0・前書き
超国家権力、あるいは超国家勢力。
トンチキな陰謀論などを振り回す輩でなくても、この類の言葉は耳にまたは目にしたことがあるだろう。俺もあった。
しかし、その存在に触れる機会が有った奴は、早々居やしないだろう。だが、俺はあった。
と、ここまで話すと――もうくっちゃべるのが億劫になってきた――いやいやいやまあ、ここまで話せばもうお分かりだろうが、先に話した亜流かつ三流RPGめいた繰り言やその他もろもろを鬼と振りまくパープー女、そいつがその一員だったという訳だ。
一気に話が飛んでいるが、まあ、事実は事実だ。仕方ない。
とりあえず、俺と奴の出会いを少しだけ話そう。
俺とその少女が出会ったのは、中学二年の時だった。こげ茶のクセッ毛が愛らしいそいつは、有名私立から俺の通っている田舎の中学にわざわざ転校してきたのだ。特に知りたいとも思っていなかったその理由なのだが、そいつ曰く、
「占いでそう出たから」
そしてまた、
「あなたとも出会う必要があったから」
何故だと問うと、
「占いでそう出たの」
という事だった。
幸いにもその話を聞かされたのは俺達が『本当に』親しくなった後だったので、まあいいとしたものの……自分がトンデモ集団の一員である証拠を見せると言って、俺の前に、国会で討論中の首相を呼びつけた時にはもう何と言ったらいいのか、ねぇ。
ちなみにテレビの中では、『この重大事に腹を壊したなどとはいったいなんだ』『体調管理の一つも出来ないのか』『税金を下剤にでも使っているのか』と、至極立派なトイレの前に他の議員が詰めかけるという末期症状が展開されていた。
今でも鮮明に思い出せる、大蛇の前に据え置かれたカエルの様な首相の顔色をまぶたの裏に浮かべながら、俺は改めてこう思う。
超国家的な奴等には、俺達の常識など風の前の塵に同じだ、と。
情報統制や政治操作なんてのは当たり前、必要とみれば戦争ですら起こすし、魔術なんてものもまだ生きているらしい。とんでもない世界だ。そして俺はそんな世界の片鱗に片足を突っ込まされたわけであり、本当にんな事が必要だったのだろうかと奴めに言ってももう遅い。
しかしここで気にかかるのは、そうなってしまった俺に、頼んでもいないのに降りかかろうとする火の粉に類するモノであるのだが、
「普通にしてる分には大丈夫。ていうかね? そもそも占いで出たってことは外には漏れてないんだよ。それに仮に漏れたとしても、私達の庇護下にあるあなたをどうにかするのは、相当骨だよ。で、そうまでするメリットは、今の所皆無だと思うよ」
とのそいつの弁に何処か複雑な気分を抱きつつ、まあそうまで言うのならと、俺は努めて『俺の日常』に回帰することにしていた。
ついでに言うと、その時の奴の話しぶりから、どうやら世界を牛耳るトンデモ集団の中にもいくつかの派閥があり、覇権争いに勤しんでいるらしいという事に気付いた。まあ深く突っ込みはしなかったが。身のためにも。
*
「しかし、何故お前は常日頃から世界支配したいなどというタワゴトを口にするんだ。俺に真相を話す前から騒ぎ立てていただろうが」
「これも一種のカムフラージュ」
「本心でもあるだろうがよ」
「まあね」
「俺の日常はどうなってしまうんだろうな」
「人間の適応力はスゴイから、大丈夫だよ」
「そうでなくても苦しい成績なのに」
「ナニとナニを並べて、物を話しているのよ……」
「その後、首相はどうしてる」
「たまに家に来て、愚痴って泣いてるよ。悪い奴らに虐められてるとか、若いのが選挙に来てくれないとか」
「自分の政党に入れて欲しいのか……」
「ううん。自分の政党は、もう変なのの息がかかり過ぎてるから、他のとこに入れて世界を変える一助をしてほしいって」
「胃が痛くなる話だな」
「穴空いてるわよ、とっくに」
「でも、前の出来事もあるし、うかつに薬も飲んでいられないのが不憫だ」
「む」
「『下剤か!?』『そして逃げるのか! トイレに駆け込んで!』とか言われるしな」
「悪いことしちゃったな……」
*
――さて、ここまで色々書いてきたが、過去の話、前書きはこの程度でいいだろう。
ここからは『それから』の話だ。俺達が高校一年になった、秋の初めの出来事。
それは俺の携帯に着信した、彼女のメール一通から始まった。