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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
アカデミー一年目
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1

「今日、この場に来ることが出来た者達、まずはおめでとう。だが、浮かれてはいけない。君達の隣に座っているものは、三年後少ない席を取り合うライバルとなる――――」


 養育学校(アカデミー)の操縦士育成科。その列に座り、俺は学長のありがたい言葉を聞きながら、あくびを噛み殺していた。

 身に包むのは、アカデミーの制服。アルミュナーレ隊の制服が純白の学ランなのに対して、アカデミーの服はその色違い。灰色の学ランである。

 制服を貰った時に聞いたが、アカデミーの生徒はまだまだ磨き足りない原石であり、その色はくすんでいる。磨き上げ、輝けるようになった時、あの真っ白な制服を身に纏うことを許されるそうだ。

 そんな風に聞くと、このくすんだ色の制服もよく思えてくる。


「――では諸君の健闘を期待している」


 やっと学長の話が終わった。予定表を見れば、挨拶関連はこれで終わりのはずだ。後は、学部ごとに分かれてのレクレーションで今日の予定は終わりである。

 と、俺の横でため息が聞こえた。他の生徒たちが真剣に学長の話を聞いている中で、この溜息は非常に好感が持てる。

 こっそりとそちらを覗いてみれば、吸い込まれるような真っ黒の髪をした女性が、親の敵でも睨みつけるかのように、檀上を見ていた。メイドのセッタさんの時もそうだけど、黒髪はやはり良い物だ。前世を刺激される。

 そして、俺の視線に気づいたのか、こちらを見る。その瞳は、予想に反して赤かった。やっぱりここは異世界だ。


「なんですか?」

「あ、いや。ごめん、なんでもない。ただ、ため息が聞こえてね」

「そうでしたか、こちらこそ失礼しました」


 おお、意外と礼儀正しいのかもしれない。

 好感度上昇中ですよ。


「気にしないでくれ。俺には真面目に聞いている周りのほうが不思議でたまらないんだ。君みたいな方が、好感が持てる」

「そう」


 これ以上会話する気はないのか、女性は再び檀上に視線を戻してしまった。

 どうやら、仲良くする気は無いらしい。まあ、今後はライバルになるんだし、当たり前か。


「では、これにて入学式を終了します。この後は、それぞれの学科の教師の指示に従って移動してください」


 司会の声に合わせて、周囲に立っていた教師達が誘導を始める。


「操縦士を専攻しているものはこちらだ! 迷わずについて来いよ!」


 ボドワン隊長に似た、ガタイの良い男が講堂の入り口から手を振っていた。

 俺の周りにいた生徒たちは、そこに向かって集まっていく。俺もその流れに従って男の下へと向かった。


「よし、教室に行くから離れるなよ。離れると遭難するぞ」


 あながち間違いでないから困る。

 アカデミーの建物は、外壁と校舎に囲まれた楕円型だ。校舎は七階建てで、その教室数は優に千を超える。

 そこに、色々な学科の教室が集まっているため、迷宮にも似た空間が広がっているのである。

 教師を先頭に廊下を進んでいく。七階まで登り、さらに廊下を進んでいくと、突き当たりまで到着した。この突き当たりの壁は、そのまま外壁の壁になっているようだ。


「よし、お前たちの教室はここだ。一番遠い場所だから覚えやすいだろ」

「な、何でこんなに遠いんですか!」


 一人の生徒が声を上げる。それはみんなの意見だろう。


「操縦士を目指すんなら、基礎体力も必要だからだ。日頃から鍛えるために、操縦士の教室は、一番遠くに設定されている。ちなみに、移動が必要になる特別教室は、反対側の一階だ。走らんと間に合わんぞ」


 鬼がいる……


「さっさと教室に入れよ。席は自由だ」


 教室は、小会議場と言える広さ、前世の学校なら教室二つ分ぐらいか。

 そこに、操縦士志望の生徒は全員収まってしまった。つまり、全員でも五十人程度なのだ。

 俺は、適当に開いている席に座る。隣には、流れのまま付いて来ていた先ほどの女性だ。


「全員席に着いたな。よし、俺がこれから一年間お前らの担任になるガズル・オルティガだ。アルミュナーレ隊の操縦士だったが、怪我を機に機体から降りて後輩の指導に力を入れている。俺以外の教官も皆同じように元操縦士だ。だから、分からないことがあったらどんどん聞くように。それとこれは一つ忠告だ」


 今まで笑顔で話していたガズル教官の表情が、真剣なものに変わる。


「おそらくここにいる全員がアルミュナーレの操縦士を目指してこの学科に入ったのだろう。だが、来年、同じ教室にいられるのはこの三分の一以下だ」


 その言葉に、教室にいた生徒たちに緊張が走る。


「そして、卒業できるのは、おそらく五人にも満たない。理由は分かるな?」


 当然だ。現在稼働しているアルミュナーレは王国内全て含めても三十二、いや俺が持ってきた機体があるから三十三だ。

 その全ての機体に毎年新しい操縦士が配属される訳ではない。毎年新たな操縦士が現操縦士の補佐としてアルミュナーレ隊に配属され、実戦を経験し数年を経てようやく正規の操縦士としてアルミュナーレに乗ることができる。

 だから、毎年十人も二十人も操縦士として卒業させても、配属先が無いのである。

 去年の操縦士学科で無事卒業まで辿り着けたのは七名。その中で、予備操縦士としてアルミュナーレ隊に配属されたのは、たったの二名である。

 ガズル教官の言った五人でさえ、毎年のデータを見れば多い方なのである。


「理由が分かっているならいい。今日、この日からお前たちはライバルなんて生易しい関係では無い。隣にいる存在は敵だ。自らの将来を掴みとるための壁となる存在だ。常に敵の動向に目を凝らせ、抜け駆けを許すな。そして、周りより一歩でも抜きんでるよう常日頃から努力を怠るな。俺から話したいことは以上だ。この後はお前たちの最初の能力診断がある。運動できる服に着替えてグラウンドに集合だ。更衣室はグラウンドの入り口にあるからそこで着替えられるぞ」


 それだけ言い残し、ガズル教官は教室から出て行ってしまう。

 残された俺たちは、最初こそどうすればいいかと悩み互いに顔を見合わせていたが、次第に動きだし、各々の判断で教室を後にする。俺も席を立ち、更衣室へと向かった。



 入学前にもらった運動着に着替え、グラウンドへとやってくる。

 そこは、巨大なドーム状の天井に覆われた、平原だ。さらに視界の隅には森が広がっている。天井のドームは木枠とガラスの混合になっており、日の光はしっかりと取り入れていた。

 俺達操縦士学科の面々は、各々に小さなグループを作ったり、一人で準備運動をしながら教官の到着を待っていた。

 そこに、ガズル教官が数名の教師を伴ってやってくる。


「よし、俺の周りに集まれ。特に形は気にしなくていい」


 指示に従って教官の周りに集まる。偶然にも、あの黒髪の女性がまたしても俺の隣に立っていた……偶然だよ?


「先ほど言った通り、今日は能力診断を受けてもらう。調べるのは、基礎体力と剣技、魔法だ。アルミュナーレに関するペーパーテストは午後から行うから安心しろ」


 どこからともなく苦笑が漏れる。


「最初は基礎体力テストだ。やることは簡単、俺に合わせて走ってもらう。どこまでついて来られたかで点数を決めるぞ。では五分後出発する。それまでに準備運動を済ませておけ」


 それだけ告げ、ガズル教官は準備運動を始める。付いて来た教官たちも同じように体を解しているところを見ると、彼らが後ろから俺達を追いかけて点数を付けるのだろう。

 俺も、準備運動をしようと集まっている場所から少し離れて体を解していく。

 ちょうど五分後には、再び集合を掛けられ、基礎体力テストが始まった。


 ガズル教官を先頭に、草原を走り始める操縦士学科の面々。

 全員が操縦士を目指しているだけあって、最初の二十分程度は誰も脱落することなくガズル教官の後に付いて草原を走っていた。

 けど、そろそろ脱落者が出始めるころだな。

 俺は、地面の様子を見ながらそう考える。

 何せここはしっかりと舗装された道路では無く、雑草の生えた凹凸の激しい草原だ。アルミュナーレが踏んだような凹みも各所にみられる。

 ただのランニングで筋肉を鍛えていた人たちには、この悪路はなかなか答えるはずだ。っと、早速一人か。

 俺はやや後方を走っていたため、脱落者にすぐ気が付いた。

 集団から少しずつ後方へと追いやられていき、俺のすぐ前まで下がってくる。

 息は上がり、足元はおぼつかない。これでもかなり無茶をしていたのだろう。汗も凄い量だ。

これはさっさと折ってやった方が良いな。

 これ以上無理やり走らせるのは得策ではない。そう判断した俺は、軽く速度を上げ、余裕の表情でその男子を追い抜く。

 追い抜いた瞬間見た男子生徒の表情は、絶望に彩られていた。そしてそのまま足を止めてしまう。すると、最後尾を走っていた教官の一人が近づき、何事かを生徒にささやき肩を叩く。生徒はその場に崩れ落ち、泣き出してしまった。


「まあ、来年がんばれって所だな」


 温い生徒はことごとく淘汰される。落第では無いのだろうが、成績としては最低だろう。しょっぱなからなかなか厳しい現実を突き付けられたもんだ。まあ、俺は落ちるつもりはないけど。

 さらに五分ほど走り、追加で二人が脱落した。それに伴ってか、教官が速度を上げる。

 さらに十分、二十分と経つごとに脱落者が増えていく。

 一時間走り続けたところで、残っているのは十人にも満たない。彼らも、同じように額から汗を垂らしつつ、必死に教官の速度にくらいついている。

 俺も、内心では結構キツイ。狩りで鍛えていたつもりだが、まだまだ操縦士になるには甘いらしい。


「フッフッフッ」


 規則的に呼吸をしながら、ペースを乱さないように走り続けてさらに三十分。残りが六人になったところで、教官がその速度を落とした。


「よし、基礎体力のテストは終了だ。今残っているメンバーは満点とする」

「よ、よっしゃ! やったな!」

「ああ」

「お、終った……」

「ふぅ……ふぅ……」


 ガッツポーズをとる者、膝に手を付いて息をする者、その場にぐったりと倒れる者それぞれに喜びを表す。

 その中に、俺と例の女性もいた。

 ゆっくりと教官の近くを歩きながら息を整えている。女性でここまで付いてこられるとは、相当鍛えているようだ。


「休憩は二十分だ。その後は剣技の試験に移るぞ、全員分かったな」


 よく見れば、周囲には途中で脱落した者達がいる。どうやら、俺達は走っている間にスタートの位置まで戻って来ていたらしい。

 途中脱落した者たちは、今度はより良い成績を取ると意気込み、最後まで残っていた者たちは、必死に息を整え少しでも体力を回復させようと筋肉を揉んでいる。

 俺も、地面に座り込んで体力の回復に努める。


「あなた、結構やるのね」


 そこに先ほどの女性が話しかけてきた。


「そっちもな。そこまで疲れてないように見える」


 女性は汗こそ流しているが、回りほどひどく息を乱しているようにも見えない。まだまだ余裕がありそうだ。


「これぐらいなら当然よ。あんな連中とは覚悟が違うもの。それに、あなたもまだ余裕がありそうだけど?」

「さあどうだか。案外ただのやせ我慢かも知れないぜ」

「それだけ話せれば十分よ」

「エルドだ」

「え?」

「俺の名前。正直最初に教室に集まった時に、自己紹介の時間も無いとは思わなかったけどな」

「ああ、そう言えばそうだったわね。レイラよ。全員敵って言われたから、気にしたことも無かったけど」


 確かに、教官は最初に全員が敵になると言った。だからこそ、他の生徒たちも、自己紹介などせずに、ソロで動いている者も結構いる。だが俺としては、それは悪手だと思うんだよな。


「少しは仲間を作っておいた方が良いかもしれない」

「どういうこと?」

「どうも、わざと分断するように仕向けているようにも見える。もしかしたら、後からペアや団体で行動する可能性もゼロじゃないだろ? 多少は信頼できるメンバーを集めておいても損は無いはずだ」


 なにせ、アルミュナーレ隊は最低でも五名、多ければ十名以上のメンバーで動くこともよくあることだ。そんな中で団体行動の出来ない奴が試験に合格できるとは到底思えない。

 仲間と敵の区別はしっかりとつけなければ、この競争は生き残れない。


「一理あるわね、とりあえずペアで動けてれば大丈夫かしら?」

「ああ、下手に三人にしたりすると、ペアが組みにくくなるしな。誘うならすでにペアになっている連中だろう」

「ならしばらくはペアで動きましょ。けど勘違いしないでね、あくまでいい成績を取るためよ」

「ああ、もちろんだ。よろしくな」


 レイラから差し出される手を取り、立ち上がる。

 それと同時に、剣技の試験が開始された。


 結論から言おう。俺に剣技の才能は無い!

 いや、だってさ。そもそも狩りで剣なんて使わない訳ですよ。精々使って獲物を捌くためのナイフを振るうぐらいで、後は弓か魔法なんだもん。

 だから、俺はこれまで剣の訓練というものをやったことが無かった。

 ええ、一瞬でやられましたよ。

 試験的には、色々な武器から自分の使える武器を持って、順番に教官と戦っていくんだが、俺はほぼ何もできずに終わった。初めて握ったミドルソードで、型も何もあったもんじゃない構えを取り、見よう見まねで斬りかかったら一撃で伸された。たぶん、これ以上は剣を振るのも危険と思われたんじゃないかな。

 魔法の併用すら無しでどうしろと……

 そして、この試験でトップの成績を取ったのは、教官を見事降伏させたレイラだ。一撃で教官の剣を弾き飛ばして、首筋に刃を当てるとか素人技じゃねぇだろ。何年練習すればそんなことできるんだよ……

 まあ、他の連中も剣技の基本ぐらいは修めているらしくて、しっかりと教官と打ち合いをしていたけどな! 俺だけだよ、一撃で伸されたのは! 

 まあ、騎士目指すんなら、剣技ぐらいは訓練していて当然なのかもしれない。貴族とかなら、親でもそれぐらいは教えられるだろうし。

 まさかこんなところで躓いてしまうとは。

 だが次の試験は魔法だ。

 魔法は俺の得意分野。ここで一気に挽回して、多少は成績を押し上げておかないとな。

 今一度気合いを入れ直し、俺は次の試験に挑むのだった。


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