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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
ベルジオ王国交渉編
121/144

8

 森の中を駆け抜け、信号弾が上がった付近へと接近すれば、敵機の姿がすぐに分かった。

 何やら長い腕を振り回し、周辺の木々をなぎ倒している様子だ。その周辺には数機のアブノミューレ。どの機体も、色々な方向を向いており、進軍をしているようには見えない。そしてどの機体も足元を見ているということは、そこに気にしなければならない相手がいるということだ。

 俺は兵士を相手にしていると判断し、ペダルを踏み込む。


「どっちと戦ってる」


 木々のせいでアンジュなのか、それともベルジオの兵士なのか判断が出来ない。

 だが、敵機が一か所ではなく色々な方向を見ていることから、ベルジオ兵の可能性が高いと考える。ならば、集団をまとめて吹き飛ばすような魔法は危険だ。

 敵の注意をこちらに向けるため、俺はファイアランスを選択しアルミュナーレに向けて放つ。

 その魔法は、当然敵機のマジックシールドによって減衰され、敵の装甲を軽く炙る程度に終わる。

けど、これでこっちに気付いただろ。


「むっ、そのアルミュナーレ! 我が国のアブノミューレを潰している機体ですね!」

「お前の相手は俺がしてやる!」

「いいでしょう! アリばかりを潰していても、何も感じませんからねぇ! あなたたちは、逃げた兵士たちを潰してきなさい!」

『了解!』


 相手は長い両腕を構える。すると、手の先から爪が飛び出してきた。

 あれがあの機体のメイン装備ってことか。装備するタイプよりも扱いにくいが、その分使いこなせれば装備武器よりも強力な攻撃が出来ることが多い。

 そういえばフォルツェなんかも、機体の腕に直接爪を装備させてたな。

 両側のグロンディアレペシュから剣を一本ずつ両手に構え、敵機へと切り込む。

 一瞬の交差の後、そのまま後方へと走り抜け、少し距離を空けたところで振り返る。

 敵機もその場で振り返りながら、再び爪を構えていた。

 あまり動く気が無いのかとも思うが、機体の武装を見る限り魔法特化のようには見えないし、カウンターが得意な機体にも見えない。

 後ろの尻尾のような武装が何なのかは気になるが、とりあえず注意しながら探りを入れることにする。


「動かないのですかぁ! ではこちらから行きますよぉ!」


 少し様子を見ようかと足を止めた途端、敵機が突如として動き出した。

 尻尾を地面に打ち付けながら、両手をだらりと下げ、その状態で走り込んでくる。

 敵機の構えが滅茶苦茶過ぎて、初撃が全く予想できない。

 普段なら、剣の構え方や予備動作、盾の動かし方などでどこから攻撃が来るか何となく判断できるのだが、これは無理だ。

 ならば――

 俺も即座にペダルを踏み込み、一気に距離を詰める。

 そして右手の剣を相手の操縦席目がけて突き出した。

 突きならば切り払いよりも速度が速い。相手はこの攻撃に対して防御をしなければならなくなる。

 相手の動きがあれば、そこから戦闘の流れを把握できるはずだ。


「ハハハハハ! 見え透いた攻撃ですねぇ! 生気を感じませんよぉ!」


 敵の操縦士は、意味の分からないことを叫ぶ。そして、敵機の尻尾が大きく動いた。

 その尻尾が地面を打たず、そのまま股の下を通り過ぎ突き出した剣の前へと飛び出してきたのだ。

 切っ先は尻尾へとぶつかり、軌道を逸らされる。


「クッ……」

「それぇ!」


 刺突を避けた敵機が、両腕を掲げるように振り上げる。

 前へと力が乗りすぎていて、後退での回避は出来ない。横へ逃げようにも両側から攻撃されているためどちらかの攻撃が当たる。正面は当然敵機がいて邪魔だ。

 ならどうするか。

 一瞬の逡巡の後、俺はそのまま踏み込むことを決めた。

 がっちりとレバーを握り、足を踏ん張る。

 そして、勢いのままに敵機へと激突。操縦席を大きく揺らしながら、俺の機体が敵機を押し倒していく。

 しかしその傾きはすぐに止まった。


「凄まじい生の執着! 素晴らしい! 躊躇いの無い飛び込みには、生を感じますよぉ!」


 敵機の尻尾が、支柱のように二機を支えていた。


「随分便利な尻尾だな」

「生を感じるための、最高の武装! あなたにも生を注入してあげましょう!」


 敵機が、体勢を立て直しながら、俺の機体をその長い腕でがっちりと抱きしめてくる。

 振り払おうとしても、完全に抱き付かれており引き離せない。

 グロンディアレペシュも、ペルフィリーズィもヒュージャーも展開すら出来ない状態だ。

 本来なら詰んでいてもおかしくはない。けど、この機体は違う!

 体勢を立て直した敵機が、再び尻尾を股の下から突き出してくる。その姿はまるで男のアレだ。


「気持ち悪いもん、突き出してきてんじゃねぇ!」


 俺の機体には、膝にも補助武装の装甲が追加されてるんだよ!

 タイミングを合わせて振り上げた膝は、その棘で尻尾を突き刺した。


「なんですと!? 私のスクーピスを防いだ!?」

「近衛騎士なめんな変態!」


 一本足になった状態から、機体を強引に捻って敵機を巻き込みながら再び倒れる。

 今度は、尻尾も突き刺してるし、支えるものは何もねぇぞ!


「ぐあっ」

「クッ」


 二機が同時に転倒し、ペスピラージュを拘束していた腕が解ける。

 倒れた状態のまま敵機を突き飛ばし、さらに蹴りを加えながら立ち上がる。


「やってくれますねぇ!」


 敵機は、俺に蹴られた勢いを利用して地面を転がり、そのまま立ち上がる。

 その機体の尻尾には、ペスピラージュの膝蹴りによって抉られ、火花を上げている上に、なにやら液体のようなものが垂れている。

 輝いていないところを見ると、濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)ではないようだ。となると、何かしらこちらの機体にダメージか阻害を与える液体の可能性が高い。

 注意しておくか。

 手放してしまった二本の剣の代わりに、グロンディアレペシュから一本だけ剣を取り、左腕にはヒュージャーを装備する。

 先ほどの動きを見る限り、あまり近づかない方がいい。装甲もそこまで特別固いわけではないようなので、中距離を保ちながら、銃での撃破が好ましそうだ。

 俺がヒュージャーを構えたのを見て、相手が体勢を変えた。

 前傾姿勢を取り、肩をやや前に出して長い手が地面へと突いている。

 少し不恰好な四足歩行のような形だが……痩せたゴリラかな?


「興味深い武装ですねぇ! 知っていますよ! 銃というのでしょう! この機体を作った整備士が、面白そうに調べていたましたぁ!」

「知ってるのと同じかどうか、受けてみな!」


 ヒュージャーの弾丸は装填されているので三発。無駄撃ちをするわけには行かないが、アルミュナーレ相手に出し渋ることはしない。

 相手の動きを確かめるように、俺はまず敵機の正面に向けてヒュージャーを放つ。

 途中で分裂した弾丸は、散弾となって敵機へと襲い掛かった。


「おっと!」


 敵機は咄嗟に機体を深くしゃがませる。潰れたカエルのごとく、地面へとへばりつき、その上を弾丸が通過した直後に、すぐに体勢を立て直した。

 俺は撃った直後に横へと走り出し、敵の側面へと回り込む。

 そして、二発目。


「当たりませんよぉ!」


 敵機は再び地面へと伏せる。だがそれはこっちだって予想済みだ。

 元からやや低めを狙った散弾は、一部が地面へとぶつかり弾けながらも、敵機に襲い掛かった。


「おおう!? この恐怖は生を感じます! ですが弱い! 圧倒的に力が足りない!」


 全身に傷を作りながらも、敵機は素早く起き上がり駆け出す。

 四足歩行状態で、手足をグネグネと動かしながら迫る姿は非常に気持ち悪い。

 俺は左側のグロンディアレペシュを展開させ、相手の目の前目がけて射出させる。しかし、機械とは思えない滑らかな動きで、敵機は剣を回避、そのままこちらへと突っ込んできた。


「二度と抱かれるつもりはねぇぞ」


 距離感を取らせないため、爪先のパイルバンカーを地面へと打ち込み砂煙を立ち上らせる。それに紛れて、俺は小さく移動しつつ、三発目の散弾を放った。

 バリッと数発がかすめるような音が聞こえ、その音を頼りに敵の位置を割り出す。


「そこ!」


 即座に持ち替えたペルフィリーズィで、予測地点を撃ち抜く。

 ズバンッと地面を強く叩く音で、外れたのを確認した俺は素早く後退する。

 直後、その場を敵機の尻尾が通り過ぎた。

 巻き散らされた液体が、俺の機体へと降り注ぐ。


「チッ」


 なるべく躱したかったが、まき散らされるとさすがに躱すのは難しいか。

 ペルフィリーズィを連射し、相手を近づけないように牽制しつつ、俺はパネルを操作する。

 機体の異常は……

 モニターや計器で、液体のかかった部分を重点的にチェックする。そして、嫌なデータを見つけてしまった。


「神経回路に遅延?」


 モニターに表示されているのは、液体のかかった右足の関節に伝達の遅延が発生しているというものだ。

 これは本来、伝達ケーブルの損傷や、物理演算器(センスボード)に異常があるときに発生する問題である。

 だが、今さっきまで足のケーブルが予備までまとめて切れるような激しい損傷は受けていないし、物理演算器(センスボード)だって問題なく稼働している。

 ってことは、やっぱりさっきの液体が何か影響を及ぼしていると考えるべきだ。


「伝達阻害をされてる?」

「よくお分かりでぇ! 私の毒はぁ! 機体を麻痺させ、じわじわと殺しますよぉ!」


 機体を麻痺させるか。マジで毒みたいな効果だな。

 けど、かかったのは右足だけ。それにまだ遅延が発生している程度で、動かなくなったわけじゃない。


「ハハハハハ! 今度こそ、直接打ち込んであげますよぉ!」

「そんな変なもん、ぶっかけられてたまるか!」


 バックステップで距離を維持しながら、ペルフィリーズィで敵機を狙う。しかし、敵機の不規則な四足歩行のせいで狙いが定まらない。

 それに思ったよりも遅延というのが機体を阻害させる。なまじ動くだけに、どうしても頼ってしまいがちなのだ。

 とくに、こんな不規則に動く相手には、反射的な操作が必要になるせいで――


「クッ」


 とっさに操作した時に起きる遅延は、機体バランスを崩させる。

 その隙を突かれ、敵機の接近を許してしまった。

 目の前に迫る敵機が再びその長い腕で抱きしめてくる。その上、先ほどの膝蹴りを警戒してか、片足を股の間に突っ込んで完全に密着させてきやがった。


「クヒヒッ、さあ注入の時間ですよぉ!」


 尻尾が敵機の背後へと延び、再びペスピラージュを突き刺そうとしてくる。

 こうなったら、自分から倒れて相手を巻き添えに。そう考えた時、小さな爆発音と共に敵機のすぐ横を砲弾が通り過ぎた。


「エルド殿! ご無事ですか!」

「その声――メガンか!?」

「助けに来ましたよ!」


 そう言いながら、再び発砲。アブノミューレの左腕に備え付けられた大砲から、弾丸が飛び出す。今度は敵機への直撃コースだ。

 それは相手も分かったのか、即座に拘束を解いて後退する。


「余計な邪魔を!」


 攻撃を妨害されたことに怒りを覚えたのか、敵機が標的をアブノミューレへと変える。

 メガンは驚きながらも剣を構えるが、アブノミューレでアルミュナーレの相手は無理だ。

 俺はペルフィリーズィで敵機の動きをけん制しつつ、敵機とメガンの間に滑り込む。


「貴様の相手は俺だろ!」


 振るう剣は、敵機の爪によって受け止められる。


「メガンは下がれ。こいつにはその機体じゃ無理だ」

「で、ですがエルド殿一人では! それに私だって操縦のやり方は学んでいます!」

「そう言う問題じゃない! スペックが違い過ぎるんだ!」


 まして相手は、専用機だ。相応の操縦士が乗っているはずである。ただ座学を学んだだけの新人など、役には立たない。それどころか――


「足手まといになる! ここは引け!」

「クッ……分かりました。ご武運を」

「周辺にベルジオの兵士たちがいるはずだ。そいつらの撤退を支援してやれ」

「感謝します」


 メガンの機体が下がっていく。それを確認しつつ、俺は敵機を視界に収める。


「協力しなくて良かったのですかぁ! 肉壁は非常に便利ですよぉ!」

「お前ほど堕ちちゃいないし、お前相手にそんなことは必要ない」

「これはこれは、強くですねぇ! まあ! そういう相手ほど、痺れさせた時の生への執着はたまらないのですがねぇ!」

「そのウザい話し方もここまでだ。次で決める」

「強気! その強気ぃ! 破壊しましょう!」


 ペルフィリーズィを格納しつつ、俺は残っている少ない剣から二本を取り出し両手に構える。

 これでグロンディアレペシュに装備されている剣は残り三本。後で回収しておかないと、オーレルさんたちに怒られそうだ。

 お互いに構えた状態で動きを止める。相手は俺が動き出すのを待っているのだろう。

 ならば、その挑発に乗ってやる。あんたの弱点はもう見えてるんだ。


「行くぞ」


 一気に加速し、接近する。

 そして、両腕に握った剣を、思いっきり敵機に向けて投擲した。

 回転しながら飛来する二本の剣を、相手は腕を振り上げて弾き飛ばす。

 そこに隙が生まれる。

 懐へと潜り込み、勢いのままに膝を突き出す。


「さあ、かかった! これでおしまいですよ! 痺れながら恐怖し、生を感じなさい!」


 それは、尻尾によって防がれた。だが、ここまでは予想通り。

そしてここからも、俺の敷いたレールの上をたどってもらう!

 空いた手で敵機の両腕を掴み、ロープを引っ張るかのように強引に引きずり倒す。

 その手の長さは、あんたの弱点だ。素早く動くためには、バランスが悪くて四足歩行を必要とし、内部に武装が格納されているせいで簡単には切り離せない。

 だから、掴まれ引っ張られると、とっさに判断が遅れる!


「なんですとぉ!?」


 膝を尻尾で防がれた時点で、大量の液体が機体へとかかったが、効果が出るのに数秒掛かることは分かっている。それだけあれば、十分だ。

 引きずり倒した敵機の操縦席目がけて、足を振り降ろし踏みつける。


「死ね、変態」

「生を! 生を感じますよぉ!」


 ズガンッとパイルバンカーがさく裂し、敵機の操縦席を撃ち抜いた。


「最後まで気持ち悪いやつ」


 敵機から足をどかし、周辺にいたアブノミューレたち目がけて宣言する。


「お前らのリーダーは俺が倒した! 抵抗するならお前らも切り殺す! 大人しく投降するのならば、操縦席から降りてその場に伏せていろ! それ以外の行動をした場合、即座に破壊する」


 アブノミューレなど、ファイアランス一発で沈むのだ。相手ではない。

 相手もそれを分かっているのか、それぞれの機体の操縦席が開き、操縦士が地面へと降りて地に伏せる。


「そのままでいろ。直にベルジオの兵士が迎えに来る」


 モニターで降りてきた兵士たちを監視しながら、ベルジオの兵士たちが戻ってくるのを待つ。すると、近くの木の上に信号弾が上がった。


「アンジュか」

「お疲れ様エルド君」


 アンジュはフレアブースターを使い、ペスピラージュの肩へと飛び乗った。


「あの気持ち悪い人、倒したんだね」

「あれはインパクト強すぎ。しばらく夢に出そう」

「抱きしめられてたもんね」

「男に抱かれる趣味はねぇよ」

「なら今夜は私が抱いてあげる」

「楽しみにしておくよ」


 ずっと護衛でご無沙汰だったからな。

 今夜はいつもより頑張ろうと、俺は密かに決意するのだった。


次回予告

オーバードの勢力を排除し、無事に王都へと到着したエルド。

そこでは、すでにベルジオ王とイネスの交渉が大詰めを迎えていた。


次回あたりでベルジオ編は終了になるかと。その後閑話を挟みつつ新章へ

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