第一章 中編
「シオン、“しかし”ということは可能性の低い事じゃ。
それに頼ってはいかん」
「……はい」
ちょっと気を抜けばあふれ出しそうになる涙を必死に堪え、うなずく。
「アレンさん、といったかのう? 旅の人。
どうか、この子を旅に一緒に連れて欲しいのです」
「いいですが……、なんでいきなり…?
それに、彼女自身の意思は…?」
「しばらく前から、シオンの旅行きの話はでておったんじゃ。
なかなか、きっかけが掴めずにおっただけで」
静かに、首を縦に振る。
「いきなり、一人旅は寂しいだろうし、何より、わしたちも心配だ。 だから、頼みます。
なに、シオンは人の気配には聡くはないが、そこら辺の盗賊なんぞに、負けるほど弱くはない。 足手まといにはなりませんぞ。」
「そう仰るんなら、しばらくの間一緒に旅をさせて頂きます。」
「シオン、元気で。
これは、金庫の鍵だから」
そういって震える手で、一つの鍵を私に渡す。
「はい」
「後は、どうすれば良いか、分かるな?」
「はい」
総帥は静かにうなずき、目を閉じる。
腕を軽く握り、脈をとる。
そっと手を離す。
涙をぬぐい、立ち上がる。
とりあえず、みんなのお墓を作らないといけない。
「悪いけど、お墓作るの手伝ってくれる?」
と、後ろにいるアレンに呼びかける。
「いいですけど…」
「なに?」
「右手、怪我してますよ」
ん?
……あ、ホントだ。
「そういえば、布籠手してなかったんだ」
「手、貸してください。
治しますから」
素直にアレンの方へ、手を向ける。
すると、軽く私の手に触れながら、呪文を唱える。
ふっと、手が温かくなった。
「治りました」
手を見れば、さっきあった傷は無くなっている。
「そういえば、シオンさん……で良いんですよね?」
「うん、そうだよ。
シオン=レイス」
――10分後――
アレンの手伝いも有り、みんなの分のお墓を作り終えた。
「必要な物とってくるね」
と、アレンに言い、布籠手だのなんだのをとりに行こうとする。
「シオンさんは、……ホントにそれで良いの?」
「えっ、なにが?」
「旅の事です。
無理に行かなくても……
それに、ご両親も心配すると思うよ?」
「……うーん、
統帥が、というよりは道場のみんなが私の育ての親なんだよね」
「けど、それでも村にいってどこかに雇ってもらうとか――いろいろと方法はあるじゃないですか」
「この辺の村じゃ、無理だよ」
「どうして?
分からないじゃないですか?」
「この辺の村で、この道場の人の強さを知らない人はいないもの。
雇ってもらったって、弓は捨てられない。どうせ、武器を揮うのなら、一人でも知っている人がいないほうがいいから」
自分の醜さが人にばれる事の無いように……
それに、
「見つけたい――会いたい人がいるの。
きっと旅でもしないと見つけられない人が。」
だから、嫌じゃないんだよ、旅に出るの。
と、アレンの方を向きながら、微笑む。
「無理をしてないんでしたら、いいんです。」