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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
緩衝地帯建砦編
107/144

10

 夜明け前、王国軍がいる森の中は深い闇に閉ざされており、帝国のいる平原も僅かな星明りだけしか存在しない。

 本来ならば、まだ静けさと共に夜間警備の兵士だけが起きているような時間だが、俺たち王国側は静かに動き出していた。

 なるべく音を立てないよう、機体のジェネレーターは起動させず、静かにその時を待つ。

 この静けさの中では、拡声魔法を使った指示も行えないため、前日のうちに行われた作戦会議の予定に則って進められている。


「とうとう作戦開始か」


 俺は自身の機体の肩に乗り、暗がりの中で動く兵士たちの姿を見下ろしながらつぶやく。すると、すぐ隣に駐機してあるデニス隊長の機体から声が返ってきた。


「そうだな。王国側の初めての侵攻戦になるのだろうか……」


 デニス隊長も、すでに出撃準備を終えているのか、機体の肩に乗っていた。

 その表情は見えないが、自分たちが侵攻することに戸惑いでもあるのだろうか、声にどことなく戸惑いを感じた。


「侵攻戦は嫌ですか?」

「嫌、というのとは少し違うと思う。だが、我が国が攻めてしまえば、帝国との戦争は本当に止め所を失ってしまう気がしてな」

「どれだけ頑丈な盾を持っていても、相手が抜き身の剣を収めてくれることは無いと思います。こちらにも、剣があることを示さなければ、相手は自分が斬られる恐怖を理解できない」

「それが今回の作戦であると?」

「まだ剣を抜くだけだと思います。その剣をどこに向けるのかは、今回の戦いの結果と陛下やイネス様のお考え次第だと思いますよ?」


 姫様は、こちらも剣を抜くことで、立場を同じ場所まで押し上げようとしている。

 王都では陛下が色々と外交を使って帝国に働きかけていると聞いている。

 今、政治は確実に戦争を止める方向へと動いているはずなのだ。ならば、兵士である俺たちは、その計画が上手くいくことを祈って、求められた戦果を上げるだけだ。


「それもそうだな。騎士は騎士らしく」

「目の前の敵を討つだけです」


 草原の先にある山影から、うっすらと光が差し始める。もうすぐ日の出となるだろう。

 それと同時に、作戦の合図が来るはずだ。


「では、お互い生きて勝利しましょう」

「ああ、健闘を祈る」


 操縦席へと乗り込み、ベルトを締める。


『全機、ジェネレーター起動! 出撃準備!』


 拡声魔法によって届けられた声に合わせて、森に隠れていた機体が一斉にジェネレーターを起動させた。

 けたたましい駆動音と共に、七機のアルミュナーレ、そして百六十機のアブノミューレのジェネレーターが目を覚ます。

 突然の轟音に、鳥たちが一斉に飛び立ち、森の動物たちが鳴きながら逃げ出す。

 それは当然帝国側にも聞こえた。

 相手側の動きが一気に活発になり、野営地の火が一気に大きくなる。

 だが、それが俺たちの目的だ。

 まだ暗い草原の中で、一気に大きくなった明かりは良く目立つ。それが、空の上からなら尚更だよな?


「来たか」


 後方上部を映していたモニターに無数の光点が浮かび上がる。

 それはあっという間に大きくなり、その姿を朝日に浮かび上がらせた。

 王国産アヴィラボンブ。帝国のアヴィラボンブを回収し、研究した結果生み出されたミサイル兵器だ。

 燃費などはほとんど変わっていないが、飛行性能や操縦性能がやや向上している改良品というやつだ。

 そして、アヴィラボンブたちは明かりを目指して一直線に進み、操縦者を切り離して野営地へと飛び込んでいった。

 ドンッと巨大な爆発が起き、野営地に火の手が上がる。

 起動した敵の機体がアヴィラボンブから逃れるように野営地の外へと逃げ出し、残りのアヴィラボンブを撃ち落すために空に向けて魔法を放ち始める。

 それが俺たちのタイミングだ。


『全軍、攻撃開始!』


 指示に合わせて、全軍が森から飛び出し散り散りになっている機体へと襲い掛かる。

 アヴィラボンブに集中していた敵機は、突然の攻撃に成す術もなく討ち取られている。

 俺とデニス隊長は、それを部隊の少し後方から見ていた。


「今のところは順調ですね」

「これでどこまで打撃を与えられるかが重要だ。エルド隊長も、アルミュナーレを見つけたら、容赦なく叩けよ?」

「もちろんです」


 アブノミューレの数はもとよりこちらが少し多いのだ。問題はアルミュナーレの数。アヴィラボンブの奇襲で散り散りになった機体の中に一機でもアルミュナーレがいてくれれば、集団で囲んで叩くのだが。

 と、野営地の中から一機のアルミュナーレが炎を切り裂いて飛び出してきた。

 その機体は、巨大なランスを突き出しアブノミューレを一息に貫いていく。

 そして、ランスの全身が五機のアブノミューレで埋まると、一度だけランスを振るいそのすべてを抜き取った。


「新手だな」

「後方にもう一機いるみたいです」


 デニス隊長が仕掛けようとしたので、俺はその後に注意を促す。

 そこには、炎の中で二本の剣を振るい、アブノミューレたちを両断していく機体があった。


「二機か」

「デニス隊長なら、二刀流の方が相性いいのでは? 俺はランスのに行きますよ」


 デニス隊長の三剣一盾の乱舞ならば、二刀流の攻撃数を上回って叩き潰せるはずだ。それに、俺の機体だと、ランスの一撃を避ける方がやりやすそうだしな


「そうか。では任せる」

「ええ」


 一気に機体を加速させ、戦場を掛けているランスの機体へと近づく。すると相手もこちらに気付いたのか、ランスと大楯を構え、受けの態勢を取る。

 カウンター狙いか。見え見えの誘いには乗るつもりは無いぞ?

 ブレーキをかけながら剣を抜き、相手との距離を測る。


「ほう、血の気が多いだけの騎士ではないようですね」

「あんたは、かなりやり手みたいだな。どっちかっていうと、カンザス側か」


 動きや武装の特殊性を見る限り、こいつも八将騎士の可能性が高い。


「カンザスを知っている――となれば、貴様が隻腕と呼ばれる騎士ですか」

「そうだ。どうやら、あんたも八将騎士で間違いないみたいだな」


 カンザスを呼び捨てにできるってことは、こいつも同じかそれ以上の地位にいるってことだろう。となれば、八将騎士の一人で確定だな。

 俺は警戒レベルを最大限に上げ、相手の一挙手一投足に集中する。


「聞いていた機体とはだいぶ違ますが――まあいいでしょう。自分は八将騎士第三席。ダニエス・ドーラ・オレリアン。皇帝の命により、貴様を完膚無きまでに叩き潰させてもらいます!」


 俺は相手の名乗りに思わず舌打ちしそうになった。

 第三席っていやぁ、エイスが言ってた別次元の強さを持った連中って話じゃねぇか。そんな相手に、この機体で戦えとか無茶苦茶にもほどがある。

 けど、だからって簡単に潰されるつもりは無い。今回は、アヴィラボンブのおかげでだいぶ有利な戦場を作れているのだ。時間は俺たちの味方になる。

 ならば、俺がやることは、時間をかけてこの野郎を引き付けることだ。


「簡単にやられるほど、俺は軟じゃねぇぞ」


 周囲に炎が広がる中、俺たちは対峙し相手の出方を窺いながら、にらみ合いを始めるのだった。


         ◇


 エルドと別れたデニスは、真っ直ぐに二刀流の機体へと向かい、攻撃を仕掛けた。

 二刀流の機体は、デニスの攻撃に素早く反応すると、振るわれる剣を受け止め鍔迫り合いへと持ち込む。


「いきなりだな!」

「ここは遊び場(闘技場)ではない。戦場だ」

「そりゃそうだ!」


 お互いに力を籠め、剣を弾き機体を後退させる。そして、土煙を巻き上げ踏み込むと、再び剣をぶつけ合った。

 二度のぶつかり合い。その時点で、お互いに強さを確信していた。

 これまでの雑魚とは違う。明確な力がある相手に、ハンドルを握るデニスの手にも力が籠る。

 王を守れなかったのだ。近衛騎士を外されることも、前線に移動になることも当然だと納得していた。だが、守れなかったことに対する後悔は、心の中に残り続け、それはしこりとなってデニスを苦しめ続けていた。

 前線にいても、戦えない日々。敵がすぐ目の前にいるのにもかかわらず、自分に課せられたのは魔導列車の護衛任務。

 それが大切な役目だとは分かっていても、どうしても納得できなかった。それを、心の奥に押し込んで今までを耐えてきたのだ。

 だからこそ――


「今日の私に、慈悲は無いぞ」


 冷静に、冷徹に。全てを薙ぎ払う一筋の剣となろう。

 剣の柄どうしを連結させ、空いた手にもう一本の剣を握る。

 三剣一盾。デニスの全力を出せる構えで、敵と対峙する。


「その武装に構え。聞いたことがあるぜ。お前、元近衛隊のデニスだろ」

「だったらなんだ」

「俺は八将騎士第五席、ヤン・ヴェルタ・リオネルだ。帝国と王国の近衛、どっちが強いか、確かめてやるよ!」


 ヤン機の踏み込みに合わせて、デニスも動く。

 ヤンが振るう剣を盾で受け止め、弾きながら剣を突き出す。それはヤンの左腕の剣によっていなされるが、そこからが三剣一盾の本領。

 手首を捻って逆手側の刃で相手の肘を狙う。


「おっとあぶねぇ」


 ヤンは一歩下がってその攻撃を躱すと、お返しとばかりに両手の剣を一度に突き出してくる。

 こうなると、盾で防ごうにもどちらかが別の場所を貫く。

 故に、防ぐときは剣ではなく、その元を狙う。

 突きに合わせて、同じようにデニスも突きを繰り出す、その切っ先はヤン機の両腕を狙っており、胴体を狙ったヤンの攻撃よりも早く突き刺すはずだった。

 だが――

 ヤンは手首を捻り、デニスの突きに自らの剣を合わせる。

 ぶつかり合った刃は衝撃を伴って二機の腕に負荷を与え、手首の動きだけで対処しようとしたヤン機の両腕から剣が宙へと待った。


「そこ!」


 それを好機と見たデニスは、敵機の懐へと飛び込みながら剣を振るう。

 しかしそれは、ヤン機がいつの間にか両手に握っていた、ナイフによって防がれていた。


「残念でした」


 そして、剣を受け止めたナイフが操縦席目がけて振るわれる。

 デニスはそれをとっさに盾で弾き、ナイフの間合いから離れた。

 しかし、ヤンの追撃は止まらない。

 ヤンが一歩前に出て、手を空へとかざす。すると、狙いすましたかのように、先ほど弾きあげられていた剣が、その手へと収まり振るわれる。


「まず一撃!」


 振り下ろされる剣に、防御が間に合わず、デニスの機体の胸部に浅い切れ込みが入れられた。


「狙っていた!? 落下位置まで予測していたのか」

「予測じゃねぇな。これは予定通りって言うんだぜ、おっさん」

「それが貴様の戦い方か」

「おうよ、おっさんが三剣一盾なら、俺は二剣多弾ってやつだ。攻撃の手数なら、俺は誰にも負けねぇよ」


 三剣一盾が攻防を兼ねそろえた連撃だとすれば、二剣多弾はただ攻撃のみを追求した連撃だ。

 二本の剣を自在に操りつつ、その攻撃の間にナイフによる超接近と投げナイフによる遠距離攻撃を交えた連撃は、デニスの手数を遥かに超えるものだ。


「んじゃ行くぜ! 俺の攻撃、受け切れるか!」


 ヤンが一歩を踏み出し、剣を投げ上げたかと思うと腰回りに仕込んであるナイフを投げる。落ちてきた剣を握り、今度は両手の剣を空へと投げ上げると、二本のナイフが飛来する。

 その動きはまるでジャグリングをする曲芸師だ。

 二本の剣は常に宙を浮きながらも、しっかりとヤン機の手元へ戻ってくる。その間にも、何本ものナイフが放たれ、デニスの行動を阻害する。

 デニスはその動きにやや驚きながらも、飛んでくるナイフを確実に剣と盾で弾いていく。


「この感覚、以前よりも動きやすい」


 近づいて来るヤンの機体を見ながら、デニスは一人呟く。

 確かに、攻撃速度は自分よりも遥かに上だ。だが、その攻撃を見切ってさらに次の攻撃に対処するだけの余裕がある。

 いや、それどころか、今の自分ならばこのナイフの中を前進できる気さえした。


「行ってみるか」


 ペダルを踏み込み、機体を前進させる。

 ヤンはやや驚いたように一瞬速度を落とすが、すぐに速度を上げ両者の距離を一気に詰めた。


「俺の攻撃の中で前進してきたのは、おっさんが初めてだ!」


 剣の間合いまで踏み込んだ時点で、両者の剣がぶつかる。

 このまま鍔迫り合いになれば、投げナイフは来ない。一瞬そう考えたデニスだったが、素早く機体を横へと移動し鍔迫り合いから逃れると、直後今まで自分がいた場所にナイフが降って来た。

 ジャグリングの際に、ヤンがナイフも数本投げ上げていたのだ。


「これも気付くのか」

「ふむ、どうやら訓練の成果が出ているらしいな」


 デニスは力のこもっていた手から、無駄な力が抜けていくのを感じる。

 サイドに回り込んだ状態から、さらに後方へと回ろうとするがさすがにそれは阻止された。

 しかし、今が攻めるチャンスであることに変わりはない。


「では次はこちらから行こう。受け切ってみせろ、我が剣戟乱舞」


 ジェネレーターの出力を一気に上昇させ、バランサーを解除する。

 とたんに機体の挙動が安定しなくなるが、デニスはそれを手動操作で制御下に置いた。

 そして踏み込みながらの一閃。

 ヤンは当然剣で受け止めるが、それは先ほどまでとは力も速度も別物の一撃だ。当然ヤンの機体はたたらを踏みながら大きく後方へと下がる。


「パワーが上がった!?」

「ハーフマニュアルコントロール。出来るのは若いものだけではないぞ」


 そして連撃へ。

 これまでは、三剣一盾の状態でハーフマニュアルを使うことが出来なかった。ただでさえ操作の多い剣戟乱舞に加えて、ハーフマニュアルの操作までこなすとなれば、それは通常操作の優に三倍近い操作が必要になるからだ。

 しかし、エルドとの訓練がそれを可能にしていた。

 右の一閃、左の薙ぎ、そして回転を使った逆手の突き出し、どれも普通の騎士ならば一撃一撃が即死となる攻撃だ。それを何とかではあるが凌げているヤンもまた一流であることには変わりない。

 しかし、今のデニスはそれを遥かに上回っていた。


「クッ、やるじゃねぇか。けどな!」


 受け止めるのが精一杯だったヤンが、徐々にその速度に対処し始めた。

 完全に剣を受け、時に流し、カウンターを狙ってくる。

 突き出された剣に頭部をこすらせながら、デニスはその技量の上達ぶりに感服する。

 ヤンは確実に戦いの中で強くなっていた。反応速度もそうだが、それ以上に相手に対する対応力が高い。

 相手の攻撃を見てから躱すのではなく、初動を見切って攻撃を予想し回避する。それが出来るからこそ、盾を必要としない超攻撃的な武装を選択していたのだろう。

 ――だが


「おっさんの攻撃は、もう見切ったぜ!」


 デニスが逆手側の剣を振るった瞬間、それは完璧に受け止められた。

 しかし、腕に伝わるはずの重さが伝わってこないことに、ヤンの勘が警鐘を鳴らす。

 だが少し遅い。次の瞬間には、操縦席に強烈な衝撃が襲い掛かってきた。


「ぐあっ!?」


 ヤンが受け止めたと思った剣。それは、連結を解除され、ただその場にあるだけの、意味のないフェイント。

 本命は、切り返しの一閃と、それに続く左の突き出し。

 一閃は腰を穿ち、突き出しは相手のヤン機の右肩を貫いていた。


「距離が近すぎたか」


 デニスとしては、今の突きを操縦席に突き立てたかったのだが、お互いが攻撃的過ぎて間合いが近づきすぎていたのだ。そのせいで、腕を引いても切っ先を操縦席に向けることが出来ず、とっさに相手の攻撃能力を奪うために肩を狙った。


「てめぇ!」


 右肩を貫かれながら、ヤンが左腕を振るいデニス機の脚部を狙う。しかし、その剣は容易に受け止められた。

 そして、返す刀で左腕を関節部から切断される。


「これで終わりだ」


 肩の剣を引き抜きつつ、ヤンの機体を引きずり倒し、足で踏みつけ逃げられないようにすると、今度こそ操縦席目がけて剣を振り降ろす。


「この俺が、こんなとこ…………」


 その切っ先は、確実に操縦者を貫き、敵機の物理演算器(センスボード)を貫いた。

 機能の停止したアルミュナーレを見下ろしながら、デニスは小さく呟く。


「私は、ようやく――いやここは戦場だ。感傷に浸るのは後にしよう」


 気持ちを切り替え、周囲の戦況を窺う。

 そしてモニターに映ったもの。それは、脇腹を貫かれ、地面に片膝を突いたエルド機の姿だった。


         ◇


アヴィラボンブの投下から少し。野営地の隅にいたエルシャルド傭兵団たちは機体を起動させて集まっていた。


「被害を報告しろ」

「機体は問題ない。物資も少し焼かれたが、大方無事だ。全機起動を終えてる」

「食料は半分焼かれたが水は問題ない。帰る分は十分にあるぜ」

「馬が今の攻撃で二頭ほど逃げ出したが、今なら軍からカッパラッテこれる。やるか?」

「ああ、馬は必要だ。取れるだけ取って来い」


 エルシャルドは被害報告を受けて、内心でホッとしながら手早く団員たちに次の指示を出していく。

 傭兵たちの野営地は、いつも陣地の隅だ。中央付近は指揮官やそれに近い人物が固められており、傭兵たちはあまり近づけないようになっている。今回はそれが功を奏した。アヴィラボンブの狙いが中央に集中してくれたおかげで、隅にいた傭兵団たちはさほど被害を被らなかったのだ。おかげで、即座に態勢を立て直し、襲い掛かって来たアブノミューレたちを片づけることが出来ている。


「それとフォルツェにレイラ!」

「なにかな?」

「何かしら?」

「戦況はどうなっている。リゼットの位置も確認しろ」


 リゼットの傭兵団は、現状傘下に入っているような物であり、完全に取り込んだわけではない。そのため、少し離れた位置で野営を行っていたはずなのだ。


「リゼットはもう動いてるわ。近くの機体を潰して回ってるみたい」

「前線はぐちゃぐちゃだね。アブノミューレにだいぶ入り込まれて、崩壊してる。けど、アルミュナーレが善戦しているのかな? 結構耐えてる感じ」

「仮にも八将騎士が二人もいるのだ。簡単には落ちんだろ。それよりも、俺たちの目標は」


 エルシャルド傭兵団がおっているのは、隻腕の、エルドの機体だ。これはただリゼットやフォルツェが趣味で追っているわけではない。

 隻腕の機体には帝国から多額の懸賞金が掛けられている。この機体を討ち取ることが出来れば、十年は豪遊して暮らせるだけの金額だ。


「隻腕は見えないね。後方待機かな?」

「エルドがこんな時に出てこないとは思えないけど――機体でも乗り換えたかしら?」

「少し動きを観察しないと分からなそうだね」

「なるべく早く見つけろ。横取りされることは無いと思うが、八将騎士相手ではどうなるか分からん」

「うーん、それよりもちょっと気になることがあるんだよね」


 そう言うと、フォルツェはモニターに北の空を移す。


「どうした」

「北と南に光が見える。あれ、人が死んでるね」

「北と南?」

「確か、こっちのアヴィラボンブを飛ばすから、回収部隊を出すって話だったわよね? それがやられてるとしたら」

「別の道からも緩衝地帯に来てる。三方向から挟み込む気だったみたいだね。移動中に回収部隊とぶつかって戦闘になったかな」


 ここの戦力集中を防ぐため、帝国側もアヴィラボンブを放っていた。それは、昼頃にこことは別の前線に攻撃を仕掛ける予定の物で、アヴィラボンブの操縦者を回収するための部隊が、それぞれの道に移動中だったのだ。

 そのため、しっかりとした武装は積んでおらず、当然侵攻しようとしてくる王国の機体に敵うとは思えない。

 となれば――


「挟撃されるな。フォルツェ、お前は南から来る部隊を叩け。レイラは北だ」

「リゼットはどうする?」

「あいつは好きにさせろ。隻腕がいたら、むやみに突っ込むなとは言っておけ」

「分かった。リゼットには私から伝えておくわ」

「じゃあ僕は行くね」


 フォルツェの機体がスキップでもしそうなほど軽やかな足取りで野営地から南へと駆け出す。そしてレイラはリゼットが戦っている場所へと向かって移動を開始した。

 それを確認し、エルシャルドは次の指示を傭兵たちに飛ばす。


「俺たちは川の向こうまで下がるぞ。補給の準備はしておけ。二人が戻ってきたら、すぐに補給する。リゼットの傭兵団にも伝えておけ。どうせなら、まとまっていたほうが撤退するのにも都合がいい」

『了解』


 エルシャルド傭兵団が動き出し、それに呼応されるかのように他の傭兵団もそれぞれの判断で戦場へと介入を始める。それは、本格的な乱戦への合図となるのだった。


次回予告

騎士としての誇りを少しだけ取り戻すことが出来たデニス。

それに対して、エルドは八将騎士ダニエスに対し苦戦を強いられていた。

傭兵たちも動き出し、戦線はより混沌の様相を呈し始める。

そんな中、王都では一機のアルミュナーレが空へと飛び立とうとしていた。

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