第三章 一節 前哨戦
昨日、野宿だったので、朝からのんびりと森を歩いています。
……となるはずでした。
えー、今、目の前には、獣人やらアンデッドやら魔族やらと、普通見ることのない生き物たちがいっぱいいます。
「一体、何の軍団でしょうか?」
「さあ? とりあえず、片さないとね」
と、いいながら、弓を引く。
国王に改良してもらってたから、普通の武器が効かないデーモン等にも、ダメージを与えられる。
『水の精 マリスよ
土の精 セレスよ
古よりの呪縛によって
この土地に縛られし者たちを
汝らの力によって開放したまえ
ホリー・アクア!!』
とアレンが呪文を唱えると、彼の手から青白い光が現れ、四方へと広がる。
すると、アンデッドだと思われるのが、ばたばたと倒れる。
アレンが唱えるのとほぼ同時に弓を構え、透明な矢があるイメージで、放つ。
「クリア・アロー!!」
と、私の正面にいたのが数体倒れる。
よし、成功!!
と、右から剣がやってくる。
それを腕で受け止める。
「なっ?!」
驚いている剣士風の人。まあ、驚くのも無理はないと思う。だって、普通の布籠手でこうしても受け止めきれない。
けど、これも対魔具の一つ。対魔武器でないと傷付けることができない。
「へぇ〜、普通の人も入るんだ。
あなた、傭兵か何か?
今からでも、退いてくれたら、攻撃しないけど?」
と、最後の一文を少し大きめに言い、不敵に笑ってみせる。
まあ、自信なんて無いけど、自信のある振りをしてみる。
こんな台詞で退くようなものいないだろうけど……。
「そう簡単に退くかよ!!」
と、力を込める剣士。
一歩退くと同時に、膝関節に軽く蹴りを入れる。
身体がこちら側へ傾く。
脊椎に手刀を入れる。
自分の短剣を取る。
弓はどうしても遠・中距離向きの武器だから、間合いが狭いと短剣の方が使い勝手がいい。
短剣を握り、一番近いマント――フードつき――を着た人に突進をかける。
それを見、比較的近い位置にいたデーモンがこちらに“火の矢”を放つ。それを右によける。
そして、あらためて、マントの人に突進をかけ、懐にもぐりこむ。と、同時に左手でお腹を殴り、右手の剣で、相手の左腕を切る。
打撃が入ってすぐに一歩下がる。
確実に拳が入ったのにもかかわらず、相手は平然とした顔をしている。
左だから、弱かったにしても、急所を突いたのだから、些少なりとも、ダメージがあってもいいはずなのに……。何でだろう?
「吸血鬼に物理攻撃が効くとでも?」
「へぇ、貴方、吸血鬼なの。
道理で、ダメージが無いはずだわ」
吸血鬼。上位アンデッドの一種類。
驚異的な回復力と防御力を持つ彼らに、ダメージを与えるには、魔法しかなく、倒すには、至近距離で浄化魔法を放つしかない。
とはいえ、普通の剣でも、切り裂くことはできる。ただ、痛みはなく、すぐに元通りになるだけで。
一応、嫌いなものは、正十字と、太陽。こちらも、見た瞬間、ひるむだけ。
「よかった」
と、笑う。
「自棄でも起こしたか?
相手が吸血鬼で良かったなどと」
「いえ、自棄なんて起こしてないわ。
ただ、生身の人間相手だと、相手を戦闘不能にするのは良いとしても――戦いを仕掛けてきたんだからそれぐらいの覚悟は向こうもあるだろうし――、倒せないでしょ?
いくらなんでも、人間は殺せないわ。獣人相手でもそう。
けど、アンデッドなら、本気で、倒そうとしても大丈夫でしょ?」
弓を構え、吸血鬼に向ける。
「ふむ。確かに我らは死なないから、倒そうとしても、倒せないな。
しかし、だといって、何故、安心する?」
「いつ、私が倒せないといった?
私は、安心して倒せるといったのよ」
と、自信満々に言ってみせる。
「偉い自信の持ちようだな。そんなに言うなら倒してみるが良い。
言っておくが、手加減する気はさらさら無いぞ」
「言われなくても」
弓を引き、矢を氷で包まれるイメージと共に放つ。
「氷の矢!!」
それと同時に自分自身も跳ぶ。
矢を手でなぎ払う、吸血鬼。
弓で思いっきり殴る。
アンデッド族って、“痛くはない”、“ダメージはない”だけだから、物理攻撃だけで、十分飛ばせる。
着地し、素早く矢で十字を切って、弓に構え
「この地に縛られし者々へ
しばしの安寧を
ホリー・アロー!!」
矢は丁度、起き上がった吸血鬼の胸へ。
矢は浄化呪文特有の青白い光を帯びてるから、迂闊に払えず、中途半端な姿勢の為に矢をよけれずにそのまま吸血鬼の胸へと突き刺さる。
よし、倒せた。
あら?
アレンの方は敵の人数多いなぁ。
加勢に行った方が良いのかな。
だって、こっち、もう居ないし。
全部アレンの方に行ってるし。
何でだろう?
あ、アレン、中剣使ってる。
剣も使えるんだぁ。
「シオンさん、張って」
と、アレンの声。
「あ、はい。
シールド!!」
無差別攻撃呪文を使う前には「張って」って言うから、防御壁を張るようにと事前に――旅をし始めてすぐぐらいに――、打ち合わせ済みです。
『マグアス!!』
爆発があちこちで起こる。
いくらバリア張っていてもびっくりする。
というか、今、詠唱破棄しましたよね?
できないって言ってませんでしたか?
爆発が収まって、バリアを解く。
今、見える立ってる人は私とアレンのみ。
「……臭い」
人の焼けた匂いがする。
「……すいません。
けど、確実に倒せる呪文が他に思いつかなくって……」
「詠唱破棄できないっていってなかった?」
「普通の呪文はきちんと詠唱しないといけませんが、精霊と契約を結べばできます。
人によって使えたり、使えなかったりしますし、条件があったりしますけど、大抵は詠唱破棄して使えますよ」
魔法のルールっていまいちわかないかも……
「さっきのマグアスも水気の多い所じゃ発動しませんし、魔力結界だけで十分跳ね返されます。
無差別魔法だから、目標を、絞れませんし。
結構使い勝手悪いから、契約する人が少ないんです」
えーと、魔力結界ってのは詠唱中に生じる、簡易バリアのことだったよね。
私の布籠手もそれぐらいの威力はあるって言ってたから、とりあえず、対魔武器でもない限り、詠唱破棄ってのは無いと考えても大丈夫なのよね?
この間、アレン自身が言ってたし。
「また、シャスナが勝手に動いたのかな?」
と、背後から急に声がした。
振り向くと、昨日の男、レオン・ヴォルクがいた。
「やあ、また会いましたね」