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プロローグ

 4年くらい前に書いたものです。正直恥ずかしいけど、せっかくなので上げてみることにしました。

 あの頃はベッド・ディテクティブにはまっていたので、それもどきのモノを書いたというね。今思うと何という事だ。

 でもって、なんやかやでこの物語が目に入ってしまった方のために、小説本文のけったいな考察部分はすっとばして、日常パートを気ままに追う方がいいかもしれないという事をここで提案しておきます。

 ちなみに挿絵は気が向いたら入れて、気が向かなければ入れない予定。

 少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

                      

           「私、世界を支配しようと思うの」





 世の中には物好きな輩が種々存在するのは当然のことである。またそんな奴らがいなければ一般小市民たる我々に提供される娯楽の種類も少なくなるだろう。

 ――と漠然と思っていた俺なのだが、あろうことか、クラスメイトであるクセッ毛の美少女からこんな言葉を聞いてしまった暁には、もうとにかく、何というかあらまあといった心境だった。



「この世界はね、とかく不条理に満ちたものなの」



 俺としたところで、そりゃもちろん納得できかねる世界であるというのには否やは無い。

 首相がコロコロ変わりまくり、批判渦巻く内閣にしても、不況にあえぐ社会にしても、無気力万歳な風潮にしても、希望が微妙に見えずじまいな国そのものの雰囲気にしても、んなものはカケラも望んではいない。

 世界レベルでも同じことだ。戦争でもテロでも、あんなもんでは俺であれ六十余億の人類であれ、幸せな気分にゃなれるはずがない。


 個人的意見としても、このまま高校を卒業し、敷かれたレールに則って大学へ入学、のち就職なんてあまり歓迎出来はしないんだ。こんな世界ならなおさらな。



「そうなんだよね。でもね、私が言ってることの、正確なところはそうじゃない」



 だが何を言ったところで世界は然るべくして存在し、存続している。俺がどんなにぶーたれたって、赤ん坊の甘皮ほども変わりゃあしない。

 現にほら、なんだかんだで俺は今高校一年。レール通りに幼稚園、小学校、中学校と常識に従って経由を重ねた、悲しくも一般的な高校生な訳だ。



「あのね? 常識にしたって、世界の機構にしたって、結局は作られたものだよ」



 何にせよ、俺はこの世界で生きていく。今、どんなに反抗してみたって、理想を掲げてみたって、最終的にはこの社会に組み込まれて一生を送るんだ。

 

 かつての大学紛争を見ろ。学生の理想と大人社会のぶつかり合いを。どうなった? どうにもならなかったんだ。人死にまで出ても、何一つ変わらなかった。

 そしてそこで社会に対して反旗を翻した学生たちも、結局はその社会に迎合したんだ。


 たとえ世界の運営方法が変わりはしても、その実態は、変わりはしない。

 人が生まれては死んでいくのとおんなじことだ。



「たとえ実態は変えられなくても作られたものなら変えることが出来る。ていうか変えずにはいられないの。私は」



 だがもしも変えることが出来るとしたら、いやこれは極めて超希望的観測なのだが、そんなことが出来るとしたら、俺はどうするだろうか。



「だからね、私がこの世界を変えるの。根本的に」



 どうするなんて、考えるまでもない。



「だから、手始めに、私が世界を支配するのよ!」



 のだが、こんなタワゴトにほいさと乗っかる訳でもない。


 当たり前だがこんなことを言い出す輩は、ふざけているかパッパラパーであるかの二つに一つであり、世の中ナメてんのかと文句の一つも言ってやりたくなること請け合いな人種でもある。

 だから俺がそんな蒙昧な痴れ事を言い出したその女を目の当たりにしたときは、まったくもって呆れる以前にぽかんと口を開けたまま微動だに出来ない男となったのは無理からぬことであって、またそいつが常日頃は至極まともな優良生徒であったこともそれを助長したわけだ。

 しかしまあ聞いてみるだけ最後まで聞いてもみると、それがまたもう泣きたくなるほどアホらしい声明だった。



「この世界はね、支配されているわけ。裏の方でね。その人たちが世界を都合のいいように引っ掻き回してるからこんなになったの。

 だからね、だから私は、そんな世界がもう嫌だから、この世界をなんとかするのよ」



 ……そして俺の脳はこれ以上のことを聞いてはいられなくなった。




 つまりだ。


 結局のところこの娘の脳内に揺蕩っていることといったら、

『この世界は闇の支配者に牛耳られ、恐ろしく如何わしいものになっているのが嘆かわしき実情である。

 そして自分はそんな世界に何もせずして受け身で居座るのはよしと出来ない。だから住みやすい世界にするために、私が世界をまとめてみせる』

 ……といったところでまあなんというか、とりたててイタいとしか言うことしか出来ずじまいなのだが、こいつ自身いたく本気な様子であるからして、俺としてはもう何も言えないというのが、こいつの言う世界情勢よりはまともな実情である。

 


 そんな亜流かつ三流RPGめいた繰り言やその他もろもろを鬼と振りまく美少女に俺が出会い、振り回されること二年。何の間違いか私立の進学高校に上がった今でもそれは変わることなく、俺は溜め息交じりなまま日常を謳歌していたはずだった。

 物憂い秋の風が吹き始める、文化祭前のある日まではな。


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