第二章 二節 王城にて
「……すごい」
クリートク城を目の前にして思わずといった感じで感嘆の声を出すアレン。
小さな村なら、すっぽりと入りそうなぐらい広大な庭を囲むお城の壁。
何度見ても、何度来ても、凄いと思う。
門前の衛兵が私たちに声を掛けてきた。
「今日は何用ですか?」
「国王にお目通りを」
と、右手の――紋章入りの――グローブを見せていう。
紋章の入ったグローブは武具を持って、王城に入ることのできる証。
式服よりももっと信頼と忠誠が認めなければ渡されないもの。
それを認めて、
「もし良ければ、お名前をお聞かせ願えますか?」
と、幾分丁寧に聞いてくる。
「レナード道場のシオンよ。
王には、前もって約束をしているわ」
「わかりました。
ところで、そちらの彼は?」
「単なる連れよ。
彼の事も、伝えてあるわ」
「彼の身元を証明出来るものはありますか?」
「? いや、無いと思います」
と、彼――アレンの方を見る。
「あ、はい、今はないです。
教会に行けば、照会(身元証明)をしてくれますとは思いますが……」
「そうですか……」
と、その衛兵は隣の兵と目線を合わせる。
「すみませんが、身元証明なしでは王城に入れるわけには参りません。
普段なら、連れの方にしてもらうのですが、シオン様ではあまりにも若すぎますので……
申し訳ありませんが、出直ししてもらうか、王城に入るのはシオン様だけということになります」
「そうなんだ。
……どうしよう?」
「教会にいってきましょうか?」
うん、そうして、と答えようとした。
しかし、それを言う前に、
「いや、それには及ばん。
彼女の連れなら、大丈夫じゃろう」
そちらの方を向き、その人の姿を認め、素早く跪く衛兵たち。
軽く足を折り、一礼をする。
「お久しぶりです、クリークト国王。
しかし、なんでこんな所に?」
「暇つぶしに散歩をしてただけじゃ」
「胸を張って言わないで下さい」
「え、あの……、その人……いや、その方は国王……なんだよね?」
「そうだよ」
「なんで、シオンさんはそんなに普通の対応なの?
僕は、このままで――立ったままで――良いの?」
「大丈夫よ。貴方は跪かないくても。この国の人じゃないから」
「……はい。けど、シオンさんは?」
……国王本人の前で言う質問じゃない気がするけど……
「儀礼の時以外はしないわ。
そうじゃないと、必要以上に礼服が汚れるでしょ?
そっちの方が――国王からの預かりものだから――失礼だからね。
だから、礼服の時は大抵跪かないわ」
「そんなものなの?」
「そんなものよ」
「ところで、いつものを見たいのじゃが」
「“また”ですか?」
「そうじゃよ。
アレはいつ見ても素晴らしい」
「……分かりました。します。
どこですか?」
「いつものところじゃ。準備はすでにしてある。
広場だ。念のため、案内を頼む」
「はい」
と、衛兵の一人が歩き出す。
*
衛兵の案内できたのは、大きな広場だ。
そこの比較的近い壁にこの国の紋章がかかっている。
矢筒から矢を取り出し、紋章に向かって矢を放つ。
「「な……」」
驚きの声は二つ分。アレンと衛兵から。
アレンが驚くのはまだ分かるけど、なんで衛兵も?
今まで、これをみたことがないのか?
いつも通りの流れのまま、次の矢を放つ。
これで、フィニッシュ。
紋章には6本の矢が刺さっている。
「ふむ、いつもながらに見事じゃのう」
「ありがとうございます」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべていそうな、アレンの方を向いて、
「よくみなよ。
あれ、六芒星だよ」
「……あ、本当だ」
六芒星は、安定と繁栄の印。
普通は、紋章に傷を付けることは重罪。
しかし、“紋章に六芒星を”となれば、話は別。国の繁栄を願う事になる。
まあ、打ち損じれば重罪になるから、いっつも緊張をする。
「そういえば、どういった要件で来られたんですか?」
と、不思議そうに衛兵が口を開いた。
まあ、今回みたいに式典とか慶事、弔事、でもないのに、くることは珍しいから、不思議に思ってもしょうがないかも……。
「弓の強化をお願いです」
「そうじゃ。
こっちの研究室で、弓の強化と調整をするから、弓がいるのじゃ」
「あ、はい。
知っているとは思いますが、くれぐれも布籠手も填めないで、弦に触らないでくださいね。
怪我してしまいますから」
そういいながら、弦が危なくないように自分の方を向けながら、国王に弓を渡す。
「わかっておる。
一応、この弓の製作者じゃからのう。
そうじゃ、泊まっていくであろう?
すべてうまくいっても、少なくとも明日の昼ぐらいにはなるしのぉ」
「はい、そうさせていただきます。
ありがとうございます」