから肉が残ってしまった。
にしても本当にこの肉は固い。いつもはサイコロにカットされているのを取っているからさほど気にならなかったが、ステーキだと固さが地味に辛い。
顎が疲れてくる。しかし負けられない!
「おっと! エルド選手、ステーキを二枚重ねで細く切って顎の疲労をカバーする作戦か! バティス選手は、ドレッシングを大量にかけている! ちょっと辛すぎやしないか?」
バティスもスパートをかけて来たな。野菜の苦みをドレッシングでかき消すつもりだ。だがもう遅い! 俺の作戦はすでに完了している!
「これは! エルド選手、二枚一気に切ったことで、カットの時間を省略している! 後は胃袋に押し込むのみ! バティス選手は――ピーマンです! ピーマンにフォークが止まっている!」
これで俺の勝ちだ!
肉を口の中へと放り込み、租借する。味なんてもう分からない。ただ固い肉を噛み砕き、喉を通る大きさになったものから飲み込んでいく。
そして――
「終わった!」
ガタンと勢いよくフォークとナイフを置き、立ち上がりながら両手を腕に掲げる。
「けっちゃーく! 勝者はエルド選手! バティス選手ピーマンに破れました!」
「勝ったぞぉぉおおおお!」
「くそぉぉおおお!」
勝者は高らかと天を仰ぎ、敗者は首を垂れる。
そこにあるのは、一つの決着だ。俺はバティスを超えた!
「はぁ、馬鹿ばっかり……私先に行くわよ」
呆れたレイラが、午後の授業の準備の為に食堂から出ていく。
俺はどうしたって? バティスと仲良く保険室で寝ていましたよ。