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 戦闘開始から二時間。

 砦近くから見ていると、ゆっくりとだが戦況の動きが見えて来る。

 まず北側。バティスやレオンの活躍のおかげか、だいぶ優勢に進められているようだ。全体的にこちらの部隊が敵を押し込み、戦い方に余裕が見られる。ただ、バティスが戦線を離脱したという情報も入ってきているから、あまり気は抜かないほうがいいかもしれない。

 一方、南側は形勢がやや不利だ。

 突出した実力を持つ騎士がデニス隊長だけというのもあるだろう。

 相手はデニス隊長にアルミュナーレ二機を当て、デニス隊長が自由に動けないようにしている。そのせいで、押し込むきっかけが作れていない。

 おかげで、司令部も主に南側への指示に専念しているようだ。先ほどからひっきりなしに馬が駆けていくのが見える。

 そして中央。ここは拮抗しているといっていい。

 お互いに一進一退の状況が続き、あまり変化が見られない。

 俺が注目している第一席も、最初からずっと本部の前に立ったまま動かない。

 あいつが動かないと俺も動けないんだよな。早く動いてくれ。

 そんな念を相手に送りつづけていると、南部が騒がしくなる。どうやら、南端の部隊が一部突破を許してしまったようだ。

 即座にほかの部隊が援護に入り、開いてしまった穴を埋めるが、後方へと突破した部隊が姫様のいる砦へと目指して突っ込んできている。

「さて、どうしたもんか」

 抜けたのは、数機のアブノミューレだけだ。正直俺が行けば秒殺は可能だろう。ただ、その数秒で一席様がどう動くか分からない。

 本部の指示を仰ごうかと砦に振り返る。

 そこには、針山ができていた。いや、それは針山に見えるほど大量に飛び出した砲身だ。

「え、マジ?」

 直後、ドウンッ!と重い音が連発し、一瞬にして砦が煙に包まれる。

 そして、防衛線を突破してきたアブノミューレたちが、一瞬のうちに穴だらけにされその場へと崩れ落ちる。

「ハハハハハ! ここは緩衝地帯の最前線基地よ! 防衛機構がそんじょそこらの砦と同じなわけがないじゃない! ハーッハッハッげほっ、げほっ、すごい煙ね。中に戻りましょ」

 なぜかハイテンションな姫様が、言うだけ言って咽ながら砦の中へ戻っていった。何がしたかったんだ?

 まあ、とりあえず砦の防衛機構が半端ないことだけは分かった。たぶん、もともとはアヴィラボンブ対策なんだろうけど、アブノミューレ程度ならば破壊も可能ってことか。

 なら俺はこのまま待機だな。

 俺は再びモニターの先に第一席を収め、監視任務へと戻るのだった。

 

         ◇


 戦線を離脱したバティスは、急増で作られた整備所へと戻ってきていた。

 バティスの隊のメンバーと出張してきた格納庫整備士たちが機体へととりつき、整備を始める。だが、耐久限界を超え、ボロボロになってしまった両腕は取り換えが必要なレベルである。

「隊長、これ時間かかりますよ! 腕は取り換えです。足はまあ何とかやりますけど!」

「頼むぜ! 整備は良くわかんねぇからな!」

「少しは分かってくださいよ! ただでさえ隊長の機体、関節負荷が大きいんだから!」

 悲鳴を上げながら整備士たちが作業を進める。

 そんな中に、二機のアブノミューレを引き連れ、一機のアルミュナーレが現れた。その機体を見た瞬間、その場にいた全員に緊張が走る。

「帝国の機体だと!? 侵入されたのかよ!」

 現れた深緑の機体。それは紛れもなくオーバード帝国のもの。目立った破損もないことから、バティスは侵入されたものだと判断した。

「まてバティス、俺だ。レオンだ」

「あん!? レオンだ!?」

 機体を起動させようとしたところで、その機体から聞きなれた声が聞こえてくる。そして操縦席のハッチが開き、中から良く知る幼馴染の姿が現れた。

「レオン!? その機体どうしたんだ」

「僕もアルミュナーレが欲しかったのでな。戦闘中に奪ってきたんだ」

 バティスが普通に会話する姿を見て、味方なのかと安心した整備士たちの間から緊張が抜けていく。

「奪ったって……」

「ワッツ隊長に御膳立てしてもらってな。一騎打ちで操縦士殺して奪ってきた」

「かぁ! やることが派手だな!」

「ふっ、僕もいつまでも副隊長でいるつもりはないということだ。この戦いの間はこいつを使おうと思ってな。ただ、味方だと証明できるようにしないと、後ろから刺されかねない」

「だから戻ってきたわけか」

 すでにここに来るまでも何機かのアブノミューレたちに襲われかけた。そのたびに、ワッツ隊長に付けてもらった護衛名のアブノミューレたちが間に立って仲裁し、ようやくここまで戻ってこられたのだ。

「武装をフェイタルのものに変更する。それと、塗料を掛けて白く染めといてくれ。綺麗に染める必要はない。フェイタルの機体だと分かればいい」

 機体をしゃがませつつ、整備士たちに指示を送る。

「おう、こいつは問題ねぇ。俺が保証する。指示に従ってやれ!」

 動いていいものか躊躇している整備士たちに、バティスがレオンが仲間であることを保証する。すると、安心したかのようにレオンの機体に整備士たちが走り寄って行った。

「すまんな」

「気にすんな。んで、戦況どうなってんだ? 一体にかかりっきりになっちまったせいで、全体の状況がどうなってんのか分かんねぇんだよ」

 そこでレオンは、バティスに今の状況を説明する。

 北部は順調に押し込めているが、南部は傭兵が暴れているせいで逆に押し込まれていると伝えれば、バティスはじゃあ次は南側かと凶暴な笑みを浮かべていた。

 だが、レオンがそれを否定する。

「アルミュナーレの配置を勝手に変えるのはまずい。奪取したこの機体なら自由に動かせるが、バティスは部隊の戦略に組み込まれているのだろう」

「じゃあこのまま北でボーっとしてろってか?」

「北を押しこんで、本部まで攻め寄せれば余裕のある南から増援が動くはずだ」

「なるほど、北側に引っ張り出せってことだな!」

「そういうことだ。それまでは僕が南に行って押さえておく。あまり遅いと、僕が殲滅してしまうかもしれないがな」

「はは、言ってろ」

 栄養補給用に用意されていたサンドイッチを食べ、戻ってくる頃にはレオンの機体は白く染められていた。ただ、本当に大雑把にやったようで、遠目に見ても分かるほどムラがある。

 そして胸部の装甲には即席でフェイタルの紋章が刻まれていた。

 これで、一目見て敵と思われることはなくなっただろう。

「すまないな。助かった」

「頑張ってください。俺たちも全力で支えますから」

「ああ」

 レオンは整備士たちの応援を受け、戦場へと再び飛び出していくのだった。


         ◇


 オーバード側作戦本部で、総指揮長イーゼルは顎に手を当てて地図を眺めていた。

 一見戦況は不利だ。北側はフェイタルの勢いを押さえることができず、じりじりと押し込まれている。かといって南は順調かと言えば、言うほど順調というわけではない。

 南端からの傭兵強襲により一部部隊が突破を達成し、作戦の第一段階は終了したが、第二段階までに押し込まれてしまっては意味が無い。

 一番の想定外の要因は、第二席が無名な騎士に打ち取られたことだろう。これが周囲の兵士たちに影響を及ぼし、北側は一度瓦解寸前まで追い込まれてしまったぐらいだ。即座に増援と陣の立て直しで何とかしのぎ切ったが、動揺がなくなったわけではない。

 噂の第二席を打ち取った騎士は、機体修理のために後ろに下がっていると聞くが、いつ戻ってくるかも分からない。

 時間との勝負。それがイーゼルの結論だ。

 どの手札を使うか。

 南部から一部部隊を回すのもありだが、そうすると南部で押さえているデニスが暴れだしてしまう可能性もある。

 では、部隊の移動は行わず、砲撃支援を北部に集中させるか。

 それもありだが、戦闘開始からすでに三時間。弾薬の補給や燃料の枯渇が心配になってくる時間だ。部隊ごとに順次補給を行っているが、そろそろ一気に枯渇組が出るはずだ。

 そこまで考え、そろそろジョーカーを切るべきかと判断する。

「メオラ殿に出てもらうか。そろそろ目を引き付けてもらわねばならんしな」

 イーゼルは伝令を使い、第一席メオラ・イン・レベルタへと出撃を要請する。行動方針は、中央突破の後本部へと攻撃を仕掛けることだった。


         ◇

 敵が動いた。

 一席の機体の足元に兵士が駆け寄ったかと思うと、その兵士が離れるまもなく、その機体が真っ直ぐに戦場めがけて走り出す。

 味方部隊の中央を突破し、そのまま最前線へ。そしてスカート上に広がった剣のうち二本を引き出すと、縦横無尽に振るい始める。

 その剣には、スカートからワイヤーがつながっており、俺のグロンディアレペシュとほぼ同じシステムを使っているようだ。

 一切足を止めない敵機は、すれ違いざまにアブノミューレを撃破しながらそのままこちらへと突っ込んできている。どうやら、敵中を突破してここに攻撃を仕掛ける気らしい。

 なら俺のやることは一つ。

「姫様、出ます!」

「頼みます!」

 一声かけると、砦の中から返事が来た。

 そして出力を全開にし、一気に加速させる。

 グロンディアレペシュを展開させ、向かってくる敵機に向けて挨拶とばかりに撃ち出した。

 撃ち出した剣は、敵機の両手によって叩き落される。

 すぐさま回収しながら、そのうちの二本を手に握り、ワイヤーから外す。そのまま接近して、敵機と切り結んだ。

 すると、相手の機体から声が聞こえてくる。

「貴殿が噂の剣翼か」

「どんな噂かは知らないが、剣翼と呼ばれてるらしいな」

「そうか。陛下よりの勅命だ。貴殿はここでメオラ・イン・レベルタが討たせてもらう」

「俺があんたを倒して、フェイタルとオーバードの戦争を終わらせる」

「不可能だ。私とこのプルストレーゲに敗北はない!」

「なら今日が最初で最後の敗北だ。俺とペスピラージュが敗北の味を教えてやる!」

 俺たちはほぼ同時に剣に力を籠め、弾きながら距離を取る。

 すると、プルストレーゲは剣のワイヤーを持つと、軽く回して反動をつけこちらにめがけて投げかけてくる。

 それを剣で弾くと、プルストレーゲはワイヤーを引いてペスピラージュに巻き付けようとしてくる。

 俺は機体をしゃがませそのワイヤーを回避、お返しとばかりにペルフィリーズィを取り出し、発砲。

 ダランッ!っと連続した爆発と共に加速した弾丸は、真っ直ぐにプルストレーゲへと迫る。

 プルストレーゲは、横に回避しながらワイヤーを引っ張って剣を回収する。そしてこちらに向かって踏み込んできた。

 どうやら、俺がライフルを持ったことで、近距離戦へと持ち込むつもりのようだ。

 けど、近づきたいと思うってことは、遠距離は嫌だってことだよな。わざわざ相手の土俵で戦うつもりはない。

 俺は後方へとジャンプしながら、左手にペルフィリーズィライフル、右手にヒュージャーショットガンを持って乱射。隠れる場所のないここで、これは避けきれないだろ。

 だが相手は、その攻撃を全て受けきった。回転させた剣のワイヤーによってだ。

 しかし、銃弾を受けたワイヤーもさすがに耐えきれなくなったのか、途中で千切れ、剣があらぬ方向へと飛んでいく。

 敵機はすぐにそのワイヤーを回収すると、別の剣を取り出す。

 武器がなくならないのも、俺の機体と似たような特徴だな。武装を奪えないってこんなに面倒だったのか。

 新たな武器を構えたプルストレーゲが再び加速し突っ込んでくる。さっきから真っ直ぐしか突っ込んでこないのは、何か理由があるのか突撃馬鹿なのか。

 こちらも再び弾丸を放つ。

 同じようにワイヤーを回転させ防がれた。千切れ飛ぶ剣を気にすることもなく、こんどは足を止めずにそのまま突っ込んでくる。

 二発目の発砲は間に合わないと判断し、銃をしまって剣を握る。

 どう来る――

 出方を見つつ剣を構えると、プルストレーゲがその剣を投げつけてきた。

 またかと思いつつ剣を弾き、こちらも加速。敵機の懐へと飛び込み剣を振るう。

 それは相手のもう一本によって防がれた。さらに敵機は、スカートから一本剣を取り出し振りかぶる。

 俺は相手の左足を狙って足払いを掛ける。それは気付かれ、ジャンプしながら後退することで躱された。さらに、後退しながら持っていた二本の剣すら投げつけてくる。

 そのせいで攻め切ることができず、再び相手との距離ができる。

「なんとなくあんたの戦い方が分かってきたぜ」

 スカート上に広がる八本の剣。敵機はそれを使い、遠距離も近距離も、そして防御まで全てを行っているのだろう。

 素直に言えば、ワイヤー剣の使い方は向こうのほうがうまい。

 回収せずに次の剣へと手を伸ばし、それを対処している間に投げたものは回収されている。

 迂闊に近づいたり、投げた剣と繋がるワイヤーの近くに立つと、それを使って足を掛けてくるだろう。

 油断のできない相手だ。だが、戦い方が分かれば対処もおのずと浮かんでくる。

「さあ、仕切り直しだ」

 剣を構える敵機めがけて、俺はヒュージャーを放つのだった。

 

         ◇


 平原に潜む影。アルミュナーレアブノミューレの戦いの前では、彼らの存在は矮小なものに過ぎない。だがそれ故に気づかれることなく忍び寄ることができる。

 フェイタル側の森林そこにいるのはオーバード帝国の兵士たち。

 一瞬だけ突破した部隊が運んできた歩兵たちである。

 彼らは言葉を発することなく、ハンドサインだけで森の中を進む。

 その先にあるのは、フェイタル王国の司令部だ。

 誰にも気づかれることなく司令部へと近づき、様子をうかがう。

 入り口には兵士たち。周囲にも歩兵が周囲を警戒している。だが、彼らの視線はこれまででは見たこともない大規模な戦いに引き付けられ、本来の警備はおろそかになっている。

 部隊の隊長が周囲の仲間たちを確認する。

 ほうぼうからOKのサインが帰ってきた。それを確認し、右手を頭上へと上げ、入り口めがけて振り下ろす。

 合図に合わせて森の中に隠れていた部隊が一斉に飛び出した。

 フェイタル側の兵士も、突然現れた兵士に驚きつつも剣を抜き対処しようとする。だが、完全な奇襲による魔法の攻撃で入り口にいた兵士たちは一掃された。

 さらに、巡回していた兵士たちも次々に屠られ、あっという間に入り口を制圧される。

 同時に、砦の中が騒がしくなった。

 奇襲部隊の存在が気づかれたのだ。だがもはやアブノミューレやアルミュナーレではどうにかできるものではない。

 部隊は一気に砦へと流れ込み、本部の制圧を狙うのだった。

次回予告

砦への侵入を許してしまったフェイタル側。下層を制圧され、万事休すかと思われる中、敵部隊の前に立ちはだかったのは、フェイタル王国の対人最強部隊サポートメイドたちであった。

そして、エルドは第一席メオラとの決着をつけるべく、攻撃に出る。

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