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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
ベルジオ王国交渉編
118/144

5

 その日の夜。俺たちは再び会議用のテントへとやって来ていた。

 そこにいたのは、ルイネル様やゲオを含めて計八人の軍人だ。


「よく来てくれた。そこに座ってくれ」

「失礼します」


 俺は言われるままに席へと座る。その後ろに、アンジュとカトレアが控えるように立つ。二人には悪いが、ここは立場をしっかりと意識した立ち位置を取ってもらっている。

 ここは他国だし、些細な事でもフェイタルの名前に傷がつくようなことは避けておきたいからな。

 その間にも、雑用の兵士が俺の前にお茶を置いてくれた。それを待っていたかのように、ルイネル様が口を開く。


「さて、まずは自己紹介と行こうか。まず私がベルジオの第一王女であり、現在この第二防衛師団の総指揮官であるルイネル・デル・ベルジオだ。そして、私の隣にいるのが、副指揮官のトロン、左手側から順番に、第一部隊のジャーニ隊長、第二部隊のメガン隊長、第三部隊のゲオ隊長、右手側が第四部隊のツータ隊長、第五部隊のサンヨ隊長、そして第六部隊のミルミ隊長だ。第一から第四は戦闘部隊、第五部隊は偵察と監視の専門部隊で、第六部隊は補給と物資輸送を担当している」


 第一から第四部隊の隊長は、ゲオと同じように逞しく日に焼けている人が多い。現場のたたき上げといった印象が強い面々だ。

 第五の監視部隊隊長は、他の人たちよりも少し細身で、首に双眼鏡を掛けているのが特徴だろう。そして、第六補給部隊の隊長は、紅一点女性の隊長だ。こちらも、ズボンこそ迷彩の長ズボンを穿いているが、ルイネル様同様タンクトップ一枚で地味に露出が多い。

 それぞれの隊長が紹介に合わせて「よろしく」や「頼む」など一言告げてくるので、俺はそれに適当に返事をした。

 そして俺の番が回ってくる。


「自分は、フェイタル王国所属、第一近衛アルミュナーレ大隊第二王女親衛隊隊長のエルドです。森林部でのゲリラ戦に関して知識はありませんので、皆さんの指示に従わせていただくつもりです。よろしくお願いします」


平原や山岳部でのロボ戦闘ならいくらでも経験があるのだが、さすがにこの密集した森林での戦闘、ましてゲリラ戦なんてやったことが無い。

 だから俺は基本的に自分から動くことはせず、誰かからの指示を待つつもりだ。

 俺の言葉を引き継ぎ、ルイネル様が続く。


「と、言うことだ。基本的には、私の部隊に所属してもらい、第一から第四部隊が誘導した敵機を叩いてもらうこととなるはずだ」

「フェイタルの近衛騎士! 聞いたことがあります! 僅か一年と異例の速度で近衛に選ばれた、元エースだと!」


 驚きの声を上げたのは、第五部隊のサンヨ隊長だ。

 偵察や監視をメインにしているだけあって、色々なところの情報は多く仕入れているらしい。

 そして、それに続くように反応したのは、第六部隊のミルミである。


「あ、私も聞いたことありますよ。一機で前線を駆け抜けて、劣勢だった戦場をいくつもひっくり返してきたって。片腕だけで戦う姿から、隻腕なんて二つ名が付いてるらしいですけど」

「彼の機体には、普通に両腕が付いていたぞ?」

「あれ? じゃあ別人なんですか?」


 首を傾げるゲオと少し残念そうに口をとがらせるミルミに、俺が補足を入れておく。


「以前の機体は少し前に戦闘で大破しましてね。今はその時の欠点とかを補った新型機なんですよ」

「おお! そう言うことですか! では本当に隻腕さんなんですね!」

「そんな風に呼ばれていたみたいですね」


 主にフォルツェたちが呼んでいた呼称が広がったみたいだけど、最初の隻腕は単純に左腕が無かっただけなんだけどな……


「そんな方に協力してもらえるなんて、感激です!」


 ミルミは机越しに俺の手を取ると、がっちりと握り嬉しそうにぶんぶんと腕を振るう。その際に大きく開いた胸元の先で、たわわな果実がぶるんぶるんと震えていた。

 そちらに視線が引き付けられそうになったところで、背中に小さく痛みが走り、ビクッと背筋が伸びる。その耳元に、アンジュが小さく呟いた。


「エルド君」

「悪い悪い」


 アンジュの嫉妬に苦笑していると、興奮するミルミをルイネル様が止める。


「ミルミ、そこらへんにしておけ。嬉しいのは分かるが、今は会議中だ」

「あ、失礼しました!」

「さて、サンヨとミルミが言ってくれたように、彼の実力は相手に二つ名を付けられるほどだ。その力は信頼たるものだと私は思う。君たちにも異存はないか?」


 ルイネル様が問いかけると、それぞれの隊長が異存なしと答える。

 それに満足したのか、ルイネル様は一つ頷き、ロンドに向けて合図を送った。

 ロンドはそれを見て、横のテーブルから一枚の大きな用紙を持ってくると、テーブルへと広げた。

 それは、ここら一帯が描かれた地図だ。

 見れば、広場の位置や崖の場所、起伏や高さまでかなり細かく書き込まれており、まるで空から見たかのような細かさだ。


「凄いですね。けどいいんですか?」


 ここまで細かな地図となると、国家機密に当たる可能性もある。それをこんな簡単に他国の人間に見せてしまっていいのだろうか?


「問題ない。エルド殿の活躍が勝利の鍵となるはずだからな。地形はしっかりと把握していてもらいたいのだ」

「敵もよく地形に苦戦していましたからね。森が開けた先が崖だったなんてのは結構ある話です。ほら、ここやここも」

「なるほど」


 ルイネル様とロンドの説明に、俺は自分が生まれ育った村のことを思い出した。

 そう言えば、俺がアルミュナーレを見つけた谷も、森が開けた直後にあった。確かに、戦闘中にあんな崖に足を踏み外せば、それは大きな隙になる致命的なミスになる。


「なので、むしろエルド殿にはこの地図をしっかりと覚えていただきたいのです」

「分かりました」

「そしてだ。今私たちが本部としている場所は、この広場。以前の前線から北へ五キロほど下がったところだ」


 指揮棒で、ルイネル様が地図の現在地と、以前の前線の場所を指し示していく。

 今は完全に森に周囲を囲まれたところで戦っており、以前の前線は大森林の入り口付近で戦っていたようだ。

 だが、地図を見ただけで分かる。以前の前線は明らかにベルジオの戦い方に合っていない。

 森の外は平原になっており、そこで戦っていたとすればアルミュナーレたちを有している帝国が勝つに決まっている。


「戦場となっているのは、この位置。ここからは南に二キロといったところだな」

「意外と近いんですね」

「あの機体では森の中を自由に進むのは大変なようでね。彼らは森の手前にキャンプを張っている。そこから、私たちの本部を探して、定期的に森の中に入ってきているのだ」

「今日の連中も?」


 アブノミューレで随分と本部の近くまで迫ってきていた。キャンプ地が森の入り口だとすれば、そこから真っ直ぐにこちらに向かってきたことになる。


「ああ、私たちの本部が森の深くだと判断して、ここまで来たのだろう。向こうの指揮官も多少は頭が使えるようだ」

「今後の展開は?」


 大切なのはそこだ。正面からぶつかるのか。それとも本部の移動を考えるのか。


「もちろん戦う。期待してよいのだろう?」

「ええ」


 ルイネル様の笑みに、こちらも笑みで返す。


「さて、確認もできたところで、本題に入ろうか。どうやって、帝国の下種共を退治するかと言うことだが、私はここで戦いたいと思っている」


 ルイネル様が指し示したのは、川の近くにある崖。そこは、俺が機体を見つけたところと似たような地形になっている場所だ。ただ、俺の村ほど谷は深くなく、機体の腰まで、だいたい五から七メートルといったところだ。

 落ちれば機体でも相応のダメージが入るし、気を付けなければならない高さである。


「具体的な作戦はこうだ。まず第五部隊でこちらを探しに来た連中を察知。即座に第一と第二部隊で敵機をこの地へと誘導する。そこで、エルド殿に敵機を討ってもらいたい。だが、今回の最終目標は敵機の撃破ではない。最終目標は、アブノミューレの奪取である」


 その言葉に、隊長たちの間にどよめきが走った。


「アブノミューレの奪取でありますか!?」

「そうだ、確かに我々ではアルミュナーレの運用をすることは出来ない。だが、アブノミューレならば、燃料は魔力液(マギアリキッド)だ。つまり、我々でも問題なく運用することが出来るはずだ。すでに、フェイタルやオーバードではアルミュナーレと並ぶ主戦力となり、各戦場へと送られている。技術的にこれを手に入れる価値は大きいだろう」


 確かに、今戦場の主要兵器はアルミュナーレからアブノミューレへと変わりつつある。それは、アルミュナーレのコストの高さやその数故に大量に配置することが出来ないからだ。それに比べれば、魔導車よりもコストはかかるものの、アルミュナーレに比べればはるかに安価なアブノミューレは小国でも十分に運用が可能なはずだ。

 しかし――


「なるほど、しかしわざわざ奪取せずとも、こちらから情報の提供を行うことも可能かもしれませんよ?」


 今姫様がベルジオの王都へと向かっている。こちらが協力を要請するとなれば、相応の見返りは求められる物だろう。そこに、アブノミューレの技術を要求すれば、フェイタルならばおそらく通る。


「確かにそうだ。だが、目の前に実物があるのだ。それを奪えば、他のことを要求できるだろう? 小国故に、欲しいものは沢山あるのでね」

「ほどほどにお願いしますよ」

「考慮しておこう」


 それ絶対に考慮しない言い方だ!


「と、まあこんな感じの作戦なのだが、何か意見はあるか? プランの変更、応用、他にもなんでもいい。気付いたことは教えてくれ」

「ではまず自分から」


 そう言って手を上げたのは、第四部隊のツータだ。


「第三第四部隊は待機でいいのでしょうか? チャンスがあるのならば、そこに全力を向けるべきでは?」

「それも考えたが、敵の動きが少し怪しい。こんなところまで三機で来たということは、焦っていたことを合わせてもせき過ぎている気がする。もしかすると――」

「増援ですか?」

「そうだ。敵に増援があったとすれば、別動隊の可能性も考えなければならない。故に、第三と第四を待機させるのだ」

「いざという時に、同じ場所に誘導させるためですね」

「こちらの機体は、エルド殿の一機しかないからな。そこに誘導するのが私たちの最大の仕事さ」

「分かりました」

「では次は自分が――」


 そう言って、順番に隊長たちが意見を出していく。その光景は、まるでルイネル様を王女とは思わせない。

 同じ軍人の一人であり、同僚としての激しい意見交換が行われていった。

 それを見ていると、カトレアが小声で話しかけてくる。


「凄い会議ですね。フェイタルではこうはなりませんよ」

「ああ、どうしても上司に対しては萎縮するからな」


 ましてや相手は一国の王女だ。そんな相手の出した作戦に、問題点を指摘するだけならまだしも、根本的なプランの変更を要望したり、部隊の配置換えを要望したりと、彼ら隊長たちは積極的に自分の意見を述べている。

 そのどれもが、我が儘や戦果欲しさに来るものではなく、より作戦をよくするためのものなのだから、この師団の雰囲気の良さがよく伝わって来た。


「信頼されていると同時に、真剣に力になりたいと思っているんだろうな。誰もが、この国が好きなんだろう」


 大国となると、ここまで国を好きなるというのは意外と難しい。村や町程度ならば、真剣に守りたいと思うこともあるが、国一つとなると範囲が広くなりすぎて実感が湧きにくくなるからだ。

 ましてベルジオは大森林に囲まれており、住める土地というのは意外と少なく結びつきが強い。それが、そのままいい影響を与えているようだ。


「それに、最初の失敗もあるんだろうな」


 ルイネル様が言っていた、頭の固い上層部の作戦。それが、大きな失敗だっただけに、たたき上げの彼らは必死に意見を交わしているのだろう。

 一人が間違っていても、全員で補えるように。


「ほんと、良い光景だよ」


 そこに、かつて意見を交わして激論を繰り広げていたロボ研のメンバーを思い出し、俺の口元には自然と笑みが浮かぶのだった。


         ◇


 大森林入り口。そこには、テントが立ち並び、その周囲をアブノミューレが警備していた。

 帝国のキャンプ地である。


「ぐぁあああ!」


 そのテントの一つから、苦悶の声が響いた。

 そして、その声に混じるようにバシンと鞭を打つ音が混じる。

 鞭を振るうのは、色白でやせ細り、頬のこけた男。

 ぎょろりとした目を血走らせ、全身から血を流す男を容赦なく鞭で打ち続ける。


「クククッ! 良い悲鳴! 良い苦悶! 良い香り! これこそ痛み! これこそ生!」

「クロア様、これ以上は死んでしまいます」

「もうですか。仕方ありませんね」


 クロアは今一度大きく腕を振るい鞭を討った後、おもむろに吊るされた男へと近づき、その顔を掴み正面を向かせる。


「さて、再び問いましょう。本部の場所を答えなさい。そうすれば、痛い思いをしなくて済みますよ?」


 轡を外し、しゃべれるようにすると、吊るされた男はクロアに向けてつばを飛ばした。

 それは、頬に当たりたらりと垂れる。


「貴様!」

「残念です」


 側にいた兵士が、男の所業に怒り拳を腹へと叩き込む。

 咽る男だが、その間にクロアが再び轡をかませた。

 そして、人差し指を男の傷口へと当てる。


「ふっ!? ふがぅあああ!」


 人差し指がゆっくりと、傷口を抉るように中へと侵入してくる。その痛みに、男は目を剥きながら悲鳴を上げた。

 人差し指が第二関節まで潜るころ、クロアは無言のまま腕を動かし、つりさげられた男を傷口に刺さった指だけで揺らす。

 そのたびに、男は気絶しそうなほどの激痛に襲われ、体を捩った。


「ほれほれほれほれ、早く抜かなければ、もっと痛いですよぉ~」


 指がぐじゅりと動き、体の内側を掻き回す。噴き出した血が指を赤く染め、クロアの服を汚した。


「ほれほれほれほれほれほれほれほれほれほれほれ」


 クロアの指は、止まることなくむしろその速度を増しながら、男の傷口を中なら掻き回す。

 やがて、男は気絶しその体から力が抜けた。


「気絶してしまいましたか」

「いかがしますか?」

「このままにしましょう。目を覚ましたら、また楽しみます」

「ハッ!」

「さて――」


 血の滴る指を一舐めし、クロアはテントから外へと出る。


「増援が届きましたね」

「まさかベルジオごときに応援を要請することになるとは。不覚です」

「仕方がありません。思いのほか、敵の頭が優秀だっただけのこと。しかし、それもここまででしょう」


 立ち並ぶのは、計二十四機のアブノミューレと、一機の尻尾が付いた異様に腕の長いアルミュナーレ。

 最初十二機だったアブノミューレは、思わぬ抵抗に痺れを切らした本国によって倍へと増やされた。

 そして、整備中で全力を出せなかったクロアの機体も、増員と共にきた補給部隊により整備が完了していた。


「陛下の期待、裏切らないようにせねばなりませんねぇ。八将騎士の名もずいぶんと下がってしまいましたからねぇ」


 クロアは自身の胸に手を伸ばし、そこにある勲章にふれる。それは、八将騎士のクスィの位、六席を示す勲章だ。


「一国を落とし、八将騎士がどういうものか、今一度世界に伝えなければなりませんからねぇ。行きますよ、私の愛機フィタリアーデ!」


次回予告

エルドたちが戦いの準備を進めるころ、イネスは無事王都へと到着した。

そこでイネスは、ベルジオ王家からベルジオが帝国に狙われている理由を聞くこととなる。

一方ゲリラ隊の本部には怪しげな影が近づきつつあった。


フィタリアーデのイメージは、背筋が伸びて尻尾の生えたハイゴック


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