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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
緩衝地帯建砦編
104/144

7

「行商殺しのお姫様が、今更話し合いだと?」


 そんなセリフが飛び出すと同時に、周辺にいた兵士たちが一斉に剣を抜き、男に突きつける。

 思い切り背中を踏みつぶされた男は、目の前に剣が突き刺さるのを見ながら、ただ笑う。


「ハッ、結局これが王族のやり方か。殺したきゃ殺せよ。どうせ死刑なんだろ? なあ、お姫様」

「そうですね、それは避けられないでしょう」


 姫様は落ち着いた様子でそう返す。

 そして、ゆっくりと首を傾けた。


「しかし、おかしな話ですね。私が行商殺しですか。いったいどんな理由でそんな呼ばれ方になったのか、非常に気になるところです」

「所詮お飾りの王族ってことだな。こんなもん作らせておいて、俺たちに与える影響を何も考えちゃいない。お前らの作ったこれはな! 今まで行商の仕事だった輸送を全部かっさらうしろもんなんだよ! 少し考えりゃ分かるだろ! 一度に大量の木材や鉄材を運び、人や家畜の輸送もたやすい。馬車よりも早く動ける上に、休憩は必要ない。こんなもんが出来れば、俺たちは仕事を全部奪われる! 殺されるも同然だ! 何が戦争だ! そんなことの為に、俺たちが殺されていいのか! てめぇがやってることは、国民を殺してるのと同じことなんだよ!」

「いい加減にしろ!」


 一人の兵士が、姫様に対して口汚く罵る男の脇腹を蹴り飛ばす。

 男は、内蔵を刺激されたのか、ぐはっと息を吐き出しながら咽た。


「つまり、魔導列車の完成で仕事が無くなると思ったのですね」

「思った? 違うね、無くなるのさ。おかげで、多くの行商が町から出ていったよ。今ごろ、露頭で迷ってんじゃないのか? お姫様は、さぞ恨まれてるだろうよ」


 ふむ、この男が言うことが事実であるとすれば、それは確かに恨まれても仕方がないことなのかもしれない。なにせ、魔導列車の輸送能力は破格だ。これが各方面の都市との連絡に使われるようになれば、それまで都市間で行商を行っていた商人は廃業に追い込まれる可能性も高い。

 しかし同時に疑問も浮かぶ。この男の言葉は、やけに断定しすぎているのだ。魔導列車はまだ完成もしていないし、物資輸送も始まってすらいない。それにもかかわらず、行商たちの多くが絶望し、姫様を恨んでいると断言できるのはおかしな話ではないか。

 この男の話を鵜呑みにするのはマズいだろう。

 それに、姫様の様子も気になる。やけに落ち着いているのだ。もし、これが事実だとすれば、姫様が何も反応を示さないはずがない。

 そもそも、姫様がこれほどの事実を見逃すだろうか?


「ゲホッ、何黙ってんだよ。話し合いしたいんだろ? 人殺しお姫様よぉ」

「はぁ……」


 脂汗を流しながら睨み付けてくる男に対し、姫様はため息を一つ吐いた。それは明らかに呆れを含んでいる。


「あなたがどの程度の商人なのか気になっていましたが、なるほどその程度だと言うことですか」

「なんだと!?」

「おおかた、先祖代々少しずつ大きくして来た商人の家系を、言われるままに受け継いだはいいが、少しずつ仕事が減ってきて、徐々に経営が悪くなり追い詰められ始めている。違いますか?」

「な、なぜそれを」

「なぜ? 簡単なことです。努力しない、先を見ない、自分で調べない、誰かに頼りっぱなし、あなたがそんな人物だからこそ、今の変化に置いて行かれたのですから」


 姫様は席から立ち上がると、ゆっくりと男の元へと歩み寄る。

 周りの兵士たちは、止めようとするが俺がそれを遮った。もし男が何かしようとして来れば、俺が即座に対処する。


私たち(王族)がこれだけの物を作っておいて、本当に何もしなかったと? もちろん、商人たちへの調整もしっかりと行っていますよ」

「う、嘘だ! ならなんで俺の店は切り捨てられた!」

「簡単です。同じ商人たちからあなたが不要と判断されたからですよ。あなたは言いましたね、他の商人も町から離れていったと。当然です、小規模の行商であれば、すぐに新しい販路に気付いて移動していますし、大規模な行商であれば今まさに交渉中なんですよ。魔導列車の車台利用権についてね」


 そして姫様は、魔導列車を取り巻く既得権益について話し始めた。

 魔導列車の輸送能力の高さは、当然王族たちも気付いていた。そしてそれによる輸送革命も。それに対して、当然商業ギルドは意見書を提出し、それに対して王族もギルドの代表を招集して意見交換を行っていたようだ。

 結果、まずレイターキへの路線が開通した時点で、路線を使った経済変動のテストケースとすることにしたのだ。

 その際に考えられたのが、行商に対する魔導列車の『車台貸出権』である。

 魔導列車自体は国が管理するものだが、そのうちの貨物車両の一部を商人に貸し出し、自由に使うことができるという物である。

 これにより、商人たちも魔導列車の輸送能力を利用することが出来るようになり、一方的な負けは無くなる。むしろ、これまでは鮮度や重さの問題などで輸送できなかったものが輸送できるようになったことで、取り扱う商品の項目が増えた。

 一見、これの恩恵を受けるのは貨物車両を借りる権利を買えるほどの裕福な商人だけにみえる。

 しかし、ちゃんと小規模な行商にも利益はある。それは、新しい販路の開拓だ。

 魔導列車は、各主要都市への設置が優先されるだろう。だが、その都市と都市の間にも村や町はあるし、地形的に魔導列車が走れない場所も出てくるだろう。

そこをカバーできるのは、比較的身軽な小規模な行商たちだけである。商人たちが駅まで運んできた商品を受け取り、それらの町へ行けば物は十分売れる。

 俺たちの村に来ていた行商のように、彼らは新たな村への販路を開拓し、そこと商売をすることになるだろう。

 本来ならば、この男も新たな販路を探すべくすぐにでも町を移動するべきだったのだ。しかし、それをせずネームバリューに頼って、勝手に向こうが融通してくれるだろうと考えていたのだとしたら、切られて当然だ。


「そ、そんな……」


 話を聞いた男は、呆然とした表情でその場に顔を伏せる。


「な、なら俺のやったことは」

「無意味ですね。いえ、むしろただの自爆です」


 姫様は笑顔で席へと戻ると、兵士たちに男を連れていくように指示を出す。

 男は引きずられるようにテントから引っ張り出されていった。


「時間の無駄でしたね」

「ただの無能でしたからね」

「ですが、彼らのような無能ですらアブノミューレを手に入れられる状況が出来てしまっているのも事実です」


 あの男が全くと言っていいほどアブノミューレの操縦が出来ていなかったので被害こそ出なかったが、もしあの男が少しでもアブノミューレの操縦になれていれば、魔導列車の線路ぐらいならば破壊されていたかもしれない。

 そんな状況は、このまま放っておくわけにもいかないだろう。


「お兄様に連絡して、商人が取り扱っている商品をしっかり確認してもらう必要があるかもしれませんね。それと、回収不可能と判断された機体の処分方法を考える必要がありそうです」


 姫様はペンを執ると、陛下宛の手紙をしたためるのだった。




 フェイタル王国王都。アルミュナーレ基地司令部の一室で、オーレルとカリーネの二人は顔を突き合わせていた。

 その手元にあるのは、新型機の開発資料。

 エルドの要望や、これまでの機体の蓄積データをもとに製作したものだ。


「さて、ここまでまとめたはいいが」

「これをどう形にするかよね」


 王都に到着してからすぐに、二人はデータの解析か資料の収集に走った。そして、二週間ほどで全てを終え、こうして再び顔を突き合わせている訳である。

 現状、格納庫と開発のための資材はまだ用意されておらず、これから機体の開発コンセプトに合わせて、パーツなどの発注を行うのだ。

 だが、それよりも先に煮詰めなければならないことがあった。

 マニュアルコントロールの最適化である。

 エルドの最大の特徴でもあり、また同時に弱点にもなりえる武器は、今回の新型機開発でも特に重要な部分だ。

 この操縦方法の強みを生かしつつ、弱点を潰さなくては新型機を作る意味がない。


「マニュアルコントロール、資料にしてみるとそのおかしさが良く分かるのう」

「私はだいぶ慣れたけど、やっぱり普通に見たら異常よね」


 手元の資料に表示されているのは、物理演算器(センスボード)から逆算した操縦履歴だ。それを見れば、整備士ならば誰もが異常に気付くだろう。

 左腕の稼働率は戦闘中でも僅か四十パーセント。本来ならば、七十から八十は行く数値が半分以下なのだから、驚いて当然だ。しかもこの数値はカリーネとオーレルが物理演算器(センスボード)や操縦席を改良して多少左腕を動けるようにしてからの数値というのだから、なおさらである。

 ちなみに、改良前の数値は二十五パーセント前後だ。

 その上に、出力調整やバランサー調整、反動制御など上げ始めればキリがないほどに沢山の設定をその場で行っているのが、書き出されている記録からは見て取れた。


「私たちの目的は、これを反映させたうえで左腕も普通に動かせる機体を作ること。それはいいわよね?」

「もちろんじゃ。じゃがそのためには――」

「操縦席の抜本的な改良が必要になる。もはや、改良というよりも新作よね」

「そうじゃな。これまで応急的な設備で色々やっておったが、それの経験も踏まえて色々案を出していくぞ」

「ええ」


 現状の操縦システムから、新たな操縦席へ。

 それに合わせて、二人は知恵を絞り、案を出していく。

 すわ、操縦レバーにボタンを増設する。そもそも操縦レバー自体を外し、入力のみの操縦にする。一本で両腕の稼働を行う。操縦者の動きをトレースする。

 現状の技術で出来る範囲から、不可能な物まで。

 思いつく限りの案を出しながら、一時間。二人は、ズラッと用紙に並んだ案を確認する。


「こいつは、無理じゃろ」

「そうね、こっちは?」

「耐久性が怖いのう。隊長がどれだけ動くかも分からんし」

「ならこっち」

「それなら可能じゃが、いや待て! そのレバー、指が六本いるぞ!」

「あら、ならこれはダメね」


 そんな感じでさらに三十分。候補が数個まで絞り込めてきた。


「後は、作ってみるしかないかしら?」

「使い心地も分からんからのう」

「ならとりあえず操縦席はここら辺にしておきましょう」


 カリーネは、まとめた用紙をトントンと机で整えると、別の用紙を取り出す。

 それは、武装に関する資料だ。

 それを見て、オレールは顔をしかめた。


「考えることが多くて、熱が出そうじゃ。儂は体を動かしてたほうが性に合っとる」

「まあそうかもしれないけど、こればっかりは私だとあまり力にはなれないわよ」


 カリーネの専門は、あくまで物理演算器(センスボード)であり、その副産物として操縦席の開発にも意見を出せていたのだ。

 しかし、武装となれば話は別。

 カリーネにはほとんど知識が無く、せいぜいエルドの操作から取り出しやすい設置位置のアドバイスが出来るぐらいだろう。


「わかっとる。もうひと頑張りじゃな」


 二人が資料へと視線を落とす。書かれているのは、これまでエルドが使ってきた武装と、王国にある装備の一覧。

 基本的にエルドが使ってた装備は、ほとんどがオリジナルだったため、王国の量産品とは別枠なのだ。


「この中だと、一番使いやすかったのはアーティフィゴージュとペルフィリーズィよね?」

「そうじゃな。エルドの動きとも合っとった。アーティフィゴージュに至っては、武装の豊富さもかなり助かっておった様子じゃった」


 エルドは基本的に多くの敵を相手にすることが多いため、どうしても武装の消耗も激しくなる。そのため、大量の剣を積載できるアーティフィゴージュはエルドの強い味方であった。

 それに対して、ペルフィリーズィはエルドが考案した武装としては比較的まともで有用なものでもあった。遠距離からの狙撃に関して、威力の上昇方法こそ普通ではなかったものの、その有用性は実証されている。

 それを示すように、現在王国内の一部ではペルフィリーズィをダウングレードしたピーリーズィという狙撃銃の開発が進んでいる。これも実戦配備は間もないという話だった。


「まあこの二つは参考にできるけど、こっちはねぇ」


 カリーネがため息を吐くのは、アリュミルーレイだ。燃料を全て使った太陽光による高威力の熱線攻撃。確かに威力は破格であり、敵の殲滅能力も高かったが、その代償は大きすぎる。

 正直、わざわざアルミュナーレに装備する物ではない。

 使いたいのならば、近くの丘でも占拠してそこでパーツを組み立てればいいだけの話だ。


「これは外しましょう」

「そうじゃな。それと、エルドからの希望で八将騎士の使っておった燃料タンクを乗せたいっちゅうのがあるのう」

「まあ、それはいいんじゃないかしら? 隊長の機体も、燃料の消費は激しいし」

「その他の武装も、まあアーティフィゴージュになら乗せられないこともないが」

「問題は、アーティフィゴージュをどこに乗せるのかよね」


 左腕を使えるようにするという今回のコンセプトにおいて、左腕をそのまま武器庫にするアーティフィゴージュは間違いなく真逆の武装だ。

 しかし、これが無ければエルドの求める武装を用意できない。

 矛盾した要望をどうクリアするかが問題だ。


「背中に背負わせるのは?」

「重すぎて動きに支障が出そうじゃの。隊長の動きは、バク転なんて破天荒なものも多い」

「けどタンクは付けるのよね?」

「長さが違うからのう。アーティフィゴージュじゃと、膝辺りまで伸びちまう。ちょっとしゃがむのにも、苦労するぞ」


 腕に付けていた時は、少し前に出したり横に出したりしてしゃがんでも大丈夫なようにしていたが、背中に背負うとなるとどうしても背後を気にしなければならなくなる。

 少し背中を丸めただけで、背後の建物を破壊するような凶器になりかねないのだ。ハンガーでのロックも苦労することになる。


「それはダメね。なら斜めは?」

「武装の展開方法がのう。いちいちアーティフィゴージュを縦に直して、選択武装の場所に回転させて、スロットから出てきた武器を掴むでは、戦闘時の隙になりかねん」

「難しいわね。もういっそのこと、ばらして乗せちゃえば? 武器の数さえ変わらなければ同じでしょ?」

「ふむ、バラシてか」


 カリーネの意見に、オレールは考える。

 確かに、左腕に装着しなくなった以上、アーティフィゴージュとしての形にこだわる必要はない。エルドはアーティフィゴージュを盾としても使っていたが、それは別に盾を持たせれば住むだけの話である。

 後は、どこにどの武装をどれだけ乗せるかが問題だが――


「少し考えてみるか。機体標本はどこじゃったか」

「これよ」

「ふむ、左腕の盾は小さ目にして、右肩に予備タンク、左肩に物理演算器(センスボード)とペルフィリーズィか?」

「ペルフィリーズィは右手で使ってるみたいだし、右肩か腰がいいんじゃない?」

「ふむ、剣はどこに乗せる?」

「腰とタンクに乗せられないかしら?」

「可能じゃが、取り出しにくそうじゃのう」

「なら肩のタンクとかを稼働可能にすれば」

「ふむ、エレクシア隊長の羽でも参考にできそうじゃな」

「いいわね、剣の羽とか物騒で隊長の機体っぽいわ。隻腕のあだ名が無くなっちゃうだろうし、一目であだ名が付けられる機体にしたいわね!」


 テンションの上がり始めたカリーネに、オレールはこれを自分が作らなければならないのかと思い、首を横に振る。


「それは、余裕があったらにしてくれ。わしゃ、頭がくらくらしとる」


 少しずつ進み始めた開発案は、二人の睡眠時間をガリガリと削りながら、着実に完成へと前進していくのだった。


危うく盗賊がアブノミューレを使う時代に突入するところでした。


そしてエルド機は開発構想中。二人は悩みながら頑張っています

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