ep.19 迷宮脱出!!全力でやってみた☆①
しばらくすると狐っ娘は落ち着きを取り戻した。
そして、
「ありがとう。」
と言いうと俺のほっぺにキスをして俺の腕の中から離れた。
えっ・・・?
俺、今・・・え?
ほっぺに・・・え?
しかし狐っ娘は顔を赤らめながら混乱している俺を不思議そうに見ていた。
「お主、どうしたのじゃ?」
「いや、だって、お前がほっぺにキスを・・・。」
「それがどうしたのじゃ?」
「いやどうしたも何もそれって・・・。」
「ありがとうのチューじゃぞ?」
は???
俺はそれを聞いて固まる。
いや、え?
そんな小さなことでチューをするものなの?
「え、いや普通チューってそんな簡単にするものじゃないだろ。」
「じゃが、ご主人様は余によくありがとうのチューをしてくれておったぞ?」
俺はそれを聞いてもっと頭が混乱する。
おいおい、ちょっと待てよ。
そんなこと親と子の関係じゃない限りやらないだろ。
でもこの子がそいつをご主人様って呼んでいる感じ少なくともそういう関係じゃないはず・・・。
だとしたそのご主人様ってまさか・・・。
飛んだ変態!?
狐っ娘は俺の何かを悟ったような表情を不思議そうに見ていた。
「と・り・あ・え・ず、そいうことは親しい関係じゃない限りやっちゃダメ。いい?じゃないといつか危ない目に合っちゃうぞ。」
「わかった・・・のじゃ?」
「いや、なんで疑問形なんだよ!とりあえず気をつけるんだ。」
すると狐っ娘は相変わらず不思議そうな顔をしながら頷いた。
はあ、何とかわかってくれたようだな。
まったく、俺みたいな理性のある変態だったからまだマシだったにしろもし俺みたいな変態じゃなかったら確実に・・・あ、いや、それはそれでその変態が死ぬだけか・・・。
ま、まあ、とりあえず一安心、一安心・・・。
ここで俺はとあることに気付く。
あ、そういえばこいつの名前・・・なんだっけ?
そう俺はこの狐っ娘の名前が頭から完全にすっぽ抜けていたのだ。
「そういえばさ、お前の名前ってなんだっけ?」
俺がそう聞くと狐っ娘は途端に不機嫌になってしまった。
あははは、そうなるのも無理はないよな・・・。
だって名を名乗った相手の名を忘れるって・・・相手を侮辱しているのと同じだもんな・・・。
「余の名は雪狐じゃ。もう忘れないようにするのじゃ。」
「あ、ああ、ありがとう。もう忘れないようにするよ・・・。」
俺は苦笑いを浮かべながらそう返事する。
二クス・ウルペース・・・か。
・・・。
長いな・・・。
「あのさ、それだと少し長いからさ二クスって呼んでいいか?」
すると狐っ娘は少し顔を赤らめる。
ん?
何を照れてるんだ?
そんな要素どこにもなかったよな。
というか二クスの照れてる姿・・・最高だ・・・。
心の俺はよだれを垂らしながらそんなことを考えていた。
すると狐っ娘は恥ずかしそうに、
「そ、その、余のその名は二つ名みたいな感じで堅苦しいから・・・その、よ、余のことはあだ名で・・・呼んでほしいのじゃ・・・。」
と言った。
か、かわええ・・・じゃなくて、なるほど、そういうことだったのか。
言われてみれば二クス・ウルペースって二つ名に聞こえなくもないな。
それだと確かに堅苦しい。
でもこの感じだとあだ名で呼ばれるのは初めてみたいだな。
うんうん、俺も幼馴染のシェリーにあだ名で呼んでと頼んだ時も結構恥ずかしかったんだよな。
わかるぞ、その気持ち。
「ん~じゃあ、寝坊助とかはどう?」
「ん?なんじゃそれは。余を馬鹿にしておるのか?」
俺のそのひどいあだ名に二クスは鋭い視線を俺に向ける。
ひえ、こわっ。
そう思った俺は咄嗟に、
「あはは、冗談だよ、冗談。」
と言うのだった。
まあ、さっきのは冗談にしろ俺は本当にあだ名を考えるのが苦手、というかネーミングセンスが絶望的なんだよな・・・。
なんせ家の犬に「白色」って名前をつけようとしていたぐらいだし。
家族の説得で「おもち」になったけど・・・。
でも今回はちゃんとしたあだ名を考えないと何をされるのかわからないし俺の好感度が下がってしまう。
そんなことは絶対に避けなければ。
そこで俺は腕を組んで真剣に考え始める。
そんな俺を二クスは期待に満ち溢れた目で見つめていた。
うっ、視線が痛い・・・。
頼むからこれ以上ハードルを上げないでくれ~。
俺は心の底からそう思う。
えーっと確か二クスは「雪」、ウルペースは「狐」って意味だったよな。
ん~となるとそのまま英語で「ホワイトフォックス」とか?
・・・。
いや、ダサいな・・・。
そうなると雪か狐のどっちかで考えたほうが良さそうだな。
雪は「スノー」とか「ホワイト」とかがあるけど・・・なしだな。
狐は「フォックス」とかがあるけどそれもダサい。
あ~もう難しいよ。
まったくもって可愛い名前が思いつかないぞ。
そう思った俺は一度、二クスの方を見る。
白くて美しい長い髪にピクピクと動く可愛い耳。
美女とも美少女ともいえる顔立ちに一つ一つに可愛さが詰まっているし仕草。
そしてその時の気分によって動きが変わるあのモフモフの白い尻尾。
すると、
「ど、どうしたのじゃ?」
と二クスが顔を赤らめながら言ってきた。
やべ、じろじろと見すぎたか。
「あ、すまない。ちょっとあだ名が思いつかなくて・・・。」
俺は苦笑いをしながらそういうと二クスは呆れたため息を吐く。
「あだ名はそんな堅苦しいものではないからもっと簡単に考えればよいのじゃぞ。」
それを聞いた俺に鋭い電撃が走った。
そうか、そうじゃないか。
あだ名はそういう堅苦しいものじゃないんだ。
まったく、俺は難しく考えすぎなんだよ。
「じゃあ、二クスからとって『ユキ』。『ユキ』ていうのはどう?」
それを聞いたユキは顔を下に向けたまま微動だにしなかった。
まずい。
俺のあだ名が酷すぎてすごく怒ってますわ、これは。
「あ、あだ名が気に入らなかったらもう一回真剣に考えるけど・・・。」
俺がそういって焦っているとユキが俺を押し倒してきた。
そして、
「・・・じゃ。」
と小さい声で言う。
ん?今なんて言ったんだ?
よく聞こえなかった。
「今、なんて言ったんだ?」
「・・・なのじゃ。」
「え、だからなんて・・・。」
「最高なのじゃ、最高なのじゃ~!余は今日から『ユキ』。『ユキ』なのじゃ!!」
俺は尻尾をものすごい速さでフリフリして喜んでいるユキを見て一安心した。
よかった・・・どうやら気に入ってくれたみたいだ。
マジで一時期はどうなるのかと思ったよ~。
「そういえばお主。余はお主をレオンと呼んでいいか?」
あ、ちゃんと俺の名前は覚えていてくれたんだ。
余計俺の罪悪感が強くなった気がする・・・。
「もちろんだ。俺のことはレオンって呼んでくれ。」
するとユキは目をキラキラとさせながら倒れている俺に抱き着いてきた。
傍から見たら結構やばい状況になっている気がするけど・・・まあ、いいか。
するとここで俺はとあることを思い出す。
それはマルクのことだ。
この部屋にはマルクはいなかったのだ。
「なあユキ、マルクはどこにいるんだ?」
「あー、あの茶髪の男の子のことか?」
「ああ、そうだ。」
「そやつなら隣の部屋におるぞ。」
隣の部屋?
隣の部屋って言われてもこの部屋に扉なんて見えないんだが・・・。
するとユキは俺から離れて何もない壁の前に立つ。
そして壁に手を当てながら、
「ヒラケゴマ。」
と唱えると壁が扉のように開いた。
その時俺はとても驚いていた。
それを見たユキはとても誇らしげにしていたが俺はそんなことを気にするほど余裕がなかった。
開け・・・ゴマ!?
何で日本語なんかが!?
そう、俺は久しぶりに聞いた日本語に驚いていたのだ。
「な、なあ、ユキ。その開けゴマっていったい誰から教わったんだ?」
「ふっふっふ、これはじゃな・・・。」
ユキはそこまで言うと誇らしげな表情から打って変わって急に険しい表情を浮かべる。
いったい、誰から教わったんだ・・・。
俺は静かに唾をのみ込む。
するとユキは・・・、
「忘れたのじゃ☆」
と満面の笑みで答えるのだった。
俺は予想外の答えに体の重心が崩れる。
なんだよ、まったく。
俺の期待が無駄になったじゃないか・・・。
でもこの時の俺は誰があれをユキに教えたのか大体検討がついていた。
多分、あのご主人様って奴だろうな。
もしそうなのならそのご主人様って俺と同じ世界から来た転生者の可能性があるな。
これは聞くしかないだろう。
俺はワクワクしながら自分も転生者であることがバレないように聞く。
「てっきりユキのご主人様が教えたのかと思ったよ・・・。」
「いや、それは絶対にないのじゃ。」
ユキは即答した。
あれ?
なんか思っていた反応と違うぞ?
というか即答!?
「な、何でそう言い切れるんだ?」
俺が少し困惑しながらそう聞くとユキは真剣な顔で話し始める。
「ご主人様はかつて『この合図・・・あのバカが・・・。ユキ、お前はあんなやつになるんじゃないぞ。』と余に言っていたのじゃ。じゃからそれは絶対にないのじゃ。」
ユキはそう自信満々に語っていた。
この自信・・・多分これは本当のことなんだろうな・・・。
となると転生者はそのご主人様じゃなくて、そのご主人様が言っていた『バカ』の方なのかな・・・。
もしそうなら少し嬉しいな。
俺以外の転生者がいるなんて、今まで感じていた孤独感が少し和らいだ気がする。
でもなんで開けゴマだけでバカ呼ばわりされているんだ?
しかもそのせいでユキはだいぶそいつのことを嫌っているような雰囲気を出しているし・・・。
なんかそいつが少し不憫に思えてきたぞ・・・。
すると、
「どうしたのじゃ?こっちに来ないのか?」
とユキが声をかけてきた。
まずい、また悪い癖でつい考え込んでしまった。
まったく・・・。
そして俺はユキのところに行く。
「ああ、すまんすまん。少し考え事をしていただけだ。」
「余は待つのが嫌いなのじゃ。早くするのじゃ。」
「はいはい。」
「はいは一回だけなのじゃ。」
俺はユキとそんな会話をしながら扉の先にあった短い通路を通って隣の部屋に向かったのだった。
隣の部屋の前に着くとユキは俺に真剣な表情で話しかけてきた。
「良いかレオン、今から余の言うことを絶対に守ってほしいのじゃ。」
俺はさっきとのあまりのギャップに息をのむ。
「そのマルクというやつはあの扉のせいで廃人になってしまっておる。」
「廃人に!?」
「しー。静かにするのじゃ。」
「あ、すまん。」
俺は咄嗟に口を両手でふさぐ。
マルクが廃人に・・・。
あの扉の呪い・・・本当にやばい呪いだったんだな・・・。
すまんマルク、俺がお前を巻き込んだせいで・・・。
「コホン、とりあえずマルクとかいう小僧をあまり刺激しないようにするのじゃ。じゃなけらばまた発狂して今度は自我の崩壊が起こるかもしれぬぞ。」
自我の崩壊・・・。
俺はそれを聞いて背筋がぞっとする。
俺一つの行動でマルクを殺すことになるかもしれない・・・。
するとその時俺のトラウマがフラッシュバックする。
俺は膝から崩れ落ちた。
そしてそれと同時に動悸が激しくなりとてつもない吐き気に襲われる。
ああ・・・やめて。
俺は、俺は・・・悪くないんだ。
嫌だ、俺を責めないでくれ・・・。
頼むから、俺からこれ以上【奪】わないでくれ・・・。
「どうしたのじゃ?レオン、大丈夫なのか?」
ユキは必死に俺の耳元でそう呟いてくれていたがそれらの言葉はまったく俺に届いていなかった。
するとユキはそれに気づいたのか、突然俺に抱き着てきたのだった。
「大丈夫なのじゃ。そんなに怖がらなくてよいのじゃ。」
俺はそれでようやく落ち着きを取り戻す。
だがまだ息が少し荒い・・・。
もう少し落ち着かせないと。
そこで俺は大きな深呼吸をすると、
「す、すまなかった・・・。少しここで休ませてくれないか・・・。」
とユキに言うとユキは静かに頷いた。
そうして俺はその場で座る。
そしてユキも俺の隣に静かに座る。
「何か嫌なことでも思い出したのか。」
俺はユキに図星を突かれる。
そんな俺は顔を下に向けた。
するとユキは少しの静寂のあと心配そうに、
「それ以上言わなくてよいのじゃ。大丈夫なのじゃ、今度は余が助けてあげるのじゃ。」
と言うと俺の頭を優しく撫でてくれた。
まったくユキの人物像がつかめない。
さっきまでは子供みたいだったのになんで今はこんな大人っぽくなるんだよ・・・。
でも、俺はそれで助かってるんだけどな・・・。
「ありがとう、ユキ・・・。」
するとその時目の前の扉が突然開く。
「ここはどこだ!!レオン、どこに行った!?」
なんとマルクが非常に焦りながら扉から飛び出してきたのだった。
どう見てもマルクは廃人にはなっていなかった。
そんなマルクを見た俺たちは目を見開いたままその場で固まってしまっていた。
するとマルクと視線が合う。
それと同時にマルクはとてつもない殺気を俺に向け始めた。
「なんだ・・・ここに居たんだ。よかったよ、元気そうで。」
「あ、あの~マルクさん、なんかとてつもない殺意が・・・。」
「いや、それは気のせいだよ?別に僕はレオンのことが心配でずっと探していたのにいざそのレオンを見つけるとそこの可愛い女の子とイチャイチャしていて死ぬほど怒っているわけじゃないから安心してよ。」
そういうマルクの目は一切笑っていなかった。
あはは・・・これ、死んだな。
短い人生だったけど楽しかったな・・・。
するとその時、
「何を言っておるのじゃ、小僧。レオンはお主のことが心配でここまで来たのじゃぞ。それにお主は余が助けたのじゃ。それなのにその態度、失礼だと思わぬのか?」
とユキが身動きができなくなるほどのオーラを放ち始めた。
するとさすがのマルクでもそれに耐えることができずにその場に崩れ落ちてしまった。
そして、
「ひ、ひぇ。す、すみませんでした!!」
と必死に謝るのだった。
なんやかんやあったがその後俺たちは俺が目覚めた部屋に戻ってマルクにこれまでの経緯を説明した。
だがここでとある問題が発生する。
「呪いの扉?何それ?」
なんとマルクはあの呪いの扉のことをまったく覚えていなかったのだ。
いくら説明してもマルクは終始身に覚えがないと言っていた。
いったいどいうことだ?
でもマルクがそのことを忘れていたのならこの状況に説明がつく。
マルクはあの扉を見て廃人になってしまったはずだった。
だがマルクに何かが起きそのことを忘れてしまったからマルクはいつも通りの状態に戻っている。
こんな風にね。
すると俺はユキに肩を軽くたたかれる。
「どうしたんだ?」
俺がそう聞くとユキは真剣に語り始める。
「あくまで余の推測なのじゃが、あまりの衝撃で記憶が吹き飛んでしまったのではないのか?」
なるほど、言われてみればそんな気がしてきた。
でも時間差でそうなることはあり得るのか?
だけどそれ以外でこの状況の説明ができる材料はないんだよな・・・。
「まあ、でもそれ以外で説明できる材料はないしね・・・。」
俺がそういうとユキが急に、
「ああもう、めんどくさいのじゃ!!!」
と叫んだ。
「もうこんなことを考えるのはやめにするのじゃ!!とりあえずその悪い記憶を忘れることができたことを喜ぶべきなのじゃ!!」
まあ、確かにユキの言うとおりだな。
いくら考えてもらちが明かないし、結果としてマルクは元に戻ってるんだから別にいいのか。
「うん、確かにそうだな。まあ、なんだ。よかったな、マルク。」
「お、おう。」
マルクは納得していなかったようだが場の雰囲気に流されてしまいそう返事するのだった。
ここで俺はとあることに気付く。
「なあ、ユキ。お前ってさ、初めて会った時そんなしゃべり方をしていたっけ?なんかもっと、お上品と言うか・・・頭が良さそうと言うか・・・。」
「それじゃあまるで余が下品なバカみたいじゃないか!!」
ユキは顔を真っ赤にし、俺の胸倉をつかみながらそういうのだった。
正直、今のユキはただのバカにしか見えないんだよな・・・。
この時マルクはそんな俺たちを見て少し困った表情を浮かべていた。
「レオン、よく聞くのじゃ。あれは余がご主人様のために作っていたキャラなのじゃ。もっと簡単に言うのであればあれは猫を被っていたのじゃ。じゃからそれはできるだけ言及しないでほしいのじゃ!!」
俺はてっきりユキがあまりの怒りで顔が真っ赤にしていたと思っていたがそれは違うらしい。
どうやらただただあまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にしていただけだったようだ。
「そこまで恥ずかしいならなんで・・・。」
「余がそうするとご主人様が喜ぶからじゃ!そのぐらい理解しろ!」
ユキは俺の言葉を遮るようにそう言うと俺の胸倉をつかんでいた手を放しそのままそっぽを向いてしまった。
あぶなっ!
俺は突然手を離されてしまったことで危うくそのまま地面に頭を強打するところだった。
咄嗟に反応できてよかった・・・。
まったく人の扱いが雑なのか丁寧なのかわかんないやつだな・・・。
俺がそんなことを考えているとマルクが間に割ってくる。
「二人とも喧嘩はやめなよ。今は迷宮から出る作戦を立てる時間でしょ?」
「おい、そこのよそ者は黙るのじゃ。」
ユキにそういわれたマルクはこっちに、
「ぼ、僕がよそ者扱い・・・。なんで僕とレオンでこんなにも態度が違うの?」
と少しの涙を浮かべながら助けを求めてきた。
はあ、まったくマルクも不憫だな。
「はあ、わかったよ。」
俺はマルクにそういうと、
「ユキ、さっきはすまなかった。俺もそれ以上は深堀りはしないからさ。これで許してくれるか?」
とユキに謝るのだった。
だがユキの返答は、
「ダメじゃ。」
だった。
え?なんで?
いや、無理もないか。
よく考えたらこんな謝り方は絶対によくない。
あまりにも適当すぎる。
しっかりあや・・・。
その時ユキが座っている俺の懐にめがけてとびかかってくると俺の手をつかんでそれを自分の頭の上に置いた。
俺とマルクはこの時あまりの意味不明さにその場で固まってしまった。
は?何がしたんだ?
そう思ったのもつかの間。
ユキが、
「余をこのまま撫で続けるのなら許すのじゃ。」
と言ってきた。
ここで俺は一度大きなため息をついて気持ちを落ち着かせる。
俺が一目ぼれした相手が今、俺の上に今座っている。
それに加え頭をなでろと要求してきているのだ。
・・・、変な気を起こしそうだ。
だが俺は必死にそれを抑える。
その時俺はマルクがクスクスと笑っていることに気付く。
そこで俺はいつもの俺に戻る。
いつもだったら殴りかかる勢いでマルクにとびかかっていたが今回だけは許してやる。
そういって俺はユキの頭を撫で始める。
そんなユキは幸せそうな表情を浮かべていた。
一方そのころマルクは俺たちを呆れた表情で見ていたのだった。
しばらくして俺たちは、
「それでは今から第1回迷宮脱出作戦会議を始める。」
と言って本格的に迷宮脱出の作戦会議を始める。
「今回の会議で議長を務めさせていただくレオン・シュラーインだ。みんなよろしくな☆(ドヤ顔)」
よし、見事に決まったぜ。
そう思ったのもつかの間、俺のその言葉に部屋が静まり返る。
あっ・・・見事に滑った・・・。
「レオン、何がしたいのじゃ?」
「ぶふ、なんだよ、その喋り方・・・。」
マルクはまだ笑ってくれているからいいが、俺が完全に滑ったことに気付いていないユキの言葉がだいぶ痛い。
クッソ、恥ずかしい・・・。
この時俺はあまりの恥ずかしさに赤面するのだった。
「コホン、すまん。今のは聞かなかったことにしてくれ。とりあえず何かいい案はないか?」
その時マルクが静かに手をあげる。
俺はそんなマルクに指をさしながら指名する。
「はい、マルク君。」
「あの呪いの扉からの脱出とかはできないのかな?さっきのレオンの話ではあそこがこの迷宮の最後の試練で出口につながってるんでしょ?」
まあ、それは確かにそう。
だが・・・。
「それは確かにそうだ。だがその方法だとユキも一緒に出ることはできない。そうだろ?ユキ。」
「そうじゃな。余も何度もそこからの脱出を試みたができなかったのじゃ。」
するとマルクは、
「正攻法じゃダメなのか・・・。」
と言うと顎に手を当てながら考え出す。
そうしてしばらくの静寂に部屋が包み込まれる。
まあ、そうだよな。
正攻法以外での脱出となるとそう簡単にいい案がポンポン出るわけないもんな・・・。
何か・・・何か脱出の糸口につながるものはないのか・・・。
そう思った俺は部屋を見渡す。
部屋の隅にはユキがずっと使っていただろう氷と魔獣の毛皮でできたベッド。
その隣には服などの日用品が入っているであろう氷でできた箪笥。
そして他の部屋へとつながっている通路・・・。
あれ?
そういえばここってどこなんだ?
俺はユキがいることから俺たちはまだダンジョン内にいるということはわかっていた。
だがダンジョンにこんな生活できるような空間があるなんておかしい。
それに加え、ここら辺からは全く魔物の気配を感じない。
一応、ユキに聞いてみるか。
「なあ、ユキ。ここにユキがいるってことはここもダンジョン内ってことなんだよな?」
「うむ、そうじゃがそれがどうしたのじゃ?」
「なんでこんな空間がダンジョンにあるんだ?」
「ああ、それはじゃな、ここはもともとご主人様と他の創世の天弓が一緒に過ごしていたアジトだったからなのじゃ。」
俺はそれを聞いて目を点にする。
はい?
ご主人様と他の神獣が一緒に過ごしていたアジト・・・?
そんな大事なことなんでもっと早く言わなかったんだ?こいつ・・・。
するとその時、
「創世の天弓?ねえ、ユキさん、それって何ですか?」
とマルクがユキに質問する。
それを聞いたユキは少し驚いた表情を浮かべると、
「お主は余たちのことを知らぬのか!?」
と言う。
それを聞いたマルクは静かに頷くのだった。
確かに言われてみれば俺も創世の天弓のことをユキが名乗る前までは知らなかった。
それにユキが名乗った後もそれが他の神獣の集まりっていう認識だった。
でもあの博識なマルクが知らないなんて一体どんな存在なんだろう、創世の天弓って・・・。
気になった俺はユキに、
「俺もそれ気になる。少し話してくれないか?」
と言うとユキはしぶしぶ話し出すのだった。
「この世界にはさまざな魔法が存在しておる。そしてその中の自然魔法という魔法があるじゃろう?余たちはその各属性の頂点に位置する魔獣である神獣の集まりなのじゃ。」
俺はマルクがこの時、疑問の顔を浮かべていたことに気付く。
どうしたんだろう?
今の話で何か引っかかることがあったのか?
そんな俺たちに気付くことなくユキは話し続ける。
「そして余たちはかつてこの世界を支配しておった。じゃが突然現れた・・・あら・・・。」
ユキはそこで少し言葉を詰まらせた。
どうしたんだ?
それになんか困っている?
というより絶望している!?
だがユキは軽くため息をつくとまた話し始めた。
「コホン、すまぬ、少し考え事をしてしまったのじゃ。まあ、とりあえず余たちはご主人様と戦ってボコボコにされたのじゃ。余たち魔獣の世界では弱肉強食こそ正義という考えがあったゆえ、ご主人様の従魔としてともに戦うことになったのじゃ。そしてこの時に結成されたのが余たち神獣の集まり『創世の天弓』なのじゃ。」
なるほど・・・それが創世の天弓っていうわけね。
一応、話の内容はそれなりに頭に入った。
でもさっきのユキの反応・・・少し気になるな。
するとユキが今度は誇らしげに話し出す。
「どうじゃ?すごいじゃろ?一応この話は結構有名なはずなのじゃが・・・まあ、お主らはまだ若そうじゃし知らなくても無理はない。じゃが余が教えたからには絶対に忘れたりしてはならぬぞ。」
まあ、確かに有名そうな話だな。
でもなんで俺はこんな英雄譚になってもおかしくないようなことを周りから聞いたことがなかったんだろう。
するとその時、
「じゃから、レオン。余を敬い、なんでも言うことを聞くのじゃ。」
と何か奥がありそうな笑みを浮かべながらユキが俺に言ってきた。
これが・・・神獣・・・か。
ただのガキにしか見えない・・・。
「あ、レオン。今失礼なことを考えたじゃろ?」
「いやいや、そんなことないぞー。」
あぶねー顔に出てしまっていたか・・・。
今度からは気を付けるようにしようっと。
するとその時、
「あの、ユキさん。少しいいですか?」
とさっきまで話を黙って聞いていたマルクがユキに声をかけた。
「どうしたのじゃ?」
「その話って本当なんですか?」
「いや、何を言っておる。現に余がここにおるじゃろ?」
そうだぞ、マルク。
お前は何を言ってるんだ?
俺はその時そう呑気に考えていた。
だがそれはこの後のマルクの発言によってぶち壊されることになる。
「失礼を承知で言いますが、この世界に『神獣』なんていうものは存在していません。」
俺とユキはそれを聞いてその場で固まってしまうのだった。
ちなみにレオンはシェリーが白くてかわいい猫にそっくりだからと言って「白ネコ」というあだ名をつけようとしていた。
もちろんシェリーに怒られたので結局あだ名は「シーちゃん」になった。(レオンは恥ずかしくてそれ以来あだ名で呼ぶことはなかったのだが・・・。)