第六天とそんな日常
朝目が覚めると自分の前にちょんまげを生やした見知らぬ男の人が居た。
顔立ちはやたらと整っていて、ひげを生やしている壮年の男性だ。
誰ですかと尋ねると、その人は仰々しく頷いて。
「うむ。大六天魔王である」
わあ。厨二病さんだった。
そう思ったが、何だか浮いているし、すり抜けるし、スーパーパワー振るうし、なんだか本物らしかった。
「我と契約して現世の肉体となれ」
とか言ってきた。大体こう言う風に契約を持ちかけてくる奴にろくな奴はいない。訪問販売は基本門前払いなので。そう言って断ろうとしたが、危うく消し墨にされかけた。
「あまり我に力を振るわせるな。お前の身体が無くなったら我が困る」
いや、自分も困るんですが。まあすげなく追い返すのも不便かもしれないと、少しだけ話を聞いてあげることにした。
まず契約と言っているけれど、こちらにメリットはあるのだろうか。
「ない」
即答された。素直なのはいい事だなぁ。……帰って欲しい。
「我がお前の肉体に入れば、お前の魂は我に食われてしまうだろう。最初は自我を保てるだろうが、その内我に浸食される」
くっ、右手が……! とかをリアルでやっちゃうらしい。うわ、嫌だ……。
「元より悪魔と契約を結ぶとはそういうことだ。甘い話には裏がある。何事もな」
まったく甘い話でもなんでもないんだけれど。
しかし、悪魔だったのか。そっちの方に驚いた。
「悪魔ではない。魔王だ。一緒にするな」
えー。自分で言ったのにー。
ところで、一番気になっていたことを、質問した。
つまり、自分の身体をのっとって、一体何をするのかと。
「無論。改めて下天を我が手に収める以外にあるまいよ」
うわーだめだ。全然駄目だ。メリットがまったくない。
話を全て聞いた上で、結論は出た。――交渉決裂です。
「まて。もう少し我の話を聞かんか」
聞いても契約できない理由が増えるばかりだと思うのだけど……。ああ、駄目だコレ。この人すり抜けるから部屋から追いだせない。
それなのに、向こうはこちらに干渉出来るというのは、何だか不合理ですらある。
「ええい。やめんか。塩を巻くな塩を。効かんが気分は悪いのだぞ」
追い出す事も出来ず、さりとて、契約を結ぶ気にもなれず。自分と彼との間は、多分何時までも平行線。
「根競べだな」
正直勘弁してほしかった。
げんなりとしていると、彼はカカッと悪魔のような、子供のような笑みを浮かべ。
「なに。我はそう悪い気分でもない。お前はあまり我の周りには居なかった類の人間だ。見ていて飽きぬ。それに、そこそこに端正な容姿の見目麗しい女人ともなれば、尚のことよ」
じゃあ、肉体乗っ取ろうとか思わないで欲しいんだけど……。
まあ、そんな事を彼に言っても無駄なのだろう。
明らかに、人の意見とか聞くタイプじゃなさそうだし。
はあ。と息を吐く。
そんなわけで。わたしの嫌いな悪魔さんは、今でもわたしに張り付いていて。
時折持ちかけられる契約も。ずっとずっと、平行線。
気が付けば、そんなわたしの日常。