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No. world  作者: KIDAI
【第一部】第一章 物語の始まり
6/11

第二話 3 〈ナンバーゲーム①〉

 ――1――



「それで、何なんだ貴様は?」

 地下の奴隷販売店を出てすぐの事だった。

 大勢の人(とは言っても獣の耳や尻尾などが生えた人だったり、人の形をした獣、いわゆる獣人だったりと、どれも普通の人とは言い難い)が行き交う町の市場に出た女性とアイラちゃんの後をこっそり付けていた僕は。

 突然振り向いてそう言ってきた女性に肩を大きく震わせた。

「気付いていたんですか!?」

「あんな下手な尾行をされて、気付くなと言う方が難しい」

 ここは人通りが多いから別の場所で話そう、と言う事になって、今僕たちがいる所は人気のない市場の路地裏。三階建ての建物に挟まれているため昼間なのに薄暗く、若干肌寒いところだった。

「お願いがあります!」

 僕の放ったその言葉に女性は眉を顰めて、アイラちゃんは僕と女性を交互に見ている。

 僕は言う。

「あなたの――――弟子にしてください!」

「……は?」

「え!?」

 その言葉に面食らったような表情をする女性と、声を上げて驚いているアイラちゃん。

 二人の反応は大体予想していたので、僕はそのまま続ける。

「さっきの凄かったです! どうやってやったかは分からないけど、でもあなたが凄い人だって事は分かりました! 僕、どうしても強くなりたいんです! この世界で生き残るために、魁くんと真白ちゃん……友達との約束を果たすために!」

 自分で言っててちょー恥ずかしい。けど今は我慢する。

 僕は二人と約束したから。また必ず会おう、と。

 その約束を果たすためには、どうしても力がいる。無力なままじゃ何もできない。それを嫌と言うほど思い知ったから。

 だから、

「お願いします! 僕に、力をください!」

 お願いします、と僕は女性に土下座した。

 初めてだったけど、あまり言い気分じゃなかったけど、勢いをつけすぎて額が地面に激突したから痛かったけど、それでも僕は頭を下げ続けた。プライドよりも、大事なものがあるから。ここは耐えなければならないと、そう思ったから。

 額を汚い地面に擦りつけ、僕は本気で頼み込む。

 そして女性の返答を待つこと数秒。

「頭を上げろ」

 その言葉に僕は額を地面から切り離す。

 視界に入ってきた女性は多少困ったような面持ちになっていたが、僕を正面から見据えた途端にとても真面目な表情に切り替わった。

「貴様の身の上は大体想像できる……が、はっきり言おう」

 彼女は一度区切ると、僕を見下ろして、

「貴様を弟子にする気はない」

 そうきっぱりと、言った。

 その言葉を聞いた瞬間、自分の表情が急速に暗くなっていくのを自覚して。

「だが、生き残るための力だけなら与えてやれん事もない」

「ホントですか!?」

 しかし、次の言葉を耳にした途端に笑顔へ急上昇するのも自覚して。我ながら感情の起伏が激しいなあ。

「ただし、力を与える前にその服装をどうにかしろ。そんな可愛くない……じゃなくて奇抜な服を着ている奴と一緒など、恥ずかし過ぎてたまらん。丁度アイラの新しい服を買いに行くところだったからな。貴様のも一緒に買ってやろう」

 どうやら僕の服装(白の体操服)はこの世界だと相当おかしな格好らしい。確かにさっき町の中を歩いてた時に、やたらとみんな僕の事を見てたような気がするし。新しい服を買ってくれると言うのだから断る理由など微塵もない。

 と言う訳で、洋服の売っている店へレッツゴー!



 ――2――



 女性の名はヒイナと言うらしい。僕は『ヒイナお姉さん』って呼ぶことにして、アイラちゃんは『ヒイナさん』って呼んでいた。

 僕とアイラちゃんはヒイナお姉さんに服を買ってもらった。

 僕は白の体操服から赤のTシャツと黒のジャケットみたいなもの。下は膝下まであるショートパンツにブーツスニーカー擬きで、どれも特売の安物揃いだ。

 対してアイラちゃんは汚い布一枚から、ひらひらした丈の短い白のワンピースに黒のニーソックス。そして値の張っていそうなブラウンのブーツと、とても可愛くなった。特に目を惹くのがあのニーソックスだね。細い足にフィットしていて見ているだけで興奮、じゃなくて見惚れてしまう。

 因みにコーディネイトをしたのはヒイナお姉さんで、アイラちゃんの服選びだけで三時間も掛かっていた。更に全ての総額が僕の五倍と、かなり高級な物を買ったようだ。女の子の買い物はお金と時間が掛かるってホントだったんだね。

 一応アイラちゃん本人は僕と同じ安物でいいと言っていたのだが、何故かヒイナお姉さんはそれを断固拒否。半ば強引に高くてデザインが良くてモノがいい物を選ばされていた。控えめな性格なのだろうアイラちゃんは、終始申し訳なさそうな顔をしていたよ。

 まあそんなこんなで時間は過ぎて。

 夕方。

 三人揃って市場を歩いていたら、突然ヒイナお姉さんが、

「今日はこの町に泊まるぞ」

 と言い出して町の端にあった小さな宿屋に泊まる事になった。

「アイラちゃんを早く王国に連れて行かなくてもいいんですか?」

 と僕が尋ねたら、『別にそこまで急がなくてもいいだろ』と言われた。

 アイラちゃん本人も特別急いで帰りたいとも言っていなかったし、僕も不都合な点は何一つなかったため、それ以上は何も言わなかった。

 かくして、あっと言う間に時間は過ぎて……

 と思ったけどそれほど過ぎていなかった。


 まだ夕方。


 僕は今、ヒイナお姉さんと一緒に、部屋を借りた宿屋の小さな庭にいた。

 この町そのものが大きな森に囲まれているため宿屋の庭から数メートル先は生い茂る木々が建ち並んでいる。日が沈みかけているせいで少々不気味だ。

 庭には芝生が植えられていてはいるものの、そこまで端麗に管理されていないようだった。雑草が無造作に自生している花壇なんかもいくつか見当たる。

 僕とヒイナお姉さんはそんな庭にある、横に長い木製のベンチに揃って腰を掛けた。

 アイラちゃんとは今は別行動を取っている。体を洗いたいとの事で、宿屋の露天風呂に向かって行った。ん? 覗かないのかって? はは、何言ってるんだよ。僕は紳士だぞ? 後で行くに決まってるだろ。

 ゴホン。話を元に戻して、何故僕たちは庭のベンチで座っているのか。

 それは僕がヒイナお姉さんから『力』を与えてもらうためだった。

「さて、力を与えてやる前に少し確認だ。貴様は異世界人だな?」

「あ、はい。違う世界から来ました」

 無表情より無愛想なのか。唐突なヒイナお姉さんの質問に僕は慌てて首肯した。

「ではこの世界に来てからどれぐらい経つ?」

「えーっと……一週間ぐらいかな? この世界に着いた途端に捕まって売られたから、時間とかあまり分からないです」

 あの時は逃げると言う行為にすら取り掛かれなかった。四方八方鬼だらけ。何処へ逃げても結果は同じだと一瞬で理解してしまったから。

「そうか。なら貴様はこの世界についてまだ全然知らないんだな?」

 そんな僕の身の上話に全く興味を示さず話を続けるお姉さん。僕的には結構シビアな経験だと思うんだけどなー、と心中で思いながら僕は彼女の質問に答える。

「うーん、全然ってほどでもないですよ。例えばこの世界で変なゲームが行われてるって事や、そのゲームに僕は参加させられて、ゲームをクリアしないと元の世界に帰れないって事、それと人間以外にも色々な種族の人? が居て、逆に人間がいなくて……そのぐらいは見ていて分かっています」

 実は他にも、地球より文化水準が低い(中世のヨーロッパぐらいかな?)事とか、その割りにはシングルアクションの回転式拳銃リボルバーや半自動型の拳銃、果ては小型マシンガンやアサルトライフルと言った現代的な銃器を見かけた為、武器に関しては現代並の技術があるなど、周りを見ていて知った、分かった事はまだまだ沢山あったりする。

 だけどそれを全部口にしてしまうと切りが付けられなくなりそうだったので、ここは彼女に話しておかなければならない最低限の事だけを端的に言った。

 僕が話し終えると同時に、ヒイナお姉さんは腕を組んで黙り込んだ。頭の中で色々と思案・整理しているようだった(飽くまで概観的な見解だけど)。暫くその状態のまま動きを止めていた女性だったが、不意に女性は頭を上げ、徐に一回頷くと、

「ふむ、大体把握した」

 そう言って僕に紅い瞳を向けた。彼女は続ける。

「貴様はやはり召喚者で挑戦者プレイヤーだったか。それにその口ぶりだとまだ自分の順位ナンバーすら知らないようだ」

「え、ナンバー? それって何の……」

「貴様が参加させられているゲームの話しだ。話を聞いた感じだと、貴様、この世界について何も知らないだろ。知っていても曖昧。表面だけって感じだ」

「うっ」

 僕は何も言い返せなかった。彼女の言っている事が全て図星だったから。

「だから教えてやるよ。ゲームの事、人種の事、人間の事。私が知っている限り全てをな。力を与えるのはその後だ」



 ――3――



「まずはゲーム、いや言いかけていた順位ナンバーについて話そうか」

 見た事もない鳥が夕日に染まった空を飛行している。ヒイナお姉さんはそれを適当に目で追いながら言葉を紡ぎ、そんな彼女の横顔を僕は見つめていた。

順位ナンバーとはゲームに参加している者なら誰でも持っている印。本当に貴様が挑戦者プレイヤーであるのなら、体の何処かに持っているはずだ。黒い文字で刻まれた数字がな」

「ナンバー……プレイヤー……」

 今思えば『ナンバー』と言う単語には聞き覚えがある。異空間で空の声が放った言葉。“ゲート潜ってナンバーが出たらゲーム開始だ”とか何とか。召喚者やプレイヤーって単語も同じだ。確か僕を捕まえて奴隷販売店に売り飛ばしやがった鬼たちが言っていた覚えがある。

「大体左胸か右肩に刻まれているはずだ。稀に手の甲や額に現れる事もあるらしいがな」

 僕はヒイナお姉さんの指示で最初に左胸を、何もなかったので続いて右肩を見たら、

「あ」

 黒い数字が横に刻まれているのを見つけた。文字の大きさはかなり小さく、数字の桁は大きい。

「あったか。右から読み上げてみろ」

「えーっと、七、六、一、三、九、九……あれ? 八になった」

「781398位、か。まあ妥当だな」

「それが……」

「ああ。貴様の今の順位だ」

 この世界には少なくとも781398人の挑戦者プレイヤーがいる、とヒイナお姉さんは言った。

 僕が参加させられたゲームの正式名称は『ナンバーゲーム』。様々な手段を使って自分の持つ順位ナンバーの桁を小さくしていき、最終的に一桁の順位を手に入れればクリア。元の世界に帰れる権利を手に入れられるらしい。

「因みにこのゲームは世界規模で行われている。いつ何処で一桁順位ナンバーを手に入れようと、一桁の順位でさえあるのなら、いつでも何処でも元の世界に帰る事ができる」

 ヒイナお姉さんは他にも色々このゲームについて説明してくれた。

 例えば順位ナンバーについて。さっき僕が数字を読み上げている最中に、『9』の数字が『8』に変化した。それは『自動上昇』と言われる現象で、僕よりも順位の高い者がゲームから何らかの理由で脱落したか、僕よりも順位が低くなったか、もしくは一桁の誰かが自分の元いた世界に帰った為、起こるものらしい。

 因みにこのゲームの挑戦者プレイヤーの約八割は、僕と同じ違う世界から連れて来られた者たちなんだとか。そこに際限はなく、人型であるのなら知能がなくても無差別に召喚・参加させるらしい。

 後はこの世界の環境の事や、地形・重要国家の位置(言葉だけだったからぶっちゃけ何も分からなかった)などを教えてもらった。いつの間にか内容がゲームに関係なくなっていたのは聞かされてから気付いた事で。

 それらの説明は全部丁寧で分かりやすかった。理解力が特別良くもない僕でも大体する事が理解できた(地形・重要国家の位置以外だけどね)。きっと将来は学校の先生だ。

 僕は相槌を打ちながら話を聞いていたが、一方で頭の中ではある事を考えていた。

(やっぱり空の声は陰険な性格だったみたいだ)

 暗い空間で聞いたクリア条件は、一〇年に一度だけ行われる内容不明のイベントで一位になる、という吐き気がするようなものだった。

(けどそれよりも簡単なクリア方法はあった)

 今僕の持っている順位を一桁にすれば元の世界に帰る事ができる。ヒイナお姉さんの言ってる事が本当なら、時間や場所なんて関係ない。いつでも何処でも好きな時に帰る事ができるんだ。

(ほんの少しだけど、光が見えてきたかもしれない)

 針の穴程度しかなかった帰還への道が、コップの幅ぐらいに広がったと僕は思った。それでも、人が通るにはあまりにも小さく狭い道だけど。

(僕は諦めない)

 絶対に諦めない。

 魁くん達と合流して、一緒に元の世界に帰る、その時まで。

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