ヒロインはノーマルエンドを目指す
初投稿です。
生暖かく見ていただけると幸いです。
「それじゃあ 私もう行くねっ。みんな お幸せにー!バイバーイ!!」
咲き始めた桜の並木道を 4組の麗しいカップルに見送られながら、少し小柄でどこか庇護欲をそそられるあどけない少女が 元気に駆け去って行く。
「よっしゃー!グッドノーマルエンド終了っと」
見送っていた男女の視界から外れたところで、私はガッツポーズをとった。
その瞬間、さっき迄私の頭上を飛んでいた 桜色の小鳥が 私の肩に止まった。
「お疲れ様。今回は、サポート系ヒロインてトコかな。」
「そう。今回はそれぞれの攻略対象者に婚約者がいる設定だったからね。
ちょっと毛色の変わったヒロインに一時的に惑わされても、本当のパートナーのもとに戻って
ハッピーエンドってことで。
ヒロイン的には、誰も落とせなかったから ある意味バッドエンドかもしれないけどね」
私は、たった今『私立桜華学園 〜桜舞い散る下をあなたと〜』という乙女ゲームでのヒロイン役を終えたところである。
今回の乙女ゲーム『私立桜華学園』で6人目のヒロインを演じた。
そう、演じたのである。
私は、ヒロインにスカウトされた。
それは長い闘病の末の短い生涯を終える時だった。
「乙女ゲームの世界でヒロインになってみない?」
さっき迄身体中を苛んでいた苦痛から スッと解放されたと思ったら、そんな声が聞こえた。
「はあ?」
と 間の抜けた返事をした私は 悪く無いと思う。
ホント、何のこっちゃ?
「乙女ゲームは、もちろんわかるよね?
君も『やりすぎだ』って怒られる程遊んでたんだから。」
仕方ないじゃないか。
ほとんど入院生活で、病室から出られることも少なかった私に出来ることは、読書とゲーム。
だが、ひと言 言わせて欲しい。
「私、乙女ゲームは それほどハマってない。むしろ苦手よ」
何せ選択の答えでは『何で そっちを選ぶかなぁ』と入院仲間で、乙女ゲーム好きのアイちゃんを嘆かせ
『乙女ゲームのセンス皆無だね』とのお墨付きを戴いた。
「ま 其処は置いておいて、乙女ゲームがどんなモノかは知ってるよね。
それで最初の質問になるんだけど、君 乙女ゲームのヒロインやってくれないかな?」
「何で私が?て言うか どういうこと?」
意味がわから無い。説明求む。
「あー 最近ヒロインの成り手が減ってきちゃって…。
以前はね『やる〜、逆ハーするんだ〜』というやる気溢れる肉食系女子がけっこう居たんだけどね。
このところ、逆ハー失敗からのざまぁ系が増えてきてね。旨味が無いって、ヒロイン役敬遠されてね。
困ってるんだよ。そこでやってくれそうな子をスカウトしてるんだ。
どうだい?乙女ゲームに転生して ヒロインに成ってくれないかなぁ?」
乙女ゲームに転生か…。
ずっと寝たきり生活で ろくに学校にも通えなかった身としては 学園で青春を謳歌!も悪くないけど…。
でも、私としては 転生するなら乙女ゲームより、剣と魔法のファンタジー世界のほうが好きなのだが…。
「いいよ。ヒロインやってくれたら、ファンタジー世界に転生させてあげるよ」
「えっ ホント?じゃあ、やる‼︎」
それから私たちは 色々条件をすり合わせて 契約を結んだのだった。
1 . 乙女ゲーム10世界でヒロインになる。
2 . R15 迄の乙女ゲームとする。
(R18になると色々ハード過ぎる。それに私17歳だしね)
3 . シナリオ通りに進めなくてもOK。エンドもどれでも可。
4 . 特別サポートキャラが付くこと。
(今説明してる人(?)が付いてくれるとのこと)
5 . すべての乙女ゲームが終了したら、私の望む世界に転生出来ること。
6 . 転成時の設定は、チートありは当然、容姿 能力 背景も考慮。
うん。やる気出た‼︎
と言うわけで、ヒロイン稼業 真っ最中なのである。
で、私のヒロインとしての役割なのだが
だいたい 15〜17の時に入学又は転入して、攻略対象を惑わし、悪役令嬢に虐められる。
そこを攻略対象に助けられてハッピーエンド、の流れになる訳だ。
が、 シナリオに添わなくても言いわけだし、好きにやることにした。
逆ハーエンド?
無理 無理!
『 乙女ゲームのセンス皆無』の私だよ?
レベル1で「木の枝」持って「布の服」でダンジョンに挑むくらいのムボウさだ。
なので、私としてはノーマルエンド推奨である。
だってうっかり誰かとハッピーエンドになったら、その世界に生涯が終わるまで居なくてはならないし。
だから皆様 私以外の方を選んで欲しい。
そして私は、静かにフェイドアウトして 次のゲームへ。
「さあて、次で7つ目ね。タイトルは『魔法学園ホライゾン 〜君と見る海の向こう〜』か…
やったー、魔法が使えるんだ。楽しみ!」
次はファンタジー色の強い世界のようだ。
浮かれてる私に スカウトマンにして私の特別サポートをしている相棒から ゲームの概要が伝えられた。
「攻略対象は5人。隠しキャラ1人の計6人。
第二王子(俺様)、公爵子息(腹黒)、侯爵子息(チャラ系)、伯爵子息、大商人の子息、
隠しキャラの神官様。ですね」
「王様とか貴族の居るとこなの?
礼儀作法 どうしよう…」
身分差のある世界は、初めてじゃないけど マナーが微妙に異なってたりするので面倒くさい。
「少し早めに転生して慣れておきますか?」
「そうね。魔法の使い方も練習しときたいし…。10歳くらいからにしよう」
そして私は10歳のヒロインになり、魔法とマナーの練習をこなしつつ ゲームの下準備に精を出した。
学園で私が彼等に会う前に、それぞれのパートナーと絆を結んでおいてもらうのだ。
私にとっては通りすがりのゲームの世界でも 彼等にとっては現実の世界。
生身の存在であり、関わりを持ってしまうと あまり酷い結末は迎えて欲しくないと思ってしまう。
という事で、この『魔法学園ホライゾン』でも数組のカップルを誕生させ、次の乙女ゲームへと向かうのだった。
「もう ヒロインというより、仲人さんというか、遣りて婆というか……」
サポートの相棒が何やらブツブツ呟いているが 気にしない‼︎
みんな〜 幸せになってね〜!
よし、あと3つだな!
読んでいただきありがとうございました。