冒険者エピシーとシュラーイン家
私の名前はエピティセス。
冒険者エピシーとして様々な国を旅しているエルフさ。
そんな私は今とんでもない状況に陥ってしまっている。
なんと私の友人から受けた依頼をこなしている最中にとある少女から飛び蹴りをくらい吹っ飛ばされた勢いで部屋の壁を壊してしまったのだ。
なぜこのようなことになったのかを説明しよう。
あれは今から4日前のこと。
私はとある場所で冒険者活動をしていた。
その場所の名前はジュール帝国領フリード。
その時の活動内容は私を含めた低級冒険者10人で森の生態調査をするというものだった。
しかし調査を進めていくとこの森に生息する魔物はどれもSクラスに相当する化け物ばかりだということがわかった。
それに加えここの暑さは異常だった。
私みたいな暑さが苦手な人からしたらここは地獄そのものだった。
だから私は途中から仮拠点で見張りをしていた。
なんせ低級冒険者というSクラスの化け物よりも強い輩が10人。
一人かけたところで何の問題もないのだ。
「えへへ、この涼しい部屋で昼から飲む酒はたまらないな~。(酒樽3杯目)」
私はそうしてその日もさぼっていた。
活動中に酒を飲んでもいいのかと思うかもしれないが私は酒にとてつもなく強いのでモーマンタイ。
自慢をするわけではないのだが私は度の強い酒が入っている酒樽2杯を丸々飲み干しても一切酔わないのだ。
「やっぱり酒に強いとどんな時でも酒が楽しめていいんだよなー。ヒック。」
そんなことをしていると私の連絡用魔石に一つの連絡が入った。
「誰からの連絡だろう?」
気になった私は差出人を確認するとそれはもう10年も連絡を取っていなかった友人からの連絡だった。
久々の連絡で私は少しわくわくした。
その友人は私がジュール帝国帝都で冒険者として活躍していた時のパーティーメンバーだった。
今は冒険者から身を引き小さな村で医者をやっていると言っていた。
「いったいどうしたんだろう?」
私はワクワクしながら内容を確認するととても衝撃的な内容が書かれていて酔いが一気にさめてしまった。
なんとそこにはこう書いてあったのだ。
《エピシー突然の連絡を入れてすまない。緊急事態だ。エピシーが昔言っていた病気、魔心核不全と似たような症状を持つ子供がいる。わしははじめそのことに気付かずに治癒魔法をかけてしまい少し腕を*魔食させてしまった。それでいろいろあって家に帰ってあの症状に似ている病気がないかを調べているとさっきの病気のことを思い出した。私ではあの子は治せない。でもエピシーは何度もその病気を治したことがあるって言っていたよな。だからどうかジュール帝国の東の小さな村、ガース村に来てくれ。報酬はしっかり用意する。(注意)赤髪の少女の機嫌は絶対に損なってはいけない。損なうと痛い目を見る。 ハルより》
魔心核不全・・・。
そう私はこの病気を何度も直したことがある。
その病気は今から200年前私がまだ*プレクシアにいたときに亜人の間だけで大流行した病気だった。
その原因はとても複雑なものでそれは魔心核を持たないものが魔法を浴びてしまい魔力の排出ができずに体内に溜まってしまうことで発症するというものだった。
普通魔心核を持たないで生まれるということは起こらない。
なぜなら魔心核は魂に存在しているからだ。
だがごくまれに魂に異常を持ったものが生まれる。
この原因は今でもわからないが対処法はある。
それは魔力を直接体から抜くこと。
私はその魔法を開発した張本人だから確かに治すことはできる。
しかし人間が魔心核不全になったのは初めてだ。
正直不安だがこれは行ってみるしかない。
なんせ人間はその魔法を扱うことができないからな。
「よし、このクソな依頼はバックレよう。さっさとジュール帝国に行くぞ!」
私はそういってジュール帝国に帰った。
「ここが例の子供がいるところか。」
あれから4日後私は例の子供の家についた。
ジュール帝国は亜人差別がかなりひどい国として知られている。
だから私は自分の正体がバレないようにハルに預けていた黒いローブと仮面をつけることにした。
それでも少し緊張してしまっている。
「よし、いくぞ。」
勇気を出してドアをノックした。
すると、
「あら、こんにちは。あなたがハルじいの言っていたお医者さんですね。どうぞ入ってください。」
とても美人なお方が出てきたではないか。
女である私が見とれてしまうくらい美人なお方じゃないか。
くー羨ましい。
それになんだよそのスタイルの良さ。
私のこの幼い体をバカにしてるような体をしてるんじゃねーよ。
まったくケシカラン。
まあでもこれでも君みたいな、お・こ・ちゃ・ま、とは違って私は長年この美貌を保てるからいいんだけどね。
べ、別に悔しくないもん。
負け惜しみをしてるわけではないもん。
そんなことを考えていると私はとあることに気付く。
それはこの家の中の魔粒子が外よりも少ないということだ。
私の左目は魔道の魔眼だ。
魔道の魔眼は魔力の流れ、魔粒子の量、魔法の種類、そして無詠唱での魔法の発動など魔法を扱う上でとても便利な魔眼だ。
私はそれを持っていたからこの違和感に気付くことができた。
何か嫌な予感がした。
でも、
「お、この人がハルじいの言っていた医者か?なんか思っていたよりもちっこいな。とりあえず、俺の子供は二階にいるからできるだけ早めに行ってやってくれ。」
なんか爽やかイケメンが出てきてそれがどうでもよくなっちゃった。
よし、イケメンからの頼み事だしさっさと行ってやろうじゃないか。
私はそうしてその家の奥さんに部屋に案内された。
そして部屋の前に立つと私のこれから診る子が今とんでもない状況に陥っていることに気付く。
なんと部屋から魔粒子が全く感知できないのだ。
さすがにこの状況はおかしい。
そう思った私は奥さんがドアを開けるなりすぐに治療にあたろうとした。
しかし、その場にはこちらをすごい形相で睨みつけてくる赤髪の少女がいたのだ。
(うわー、この子があの注意書きに書かれていた子かー。)
私はあまりの圧で少し怖気づいていた。
でも早くあのベッドで眠っている少年を救わないといけない。
そうして私は何とかその女の子を説得した。
私は説得するときに仮面を外したのだが私が仮面を外して亜人だということがわかったら殴りかかってくると思い込んでいた。
しかし私の予想とは裏腹になんかすごい嬉しそうにしていた。
うん、なんか可愛いじゃないか。
まあ、それはそうとしてさっそく治療を始めようか。
早く始めないと周りの魔粒子がこの子の体の中にどんどん入っていって取り返しのつかないことになっちゃうよ。
そして私は治療を始めようと思い例の子供の傍による。
するとそこで私はとある疑問を持つ。
(あれ?この子の髪の色、顔つき、まったく親と似ていないじゃないか。)
なんだ、この子は養子か?
少し気になった私は失礼を承知で赤毛の少女に聞く。
「あのさ、少し気になったんだけどこの子って養子なの?」
私がそう聞くと赤毛の女の子は少し顔を赤らめながらこう答えた。
「ううん、ちゃんとパパとママの子。私生まれてくるところ見たから、大丈夫。」
何この子、照れちゃってて可愛いじゃん。
何に照れてるのかはわからないけど。
いやいや、そうじゃなくてね。
ちゃんとあの二人の子供なのか・・・。
なんか引っかかるな。
奥さんの浮気が頭に一瞬よぎったがそれはあの人柄的に絶対にないよね・・・。
私はこう見えて人を見る目は結構いいんだよね。
それに人を一目見ただけでその人の人柄はどんなものなのか大体わかるんだよ。
だからそれは保証できる。
だとしたらなんでここまで見た目が違ってるんだろう・・・。
「まあ、いいか。それじゃあ治療を始めるね。」
正直気にしていても意味はない。
他人の家庭の事情なんてどうでも・・・よくはないけど・・・。
めっちゃ土足で入り込みたくなっちゃうけど・・・。
もう私はそういう自分を捨てたでしょ?
今更なんでそんな気持ちになってるわけ?
あーもうバカバカしい。
よし、それじゃあ、魔法を発動させるか。
発動・・・。
させ・・・。
あれ?
あ、そうか。
ここ魔粒子がまったくもってないんだった。
えへ☆。
はあ、これはね、やるしかないね。
私のご祖先様の出番だね。
よし、行くぞ。
「我が親愛なる大地の精霊よ、今こそ我に加護の力を与えん。魔力吸収。」
今度はうまくいった。
こういう時は使えるんだよね、精霊魔法。
すると私の中に魔力が流れてくるのを感じる。
しかしそれと同時にこの子の体が灰になっているのに気付く。
(なんだこれ?いったい何が・・・?)
急いで止めようとしたが遅かった。
なんとあの赤毛の少女が私のみおぞちを狙った飛び蹴りをかましてきたのだ。
何とか防御は間に合ったが蹴りの威力があまりにも強すぎる。
勢いを抑えられない。
それにあの子と私の間には*2ミロぐらいの距離があったはず。
その距離を1秒にも満たない速さで詰めて飛び蹴りをかましてきた。
何この子化け物みたいな強さをしているじゃない。
いくら私が油断していたとはいえ下手すれば私よりも強いぞ、この子。
そうして私は勢いを抑えることができずに壁にぶつかり破壊してしまった。
「いてて・・・。やばいな、これ。弁償か・・・。」
そんなことを言いながら立ち上がると、
「大丈夫です・・・か?」
あの二人が駆けつけてきたようだ。
「こらガーベラ、何回言えば・・・。」
「大丈夫です。怒らないであげてください。悪いのは私なんです。」
お父さんの方があの赤毛の少女に叱ろうとしていたが私は必死に止めた。
はあ、私がもっと強ければこうはならなかったんだけどな・・・。
弁償か・・・。
最近金欠なんだよね。
今度ドラゴンの討伐依頼を受けようかな。
そうすればランクは上がるしお金もいっぱい入ってくる。
だけどそれに比例してめんどくさい依頼しか来なくなるから嫌なんだよな・・・。
できるだけ楽して稼ぎたいんだよな、はあ。
ん?
なんかすごい視線を感じるな。
なんでだ?
そう思った私は少し周りを確認する。
何にも変なものはないんだけどな・・・。
「・・・。」
しばらくの沈黙が続く。
そして私はとんでもないことに気付いた。
ローブを羽織ってないし仮面もつけてない。
ってことは・・・。
私、エルフってことがバレちゃったってこと!?
「あのー、ええっと、そのー。」
私が言葉を詰まらせていると二人は顔を見合わせた。
そして二人はこっちに笑いかけた後何も言わずに下の階に降りて行った。
「あれ?」
なんか許されてしまった。
奇跡だ。
助かった。
てっきり殺しにかかってくると思っていたけど大丈夫だった。
ほんとによかった。
そんな風に安堵していると赤毛の少女が私に話しかけてきた。
「あなたは絶対に許さないわ。私の大切な弟になんてことをするの?今度私の弟に触れようとしたら剣で真っ二つにするわよ。」
ひえ、こわ。
この子なら本当に真っ二つにしかねない。
でも何とか説得しないと。
なんせさっきの出来事を通してなんとなく原因が分かったからな。
今度こそ治せる。
「さっきはごめんね。私もああなるなんて思っていなかったのよ。でもあれがあったことで原因が分かったの。今度こそ治せるわ。だからお願い。私を許してくれない?」
私は必死にそう説得した。
すると赤毛の少女が少し考えた後静かに話し始めた。
「本当に治せるんだよね。もし治せなかったら切るからね。」
許しを何とかもらえたー。
なんか失敗したらやばそうだけど。
まあ、それはさておき念のために原因の確認をしよう。
そして私は魔眼に自分の中にある全魔力をながす。
私の読みは当たっていた。
この子に魔心核がないのは確かだ。
しかしこの子の異常はそれだけではなかった。
なんと遺伝子が魔粒子によって変異している、というか遺伝子の一部が魔粒子になってしまっている。
簡単に言えばこの子そのものが魔心核みたいになっていて周りの魔粒子を吸収し続けてしまっている。
そして体の中から魔力を出す手段がないから遺伝子に組み込まれている魔粒子に魔力を無理やりねじ込もうとして体に異常が起こってしまったというのがこの状態に陥った原因だろう。
なるほど、これでこの子の見た目にも説明がつく。
突然変異個体だから見た目が異なる。
それに加えしっかり調べたらあの二人とは血のつながりがないことがわかるはずだ。
うむ、なんかすごい貴重な実験体になりそうだけど・・・さすがにそこまで道を踏み外しているわけではない。
よし、なら解決方法はたった一つ。
それは無理やり体に魔力を流し込む。
それだけだ。
そうすることで体が魔力の貯め方、循環のさせ方、そして放出のし方を覚えるだろう。
幸い今は気を失っているし、痛みは感じないはずだ。
一応これからすることを赤毛の少女に伝えておこう。
「ねえ、そこの君。これからこの子を治すんだけど、どんなことがあっても手を出さないって約束してくれる?」
私がそういうと赤毛の少女はしばらく悩んだ。
そして彼女はこう返事をした。
「わかったわ。絶対に手を出さないって約束する。」
よし、それじゃあ行くぞ。
魔力を徹底的に流し込んでやる。
私は静かに少年の手を握る。
そして私の魔力を無理やり流し込む。
しばらく流し続けると少年の体全体が完全に魔食してしまった。
赤毛の少女が心配そうに見ているのが分かった。
だからできるだけ早く終わらせないと。
「これで、最後だ!」
私はそういうと自分の最大魔力を流し込む。
すると少年の体の色が凄い速さでもとに戻っていく。
彼の中で魔力がしっかり循環しているのが見える。
そして魔力の放出は少しずつ行われている。
しばらくすれば意識は回復するだろう。
「これで、治ったよ。」
私は赤毛の少女にそういう。
ふう、結構大変だったな。
これでもう完全に治ってるはず。
後遺症は・・・ないとは言い切れないけど。
これはまあ、言わない方がいいよね。
それにあのことも・・・。
そんなことを考えていると赤毛の少女が私に抱き着いてきた。
「ありがとう、お姉ちゃん。」
と満面の笑みでお礼をしてもらった。
可愛いなあ・・・。
それじゃあ、さっさとハルのところに行くか。
大金を請求されるのは嫌だし、もしかしたら衛兵を呼ばれているかもしれないからさっさと逃げないと。
でもとりあえずお金をハルからもらったらこの家の庭に放り投げておこ。
さすがにお金はしっかり払っておかないとだめだもんね。
そうして私はローブを羽織り仮面をかぶって二階の窓から飛び降りハルのところに向かったのであった。
*魔食:体が魔力に侵され腐敗すること。主に魔法のオーバーヒートを起こすことで起こること。
*1ミロ=1m
*プレクシア=ネウマル王国:エルフの国。別名:魔法大国とも呼ばれている。
<冒険者ランク> <魔物の強さ>
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中級 SS (龍)
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