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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
プロローグ
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プロローグ

「父さん、今日の目標は?」


 朝食の席で、俺はテーブルに着きながら、目の前に座る父さんに尋ねる。父さんは無精ひげを生やしたチョイ悪系なおっさんだ。目つきは悪く、その髭も相まって、初見の人には必ず怖がられ、赤ちゃんは泣き出すともっぱらの噂だ。さすがに辺境の農村なんて住人の固定された場所ではそんなことも無いが、移住してきた当初は相当怖がられていたらしい。ちなみに今年で三十になる。

 父さんは、固いパンをヤギの乳で飲み込むと、俺の問いに答えた。


「エルドは蜂鳥を狙え。最低でも三羽だな」

「蜂鳥かよ……あいつら面倒なんだよな」

「村長からの依頼だ。町で必要らしい。あれを確実に仕留められるのはお前だけだからな。期待しているぞ」


 蜂鳥は、木々の間を蜂のように高速で移動する中型の鳥だ。その動きが速すぎるせいで、矢はまず当たらず、罠を仕掛けても持ち前のパワーで壊される。

 確かに俺の魔法ならば、捕まえることもできるが、できるからといって面倒であることに変わりはないんだけど。


「子供に期待かけすぎじゃない? 俺、まだ八歳なんだけど」


 そう、俺はまだ八歳だ。確かに村の中で誰よりも魔法を上手く使えるし、思考は八歳とは思えないほど大人びていて落ち着いているが、体はれっきとした八歳の子供なのである。

 そんな子供に、危険な獣のいる森の中で捕まえるのが困難な蜂鳥を三羽も捕まえろなんて、普通は頼むもんじゃないだろ……


「実績からの判断だ」

「はぁ……仕方ないか」

「エルドちゃんはお父さんより優秀だもんね。頼られるのは当然よ」


 そう言いながら、俺の前に朝食を並べてくれたのは、俺の母さんである。

 父さんがチョイ悪怖い系だから、母親もギャル系かと思いきや、こちらは打って変って清楚な可愛い系だ。ポニーテールの紅茶色の髪が、今日も母さんの動きに合わせて可愛らしく跳ねている。どういう接点で結婚するまで至ったのかは知らないが、たぶん父さんが脅したのだろうと俺は密かに思っている。

 そんな父さんは、母さんの一言に胸を抉られたのか、わざとらしくグフッと言って胸を押さえた。

ざまぁみろ。


「俺だって今週中には三角牛を仕留められそうなんだ。そうしたらしばらくは楽ができる」


 父さんの言う三角牛とは、非常に希少な生きもので、この国でもごく一部でしか発見されていない。しかし、その肉はとても美味く、貴族の間ではかなりの値段で取引されているらしい。一匹仕留められれば、家族が半年贅沢しても問題ないほどの収入を得られる。ただ、希少故に狩りには時期の制限が設けられ、その上ライセンスを持っていない狩人が狩ることは禁止されている。父さんはそんなライセンスを持った一人なのだ。

 春先の今はちょうどその狩りが許可されている時期。今週中に仕留められそうということは――


「見つけたの?」

「ああ、ただかなり森の深い場所にいてな、少し引っ張り出さないと運ぶのが大変そうだ」

「手伝いがいるなら行くよ?」


 俺の提案に、父さんは心外だと言わんばかりに顔を顰めた。ただでさえこわもての顔が、目尻が吊り上り、より凶悪に見える。たぶん、あの眼で睨みつけたら、心臓の弱い人なら殺せる気がする。


「おいおい、俺だって伊達に十年以上狩人やってる訳じゃないんだぞ? それぐらい一人でも問題ない」

「それじゃあ、お父さんの狩りが成功したら、またお祝いしなくちゃね!」


 ポンと手を叩き、嬉しそうに母が笑う。


「仕留めても、すぐに大金が入る訳じゃないけどな」

「お祝いは半月後だろうね」


 俺達の言葉も聞かず、母は嬉しそうに台所に戻っていく。どうせ、次の行商が回ってきたときに何を買おうかでも考えているのだろう。

 俺は、出された朝食を手早く胃袋に詰め込み、席を立つ。


「ごちそう様」

「もう行くのか?」

「三羽だと一日掛かりそうだから」


 壁にぶら下げている狩り用の道具一式から鉈を取り出し腰に下げ、得物を入れる袋を背負う。弓は持っていかない。どうせ蜂鳥には当たらないし、俺の武器は魔法だからだ。


「じゃあ行ってきます」

「いってらっしゃい」

「崖には気を付けろよ」

「その注意何回目だよ」


 父さんの口癖のようになった注意に苦笑しながら、俺は家を出る。

 家から出たとたん、春の暖かな風に乗って、花の香りがふんわりと漂ってくる。

 温かくなれば動物も活発に動き出す。狩りが少し楽になるかもしれないと思いながら森へと歩いていると、後ろから声を掛けられた。


「エルド、おはよう!」


 振り返れば、そこにいたのは村で唯一の同い年。というより、村に二人しかいない子供の内の一人。村長の娘のアンジュだ。

 アンジュのことを一言で表すのならば、美少女だろう。

 母親譲りの金髪碧眼に、一切悪意を浴びることなく、純粋培養で育てられた屈託のない笑顔。貴重な村の子供として、大切に育てられたアンジュは、まさに村人のアイドルである。

 まあ、俺もその貴重な子供の一人として、大切に育てられていたのだが……ねぇ、思考がすでに大人だし、色々とスレちゃってるのよ。


「アンジュか、おはよう。この時間に会うのは珍しいな」


 朝は、アンジュが野菜の世話に、俺が狩りとそれぞれやる事があるため、会うことは珍しい。大抵二人で遊ぶのは、仕事が一段落した昼以降か夕方である。


「あ、うん。私もこれから野菜の世話なんだけど、その前に渡しておきたいものがあって」

「俺に?」


 アンジュに何か貸していただろうか? 特に覚えはないのだが……というか、狩りに行く前に返されても邪魔なのだが。


「おじいちゃんから、エルド君に蜂鳥の依頼をしたって聞いてね」

「ああ」

「前エルド君が、蜂鳥は見つけるのに凄い時間掛かるって言ってたでしょ? だから、これ!」


 そう言って差し出してきたのは、弁当箱サイズの木の箱だ。と、言うより弁当箱だ。紐で十字に結ばれており、蓋は開かないようになっている。


「これは?」

「サンドイッチ作ったの。良かったらお昼にでも食べて」

「おお、ありがたい」


 いちいち昼に家まで戻るのも面倒なので、森の果物か何かで済ませようと思っていたのだ。その矢先に、弁当は非常にありがたい。


「って、自分で作ったのか? アンジュが?」

「う、うん。お母さんに手伝ってもらいながらだけど……」


 そう頷くアンジュは、少し恥ずかしそうに指先を隠す。その際に、俺はアンジュの指先に包帯が巻かれているのに気が付いた。

 どうやら慣れないながらも頑張って作ってくれたらしい。


「そうか、ありがとうな。昼を楽しみにしてるよ」


 お礼にとアンジュの頭を撫でる。こいつは昔から頭を撫でられるのが好きなのだ。子供っぽいというか、実際まだ子供なのだから当然なのだが、なぜか俺が撫でると妙に喜ぶ。同い年に撫でられて嬉しいものかね? まあ、四歳ぐらいからやっていたから、習慣になっているだけかもしれんが。


「楽しみにするのは良いけど、狩りにはちゃんと集中してよね? いつも眠そうな目してるから、心配になるわ」

「眠くは無いぞ?」

「その半目で言われても説得力ないよ……」


 特に意識したことは無いのだが、俺はいつも目が半分閉じているらしい。それが見る者には眠そうに見えてしまい、心配されるのだ。まあ、そのおかげで父さん譲りの眼光が防がれているのだから、助かっていると言えば助かっているのだが……毎回言われるのは少し面倒くさい。


「とにかく大丈夫だって。んじゃ俺行くから」

「うん、行ってらっしゃい」

「そっちも頑張れよ」


 アンジュの見送りを受けながら、俺は森の中へと入っていった。


 人の手が入っていない森の中は薄暗くて不気味だ。

 俺は、そんな森の中で、一本の木に登り、魔法を発動させていた。

 俺の手の平の上には、半透明な球体が浮かび、その中で赤い点がせわしなく動き回る。

 使っているのは探索の魔法だ。探索できる範囲は通常でだいたい半径三百メートル程度。どこに生き物がいるか分かるだけで、それがどんな生き物かは分からない。

 使い勝手の悪い魔法だが、俺はこれを少し改良して扱っている。

 自分を中心として円状に魔法を放つから三百メートルしか調べられないのだ。俺はこれを、自分の正面に直線状に放つことで、探索範囲を八百メートルにまで広げた。それを、ぐるぐるとレーダーのように回すことで、周囲の索敵を行う。

 多少魔法を扱える村人によれば、この発想は素晴らしい物だと言うが、俺にとっては、これは当然の発想である。何せ、レーダーなんて便利なものを知っているのだから。


 そう、俺は転生者だ。八年前までは日本で暮らしていた。当時は二十二歳、技術系の大学に通い、就職先も決まってホッと息を吐いていたときに死んだのである。

 死んだ場面はあまり詳しく思い出せないが、たぶん事故だったのだろう。まあ、終わってしまったことに興味はない。いまさらどれだけ蒸し返しても、どうにもなる事でもないしな。

 ともかく今は、エルドとして新たに生を受け、魔法なんてものがあるこの世界に若干感動したりしながら暮らしてきたが、俺の心は満たされていなかった。

 確かに魔法を使えるのは楽しい。前世の知識のおかげか、周りが言うより遥かに簡単に魔法を使えるのだ。

 おかげで、今では村一番の魔法使い兼狩人である。

 だが、俺が通っていた学校は技術系なのだ。そして、その理由は自分の趣味にある。


「ロボット、動かしてぇな」


 長谷修一、二十二歳。趣味はロボットの操縦。これが俺の前世のプロフィールだ。

 大学ではロボット研究会に所属し、ロボコンにも操縦者として出場していた。もちろんアニメのロボットも好きだ。ゲーセンにコックピットを再現した筐体が現れた時は感動したものだ。

 その趣味は、転生した今も尚強く残っている。

 だが、この世界はファンタジー。しかも文化レベルは電気すらない。場所によっては石炭を使っている場所もあるらしいが、辺境の農村ではいまだに木炭が限界だ。

 そんなレベルの文化に、ロボットなんてある訳ないよな……


「はぁ……っと、反応あり」


 小さくため息を吐いていると、探索魔法に蜂鳥らしい動きを見つけた。

 蜂鳥は地球のハチドリと違い中型のカラスのような大きさの鳥だが、動きはハチドリと同じように空中でホバリングしたり、森の間を細かく動いて飛び回る。その動きは特徴的だ。カラスサイズの鳥が尋常じゃない速さで羽を動かし、その場でホバリングするとか、前世の物理法則なら考えられない事態だが、まあファンタジーな世界だし常軌を逸した現象もファンタジーの一言でだいたい片づけられる。

と、いうより理解するのを諦めた。

 探索魔法を蜂鳥の方向に固定し、俺は木から飛び降りて見失わないうちに、そちらに向かって走っていく。


「エアロスラスター」


 足元で空気を爆ぜさせ、その勢いを利用して、一気に加速する。

 木々の間を走りながら、時には枝にも飛び乗り、鉈で邪魔な葉を斬り落として最短ルートを進む。

 そして、その眼に細かく動く鳥を見つけた。


「ダウンバースト!」


 目標に向けて魔法を放つ。実際の科学的な現象とは違い、ただ風を地面へと叩きつけるだけの魔法だが、見た目的には同じなのでその名前を付けた。

 蜂鳥は、突然の強烈な風に煽られ、その体を地面へと叩きつける。さらに、吹き下ろされる猛烈な風に、蜂鳥は体を持ち上げることができない。

 鳥は大型になるほど、その骨密度が低くなる。そのため、体を支えるだけの力が出せないのだ。

 バタバタとその場でもがく蜂鳥を押さえつけ、持っていた鉈を首に振り下ろす。

 すっぱりと何の抵抗も無く斬られた首からは血が溢れだし、地面を赤く染め、周囲に鉄の匂いを漂わせた。


「ふぅ。まず一羽か」


 先は長いと感じつつ、俺は血抜き処理を施していった。



 アンジュからもらったサンドイッチを頬張りつつ、小川で跳ねる小魚を眺める。

 サンドイッチは、野菜とハムの基本的なものだ。日頃から家事を手伝っているだけあって、味も良い。


「良い嫁さんになるだろうな――いや、このままだと俺の嫁になるのか?」


 辺境の農村で、子供は俺とアンジュの二人しかいない。このまま何事も無く成長すれば、ほぼ確実に俺とアンジュが結婚することになるだろう。何となく周りの大人もそうなるように仕向けている気がするし。

 不満など無い。今の時点ですら可愛いと美人を行ったり来たりしているアンジュのことだ。将来は美人一直線だろう。器量もよく、料理も美味い。どこに否定する要素があるだろうか。

 しかし、同時にこのままでいいのだろうかと思う自分がいる。

 せっかく転生なんて貴重な経験をさせてもらっているのに、辺境の村にそのまま骨を埋めてしまっていいのだろうか。

 物語的に考えれば、今後俺は旅に出て、色々な国を周り人々と交流を深め、人助けをしながら世界を見て回るのがベストなのだろうが、生憎俺にそんな面倒なことを実行するだけの行動力は無い。


「まあ、なるようになるか」


 結局その結論に落ち着くのだ。

 サンドイッチの最後の一欠けらを口の中に放り込み、川の水で喉を潤す。

 ド田舎だけあって川の水はきれいで、春先のこの時期はまだ冷たい。


「ふぅ……じゃあ、あと一頑張りしますか」


 弁当箱を片付け、俺は再び探査魔法を発動させる。

 蜂鳥を追って大分森の深い位置まで入ってしまっているため、生き物の数もかなり多く、探査魔法には無数の紅い点が表示される。

 その一つ一つの動きを注意深く観察しながら、少しずつ場所を移動する。

 改良型の探索魔法があるとはいえ、午前中に二羽も狩れたのは運がよかった。おかげで、午後はタイムリミットをあまり気にする必要が無い。

 その分気負わずに探査に集中できる。


「これは……違う。こっちも多分蝶だな。こっちは……トカゲっぽいな」


 細かく動く生き物というのは意外と多い。爬虫類や昆虫はどうしても蜂鳥と動きが似ていて非常に見分けがつきにくいのだ。

 せっかく見つけたと思っても、その場に行ってみたら実はトカゲでしたなんてことは頻繁にある。

 それでも根気よく続け、体感で一時間ほどしただろうか。


「見つけた!」


 探査魔法にその反応が現れる。

 細かく動き、その場に停滞するのは数秒程度。それを過ぎれば、また別の場所へと移動し、停滞する。

 トカゲや虫のようにも見えるが、これほど細かく移動と停滞を繰り返すものは珍しい。

 一縷の望みを掛けて、俺はエアロスラスターを発動させ、森の中を駆け抜ける。

 そして、空中に停滞する独特な飛び方をした一羽の鳥を見つけた。

 まだこちらに気付いていないのか、茂みに咲いた白い花から必死に蜜を吸っている。


「これでやっと帰れる!」


 鞘から鉈を取り出し、蜂鳥に向けて魔法を構える。瞬間、蜂鳥がこちらに気付いた。

 瞬発力のある蜂鳥の飛び方は、最高速度こそ比較的遅い物の、その加速は尋常じゃない。俺を見つけた蜂鳥は、花から舌を引き抜くと、一気に上昇し木の中へと隠れる。けど――


「その程度で逃げられると思うな。エアブラスト!」


 最初に逃げられることは予想していた。だから、待機させていた魔法は、蜂鳥自体を落とすものでは無く、周辺ごと吹き飛ばす魔法。

 巨大な空気の塊が俺の左手から打ち出され、蜂鳥の隠れた木にぶつかり大きく揺らす。

 木に止まっていた鳥や虫たちが一斉に飛び立ち、辺りが騒がしくなる。

 俺は全神経を集中させ、舞い落ちる木の葉の間から、飛び立つ鳥たちを全力で追いかける。そして、その中に俺の獲物をしっかりととらえた。


「ダウンバースト!」


 蜂鳥に向けて魔法を放つ。その直前、蜂鳥が突然方向を九十度変え、ダウンバーストの範囲外へと飛び出してしまった。


「チッ、ハズレを引いたのか」


 稀にいるのだ。動物の中に、まるで魔法を感知しているように躱すものが。

 そいつらは、今の蜂鳥のように、魔法が放たれる直前になると突然何かに気付いたように移動方向を変更する。そのせいで、魔法が全く当たらなくなる。

 これが普通の鳥や獣ならば、弓で仕留めればいいのだが、蜂鳥は別だ。そもそも矢が当たらない上に、魔法まで躱されるとあっては、手詰まりに近い。

 だが、ようやく見つけた蜂鳥なのだ。また別の個体を探すとなると、何時間かかるか分かった物ではない。さっきの魔法のせいで森も騒がしくなってしまったため、探査魔法も使いにくくなっているのだ。

 だからこそ、何が何でも捕まえる!

 鉈を一度鞘に戻し、エアロスラスターを使いながら、両手に新たな魔法を構築する。


「アクティブウィング、クアドラプル・インストレーション」


 両手に魔法を待機させたまま、その手で俺は自らの両肩と太腿を順番に叩いていく。すると、手に待機していた魔法が、叩いた場所へと移った。

 それを確認し、待機状態の魔法を発動させるための言葉を紡ぐ。


「スタート!」


 生み出されたのは四枚の小さな羽。両肩と太腿に一枚ずつ出来たその羽は、空を飛ぶには小さすぎる。

 しかし、木の枝が生い茂る森の中でこれほど重要なものは無い。

 四枚の羽は俺の意思をくみ取るように小さく動く。それだけで、俺の体は空中で非常に安定した。

 それに合わせて、俺は今まで抑えながら使っていたエアロスラスターの威力を最大限に上昇させる。

 足場にした枝が、空気の爆発に耐えきれず千切れ飛ぶ。

 先ほどまでとは比べ物にならない風圧が体に襲い掛かり、目を開けるのも大変なぐらいだ。

 その中で何とか視界を確保しつつ、アクティブウィングの姿勢制御を使って蜂鳥を追いかける。

 矢を躱し、魔法も避ける蜂鳥を捕まえる方法は一つしかない。

 追いついて、首根っこを捕まえてやればいいのだ。


「待てぇぇえええ!」


 バタバタと必死に羽を動かす蜂鳥が、次第に近づいて来た。

 強引に手を伸ばせば届く距離だ。しかし、今手を伸ばせばバランスを崩す。焦るな、落ち着け。もう少し、後五十センチ!

 行ける! そう思った瞬間、蜂鳥が何かを察したのか急に飛ぶ方向を変えた。

 その俊敏な動きで、再び九十度の直角カーブ。俺はとっさに木の幹を足場に、方向転換をする。後方でミシミシと木が倒れる音がするが、それも一瞬で後方へと遠ざかる。

 それほどの速度で追っているのにもかかわらず、蜂鳥との距離は再び開いてしまった。


「クソが、感の良い奴め」


 再び森の中の高速追いかけっこ大会が始まる。

 もはや自分が森のどの位置にいるかなんて分からない。どこもかしこも木ばかりで変わり映えのしない風景の中で右往左往していれば嫌でも場所など分からなくなる。

 蜂鳥の狙いはそれかも知れないが、残念だったな! 分からなすぎて逆にスッキリ諦めが付いたわ!

 自分でも変なテンションになりつつあるなと感じつつ、再び蜂鳥の背後を取る。


「今度こそ!」


 一瞬蜂鳥がこちらを振り返った気がしたが、そんなことを気にする余裕はない。

 少し先から光がさしている。もしかしたら開けた場所に出る可能性がある。そうなると、足場が無くなり、蜂鳥には逃げ切られる。

 それまでに捕まえる!

 足に力を込め、枝を蹴る。


「とどけぇぇぇええええ!!!!」


 伸ばした右腕、その指先が蜂鳥の足に触れ、その細い足首を掴む。

 慌てた蜂鳥は必死に羽を羽ばたかせるが、ようやく捕まえた得物、簡単に離すつもりはない。

 腕を引き戻し、暴れる蜂鳥の首を左手で締める。これでもう蜂鳥は俺から逃げることはできない。


「やった!」


 捕まえると同時に、俺は光の差していた場所へと飛び出した。

 着地の為にアクティブウィングでエアブレーキを掛ける。そして着地地点を定める為地面を見て、顔の筋肉が引き攣った。

 地面が無いのだ。


「ここ谷か!」


 森の奥には、散々気を付けろと言われていた巨大な谷があり、山岳部から森を抜けた小川の水が流れ込み巨大な流れとなっている。

 この川は、この国の首都まで続く大河となっているのだが、今はそんなことを気にしている場合では無い。

 幾年の時の中で削られた谷は非常に深く、簡単に登れるような高さでは無い。そもそも、谷の底には各所から合流した大量の水が流れているのだ。落ちたら人一人など木の葉のように揉みくちゃにされる。


「この野郎、これが狙いだったのかよ!」


 蜂鳥が狙っていたのは、谷を飛び越え逃げることだったのか。思わず左手の蜂鳥を見ると、蜂鳥は暴れることを止め「ともに死のうや」とも言いたげに俺を見つめ返してくる。

 こいつだけは確実に俺自身の手で締めるそう決めた瞬間だった。


「つか、そんな考えてる場合じゃねぇ!」


 この高さから水面に堕ちれば、コンクリートに落下するのと何も変わらない。

 川の中でどうこうする以前に、落下死一直線だ

 大人しくなった蜂鳥を、強引に袋へと突っ込み、魔法を発動させる。

 エアロスラスターは、地面と足の間の空気を圧縮し爆ぜさせる魔法だ。だから、落下時には仕えない。なので発動させるのは別の魔法。


「エアショックアブソーバー、クアドラプル・セットアップ! オープン!」


 俺の前面に展開される四枚の空気の壁。一枚ずつの衝撃吸収能力は少なくても、四枚重ねればかなりの減速ができるはずだ。

 まず一枚目の壁へと激突する。一枚目は薄い布のように少しだけ伸びて簡単に破れてしまった。直後に二枚目、同じように破れてしまうが、最初より確実に速度は落ちている。

 速度が下がれば相乗的に魔法の効果も上昇する。

 三枚目の壁は、少しだけ伸縮した後に破れた。そして四枚目。

 少しでも耐えてくれと願いつつ、壁に突入する。

 体をグッと抑えられる感覚と共に、体感でも分かるほど速度が下がった。

 最後の壁を抜けたとき、速度は最初の半分ほどまで落ちている。


「よし、これなら!」


 速度が落ちれば、落下の衝撃を抑える魔法は他にもある。


「エアクッション、クアドラプル・セットアップ! オープン!」


 もう間近に迫った川に対して、空気のクッションを今自分の出来る全力で発動させる。

 後は運命に祈るだけだ。

 俺は魔法が発動したのを確認すると、固く目を閉じて頭を体の内側へと丸め、水しぶきを立てながら川面へと落下した。



「ゴホッ! ゴホッ!」


 うっすらと意識が覚醒した直後、俺は全力で咳込んだ。

 飲み込んでしまった水を吐きだし、荒い息を吐く。

 スゲー苦しいが、苦しいってことは生きてるって証拠だよな?

 どうやら流されている途中で川岸に打ち上げられたらしい。それほど流されていないのか、まだ峡谷は続いている。俺は仰向けに寝転びながら、その空を見上げた。


「はぁ……はぁ……生きてるのか」


 峡谷の上空を、トンビのような鳥が悠然と旋回している。

 空高けーなーなどと現実逃避気味に考えていると、視界の端に岩肌とは別の物が映り込んだ。


「なんだ……これ……」


 そちらに顔を向けて、俺の視点は固定された。

 体を起こしながら、俺はそれを見続ける。

 峡谷の壁にもたれかかるようにして座る、巨大な人影。

 両足を投げだし、眠るように座るその姿に、俺の心臓は否応なしに高鳴る。


「ロボット……なのか?」


 人工的な銀色の巨人。俺とアルミュナーレの邂逅は、奇跡とも呼べる生還と共に訪れたのだった。


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