ガーベラの後悔
「世界に生命と繁栄を運ぶその息吹を力に。風魔法発動。ウィ・・・。」
魔法が発動したと思ったらレオンが突然倒れてしまった。
「レオン!ねえ、目を覚ましてよ。ねえ、レオンってば!」
何度も声をかける。
何度も体をゆする。
だが目覚める気配が一切しない。
それにレオンの体温がだんだんと低くなっているのを感じる。
「え、うそ・・・。」
私はひどく絶望する。
レオンは確かに詠唱を途中で辞めたはずだった。
普通詠唱を途中で辞めれば魔法も発動しない。
だから何も起こらないはず・・・。
それなのに魔法が発動してしまった。
その結果レオンは私が止めなかったせいで・・・。
そう考えると涙が込み上げてきた。
すると、
「ガーベラ、何があったんだ?」
これはパパの声だ。
私がレオンを呼ぶ声を聴いて駆けつけてくれたようだ。
そしてそれを追いかけるようにママも駆けつけてくる。
私は泣きじゃくりながら二人にそれまでの経緯を話した。
するとママが恐る恐るレオンの脈を確かめる。
「はあ、安心して。レオンはちゃんと生きているわよ。」
ママは落ち着いてそういった。
私はそれを聞いて安堵する。
レオンが死んでいなくてよかった。
もし死んでいたのならきっと私は一生自分を責めることになっていたわ。
「とりあえずレオンをベッドに移動させるからジールは近所の医者を呼びに行って。」
ママはそういってレオンをベッドに移した。
「わかった。急いで行ってくる。」
パパはそういって家を飛び出した。
ママはパパが医者を呼びに行っている間ずっとレオンの手を心配そうな表情をしながら握っていた。
私はそんなママを見ていると心がズキズキと痛くなってしまう。
私のせいでこんなことになってしまった。
だから謝らないと、ごめんなさいを言わないと。
そう思った私はママに謝った。
「ごめんなさい。私のせいでこんなことに・・・。」
私がそういうとママが私の頭を優しくなでた。
私のことをなでるママの表情は笑っていたがどこか悲しそうだった。
そんなママの姿を見て私は泣き出してしまった。
ママに抱き着きながら私はずっと泣いていた。
しばらく待っているとパパが医者を連れてきた。
医者は右手に医療道具の入ったカバンを持っているとても優しそうな眼鏡おじいさんだった。
その医者は部屋に入ってくるなりすぐにレオンの診察を始めた。
私はその間ずっと不安な気持ちに駆られていた。
パパとママも心配そうな表情をしていた。
しばらくしてレオンの診察が終わる。
診察が終わると医者はとても複雑そうな顔をしていた。
そして医者は眼鏡をはずして私たちに話しかける。
「とても申し上げにくいのですが異常は一切見つかりませんでした。」
私たちはその言葉を聞いて非常に驚いた。
レオンの意識は戻らないのに体には一切の異常がない?
そんなこと絶対にありえない。
でも確かに医者はレオンの体を隅から隅まで調べていた。
だから診断結果に問題はないはずだ。
なんで・・・。
そんなことを考えていると、
「少々危険ですが回復魔法をかけてみようと思います。よろしいでしょうか?」
医者が私たちに確認してきた。
病気の原因がわからない状態で回復魔法を使うと体が魔力暴走を起こす可能性がある。
もし魔力暴走が起こると体に非常に大きな負担がかかって内臓などがボロボロになる。
ひどい場合は死んでしまう。
だから医者は私たちにそう確認してきたのだろう。
「私は絶対に嫌よ。」
私はそういった。
もう私の判断でレオンを傷つけたくない。
そんな思いが強くなっていたから私は断固拒否していた。
しかしそんな私とは違いママとパパは、
「私はその方がいいと思います。」
「ああ、俺もそう思う。」
そんなことを言いながら二人は医者のその提案に賛同していた。
そんなの絶対におかしい。
気絶しているのに一切の異常がないってことはないに決まっているでしょ?
あの二人は物事を簡単に考えすぎよ。
自分の子供の命がかかっているっていうのになんでそんな簡単に考えられるの?
そう思った私は必死に説得した。
しかし二人はそんな私の意見に一切耳を貸さなかった。
普段は私のわがままを聞くのに・・・。
その結果医者はレオンを回復魔法で治療することになった。
医者がレオンの手を握りながら詠唱を始める。
「大地に降り注ぎし恵みの光、与えられし恩寵を力に。光魔法発動。回復。」
すると医者が握っていたレオンの手がだんだん赤紫色に変色し始めているのに私はすぐに気づいた。
しかし医者はそれに一切気づくことなく魔法を発動し続ける。
このままじゃあレオンが危ない。
そう思った私は、
ドン!
医者のみぞおちに蹴りを入れて吹き飛ばす。
そしてレオンの体を確認する。
レオンの左手が赤紫色に変色してしまっていた。
パパとママは医者の方に駆け付けていたがレオンの左手を見るととても驚いた顔をしていた。
しかしママは医者に回復魔法を施すと私に、
「こら、ガーベラ。いくらなんでも蹴り飛ばすのはダメだよ。お医者さんに謝りなさい。」
ママが怒りながら言った。
私は今まで一度もママに怒られたことがなかった。
だからとても怖く感じた。
でもあの医者がレオンの命を脅かしたことは変わらない。
だから、
「いやだ。私は絶対に謝らない。だってあの人はレオンを殺そうとしたんだよ?」
私はそう言った。
親に今まで反抗したことがなかった私はとても怖いと感じていた。
体がビクビクと震える。
冷や汗が止まらない。
心臓の鼓動が大きくそして早くなるのを感じる。
私はそれらに必死に耐えていた。
パパはその間私に何かを言おうとしていた。
しかしママと何か少し話した後意識が飛んでいた医者を連れて部屋から出て行ってしまった。
「ふう~。」
私はあの状態から解放されて大きなため息をついた。
そして眠っているレオンの手を優しく握る。
その手はとても冷たく感じた。
昨晩のレオンの暖かさは一切感じられなかった。
「ごめんね、レオン。私のせいで。私がしっかり面倒を見るからね。」
私はレオンの手を握り私の額に当てながら言う。
そうしていると自然と涙があふれた。
それから数日の間私は誰も部屋に入れないようにしていた。
パパとママははじめこそ入ろうとしていたが私がレオンの看病をすると言うとタオルやご飯などを部屋のドアの前に置いていくようになっていた。
正直パパとママには申し訳ないと思っている。
でもこれは私の決めたこと。
自分が決めたことをもう絶対に曲げたくない。
だからごめんなさい。
でもそんな私を理解してくれてありがとう。
そんなことを思いながら今日もレオンの看病をしている。
「やっぱり改めて見るとレオンは私たちに全然似ていないわね。」
私は数日の看病で改めてそう実感してしまった。
水色で透明感のある髪。
今は閉じてしまっていて見ることができないとても綺麗な紫色の瞳。
そしてママとパパとは全く違う顔つき。
どうも私と血がつながっているようには見えない。
「だから私はお姉ちゃんなのに本気で好きになったのかな・・・。」
レオンの体を濡れたタオルで拭きながら私はそう口にした。
いやいや私は何を考えているのよ。
レオンはもう丸4日意識が戻ってないのよ。
そんなレオンの体をタオルで拭いていることで頭をお花畑にしてはダメよ。
これじゃあただの変態じゃない。
いや、確かにそうなんだけど、でも違うでしょ。
もっとレオンのことを心配しなさいよ。
まったくもう、これだから睡眠不足は・・・。
実はここ4日間レオンのことを心配しすぎてまともに睡眠をとれていない状態が続いていた。
そのせいか頭がまったく働かなくなってしまっていた。
まったく頭が働かないせいで普段抑え込んでいるレオンに対する感情があふれてしまっている節がある。
これは何としても抑え込まないと。
じゃないと変な気を起こしてしまうわ。
すると、
コンコンコン
ドアをノックする音が聞こえてきた。
「ガーベラ。レオンのことを治せるお医者さんが来てくれたよ。だからドアを開けてくれない?」
これはママの声だった。
レオンのことを治せる医者?
本当に治るんだったら入れる以外の選択肢はない。
でもこの前の奴みたいにレオンを傷つけるようなことをするかもしれない。
私はしばらくの間考えた。
そして私は、
「わかったわ。入ってきて。」
それを了承することにした。
治る可能性があるのならそれを確かめてみる以外の選択肢はなかった。
それにもしレオンを傷つけるようなことになったら私の蹴りをお見舞いすればいいだけの話。
だから私はその医者を部屋に入れることにした。
すると、
「こんにちは。私はそこのレオン君を治しに来たお医者さんよ。私は前にもレオン君と同じ症状を患った人を治してるから安心してね。」
その医者が私にそう挨拶をしてきた。
その医者は背がそこまで大きくなく黒いローブと仮面をかぶって顔を隠していた。
それに加え医者なのに鞄を持っていなかった。
というか何も持ってきていなかった。
うん、ものすごく怪しい。
こんな怪しいやつにレオンを任せたくない。
私はそう思いその医者をにらみつけてこう言った。
「あなたは本当に医者なのでしょうか?」
するとその医者は、
「あはは、そういう反応しちゃうよね・・・。でもそれはごめんね。こっちにもすこし複雑な事情があって。でも私は決して怪しい人じゃないからそこはわかってくれると助かるな。」
困りながら私に返事をした。
なんとなくだが嘘はついている気がしない。
なら少し信じてみよう。
「わかったわ。でも完全に信用したわけじゃないからね。」
私がそういうと医者はママにこの部屋には私とその医者だけにしてほしいと頼んだ。
ママはそれを了承して下に降りて行った。
すると医者が私に真剣そうな声で話しかけてくる。
「これから私はローブと仮面を外すけど絶対に驚かないでね。それに今日見たことは誰にも話さないこと。これは約束よ。いい?」
いったい何があるのかな。
そんなことを思いながら私は、
「ええ、約束するわ。」
そう返事した。
するとその医者がローブと仮面を外す。
その素顔を見て私はとても驚いた。
なんとそこには桃色の髪と目を持ったとても可愛らしいエルフが立っているではないか。
あまりの驚きで声が出かかったがすぐに口を手でふさいだことで何とかなった。
「ありがとうね、声を抑えてくれて。ほら私ってエルフで亜人でしょ。亜人は差別の対象になっているからそれを隠すためにあんな格好をしていたわけ。」
彼女は嬉しそうにそういう。
なんと彼女はエルフだったのだ。
私はとても喜んだ。
なんせエルフの使う精霊魔法にどんな病気でも治せるすごい魔法があると知られているからね。
それにエルフは亜人で差別の対象になっているけど、私はそれがあまりにも理不尽で気に入っていなかった。
むしろエルフにはとてもいい印象を持っていた。
だから安心していた。
「とりあえず、治療を始めようか。」
彼女はそういって治療を始めた。
私はそんな彼女とレオンそばで見守っていた。