人生の始まり
俺は死んだ。
坂口勇は死んだ。
たくさんの未練を残して。
いったい俺はどうなるんだろうか。
これから天国行きか地獄行きかを審判されるのか?
もし地獄行きだったらどうしよう・・・。
俺は地獄の罰なんか受けたら耐えきれずに精神崩壊を起こす自信がある。
「はあ、うーあ。」
おっと、つい口に・・・。
ん?
なんだ?
声が、出せる?
ていうかなんか声、変じゃね?
それになんかうまく話せない。
「あーう、あー」
やっぱり何かがおかしい。
俺は死んでいる、はず。
なんなんだこの状況は?
(あ、そうだ。目が開くのかを試してみよう。)
瞼に力を込める。
木材でできた天井。
目は開くようだ。
(あれ、俺生きてるじゃねーか。あの神め、俺をだましやがって。)
だとしたらここはどこだ?
病院・・・なわけないよな。
今時木造の病院なんてほとんどないし、たとえ病院だったとしても点滴みたいな医療道具が見当たらないのはおかしい。
もう少し周りを見てみるか・・・。
見てみるか・・・。
見て・・・。
あれー?
首が動かないぞー。
どんなに力を入れても動かないぞー。
おい、これマジでどうなってんだよ、クソ。
「 。」
何か聞こえた。
俺は非常に驚いた。
その音が気になった俺は耳を澄ます。
「 。」
これは話し声?
それにこの声は女性・・・というか女の子の声だ。
でも何を言っているのかはわからない。
「 。」
今度は男性の声が聞こえた。
ということはあの女の子の父親なのだろうか。
こっちも何を言っているのかさっぱりわからないが。
それはさておき、人が居て少しホッとした。
きっと雷に打たれた俺を看てくれていたのだろう。
お礼をしっかり言っておかなければな。
「あう、あーーう。」
うまく言葉は話せないがこれで俺が目覚めたことに気付いてくれるだろう。
「 !」
お、あの女の子が俺の声に気付いたようだ。
ドタドタと走ってくる音がする。
おいおい、俺はこれでも怪我人なんだぞ?
少しぐらい静かにしてほしいものだ。
まったく、まあこればかりは子供だし許してやろうではないか。
あ、勘違いするなよ。
決して俺は子供に甘い人間というわけではないぞ?
これでも子供相手に怒るときはしっかり怒ることのできる人間なのさ。
俺は大学の時にロリコンとか子供大好き(性的に)人間とか言われ馬鹿にされたけど決して子供に対して性的感情をもっているわけではないからな。
うん、俺はいたって正常だからな。
そんなバカなことを考えていた俺はこの後衝撃的なモノを目にすることになる。
「え、あえ?」
目の前にいる男性とその男性が抱きかかえている4歳ぐらいの女の子。
俺は驚きのあまり声が出てしまったが、とてつもなく美形な親子だった。
(う、美しい。これ絶対モデル同士が結婚したやつだろ。クソ、羨ましい。俺もこんな顔で生まれたかったぜ。)
二人の見た目は明らかに日本人ではなかった。
二人とも情熱という言葉をそのまま体現しているかのように鮮やかで美しい赤色の髪をしている。
しかし二人の瞳の色は違っていた。
男性の方は晴れた空のように明るく爽やかな水色を。
女の子の方は夜空に浮かぶ月のようにどこか儚いが吸い込まれそうになる美しい黄金色をしていた。
(なるほど。言っていることを理解できなかったのは、こいつらが日本人じゃなかったからか。)
俺は勝手に納得していた。
だとしてもあの二人が話していた言語は何だろうか?
二人の見た目的にヨーロッパ系なのは間違いないはずだ。
これでも大学では世界の、特にヨーロッパの言語について勉強していた人間だからヨーロッパの言語は大体わかるはずなのだが・・・。
いったい何語なんだろう?
「 。」
そんなことを考えていたら男性が俺に話かけてきた。
ここで俺はとある違和感に気付く。
(この人、デカくね?)
俺の身長は173cmだ。
決して低いわけではない。
それなのに俺から見た男性は見上げないと顔が見えないぐらい高い、というより全体的に大きい。
というかあの女の子の方が俺よりもデカいように見えるのだが。
(これはさすがにおかしい。)
そんなことを考えてると男性が女の子に何かを言って床に下ろし、こちらに手を伸ばしてきた。
ここで改めて実感したがやっぱりこの男性は身長どうこうの問題ではなく全体的に俺よりも大きい。
(こんなことあるのか?)
そんなことを考えていたらなんと男性が俺を抱きかかてしまったではないか。
あの女の子もこっちをとても可愛らしい笑顔で見ている。
俺はさらに混乱した。
頭の中にいろいろな考えが飛び交っている。
俺は巨人に拾われてしまったのか、それとも俺は雷に打たれ体が縮んでしまったのか、はたまた俺は夢か幻覚でも見ているのかととにかくいろいろ考えた。
そして俺はとある考えに行きついた。
(まさか、俺は雷に打たれて赤ちゃんになったのか?)
そう、もし俺が赤ちゃんになっていたらこの状況に説明がつく。
もしそうなのだとしたら俺は・・・いやまさかな。
そんな俺が高校の時に夢見ていたことが起こるわけないだろ。
あまりにも非現実的だ。
そう、ありえない、ありえないのだ。
(ありえないんだよな?)
そこで俺はあることを思いついた。
そこまで疑うなら自分で確認すればいいのだと。
俺は頑張って手を伸ばして自分の手の状態を確認した。
「あう?」
俺の目の前に見えている手はいつも目にしていた手ではなかった。
それに加え明らかに赤ちゃんのような手をしていた。
そこで俺は今までの情報を整理する。
あの神に「お前はこれから死ぬんじゃ。」といわれる。
言葉は話せないがなぜが出せる声。
開けることができる目。
世界全体が大きく見える現象。
そして赤ちゃんのような手。
ここで俺は確信した。
俺は転生したのだと・・・。
どうも皆さん。
おはようございます。
俺の名前は坂口勇ことレオン・シュラーイン、1歳です。
雷に打たれて死んだかと思いきや転生していた最高にラッキーな人間です。
前世はあのクソ上司のせいで死ぬほど働かされたのでこっちの世界では全力バカンス生活を楽しんでいきたいと思います。
最近は言葉を理解することができるようになったので今度は話すことができるようになるために努力しています。
そんなアホなことをしていると、なんということでしょう。
まるで黄金のように輝く綺麗な髪。
夜空に浮かぶ月のようにどこか儚いが吸い込まれそうになる美しい黄金色の瞳。
そのような見た目をした金髪美女がこっちに来ているではないか。
「レオンちゃん、もう起きてるのかなー?」
この金髪美女の名前はクレア・シュラーイン。
そう、俺の母だ。
母さんは教会の元シスター兼先生で子供たちにいろいろ教えていたらしい。
美人な先生とか・・・最高だな。
そそるぜ。
「レオンちゃん、お腹すいたでしょー。もうご飯できているから一緒に行きましょうねー。」
実はハイハイで食卓まで行くことができるがここは「あれ」を堪能するために少し甘えようじゃないか。
俺は心の中でゲスい笑みを浮かべる。
そして母さんに向かって
「ママー。」
と言いながら大きく手をい広げる。
そう俺はあの「F(推定)」を堪能するため母さんに「だっこ」を要求している。
俺はこのためだけに真っ先に「ママ」を覚えた。
「あら、レオンちゃんったら。甘えん坊さんなんだから。」
そういいながら母さんは俺を抱き上げる。
俺をあの「F(推定)」に押し付けながら。
「それじゃあ、一緒に行きましょうねー。」
俺は今「F(推定)」を体全体で感じている。
最高だ。
本当に最高だ。
この弾力、やっぱりいつ感じても最高だ。
俺はもともとない方が好きだった。
だが母さんに「だっこ」される度、俺はこの弾力にだんだんと夢中になっていった。
今となっては両方ともいいなと思うようになっている。
ありがとう母さん、俺に「F(推定)」の良さを教えてくれて。
「みんなー、レオンちゃんを連れてきたよー。」
そんなことを考えていたらいつの間にか食卓に着いていた。
食卓には俺がこっちに転生したばかりのころに見た二人が座っている。
「お、来たか。それじゃあさっそく食べようじゃないか。」
こいつの名前はジール・シュラーイン。
俺の父で、あの時見た赤髪のイケメンだ。
一応父さんは村の狩人兼衛兵の仕事をしていて結構剣の腕前もいいらしい。
強くて男前で優しいそれが俺の父さんだ。
クソ、こんな完璧イケメンありかよ。
「ママー、今日は私がレオンにご飯食べさせるからゆっくり食べてていいよ。」
この子はガーベラ・シュラーイン。
俺の姉だ。
姉ちゃんは父さん似の美少女であの時父さんと一緒にいた女の子だ。
まあ、いい子ではある。
親の前では、うん。
まあ、可愛いからいいんだけどね。
「ほら、レオンご飯だよ。あーんして。あーん。」
美少女に「あーん」をされるのは最高なのだが、ここの離乳食の見た目はあまりよくないから素直に喜べない。
だが味は見た目に反して甘くておいしい。
正直こんなにおいしいものがどうやったらこんなまずそうな見た目になるのかはわからない。
「ふふーん、レオンはやっぱり可愛いね。レオンはお姉ちゃんがずっとお世話してあげるからね。」
姉ちゃんはそういいながら俺のほっぺをつねる。
これが我慢できないほどではないが結構痛い。
もし俺が転生者じゃなくて本当の赤ちゃんだったらきっと泣いているだろう。
なんせ姉ちゃんは全力で俺のほっぺをつねっているからな。
「こら、ガーベラ。そんなにつねらないの。いくらレオンがおとなしい子でもそんな風につねると泣いちゃうわよ。」
ナイスアドバイスだ、母さん。
「あ、ごめんねレオン。お姉ちゃん手加減していたつもりだったんだけど・・・。痛かったよね。」
さっきの発言は取り消そう。
どうやらあれが全力ではなかったらしい。
多分こいつが全力でつねっていたら俺のほっぺは千切れていた。
早く話せるようになってちゃんとした手加減というものを教えないと。
このままだと被害者が我が家全員だけでは済まなくなる。
チュッ。
「これで痛いのなくなったでしょ。ママも言っていたけどお姉ちゃんのチューは魔法だからね。」
うん、なんなんだこの天使は。
可愛いにもほどがあるだろ。
よし、可愛いからさっきのことはなかったことにしてあげよう。
というか今のはもうご褒美だ。
さすがにもらってばかりなのは俺の尺に触るし、ちょっとぐらいは何かを返してあげよう。
「ね、ねーね。」
これで多分イチコロだろう。
ほら君の大好きな弟が初めて君を「ねーね」と呼んだんだ。
ちゃんと面白い反応をしてくれよ。
ガシャン!
ドン!
「ガーベラ大丈夫!?」
母さんのその声で俺は我に返った。
姉ちゃんのほうを見ると姉ちゃんは白目をむいて倒れていた。
どうやら失神しているらしい。
さっきの発言はちょっと姉ちゃんに効きすぎたようだ。
今後気を付けることにしよう。
(そういえば父さんの声が聞こえなかったな。何をしているんだろう。)
そう思い俺は父さんの方を見る。
父さんは顎が外れた状態で固まって動けなくなっていた。
うん、このヘタレが。
自分の娘が失神しているんだぞ。
早く気遣ってあげろよ、まったく。
こうして我が家の騒がしい1日は今日も始まる。
電気がないからテレビや携帯が存在してないが俺は結構ここの生活を気に入っている。
転生したばかりの頃はどうなるのやらと思っていたがいざ生活すると楽しいもんだ。
せっかくもらったチャンス、逃すわけにはいかない。
俺は、全力でバカンス生活を楽しんでやる!
小話:実はジールはまだ「パパ」と呼ばれたことがなかった。しかし自分より先にガーベラがレオンに「ねーね」と呼ばれたため、ジールはショックで固まってしまっていたのだ。