表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

聖人君子は報われない

作者: ホサメアキ
掲載日:2026/06/19

聖人君子。

あだ名だ。

本人に言わせれば不本意らしい。


「やめてよ、それ」

そう言いながら笑う。

でも言われる。

だってそうだから。

落とし物を届けたり、

荷物を運んだり、

困っている人の話を聞いたり、

そういうことをよくしている。


本人に言わせれば普通のことらしい。

だから感謝されると、少し困った顔をして、

「そんな大したことじゃないよ」

いつもそう言う。


ある朝、彼女は遅刻した。

道で転んだ小学生がいたからだ。

擦りむいた膝を洗って、近くの大人を呼んでいたら時間が過ぎた。


先生は出席簿を見ながら言う。

「遅刻は遅刻だからな」

「はい、ごめんなさい」

彼女はいつも素直に謝る。


別の日は電車に乗り遅れた。

迷っているおばあさんに道を教えていたから。

それでもやめない、やめる理由がないから。

一度、私は聞いたことがある。


「報われてる?」

きょとんとした顔をした彼女に私は言葉を続ける。

「人助け」

彼女は少し首を傾けた。

「多分?」

うまく伝わらなかったみたいだ。


「人助け、大変そうだから」

遅刻とか、

乗り遅れた電車とか、

そういう話をする。

彼女はそれを聞いて少し考え、

「でも困ってたし」

と笑顔で答えた。


ある日の放課後。

私は三階の教室で帰り支度をしていた。

ふと窓の外を見ると、

校門の近くで彼女が立ち止まっていた。

誰かと話している。

何をしているのかまでは分からない。

けど彼女の事だ、きっと人助けをしているのだろう。


私は窓を開け、叫ぶ。

「おーい!手伝おうかー!」

彼女は顔を上げ、手を振る。

「だいじょーぶ!」

笑顔でそう言った彼女は、すぐにまた相手へ向き直る。

今日もまた、帰るのが遅くなりそうだ。


やがて相手の人がお辞儀をして、何か感謝の言葉を言ったのだろう。

彼女も何か言っていたけど、ここからじゃ聞こえない。

聞こえないけど、多分、

「そんな大したことじゃないですよ」

そんな感じの事だと思う。


やがて二人は別れて、

彼女は小走りで駅へ向かう。

次の電車に、間に合うかどうか微妙なところだ。

私はそんな彼女を見ながら、小さく呟く、

「聖人君子は報われないなあ」

少しだけ口元を緩めながら。


彼女にはもう聞かない。

聞いたとしても、

きっと彼女は首を傾けるだけだから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ