第二章 三節 森の中で
お城を出て、一週間。
海のあるほうへ向かい、旅している私たち。
今、お昼をのんびりと食べてます。
けど、のんびりと食べるわけに行かない事情があるんです……
「そろそろ、森も抜けるはず……何だけど……」
この辺の村の人の話によると、森というよりは、林といった感じで、抜けるのに1時間とかからないとのこと。
しかし、歩き始めてからもう4時間。いまだに森を抜ける気配がない。
「どうしてこんなにかかるの?」
「理由としては、三つ。
一つ、僕らが迷っただけ。
二つ、村人からの情報が間違っていた。
三つ、何者かの魔法」
と、指折りに言う。
「一つ目だと、僕らの責任ということになるけど……」
「そんなことないでしょ。
村の人もここは迷うようなところじゃないっていってたし」
「そうだね。
それに二つ目もないと思う。ここをよく通るって言ってたし、そんなことでうそを言う必要も彼らにはないしね。
あるとしても、僕らに何らかの敵意を持ってた場合だけだよ」
「結局、相手がいるということになるわけよね?」
「うん、魔法である可能性が高いと思うけどね。」
「なんで?」
「この森、静か過ぎると思わない?
これだけ、木があるなら、動物なり、鳥なりがいてもいいはずだよ」
……あ、そういえば、
「見てない」
「この森に一時結界を張ったのだろうね。
僕たちが森に入ったと同時に。
動物たちはそういう気配にさといからたぶん、逃げたんだろう」
「そこまで、わかってるなら、間際らしい言い方しないで、最初から、教えてよ。」
「最初から教えてもいいけど、そうすると、シオンさんが、考えないで終わるでしょ?
そんなことしてたら、独り立ちできなくなりますよ?」
「もう、そんなこと考えてるの、アレンは。
まだまだ、早いよ」
「必要なことは早め早めに考えないとね」
いいかい、ちょっと考えごらんよ、一回こちらに振り、言葉を続ける。
「相手がいて、こんなところに閉じ込めたってことは、向こうから何らかのアクションがあると思うよ。
何の目的にしたって、どんな魔法にしたって、使っている間は魔力使うのだから、何もないなら、力の無駄遣いだよ」
「へぇー。そんなものなの?」
「うん、そういうもん」
*
また森を歩き、そろそろ日が傾く頃。ふと、右のほうから、さっきまでなかった気配が生まれた。
気配に疎い方であるらしい私でさえ、わかるほどの露骨な気配。
その気配があるほうへ弓を構える。
「何か私たちに用があるのなら、姿を見せたら?」
「シオン・レイスよ。
我等の仲間にならぬか。」
“そいつ”は姿が見せぬまま、私に問う。
私も弓を構えたままで、
「あなた、無礼ね。
姿を見せて、名前を言いなさいよ。
それもしないで、仲間になるもなにもないでしょう?」
「それもそうじゃのう」
と、すっと、姿を見せる。
しかし、それは、弓の構えた場所から、ずいぶん離れた場所。
いつの間に、移動したんだろう?
「私の名は、シャスナ。
ゴッドハンターの一人だ。」
「ごっどはんたー?」
なんなの、それ
と、疑問を言おうとした。
しかし、その前にアレンが先に口を挟む。
「何で、違法まがいのことばかりしているところが、彼女を仲間に入れようとしてるんです?
それに、彼女は王族にも何人か知り合いがいます。そんな彼女があなた方のしていることに是というとでも?
僕には、あなた方が彼女を仲間にして、メリットがあるようには思えないです」
あれ? アレン、私の自由意志は無視ですか?
というか、説明省かないでほしいのですが……?
と、突っ込みたいけどそんな雰囲気じゃないです。
「わしはおぬしが何者かを知らぬが、おぬしに聞いたわけではない。
あくまでも、わしはシオンに聞いたのじゃ。
おぬしの口の挟むことではない」
「……仲間になれといわれても、あなたたちがどんなところか、私は知らない。
だから、仲間になれといわれても困るし、内容を知らないのに、やすやすとうなづけるはずないでしょ。」
「ふむ、それもそうじゃのぅ。
まあ、一言で言えばただの対魔武器集めと適合者探しじゃ」
……適合者?
「……
その魔具を使って、世界を滅ぼすのは“ただの”っていえないんじゃないですか?」
………
しばらくの静寂のうち、おずおずと口を開く。
「えーと、適合者って……何……?」
「……対魔武器って言うのは、それを使いこなすことのできる人間ってのが限られているものがあるんです。
例えば、剣ですと、お守り的な効果なら誰が持っても違いがないことが多いです。だけど、攻撃する武器として使うのなら、剣が使えることのできる人間が持ったがほうが良い。
魔道的な要素があるのなら、その人の持っているイメージとか、気の波動とかでも、効果の強弱に影響してきます。
外からの影響を受けないものってのもあるけど、そういう対魔武器というのは、持っている魔力だけで動かないといけないから、強力じゃないことが多いんです。
その対魔武器の持っている力を100%引き出すことのできる人を適合者といいます。
こんな説明でいいでしょうか?」
「うん、たぶん、大丈夫」
「それなりの対魔武器と適合者が数を集めれば、かなりの力を持ちます。
それをうまく使えば小さな国相手なら、ちょっとした人数で、戦争を仕掛けることができます。
その戦争に勝つことだってできるんです」
「最終的には、国を牛耳ることだってできよう」
「誰の命令ですか? そんな事まで言うとは」
突然の声。
声のした方を向くと、そこには外套を着たのが、一人。
外套が顔までを被い隠しているので、分からないが、声の感じから、若い男性だと思う。
「そもそも、この一件は貴方の管轄ではないはずですよ」
「……そ、……その声は支部長?
なんで、こんな所に?」
「先に質問したのは、私です。
先に私の質問に答えなさい」
「せ、僭越ながら、私自身の判断でございます。
支部長自らの手を煩わせる事もないかと、思いまして……」
「私以外のものがしても良いような仕事であれば、ちゃんと他のものに回しますよ。
私は暇ではないからね」
「……あの……用が無いなら、ここから出して欲しいんですけど……」
と、控えめに言ってみる。
だって、支部長さん、声が冷ややかで、なんか怖いんだもん。
「……ああ、そうでしたね。
ココ、結界空間になってましたね、そういえば」
そういえば、ですむ問題なのかな?
「シャスナ老、私からの命令です。この方々にあなたから関わったらいけません。
そろそろ、私も去りますので、結界を解いて下さいね」
そして、外套の顔の部分を外しながら、
「シオン嬢。お初にお目にかかります、かな?
ゴッドハンター、支部長、レオン・ヴォルクといいます。お見知りおきを」
と、優雅に礼をしてきた。
「できれば、二度とお目にかかりたくないけど、覚えておくよ」
と、妙に高圧的な口調のアレン。
なんで、今日のアレン、喧嘩売るような口調なんでしょう?
「君は、私たちの事が嫌いみたいだね。
けど、彼女は、そうだとは限らないよ。
例えば……私たちがセオン・レイスのことを知ってるといったら、どうだろうね」
と、くすくすと笑いながらいう、支部長さん。
って、
「お姉ちゃんのこと、知ってるの?」
「それはまた今度ね」
と、そういうと、同時に指をはじく。
まともに立ってられないような強風が吹き荒れる。
二、三秒して、風が弱まると、
あれ、……支部長さん、いない……
ついでに、シャスナ老もいない……