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序章
これは彼女が“ここ”に来る前の物語。
今、思えば、あのことがすべての始まりだったのだ。
*
……さむい。
そうおもって、うでをぎゅっとする。
おかあさんに、“迎えに来るまで、むやみに動かないように”といわれてから、いったいどれぐらいたっただろう。
もらったパンもたべてしまったし…
……ねむい…
*
なんか、ふかふかする。
…ここ、どこ?
「よかった、気づいたのね」
こえがしたほうをみると、やさしそうなおねえさんがいた。
「おねえさんはだれ?
おかあさんは?」
「私はセオン・レイス。
森の中で寝てたから、家まで連れてきたの。
だから、あなたのお母さんは知らないわ。
貴方のお名前は?」
「セオンレイスおねえちゃん?
わたしはフォールだよ」
「私の事は、セオンでいいわ。
苗字は、何て言うの?
お家がこの辺なら、分かると思うわ」
「ミョウジ?
なにそれ?」
「家族の証……かな?
あなたも欲しい?」
「うん」
「なら、私の名前からとって
…シオン・レイスってのはどう?」
「……シオン・レイス?
それがわたしのなまえ?」
「そうよ。
気に入らない?」
「いや、うれしい」