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呪いの雪だるま

作者: S珍蔵
掲載日:2026/02/04


 

 最初は、ただの雪だるまだった。


 村の広場に、誰かが作ったらしい。

 丸い胴体に、少し歪んだ頭。

 目は黒い小石、鼻は折れたニンジン。


「下手くそだな」


 通りがかりの子どもが笑った。

 その瞬間、雪だるまの口が少しだけ曲がった気がした。


 ――気のせいだ。


 その夜、村で奇妙なことが起きた。


 鶏が一斉に鳴き止み、

 井戸の水が凍り、

 暖炉の火が、理由もなく消えた。


 翌朝、広場に集まった村人たちは凍りついた。


 雪だるまが、一回り大きくなっていたのだ。


「……雪、降ってないよな?」


 誰かが言った。

 誰も答えなかった。



 二日目、村の端の家で、老人が倒れた。

 死因は衰弱。

 まるで、冬を一気に十年分浴びたような顔だった。


 その日の夕方、雪だるまにはしわが一つ増えていた。


「まさか……」


 村の古老が、震える声で言った。


「昔話だ。

 憎しみを抱いたまま死んだ者の魂は、

 冬に紛れて戻ってくる」


 夜、誰かが広場を見張った。


 月明かりの下、雪だるまは――動いた。


 ごく、ゆっくりと。

 雪を足すように、地面を這わせ、

 自分の体を大きくしていた。


 そして、囁いた。


「……さむい」


 聞いた者は、翌朝、起きなかった。



 三日目。

 村は決断した。


「壊そう」


 斧を持ち、火を用意し、広場に集まる。


 雪だるまは、もう人の背丈を超えていた。

 目の石は深く沈み、

 口は、笑っているようにも見えた。


「やめてくれ」


 雪だるまが言った。


 声は、村人全員が知っている声だった。


 ――去年、理不尽に追い出された、あの男の声。


 一瞬、ためらいが走る。


 その隙に、雪だるまの足元から冷気が広がった。


 斧を持った男が、倒れる。

 息が、白いまま止まる。


「燃やせ!」


 誰かが叫んだ。


 火が投げ込まれる。

 雪が溶け、悲鳴が上がり、雪だるまは、しゃべった。


「もし俺を殺すと、三日後、山から雪崩となってオヤジが復讐してくるぞ」


 村人たちは、斧を持ったまま固まった。


 広場の真ん中に立つ雪だるまは、不格好だった。

 目は小石、鼻は半分折れたニンジン。

 だが声だけは、妙に生々しい。


「オヤジはな、山そのものみたいな人でさ。

 怒ると、地形が変わるんだ」


 誰かが唾を飲み込む音がした。


「……三日後、だな?」


 村長が聞く。


「きっかり三日後だ。

 覚悟しとけよ」


 雪だるまは、なぜか少し誇らしげだった。


 だが、村はすでに二人を凍死で失っていた。

 恐怖よりも、怒りが勝った。


「脅しだ」


「ただの雪だ」


「壊せ」


 斧が振り下ろされる。

 雪だるまは最後に一言、言った。


「後悔するなよ」


 そして、砕けた。



 一日目。


 何も起きなかった。

 空は晴れ、山は静かだった。


 二日目。


 村人たちは山を見上げて暮らした。

 夜も眠れず、耳を澄ました。

 だが、雪の崩れる音はしない。


 三日目。


 夜明けが来た。


 誰かが言った。


「……来ないな」


 正午を過ぎても、

 夕方になっても、

 夜になっても――何も起きなかった。


 雪崩は来なかった。

 復讐もなかった。


 村人たちは、ゆっくりと息を吐いた。


「助かったのか?」


「やっぱり、嘘だったんだ」


 安堵と同時に、少しの後悔が胸をかすめたが、

 それもすぐに薄れた。



 数日後。


 雪だるまがあった場所で、子どもが転んだ。


「いてっ……あれ?」


 地面が、やけに硬い。


 掘り返してみると、

 土の下から、古びた宝箱が出てきた。箱の蓋を開けると、きらきらキラキラ!宝物が光っている。


 中身は、キラキラした金貨、キラキラした宝石、キラキラした魔法具。

 どう見ても、国家予算級のキラキラした宝物だった。


 村は、一気に潤った。


 税は免除され、

 道は整備され、

 飢えは消えた。


 計算すると、その財産だけで

 三百年は税金を払わずに済むことが分かった。


 村人たちは笑った。


「雪だるま様々だな」


「脅しは外れたが、置き土産は本物だった」


 誰も、山を見なかった。



 その夜。


 山の奥深く、誰も知らない場所で、

 巨大な雪の塊が、ゆっくりと形を変えた。


「……あいつ、ちゃんと役に立ったみたいだな」


 低い声が、雪に吸い込まれる。


 だが、雪は動かない。

 復讐もしない。


 約束は、守られたのだ。


 ――雪だるまは、嘘をついていなかった。

 殺すと、何かが起きるとは言った。

 それが、災いだとは、言っていないだけで。


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