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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
緩衝地帯建砦編
103/144

6

 予定していた魔導列車の視察は、意外と早く訪れることになった。

 こちらに来てから一週間。その間に、姫様は自分の書類をさっさと片付け、動けるようにしてしまったのだ。

 有能なうえに、フットワークが軽いとか、本当に困った姫様である。なにせ、こっちの書類仕事はまだ全然終わってないからな!

 姫様が移動するってことは、俺もアルミュナーレで付いていくことになるんだし、また必要な書類が増えるわけだ。まあ、今回はただの視察だし、戦闘は無いだろうから武装補充の書類が無いだけましか。

 そんなことを思いながら、機体を起動させる。

 スムーズな立ち上がりに、整備員たちの努力が良く分かった。


「どうだ、おやっさんがいなくても、きっちり仕事はこなすぜ!」

「ええ、いい仕事ですよ。ストレス無く動かせます」

「武装はとりあえずいつもの二剣一盾に一銃だ。弾倉は二本格納してある」

「了解」


 モニターに表示されている武装の数を照らし合わせ確認する。


「じゃあ行ってきます」

「おう、行ってこい!」


 グッと親指を立てるリッツさんに、俺は機体で同じく親指を立てる。

 その近くではパミラが走り回りながら手を振って……あ、こけた。

 涙目になってリッツに起こされているパミラを見ながら格納庫を出る。そのまま基地の正面ゲートへと向かえば、そこには姫様を護衛する兵士たちの部隊と、馬車の隊列が既に完成していた。

 そして、今回姫様の視察に同行するもう一機のアルミュナーレが近づいて来る。

 デニス隊長の機体だ。


「エルド隊長はこっちだ。イネス様の横で最終ラインを形成する。私は最後尾を進むので前のことは頼むぞ」

「分かりました。後ろはお任せします」


 俺たちが持ち場へと付き、さらに十分ほどすると、姫様がきた。今回は正式な視察を兼ねるということで、いつもより豪華なドレスを身に纏っている。


「お待たせしました。では参りましょう」

「全部隊、前進! 目標、フォックレーキ東部、魔導列車線路工事現場!」


 先頭からゆっくりと進みだした部隊は、やがて基地を抜け平原へと歩みを進めるのだった。


 目的地へは、軍隊の移動ならばだいたい一日前後で到着する。天候次第で変わるわけだが、今回は特に雨に降られるわけでもなく、順調に進んだ。

 ただそれ以上に順調に進んだ理由は、やはり姫様の体力だろう。

 普通のお姫様ならば、丸一日馬車に揺られるなんてことは無理だ。途中、何度も休憩を取りつつゆっくりと進むものなのだが、姫様はその休憩を全て省き、行軍とまったく同じ速度で進んできたのである。さすがお転婆姫。体力もピカイチですね。

 そんなことを思いつつ順調に進んでいけば、前方の方が騒がしくなってきた。少し遠くからは煙も上がっている。


「我が騎士、あの煙は?」

「あれは――」


 姫様からの質問で、俺はアルミュナーレの視界を拡大し先を見る。そこには、今まさに工事中の線路と魔導列車があった。


「視察の場所が見えてきたようです。煙は、魔導列車から出ているようですね。特に慌てている様子もありませんし、あれが仕様なのでしょう」


 周囲の人間は、普通に作業を続けているし、魔導列車自体にも異常は見られない。汽車のように何かを蒸気にしているのか? いや、そんな面倒なことはしないはずだし、おそらく過加熱を防ぐために冷やしているのだろう。

 アブノミューレも、異常加熱を起こさないために色々とシステムが組み込まれているみたいだし。


「そうですか、そろそろ日が沈みそうですし、視察は明日になりそうですね」

「ええ、とりあえず順調に作業が進んでいるようで何よりです」


 ここから第二防衛線のフォックレーキまでの距離を考えれば、一週間程度で驚くほど線路の設置が進んでいる。この分なら、今月中にはレイターキまで届かせられそうな勢いだな。


「兄様、いえ陛下も積極的にこの工事を行うようにと通達していますからね。士気も高いのでしょう」

「なるほど」


 国王からの命令ともあれば、上から下までやる気がみなぎるわけだ。

 そして、工事現場へと近づいてきたところで行軍が停止し、兵士たちはそれぞれにキャンプの準備を始める。

 俺は今回、他の部隊員たちを連れてきていないので、姫様の護衛も兼ねてすぐ近くに用意されるテントに入ることになるため、準備はいらない。何とも助かることだ。

 そして、一通りの設置が終わると、現場の責任者と思しき人物が姫様のテントへとやって来た。


「イネス王女様、ようこそおいでくださいました。現場の一同歓迎させていただきます」

「ありがとう。忙しい中ごめんなさいね。どうしても現場を見ておきたかったの」

「いえいえ、イネス様の姿を一目見れば、現場の連中もいっそう奮起するでしょう」


 存外に、声を掛けてやってほしいと言われた姫様は、笑顔で頷く。


「明日は朝から視察を開始しますが、皆さんは普通に作業を続けてください。私が自ら回ります」

「寛大な処置。感謝いたします。今日は長距離の移動でお疲れでしょう。明日の視察も歩くことも多くなると負いますので、私はここで失礼させていただきます」

「ええ、ご苦労さま」


 姫様がうなずき、男がテントから出ていく。

 それを見送り、俺は姫様に問いかけた。


「全員集めたほうが早くないですか? いちいち回ろうとすると、差も出ますよ?」


 誰は声を掛けてもらえた、誰はかけてもらえなかった。その時たまたまいなかったなど、そう言う差が後のいざこざに発展しないためにも、平等に声を掛けたほうが良かったのではないかと尋ねると、姫様も頬に指を当て少しだけ首を傾げる。


「それもあるのよね。けど、それだと遠くから魔導列車を見るだけで終わりになりそうなんだもの。私は出来れば近くで見たいと思っているのよ」

「だから直接声を掛けると」


 作業現場で声を掛ければ、その近くには設置途中のレールや魔導列車があるはずだ。それを近くで見たいわけね。

 子供か!


「出来れば、魔導列車も一番に乗りたかったのよ! けど、安全性の確立だとかなんだとか言って、乗せてくれなかったんだもの! 見るぐらいいいでしょ!」

「はいはい、分かりました。じゃあ明日も朝早いんですから、さっさと寝ちゃってください」

「そうするわ。じゃあ我が騎士、後はよろしくね」


 姫様が着替えるというので、側近たちに俺は追い出される。

 まあ、姫様の着替えを見る趣味もないので、早速周辺の安全確認へと向かうことにしますか。


 どうしよう……ちょっとした安全確認のつもりが、面倒な物を見つけてしまった。

 俺は茂みの中から怪しげな男たちの会話を盗み聞く。


「手筈は?」

「大丈夫だ。潜入させた連中が動く」

「例のブツは」

「確保済みだ。周辺の連中も追い払った。けど本当に今日やるのか? 王女が来てるんだぞ?」

「だからこそ、絶好の機会だ。俺たちの利益をこんなもんに奪われてたまるか。王女だかなんだか知らねぇが、勝手に人の島荒らしてただで済むと思うなよ」

「お、おい……」


 怒りからか声が大きくなった男を、もう一人の男が抑え込む。

 茂みの中で男二人が絡み合う姿は、なんとも気色悪いな。こいつらさっさと捕縛して、帰ろうかな……けど、どうも面倒な感じなんだよな。潜入させたっつってるし、仲間がどれだけいるかもわからない。しかも例のブツってなんだよ。仲間内なんだから、普通に名前で話せよ……


「行くぞ」

「おう」


 落ち着いたのか、男たちが動き出す。

 俺はその後をこっそりと追いかけていった。

 茂みの中から出た男たちが向かったのは、資材の貯蔵所だ。貯蔵所と言っても、ちょっとだけ地ならししたところに、シートを引いてレールや枕木なんかを置いてあるだけだが。

 そして、おかしなことに本来ならいるはずの警備が誰もない。

 これが追い払ったってやつか。警備まで移動させられる立場にある奴が仲間ってことか? だとしたらちょっと厄介だな。

 つかこういうのって、エイスとかの仕事じゃねぇの? なんで操縦士の俺がこんなこそこそせにゃならんのか。アルミュナーレで踏みつぶしたくなるわ。

 そして、貯蔵所からなぜか聞き慣れたジェネレーター音が聞こえてきた。


「え?」


 驚いてそちらを見れば、暗闇の中に浮かび上がる巨人のシルエット。

 俺の目はそれが何かを一発で見抜いた。


「アブノミューレ!? しかも帝国製のじゃねぇか!」


 なんでこんなところに帝国のアブノミューレがあるんだよ!

 即座に隠れていた場所から飛び出し、俺の機体の元へと走る。

 こんなところに出てきたってことは、間違いなく狙いは魔導列車のはず。なら、本体を破壊される前に何としても止めないと。

 俺が機体の元へ来る頃には、すでに騒ぎに気付いた兵士たちが状況を知るために駆け回っている。

 俺は魔法でアルミュナーレの操縦席へと飛び乗り、機体を起動させた。

 そこに、テントから姫様が顔を出す。


「何事ですか!?」

「帝国のアブノミューレです」

「敵襲!?」

「いえ、どうも様子がおかしい。集団でもなければ、どこかから襲ってきたわけでもありません。どうも、隠して持ち込まれたような感じがします」

「状況が良く分かりません!」


 そりゃそうだろうね。いきなりこんな事言われても。

 俺だって、あの男連中の濃厚な絡みを見てなけりゃ、分からなかったよ。とりあえず、俺がやるべきことは。


「敵は一機なようなので、こちらで抑え込みます。操縦者に尋問でもすれば、何か分かるかもしれません。それと姫様は側近と兵士を周囲に集めて、絶対にテントから出ないでください。どうも、工事の人員に紛れ込ませた連中が何人かいるようですので」

「わ、分かりました。任せます!」

「了解」


 機体を起動させ立ち上がる。

 敵機はどこかと探せば、真っ直ぐにレールに向かって歩いていた。だが、歩き方がおぼつかなく、ペースも非常に遅い。まるで、初めて乗ったみたいな動かし方だ。

 あれなら十分に間に合う。


「そこのアブノミューレ。ジェネレーターを停止させて、機体から降りろ。投降すれば、手荒な真似はしない」

「うるせぇ! 俺はやる! やってやるんだ!」


 聞こえてきたのは、興奮状態の男の声。

 これは、完全に聞く耳もたずだな。なら――


「警告はしたぞ」


 一気に駆け寄り、アブノミューレの懐へと飛び込む。そして、一本背負いの要領で、アブノミューレを投げ倒した。


「ぐあっ」

「ベルトはちゃんとしてたみたいだな」


 地面に倒れている機体をひっくり返し、操縦席のハッチをこじ開ける。


「出て来い。でなければ、指を突っ込むぞ」

「クソッ、クソッ、クソッ!」

「三、二、一」


 俺が指を操縦席のハッチに触れさせると、男が慌てたように操縦席から飛び降りる。そして、足から地面に落ちた。


「い、痛ぇ」


 男は落ちた拍子に足でも折ったのだろう。その場で脛を抱えながら転げまわる。


「兵士隊! 確保しろ」


 俺が近くまで来ていた兵士隊へ命令を出せば、即座に彼らが動き男を取り押さえた。

 喚き声を上げながら連れていかれる男を見送り、俺は他にもおかしな行動をしている奴や機体がいないか周囲を見回ることにした。


 しばらく巡回し、特にこれ以上何も起こる様子が無いのを確認してから、俺も姫様の元へと戻る。

 その頃には、姫様が連れてきた兵士隊の連中が展開し、警備を行うようになっていた。これなら、俺も安心して戻れる。


「ただいま戻りました」

「ご苦労様です。何か分かりましたか?」

「いえ、捕まえた男は兵士隊に引き渡しましたのでまだ何も。とりあえず周辺をぐるっと見て回りましたが、他に機影らしきものは見当たりませんでした」

「分かりました。では情報を待ちましょうか」


 側近の俺の分のお茶も入れてもらい、兵士隊から連絡が来るのを待つ。

 そして、一時間ほどした頃に、一方が届けられた。


「拘束した男を尋問したところ、周辺で行商を行っている商人だと判明しました」

「商人?」


 それは、ここにいる誰もが予想していなかった答えだ。


「名をジョンといい、昔からの行商でかなりの規模の商会を有している男です。あの帝国のアブノミューレも、戦場から回収した機体を修理し製作したもののようです」


 なるほど、ある程度の機体は鉄として使えるから回収しているが、それも全てではない。

 損傷の激しいものや、回収が難しい場所にある機体は、そのまま放置されることもある。それを商人たちが回収し、鉄として売り飛ばしたりすることは知っていたが、まさかパーツを集めて修理する奴がいるとは。


「それで、なぜこのようなことをしたのか、理由は分かりましたか?」

「はい、男が言うには、魔導列車の完成は行商を殺すと。王宮に工事の取りやめを希望したが、聞き入れてもらえなかったため実力行使に出たそうです

「行商を殺す……」


 その言葉に何か引っかかりを覚えたのか、姫様が顎に手を当てて何やら考え込む。


「少し、話を聞いてみたほうが良さそうですね」

「姫様が直接ですか? さすがにちょっと遠慮してもらいたいのですが」


 アブノミューレに乗って、暴れようとした相手だ。正直、姫様の近衛騎士としてはそう言う危ない男と対面するのは止してもらいたい。


「我が騎士が守ってくれるのでしょ?」

「こういうのはアンジュの方が得意なんですがね」


 俺はもっぱら操縦専門だっての。


「信じていますよ。そのジョンと言う人物をここに呼んでください。お話を聞きたいと」

「し、しかし……」


 さすがに兵士もこの要求には応えにくいだろ。

 けどまあ、姫様が言い出したことをひっこめないのは俺もよく知ってるし、仕方ないか。


「構いません。私がイネス様はお守りします」

「承知しました。しばしお待ちください」


 近衛騎士が守ると誓えば、兵士も拒否は出来ない。下手に拒否できる材料があると、兵士を悩ませるだけだからな。


「我が騎士、ありがとう」

「ほどほどにしてください。眠いんで」


 もう深夜だ。さっさと話して、さっさと寝ましょうや。

 あくびを噛み殺しつつ、しばらく待つと、その男が兵士に連れられてやって来た。体をロープでぐるぐる巻きにされ、後ろ手に縛られている。これなら、出来ることは体当たりぐらいか。なら、即座に対応できる位置に立ち直してっと。

 姫様の右前に立って、その男を跪かせる。


「ジョンと言いましたね。私はイネス・ノルベール・フェイタル。フェイタル王国の第二王女です。あなたとお話をさせてください」


 姫様の言葉に、うつむいたままの商人は僅かに顔を上げる。その瞳には、はっきりと分かるほどの憎悪が溢れている。

 その瞳に睨まれた姫様は、一瞬ひるむ様子を見せたが、すぐにかき消し王族として気丈に振る舞う。


「話し合いましょう。あなたもそれを望んでいたのでしょう?」

「話し合う? ク、クク、クックック」


 男は突然笑い出し、男を連れてきた兵士に棒で小突かれる。それを姫様が止めると、男は姫様を真っ直ぐに睨み付けこう言い放った。


「行商殺しの姫様が、今更話し合いだと」


と。


これ、砦建築までどれだけ掛かるんだろう……

予定では十五ぐらいまでには終わらせるはずなんだけど

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