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3

 俺たちが前線に到着してからさらに二週間が経過した。

 王都で出陣式に参加していたアブノミューレ部隊もすでに到着し、補給と整備を終えて戦列に組み込まれている。

 こちらの陣容は完成したのだ。

 しかし、その期間は相手のさらなる補強を行わせるには十分な時間だった。

 当初、一カ月で三部隊程度と予想していたが、帝国はかなり無茶して製造ラインを動かしたようだ。

 予想の半分、二週間で三部隊の増援が行われた。

 それに焦ったのは、当然こちらの首脳陣である。

 部隊の配置を変えるべきか、さらに増援を求めるべきか、それとも、別の作戦を考えるか。

 連日のように会議が行われ、姫様、モーリス総司令、クルーゼ総司令、その他士官組が徐々に疲労を蓄積する始末。

 このままでは、戦う前にこちらの頭が倒れかねないということで、姫様が開戦を決断した。

 それから二日。もともと予定されていた通りの部隊配置でフェイタル軍が緩衝地帯へと展開する。

 その動きに反応して、オーバード帝国も軍を展開させた。

 数はこちらが、俺を含めアルミュナーレ十五機にアブノミューレが三百五十機。

 対して、オーバード側は確認できているだけでも、アルミュナーレが十三機にアブノミューレが四百五十五機。しかも各部隊に一機ずつアルミュナーレが配備されていることを考えると、その後方に増援として何機かいてもおかしくはない。

 数でいえば、俺たちが不利なのは間違いない。だが、今回の戦いからは全軍が一斉に突撃してぶつかり合うわけではない。

 フェイタルもオーバードも、それぞれにアブノミューレの武装を変更し特化させた機体を用意してきている。

 こちらは汎用、近接、射撃それぞれの機体を一部隊にまとめ、隊での援護を行いやすい編成にしている。それに対して、オーバードが展開した部隊を見てみると、部隊を前列と後列に分け、前列に汎用と近接型を配置、後列に射撃型を配置しているように見える。おそらく部隊事に特化させた機体を変え、戦場全体で援護を行えるようにする仕組みのようだ。

 微妙に違うこの部隊の作り方が、戦況にどんな影響を与えるのか。それはこちらもむこうもまだ分からない。

 だからこそ、自分たちが信じた作戦で戦いに挑むのだ。


「この独特の空気は好きになれそうにないな」


 俺は展開した両軍がにらみ合う後ろから、その光景を見てつぶやく。

 俺の配置は、七部隊の中央、ちょうど砦を背にする位置である。砦を作った場所が緩衝地帯の中でも小高い所のため、ここからも戦場全体の様子が窺える。

 どこもかしこも一触即発といった感じだ。誰かが間違って引き金を引けば、それが開始の合図となっても何の不思議もない。

 そんな中、砦の屋上に姫様が出てきた。

 そして、屋上に設置してあったマイクを握る。


「私の名はイネス・ノルベール・フェイタル。フェイタル王国の軍務統括である!」


 その声はマイクによって拡散の魔法で拡大され、帝国側の本部にも届いているだろう。


「我々は、これ以上帝国の横暴を許さない。フェイタルの騎士たちよ! そなた達の背中にいるのは、そなた達の家族であり、恋人であり、友である。フェイタルの民は侵略に強さを使わない! しかし! 大切なものたちを守るために、我々の強さは振るわれる! 今、目の前にいるのは、我々を脅かす存在である! 脅威に対して剣を取れ! 振るわれる拳には盾を構えよ! そして、我々が守るために、奴らの剣を粉々に砕くのだ! 剣を掲げよ! 我らの勝利をこの蒼空に轟かせるのだ! 我らに勝利を!」

『我らに勝利を!』


 空に掲げられた剣は、その切っ先を輝かせ、兵士たちの声は地面を揺らす。

 さて、この声に相手はどう答える。

 モニターで敵側の本拠地を拡大すると、ちょうど一人の男がアルミュナーレの手に立っていた。その男の手にもマイクが握られている。


「勇敢なるオーバードの兵士たちよ! 私はアルミュナーレ及びアブノミューレ混成部隊総指揮長のイーゼル・レザトリスである! フェイタルとの長きに渡る小競り合いの時は終わった! オーバードの力はこの世を統べるに相応しい力である! 陛下こそが、世界を制する覇者である! 故に! この戦いは前座に過ぎない! 眼前を見よ。いかに矮小な兵士たちか! 数に劣り、質に劣り、そして指揮官は小娘である! 我らの勝利を誰が疑う! 天に掲げた奴らの剣、その輝きは今日をもってすべて錆付きこの平原に墓標として突き立てられるだろう! 我々は強大である。弱者は力でねじ伏せろ! 陛下はこの戦いが世界統一の始まりだと考えておられる! その重要性を示し、陛下は我々に一振りの剣を託された! 見よ、オーバードの屈強なる兵士たちよ! 見よ、フェイタルの矮小なる兵士たちよ! これこそが帝国最強の剣! 帝国八将騎士第一席! メオラ・イン・レベルタ様だ!」


 イーゼルが腕を横へと指し示した。そちらに注目してみると、一機のアルミュナーレがテントの中から布を払いのけて立ち上がる姿があった。


「帝国最強がこの戦場を蹂躙する! お前たちは、ただ目の前の敵を倒せばいい。そうするだけで、この戦争は勝利できる! 世界統一の第一歩は我らによって踏み出されるのだ! 帝国に勝利を! そして陛下に世界を!」

『帝国に勝利を! 陛下に世界を!』


 ふむ、帝国側の士気の上がりっぷりが半端ない。

 あのイーゼルってやつ、かなり上手いな。自分たちの士気を上げつつ、敵側を貶しながらその戦力差を明確に提示する。そして、ダメ押しの心強い味方の紹介。どれもが、敵に動揺を、味方に戦意を与える最高のパフォーマンスだ。すかさず敵の指揮官を小娘と言い切ったことも上手い。これは、イネス様の傍にモーリス総司令とクルーゼ総司令を配置しなかったこちらのミスだろう。

 相手の演説は相当戦場慣れしてやがる。

 まあ、本当の問題はそっちじゃないな。

 前情報から八将騎士の第二席がこの戦場にいることは分かっていた。だから、俺の相手はてっきりその第二席になると思ってたが、どうやら俺の本命はあいつになりそうだ。

 モニターで紹介された第一席の機体をズームする。

 濃い緑の機体は、真っ赤なマントを纏い、その腰には、八本の剣が装備されている。どれも、剣の柄を接続させているようで、まるでスカートのようだ。

 左手の盾は小ぶりで、腕に直接装着されている。

 ほかに目立った点は見られないが、第一席の機体がそれだけとは思えないし、注意は必要だろう。

 さて、第一席が俺の相手になることはまず間違いないだろうが、なら最初の目的であった第二席はどこか?

 モニターで敵部隊の後方を中心に探していく。基本強いアルミュナーレは遊撃に回されるだろうしな。


「いた」


 ズームしたモニターは多少荒いが、その姿をとらえることができた。

 まあ、身の丈ほどの大剣って遠目でも目立つしな。

 そんな目立つ第二席さんは、中心から北にずれた位置にいる。あそこから真っ直ぐ突っ込まれたとすると、対処する部隊は第二アブノミューレ部隊か。サポートのアルミュナーレは確か――oh……バティスとエレクシアじゃん。大剣どうしの戦いとか、できれば見てみたかったな。

 まあ仕方ない。向うはバティスに任せるとしよう。

 そして、俺の最重要目標はどこかな?

 北側はあらかた見たので、視線を南側へ。

 そして後方に待機してる部隊の中に、その姿を見つけた。


「フォルツェ、やっぱり来てたか」


 多少外見が変わっているようだが、基本的な変化はない。真っ黒なその機体は、間違いなくフォルツェのもの。ということは、その隣にいる曲刀を持った機体あれが――


「レイラ」


 俺がこの手で殺すと決めた相手だ。

 この戦場に、俺の目標はそろっているわけだな。結構大変な仕事になりそうだ。


「ペスピラージュ、今回は結構無茶しちまいそうだ。ボロボロになっちまうかもしれないが、よろしくな」


 コンソールを軽くなでると、ジェネレーターの振動が任せろと言っているように感じた。


         ◇


「全部隊前進しなさい!」

「全部隊攻撃開始! 汎用、近接部隊は前進! 近接部隊は汎用部隊の後ろへ! 射撃部隊は良く狙え! 接敵するまでに、できるだけ削るんだ!」


 イネスの一声と共に、クルーゼが矢継ぎ早に細かい指示を出し、戦場の駒を進める。


「オーバード軍第一から第七前進開始! 第八から第十三は射撃始め! 近づいてくる部隊を優先しろ! 傭兵たちには遊撃を開始しろと命じておけ。左右から攻めさせることを忘れるな!」


 同時に、イーゼルも指示を開始する。

 両軍が一気にその距離を詰め、弾丸が飛び交う中先行する部隊がぶつかり合う。

 一部隊の数はフェイタルのほうが多く当たりは強い。だが、後続からの援護射撃はオーバードのほうが多く、なかなか隊列に傷口を作れずに、少しずつ削られていく。


「射撃部隊は前進! 射程はこちらのほうが長い! 敵の射撃部隊を狙わせろ!」

「射撃部隊は左右へ広がれ! まとまっていると外れ玉が当たるぞ!」


 アブノミューレの狙撃に関してはフェイタルに一日の長がある。

 オーバードの射程外から攻撃を加え、少しずつ敵射撃部隊を減らしていくが、イーゼルも指をくわえてただ見ているだけではない。

 即座に部隊を薄く広く広げることで、至近弾が味方に当たることを阻止し、着実に被害を出しながらも前衛を削る方向に出た。

 前衛の汎用と近接型が抜かれれば、狙撃型でも迫ってくる敵に対処するのは難しい。

 クルーゼも即座にそれに気づき、前の部隊に指示を飛ばす。


「近接部隊は一機たりとも抜かせるな! 汎用隊は近接隊を庇いながら動け! 常に乱戦を心掛けろ!」

「第二第四第六部隊は後退! 第一第三第五第七部隊で壁を広げろ!」


 近接装備の部隊が後退したことで敵の壁が薄くなる。功を焦った一部の操縦士が、一気に部隊を押し上げようと薄くなった壁を突破する。

 しかしそこは、射撃型の射程範囲内。しかも、味方は後退しており、ぽっかりとできた空間だ。


「いまだ! 射撃部隊集中砲火を浴びせよ!」


 タイミングを見計らった集中砲火によって、少なくない数の機体が削られる。


「戦列を乱すな! 乱れれば崩されるぞ!」


 総司令からの指示に、部隊が足を動かす。

 伝令がひっきりなしに馬を駆けさせ、声の届かない範囲へ情報を届ける。


「モーリス総司令、アルミュナーレを一機ずつ前に出させてください。敵の部隊長が殊の外うまい統率をしています。あれを崩さなければ、こちらが押し負ける」

「そうですな。各戦列のアルミュナーレは一機前進! 敵部隊の頭を叩け!」


 クルーゼが部隊の統率を乱すため、アルミュナーレの投入を要求し、モーリスが指示を出す。


「応戦しろ! アルミュナーレは倒されないことを考えろ! 後部アルミュナーレは前進。二対一になったら攻撃を仕掛けろ!」

「増援が来る前に押しつぶせ! アブノミューレ部隊もちょっかいをかけてやれ! ハーモニカピストレなら関節を潰せる!」

「アブノミューレ部隊、前進開始! よそ見する暇を与えるな! 射撃隊は前へ! 敵射撃隊を強襲しろ」

「射撃隊はそのまま攻撃を続けろ! 向うの銃ではこちらの盾は抜けん!」


戦場にアルミュナーレが投入されたことで、戦いはより苛烈に、そして凄惨さを増していった。


         ◇


「やっと指示が来たか! 俺から行っても?」

「お前は止めても行くだろ。好きにしろ。だがバティス隊長が情けない戦いをするようなら、私が交代してやるからな」

「ハハハッ! エレクシア隊長、今日の俺は一味違うぜ! 行くぞ、エクスプラレージュ!」


 両腕に大剣を構えた機体。バティスの専用機エクスプラレージュが、モーリスの指示に従い前線へと向かう。


「どけどけ! バティス様のお通りだ!」


 射撃部隊の間を抜け、前線でぶつかり合う中へと飛び込み、一息にその剣を振り下ろす。

 地面へと叩きつけられた二本の大剣は、地面にぶつかると当時に爆発を起こし、爆風を伴った土砂が周囲の機体を襲う。


「くそっ、アルミュナーレだ!」

「隊長は!」

「アルミュナーレは無視だ! 俺たちはアブノミューレを」

「おいおい、無視はさみしいじゃねえか!」


 振るわれる大剣が、バティスから視線をそらした機体を真っ二つにし、さらに振るった勢いのままに一回転すると、近場にいたもう一機を盾ごと吹き飛ばす。


「こんな連中じゃ、準備運動にしかならねぇな! 出て来いよ、隊長とやら。じゃねぇと自分の部隊が全滅すんぞ!」


 バティスは挑発を続けながらも、素早く周囲のアブノミューレを撃破していく。

 そして、敵の足が止まった一瞬の隙を突き、さらに部隊の深くへと入り込んだ。


「ここなら味方はいねぇ! 思いっきり爆破してやるよ!」


 バティスの大剣は特別製だ。刀身に起動演算機(センスボード)が内蔵され、濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)を流すことで刀身の任意の地点に爆発を起こすことができる。

 その為、仲間が近くにいるとその技が使えず本領を発揮できないのだ。


「おらぁ!」

「やられてたまるかぁ!」


 大剣を振るい暴れるバティスに、一機のアブノミューレが切りかかる。

 威勢のいいその機体の攻撃を、バティスは大剣で受け止めさらに爆発を起こして敵の剣を手から弾き飛ばす。

 武器をなくしたところで、もう片方の剣を敵めがけて突き出せば、敵機はそれを盾で防ごうと左腕を構えた。


「甘い甘い! エクスプロージョン!」


 刀身と柄の境目、その僅かな段差で爆発が起き大剣はその衝撃によって加速する。


「ハハハ、腰抜けの騎士につくと大変だな! 腰抜け、どっかで見てんだろ。しっかり見とけよ。お前が隠れたから、こいつはこうなるんだからな!」


 盾ごと貫いた大剣を空へと掲げ、敵機を宙へと浮かせる。


「はじけ飛べ!」

「うわぁああああ」


 魔法を発動させた瞬間、貫かれた機体が内側から強烈な爆発によってはじけ飛ぶ。

 四散した機体のパーツが、敵機へと降り注ぎ恐怖を叩きつけた。


「さあ、次はどいつがはじける?」

「好き放題暴れるのは、そこまでにしてもらおう!」


 突如としてアブノミューレの壁を飛び越し現れる機体。それは、大剣を掲げバティスへと切りかかる。

 とっさに両腕を振るい、バティスはその剣に自身の剣をぶつけた。


「重ぇ。けどな!」


 爆発を発生させ、強引に敵機を引き離す。

 改めて見る敵の機体は、身の丈ほどの大剣を両手で握る深緑のアルミュナーレ。


「我は八将騎士第二席、ショーレン・ツィーヴァ・サンドルシア。最強の大剣使いとして、貴様を倒させてもらう」

「へっ、第二席様かよ! エルドの獲物だと思ってたが、とんだ大物が引っかかってくれたな! いいぜ、俺があんたを倒して最強の大剣使いになってやる」


次回予告

最強の大剣使い。その座を掛けた戦いが始まる。

一方レオンは、アブノミューレに乗りながらも飛び抜けた活躍で注目を集めていた。

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