第一章 前編
ふわぁ〜、
と欠伸をしながら、背伸びをする。
しかし、今日は随分昔の夢を見たなぁ。
ココに着たばっかりの頃の夢。
しかし、それはひとまず置いといて、練習しますか。
私は隣にあった弓をとり、立ち上がる。
そして、はるか遠くにある、的を見据え、矢をかまえる。
集中して矢を放つ。
ばしっ!
よし、ど真ん中命中!!
次の矢を構え、よく見据え、放つ。
ばしっ!
今度はどうだ…
やった!
「相変わらず、うまいな」
ん、だれだ。
後を振り向くと、そこには一人の体格のいい初老の男性がいた。
……あ
「統帥」
そう、この人こそ、このレナード道場の統帥パッシェード・レイスだ。
私にとっては、育ての親でもある。
「いえ、まだ私なんぞまだまだですよ。」
と、手を横に振って否定する。
「この道場は、まだまだの16の小娘に矢術師範をくれてやるほど、弱いつもりはないがのぉ……」
うっ、そうでした。
この間、矢術師範を頂戴したのでした。
「それに、まだまだの奴が、この距離で、ど真ん中に的中させるばかりか、2つ目の矢を、その矢に的中させるなんて、芸当できるもんか。
わしだって、調子の良いときしかできぬぞ」
なんと言えば、良いのか思いつかず、黙りこんでしまう。
すると、統帥は笑って、私の髪をなぜる。
「そう深く考え込むな。
そなたは優しすぎる。
自信を持て。
まずは、自信を持つことだ。
自信が持てれば、自然と覇気が生まれるというものだ。
それが、自身の強さとなる。」
「はい」
うつむきがちに返事をする。
自信
覇気
どうしたら、そんなものが持てるというのだろう。
「それはそうと、お前に客が来てるぞ。
護衛の依頼をしたいそうだ」
「……“私に”ですか?」
今まで、師範代になってから何回か補佐として仕事をすることはあっても、私自身に来るのは初めてだ。
「何でも、自分も接近戦になったら多少は動けるから、間合いが広いのが良いそうだから。
お前なら、多少距離があっても、大丈夫だろう?」
「はい」
「着替えてきなさい。
わしは依頼主と練習場にいるから」
と、袋を渡される。
「わかりました。」
とうなずいて、川の方へ行く。
*
布籠手を一回外し、足と手を一回洗う。
普段は、靴を入ってないけど、旅に出るなら、靴を履かないといけないから。
足をタオルで拭いてから、靴を履く。
明らかに動きやすさ重視の胴着から、旅人風の服へと着替えていく。
矢筒を腰の位置に着け、念のために短剣をベルトの裏に隠す。
そうして、長い髪を邪魔にならないように括る。
どぉん
突然の爆発音。
振り向くと、煙が立ち上がっている。
この方向、この距離。
まさか、道場?
慌てて、弓を握り、駆け出す。
*
道場の方へ走っていく。
木々を抜けるとそこには道場がある
……はずだった。
しかし、そこにはあるのは道場の残骸だけ。
壊されていた。
「……そんな
……みんなは?」
いつも、練習場には誰かがいるのに…
ガサッ
物音を聞いてその方向へ向きながら、弓を構える。
「うわぁ。
撃たないで下さい」
そこには、私とそう変わらないぐらいの年の魔導師風の少年。
気弱そうな印象である。
「あんた、誰?」
声を少し低し、問う。
「僕ですか? 僕は、アレンです。アレン=カーシャン。
見たまんま、旅の魔導師をしてます」
「そう」
「あの、その、
……その弓、そろそろおろしません?
いつ撃たれるか、怖いんですけど…?」
「大丈夫よ。
間違って撃ったりはしないから」
「いえ、そうじゃなくって、
あの、おろして欲しいんですけど…」
「シオン、おろしてあげなさい。
その人ではない」
後から、統帥の声。
慌てて、弓をおろし、かけよる。
負った傷はひどく、沢山の血を流している。
「すぐ、手当をします。
家まで歩けますか?」
「よい、シオン。
わしも、自分の怪我の具合ぐらい分かる。
手当など、せずともよい。
どうせ、無駄に終わる」
「しかし」
もしかしたら、助かるかもしれぬではないか。