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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
ベルジオ王国交渉編
114/144

1

新章突入

 緩衝地帯からの撤退が決定して二日。

 俺たち第一近衛アルミュナーレ大隊第二王女親衛隊のメンバーは、全員そろってレイターキへの帰還を果たしていた。

 レイターキの市民には、すでに緩衝地帯での勝利が伝えられており、俺たちは半ば凱旋パレードのような状態で迎えられる。

 町と基地は分断されているため、わざわざ市民が街の外にまで出てきて出迎えてくれたのだ。

 帰ってきているのは、俺たちのほかにも負傷した兵士や、今後の補給物資を運ぶための運搬用の馬車が並んでいたりと、ちょっとした列になっていたため、それも相まってパレードの様相を呈してしまったのだろう。

 晴れやかな笑顔で手を振ってくる市民に対して、こちらも手を振り返す。

 帰ってくるときは疲れた表情だった兵士たちも、この出迎えのおかげで表情が和らいでいた。

 やっぱり、感謝されるってのは最高の薬になるものだ。

 出迎えてくれた市民たちへのサービスとして、負傷兵以外で軽く外壁の周りを一周し、外に出てきている人たち全員に兵士たちを見られるようにした後、基地の中へと入っていく。

 怪我をした兵士たちは、すぐに治療院へと運び込まれ、補給班はそのまま倉庫へと向かっていった。

 俺は、機体を格納するべく指示に従って格納庫へと向かう。

 格納庫の中は、作戦中と言うこともあり機体は全て出払っているようだ。

 ガランとして少し寂しい格納庫で、俺はグロンディアレペシュ(剣の羽)の位置に気を付けつつ機体をハンガーへと入れる。

 肩がロックされたところで、ジェネレーターを切り、機体から降りた。


「ふぅ、やっぱ格納庫に入れると、帰って来たって気がするな」


 自宅の駐車場に駐車して、ホッと息を吐くようなものかな?

 何となく安心できるのだ。

 露天駐機だと、近場が戦場と言うこともあり、常にどこか心に緊張を残しているからな。後は任せたって感じに出来ないんだよ。

 タラップへと降り、キャットウォークを使って下まで降りると、各員に指示を出している

リッツさんがいた。その姿がだんだん様になってきている気がする。


「整備始めるぞ! 一通りバラして点検、燃料は全部抜けよ! それと、消耗してる武装の報告も忘れるな!」

「リッツさん、だいぶ様になってきましたね」

「へっ、さすがにこんだけ指示出してればな」


 リッツさんは若干恥ずかしそうに、自分の頭をガシガシと掻き回す。

 そのしぐさも相変わらずオレールさんそっくりである。


「とりあえず機体面で出来るところは全部やっておく。おやっさんとカリーネもここで合流予定なんだよな?」

「ええ、いつになるかわちょっとまだ分からないですけど、こっちに来てもらう予定です」

「なら、出来ることはやっとかねぇと、何言われるか分かったもんじゃないからな」

「そのとおりね!」


 その声は、突然響いた。

 俺たちが驚いて格納庫の入り口を見れば、そこには二つの人影。一人はドワーフのような体型の小さなおっさん。そして、もう一人はツーサイドアップの特徴的な髪型に、トレードマークのメガネをかけた女性。


「隊長、久しぶりね!」

「しっかり仕事しとるようで、安心したわい」

「カリーネさん! オレールさんも!」


 その二人は、まだ王都にいると思っていた、カリーネさんとオレールさんだった。

 二人は、そのままこちらへと近づいて来て、ハンガーに固定されている機体を見上げる。


「目立った損傷はないようじゃのう。多少剣に破損が目立つか?」

「とりあえず想定内ってことろじゃない? 飛ばして攻撃なんて、刃の向きが定まりにくいし」

「それもそうじゃのう。リッツ、さっさと指示出して剣を外さんか! 初戦闘後なんじゃぞ! 全部バラして一から点検するのが当たり前じゃろうが!」

「は、はい!」


 オレールさんの気合の籠った声に、反射的に答えてリッツさんが指示を出していく。


「じゃあ私はデータの抽出してくるわ。隊長がどんな操縦したのかも気になるしね」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 キャットウォークへと向かうカリーネさんを、俺は慌てて止める。


「どうして二人がここに!? まだ王都にいると思っていたんですけど」

「魔導列車に乗せてもらったのよ。あれ、凄い乗り心地いいわね。馬車での移動が馬鹿らしくなるわよ」

「脆くなった腰には最高の乗り物じゃわい」


 二人は魔導列車の乗り心地でも思い出しているのか、満足そうに頷いている。

 詳しく話を聞けば、最初は馬車でこちらに向かう予定だったのだが、陛下の計らいで魔導列車による輸送に便乗させてもらえたらしい。

 そのおかげで、一週間以上かかる道のりを、二日に短縮したのだとか。


「そうだったんですか」

物理演算器(センスボード)関連、ほぼ独自言語の書き下ろしだったし弄れなかったでしょ?」

「ええ、臨時の刻書士(ライター)が泣いていましたよ」

「当然よ。私の全てを注ぎ込んだ物理演算器(センスボード)なんだから。そこらへんの三流刻書士(ライター)に解析されるほど、甘いものじゃないわ」


 それは、物理演算器(センスボード)としてどうなのだろうと思いつつも、自分の機体の為に全力を出してくれたカリーネさんには頭が上がらない。


「こっちのことは儂らがやっておく。隊長はイネス様の所に行っとくれ」

「陛下からお預かりした手紙をイネス様にお渡ししてあるわ。今後の方針とかが分かると思う」

「分かりました。では、機体はお任せします。あ、ペスピラージュ最高の機体でしたよ」

「当然ね」

「当然じゃな」


 満足げに頷く二人を背に俺は格納庫を後にすると、姫様がいるであろう司令部へと向かうのだった。


 司令部へ訪れると、受付でさっそく声を掛けられる。

 なんでも、姫様が待っているとのことで、すぐに部屋に来てほしいとのことだ。

 特に拒否する理由もないので、案内に従って三階にある貴賓室へと向かう。


「エルドです。戦況の報告に来ました」

「入ってちょうだい」


 中から聞き慣れた姫様の声が聞こえ、俺は扉を開く。

 すると、テーブルを飛び越える姫様の姿が目に飛び込み、そのままこちらへと駆けてダイブしてきた。

 あまりに突然のことで俺が動けずにいると、視界の端から新たな影が飛び込んでくる。

 それは素早く姫様を受け止めると、勢いを殺すようにその場でくるっと一回転して、丁寧に姫様を下ろす。その際に、ふわりと舞い上がった金髪で、俺はその影が誰なのか理解した。


「イネス様、抱き付きはダメです」

「ケチね」

「私の夫ですから」

「アンジュ、助かった」


 アンジュは顔だけをこちらに向け、ニッコリと笑みを浮かべる。その笑顔も久しぶりな気がするな。


「我が騎士、よくやったわ! 早馬でだいたいの報告は聞いているけど、あなたから直接話を聞きたいわ。どの程度まで押し返せたの? 削れた戦力はどれだけ? こちらの被害は? 補充要員は必要かしら? それとも、物資だけでも大丈夫そうなの? 今後の帝国はどう動きそうかしら? 他のラインから来ると思う? とれともアヴィラボンブによる正面攻撃かしら? こちらの砦はそれまでに完成しそう? 傭兵の動きも気になるわね。それに、話を聞く限り八将騎士を二人討ったとも聞いているわ。帝国の首都側の情報も入れないといけないわね。どこかリークしてそうな人いないかしら?」

「姫様、とりあえず一旦落ち着きましょう」


 興奮して、次から次へと矢継ぎ早に質問を飛ばしてくる姫様に、俺は一旦落ち着くよう促し机へと誘導する。その間に、アンジュにお茶を頼み、話せる準備を整える。

 しかし、今の姫様の思考。最初は俺への質問だったけど、途中から確実に自分の中で今後の展開を予想して考えてたよな?


「とりあえず、自分の知っている範囲で答えられるものはお答えします。それに合わせて、姫様にも動いてもらいたいことがいくつかありますので」


 そうして俺は、一時間ほどかけて戦場の状態を詳しく説明していく。

 現状、砦の建築は順調に進んでいる。アヴィラボンブに対する警戒もしっかりとできており、数百発飛んできても対処できるだけの対空砲と弾薬は既に設置が完了した。

 部隊の再編制もほぼ完了しており、敵側に目立った動きはない。やはり、戦いの要である八将騎士を二人も失ったことが、士気に大きく影響しているようだ。それに加えて、傭兵の離脱も目立つと聞く。

 機体が大破してしまった傭兵は当然として、まだ戦えるような機体を持つ傭兵であっても、戦場の後方へと下がっているらしい。

 その中には、フォルツェやレイラの所属するエルシャルド傭兵団もいるらしい。

 あいつらが戦場に出てこないのは、正直かなりホッとしている。フォルツェだけでも、今回結構な被害を受けているからな。一番の被害は、やはり元近衛ジャン・ローランの死亡だろう。今は士気のこともあり、北からの増援部隊以外には秘匿されているが、いつまでも隠しきれることではない。早いうちに、砦周りの制圧を確固たるものにする必要があるだろうな。

 それと、今回俺が失敗してしまった人質に関するアカデミーの教本見直しに関しても、姫様に伝える。

 すると、姫様も眉間に深く皺を寄せて、考え込んだ。


「なるほど。それに関しては、お兄様に掛け合ってみるわ。たぶん、来年の履修内容から取り入れられると思う」


 戦場に関することだけあって、その辺りのレスポンスは早いようだ。


「自分からの報告出来ることは、これぐらいですね」

「ありがとう。だいぶ詳しく状況が分かったわ。砦周辺が安定しているのは、かなり喜ばしいわね。正直、もっとギリギリの状態が続くと思っていたから」


 姫様は、椅子の背に体を預け、大きく息を吐く。


「これなら、お兄様からの頼みも早いうちにできそうね」


 そう言って一枚の手紙を取り出す。さすがに、俺に渡してくることは無いが、簡単に内容を説明してくれた。


「今フェイタルは、帝国に対する停戦交渉のために、色々と準備しているのは知っているわよね?」

「ええ、具体的な行動は聞いていませんが、何となくは知っています」

「それなんだけど、帝国の周辺と協力して、同時に帝国側に圧力をかけようって話をしているの。そのために、方々に手紙を出したり、使者を送ったりしてるんだけど、そのうちの一国がどうもまずそうなのよね」

「マズそうと言うと、協力を取り付けられなさそうだと?」


 まあ、帝国の周辺だからとはいえ、常にどの国もが帝国を脅威に感じているわけではないはずだ。同盟を結んだりして、侵略の恐怖から逃れることが出来れば、わざわざ帝国側に圧力をかける必要もない。

 だが、俺が考えているよりも、事態はマズい方向へと進んでいた。


「その国は、今帝国側の侵攻にあってるのよ。だから、協力しているほど余裕がないって返事が来たわ」

「ああ、そっちですか」


 帝国の国土拡大政策のせいで、フェイタルと同じように今まさに侵略を受けていると言うことなのだろう。


「ベルジオっていう帝国の北西にある小さな国なんだけど、小国なだけあってアルミュナーレもないし、アブノミューレの技術もまだ持ってないの。だから、必死に歩兵だけで抵抗してるって話よ」

「それは……」


 制圧されるのも時間の問題なのでは?という言葉は、飲み込んだ。


「我が騎士の考えていることも分かるわ。けど、あの国も結構特殊でね、色々と特殊な武器があるのよ。今はそれで抵抗できているみたい」

「つまり、その手伝いってことは」

「そう、帝国側の妨害と、協力の取り付けを交渉してきてくれないかって話よ。向うも、大国の王族が直接来たとなれば、むげには出来ないでしょ? まあ、原因を取り除いちゃうのが一番なんだけどね」

「なるほど。出発は何時頃に?」


 それが陛下の命であり、姫様に異論がないのであれば、俺が断る理由は無い。それに備えて、準備を始めるだけだ。


「緩衝地帯が安定しているのなら、砦が完成してからにしたいわね。ベルジオも三カ月は耐えられそうだし、不測の事態に備えて我が騎士にはここからあまり動いてもらいたくないわ」


 緩衝地帯が荒れているのならば、完成までに時間はかかるだろうし、ベルジオの猶予があまりないため多少の危険をはらんでいても移動しなければならない。しかし、砦の完成が思うより早く進んでいるのならば、完成を見届けてからでも遅くないと判断したのだろう。

 それだけ、ベルジオの特殊な武装とやらが強力なのかもしれない。


「分かりました。となると、早くて半月後ぐらいですかね」

「そうね、それぐらいあればそっちも色々準備とかできるでしょ?」

「ええ、助かります」


 新型のこともあるし、半月あれば隊のみんなも機体の整備に問題ない程度には仕組みを理解できるはずだ。

 その間に、武装の補充も依頼しておかないとな。ほぼ全部がオーダーメイドだし、武装まで特注となれば、どうしても遅れが出る可能性がある。

 それも考慮すれば、半月でも意外とギリギリかもしれない。


「それぐらいかしらね。詳しい予定とかが決まったら、すぐに連絡するから、それまではこの基地で待機任務ね。まあ、私の護衛もしてもらうことになるけど」

「護衛というと、どこか出掛けるんですか?」


 こっそりと、姫様の後ろに控える側付きに視線を送るが、側付きたちも何も聞いていないようで、首を傾げていた。


「今レイターキは、戦勝ムードでお祭り騒ぎなの。我が騎士も見たんじゃない?」

「ええ、町の外に人が押し寄せてましたからね」


 そのために、わざわざ町を一周するほどだ。あれは、お祭りというよりもパレードに近かったが。


「もしかして町の中でも?」

「ええ、露店が並んで、凄くにぎやかになっているわ。魔導列車の開通も合わさって、市民の財布も大分緩くなってるみたいだし」

「なるほど」


 商人や町の商店は稼ぎ時だろうし、そりゃ出店も出るだろう。きっと、戦勝記念セールとかもやっているに違いない。

 野球チームの優勝セールみたいだな。


「せっかくだし、私も視察したいと思ってね」

「それで護衛ですか……」


 目をキラキラとさせる姫様に、俺は内心でため息を吐く。

 正直、護衛任務はそこまで得意ではないし、配置なども考えないといけないからいろいろと面倒なのだ。加えて、姫様のことだ。どうせあらかじめルートを決めていても、その場で変えてしまうに違いない。

 となれば、側付きのメンバーを強化して、なるべく張り付いての行動がいいな。


「とりあえず明後日ぐらいでもいいですかね? 配置決めもありますが、正直隊の皆も疲れが溜まってますので」


 俺もそうだが、ブノワさんやカトレアなんかも情報の伝達のために戦場を走り回ってもらっていた。これでさらに今から護衛任務だなどと言われても、きついものがある。


「分かったわ。しばらくはこの雰囲気も続くだろうし、焦る必要はないわね。そっちの準備が整ったらでいいから、教えてちょうだい」

「助かります」


 とりあえず即座に行動というのは免れたようだ。


「とりあえず話はこれぐらいね。お疲れ様、もう下がっていいわよ」

「分かりました。それでは」

「アンジュも今日は下がっていいわ。本来サポートするべき人達が戻って来たんだもの、そっちに戻るべきよ」

「ありがとうございます」


 俺とアンジュが揃って礼を述べ、部屋を後にするべく扉を開く。そこに声が掛けられた。


「あ、我が騎士。一つ言い忘れていたことがあったわ」

「はい、なんでしょう?」

「お帰りなさい。無事でよかったわ」

「自分は姫様の騎士ですから。姫様の元に戻ってくるのは当然ですよ。では、失礼します」


 姫様に向けて敬礼し、今度こそ俺たちは部屋へと戻るのだった。


次回予告

予定通り町を見て回るイネスたち。

エルドやアンジュはイネスに振り回されながらも、何だかんだと楽しむのだった。

そして、慌ただしく日々を過ごす中で、砦完成の一報が届けられる。

それは、エルドたちの新たな任務の始まりだった。



書籍情報

昨日、アルミュナーレの二巻が発売されました。

それに合わせて、発売記念SSをアルミュナーレSSに投降しております。よろしければ、そちらもどうぞ。


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