ep.18 孤独の牢獄
俺はどのぐらいの間気を失っていたのだろうか。
目が覚めると家の天井でもダンジョン内で見た天井でもない別の天井が目に入った。
とりあえず生きていたみたいでよかった。
そう思った俺はひとまず安堵のため息をつく。
まあ、生きていたのはよかったけどここがどこなのかがわからないと完全には安心できないよな。
でも天井を見た感じここはダンジョン内ではなさそう。
まあ、それはもう少し周りを・・・。
まわ・・・。
周りを・・・。
ここで俺は一度軽い深呼吸をする。
うん、首が動かない!
なんだろう、このデジャヴ感。
なんとなくだけど今から8年ぐらい前にも俺はこんな体験をしたことがある気がするんだよな・・・。
それにしてもさっきから妙に息苦しい・・・。
そう思った俺は自分の胸に手を当てようとする。
当てようと・・・。
はあ~。
俺はここで肺の中の空気が完全になくなるほどの深いため息をついた。
もう言わなくてもわかるだろう。
手が地面に張り付いてしまっていて動かせない。
あ~もう何がどうなってるんだよ。
目覚めたら知らない天井が目に入るし、周りを確認しようとしたら頭が動かせないし、息苦しいと思って自分の胸に手を当てようとしたら手が地面に張り付いているし、本当に何なんだよ!
俺はこの時、本当にイライラしていた。
だがその時、俺の視界の下の方で何かが動く。
え、何、今の?え!?
ままままさか魔物ってことはないよね・・・。
え、ないよね?
うん、そういう気配はないから大丈夫・・・なんだよね?
俺はビビりすぎてちびりそうになる。
その時、俺の動悸が激しくなり始めた。
すると、
「ん~、ドクドクしてうるさいのじゃ~。」
という声が俺の胸の上から聞こえてきたのだ。
それと同時に今度ははっきりと白い耳が俺の視界の下の方で動いたのが見えた。
俺はこの時、目を何度も開いては閉じたりしていた。
ん?
のじゃ・・・?
そして白い耳・・・。
そこで俺はなんとなく今俺に何が起こっているのかを理解する。
そして俺は、
「おい、ケモ耳、起きろー。おーい、起きろってば。」
と言ったが狐っ娘はただ耳をピクピクさせるだけでまったくもって起きる気配がしなかった。
ふー、よし、わかった。
お前がそう来るのならこっちにだって秘策があるぞ。
狐は聴覚の優れた動物。
そしてその耳が俺の口からそう遠くない位置にある。
ふっふっふ、お前が悪いんだぞ?
俺はゲスな笑みを浮かべると大きく息を吸う。
そしてとっびきりの大声で、
「起きろ!!この狐っ娘が!!」
と叫ぶ。
すると俺の予想通りあの狐っ娘が飛び跳ねるように起きた。
そして部屋の中をぐるぐるとした後しばらくの間狐っ娘は自分の耳を涙目になりながらさすっていた。
俺はそんな狐っ娘の反応を見て楽しんでいたのだった。
すると少し顔を赤くした狐っ娘がほっぺを膨らませながらこちらをうるうるとした目で見てきたかと思えば俺の腹の上に馬乗りになって、
「何をするのじゃ。余の快眠をじゃなするなんて酷いのじゃ。責任をとるのじゃ~!」
と言うと俺の胸倉をつかんで前後に揺らしながら駄々をこね始めた。
そして俺の頭はその勢いでぱりーんと音を立てた後地面から離れる。
え?ぱりーん?
何、今の音・・・。
そう思った俺は揺れ動く視界の中、地面を確認する。
あ、なるほどね。
地面が氷になっていたから体が引っ付いていたわけか・・・。
そうなぜだかわからないが地面が凍っていたのだ。
そこで俺は思う。
ってことはこれも狐っ娘のせいか・・・。
うぷっ、というかさすがに酔ってきた・・・。
そう思った俺は、
「や、やめてくれ~。これでも怪我人なんだぞ~。」
と必死に言うと狐っ娘はハッとしたような表情を浮かべ、俺をそおっと地面に寝かせた。
そして急いで地面の氷を消すとその場に座り込む。
やっぱりこいつのせいだったのか・・・。
というかなんで俺の胸を枕代わりにして寝てたんだよ。
俺の胸は母さんのものとしがって絶壁なんだぞ、まったく。
というかそれ以前に俺、男だし・・・。
俺はそんなことを考えながら起き上がる。
それに対し狐っ娘は俺が起き上がったのを確認すると少しむっとした顔をしながら、
「本当に酷いのじゃ。絶対に許さないのじゃ。」
と言う。
いや、お前がなかなか起きなかったのが悪いんだろうが。
俺はそう思いながら目を狐っ娘に向ける。
その時、俺の中に稲妻が走る。
な、なんだ、この感覚は・・・。
体が妙に熱い。
そして心臓の鼓動が早く、そして強くなってきてる?
それに周りを見ようとしてもこの狐っ娘から目が離せない・・・。
この時、俺が奈落の底に突き落としたはずのとある感情が不死鳥のごとく舞い戻ってきていたのだ。
そう。
それは・・・、
≪恋愛感情(ネイティブ風)≫
だったのだ。
なんと俺はこの狐っ娘に一目惚れをしてしまったのだ。
あの戦いが始まる前、俺はこの狐っ娘を美人と評していた。
だがそれだけではなかった。
美人なのにどこか子供っぽさがある。
それに加え俺の大好きなケモ耳属性付き。
もうね、これはね、たまらなかったよね。
俺の好みドストライクだったよね。
いや~でもなんで俺はあの戦いの時に気付かなかったんだろう。
そこで俺は少しあの時のことを思い出す。
あ~。
多分あのオーラのせいだな・・・。
まったく、俺の目もまだまだ未熟ですな・・・。
だが今ならわかる。
ラフな格好で女の子座りをしながら尻尾を振り振りしている今ならわかる。
この子は俺がまさに求めていたケモ耳少女だっ!
俺はそんなことを考えながら狐っ娘をずっと見つめたまま固まっていた。
すると痺れを切らした狐っ娘が、
「おい、お主。余をそんなにまじまじと見て何をしておるのじゃ。余の顔に何かついておるのか?」
と言った。
俺はその声で我に戻る。
はわわ、俺としたことがなんていう失態・・・。
この子の顔をまじまじと見てしまうなんて・・・。
「い、いや。なんでもないよ。今のは気にしないでくれ。」
俺がそういうと狐っ娘は俺に少し近づいてきて不思議そうな顔をしながら俺の顔を覗き込む。
な、なんか顔をがっつり見つめられてるんですけどー。
そのせいで心臓の音がドクンドクンしてうるさいんですけどー。
というかこの下から見られているときのアングルの破壊力がやばいな・・・。
やばすぎてもう、見てられんわ!
そう思った俺は必死に顔を逸らす。
すると狐っ娘が、
「お主、さっきから顔が赤いが大丈夫なのか?熱でもあるのか?」
といって俺との距離をさらに詰めると俺の額に手を伸ばしてきた。
やばいやばい。
これはほんとにやばい。
この距離感はさすがに俺の心臓が持たんっ。
そう思った俺は、
「いや、本当に大丈夫だから、少し離れててくれ。」
といいながら狐っ娘を押し返そうとする。
すると狐っ娘は、
「ならいいのじゃが。」
と言って俺の額にめがけて伸ばしていた手を止める。
そしてさっきより近い距離で座る。
う、うん。
ちょっとさっきより近い気がするが・・・いいか。
俺がそんなことを考えながら気持ちを落ち着かせる。
すると狐っ娘がハッとしたような表情を浮かべると俺のことを指さしながら話し出す。
「あー!思い出したのじゃ。お主、なぜ先の戦いの最後、余に剣を向けなかったのじゃ。そしてなぜあんな風に余に微笑んだのじゃ!」
狐っ娘のその勢いで俺は完全に本調子に戻る。
だが本調子に戻ったがゆえに俺がそのような行動に出た理由を話せなくなってしまった。
そして狐っ娘の言葉を聞いた俺は顔をそむける。
すると狐っ娘は、
「余はお主がその答えを教えてくれるまでここでずっと座って待っているぞ。」
というと本当に俺が答えを言うまで待ち始めたのだった。
すると部屋が静寂に包まれる。
そんな中1分、そしてまた1分と時間が進んでいく。
あーもう無理だ!
その静寂さに耐えきれなくなった俺はついに口を割る。
「あーもうわかったよ。言えばいいんでしょ、言えば。」
俺の言葉を聞いた狐っ娘は真剣な表情になる。
そうして俺は一度大きく深呼吸をするとしぶしぶ話し出すのだった。
「お前は2000年もの間この薄暗いダンジョンでご主人様を待ち続けていたんだろ?」
「そうじゃ。」
「しかも一人で。」
「そうじゃ。それがどうしたのじゃ?」
俺はその言葉を聞いて呆れる。
この薄暗いダンジョンの中、一人で、それに2000年間もだよ。
なんでそれをどうしたのじゃ?で済ませられるの?
そう思った俺は狐っ娘のその軽い言動を注意しようとする。
「いや、どうしたも何も・・・、はあ、今のは・・・聞かなかったことにしてくれ。」
だが途中で今はそんな雰囲気じゃないなと思い、俺は口を紡ぐ。
ここで俺は大きなため息をつくと覚悟を決めて話し出す。
「はあ、わかった。単刀直入に言おう。俺は・・・俺は・・・(ごにょごにょ)。」
だが俺は大事なところでチキンになってしまった。
すると案の定、
「ん?今、なんて言ったのじゃ?」
と言われてしまう。
「・・・、だから・・・(ごにょごにょ)。」
すると狐っ娘は呆れのため息をつくとむっとしながら話し出した。
「はあ、お主のそれのどこが単刀直入になのじゃ?はっきりと言ってくれぬか?」
そこで俺は今度こそ覚悟を決める。
「あーもう、わかったさ!俺はな、お前を助けたいと思ったんだよ。」
俺のその言葉を聞いた狐っ娘は目を点にして固まっていた。
でも俺はそんなこと気にせずに続ける。
「お前は2000年の間この薄暗いダンジョン、しかも一人でそのご主人様とやらを待ち続けてたんだろ?俺は・・・それがあまりも・・・可哀そうで・・・。」
俺のその言葉を聞いた狐っ娘は途端に辛そうな表情を浮かべる。
だから俺は言いたくなかったんだよ・・・。
もう、こっちまで辛くなってきたじゃねーか。
俺は続ける。
「覚えてるか?お前は俺と初めて会ったとき、ものすごく嬉しそうな顔をしていたじゃないか。やっとご主人様に会えたって。でも俺はそのご主人様じゃなかった。それなのに俺はそのご主人様を侮辱し、挙句の果てにはもうそんな奴はとっくうの昔に死んでるよって言ってしまった。」
その時、狐っ娘の目には涙が浮かび始めていた。
「そこで、お前はものすごく怒ったじゃないか。そして俺の四肢を切り落とした。だがお前の実力だったらそこで俺を瞬殺できたはずだ。でもお前はそうしなかった。なぜかって?それは俺の中にあるご主人様の気配が俺を殺したら消えてしまう。そう思ったからじゃないのか?」
すると狐っ娘は泣きながら俺の服をつかむ。
そしてか細い声で、
「やめて・・・。」
という。
やっぱり、図星だったか・・・。
本当に、心が、痛い・・・。
だが俺は心を鬼にして続けた。
「だからお前は俺のことが凄く憎かったにもかかわらず殺さなかった。いや、殺せなかったんだ。ご主人様の気配を消したくないがために。」
「お願い・・・。」
「俺はそのことを戦っている最中に気付いた。そこで俺は自分の犯した罪の大きさを自覚した。」
「もうそれ以上は・・・。」
「それに気づいてから俺はお前がどんだけ苦しみながら戦っているのかが分かった。俺はそんなお前を見て胸が締め付けられるようになっていた。」
「うるさい・・・。」
「だから俺はお前のその気持ちが少しでも・・・。」
すると狐っ娘が、
「うるさいと言っているのじゃ!」
というのと同時に突然ものすごい冷気と殺気が部屋に充満する。
やばい、体が凍って動かない。
それにあまりの殺気で押しつぶされそう。
するとその時狐っ娘がその場に倒れ込むと静かに泣き始めた。
そしてそれと同時にそれらが収まる。
俺はそんな狐っ娘を見てただ黙っていることしかできなかった。
すると狐っ娘が泣きながら話し出す。
「余は、余はずっと一人ぼっちで寂しかったのじゃ。こんな薄暗い迷宮内で一人、寂しくないわけがないのじゃ。それにもうとうの昔にご主人様の気配が世界から消えたのには気づいておったのじゃ。でも余は、それが・・・それが・・・。」
狐っ娘はそこまで言うとそれまで涙の氾濫を防いでいた堤防が崩れる。
気付いて、いたのか・・・。
俺はそれを聞いてさらに心がきつく締め付けられる。
もう会えないとわかっているのにそれが信じられなくて待ち続ける。
俺にもその辛さが痛いほどわかる。
でもこの子はそれを2000年も・・・。
俺はそんな狐っ娘を静かに抱きしめる。
そして、
「辛かったよな。本当によく頑張ったよ。」
と頭を優しく撫でながら言った。
すると狐っ娘は俺に抱き着くと泣きじゃくりながらまた話し出す。
「だがら余は嬉じがっだのじゃ。またご主人様の気配を感じでて。本当に嬉じがっだのじゃ。それなのに・・・。」
俺はこの子を救いたい。
こんなにも可哀そうな子を見捨てることなんて絶対にできない。
例え俺がこの子のご主人様でなくても、例えそれが罪滅ぼしのためであっても俺は絶対にこの子をこの迷宮から連れ出してみせる。
そしてこの2000年分の辛さ以上の楽しみと幸せを俺が全力で与えてやるんだ。
そう思った俺は、
「本当にすまなかった。」
と一言だけ言って狐っ娘が泣きやむまで優しく包み込んであげるのだった。
しばらくすると狐っ娘は泣きやんだ。
だがそれでも狐っ娘は俺から離れようとしなかった。
2000年もずっと一人だったんだ。
もう少しぐらいこのままでいいよね・・・。
すると狐っ娘が俺の胸に顔をうずめたまま、
「なあ、お主。この後はどうするつもりなのじゃ?」
と力の一切こもっていない声で聞いてきた。
そんなの決まってるだろ。
「お前をここから連れ出してやる。」
だが狐っ娘はそれを聞いても全く反応しなかった。
やっぱりご主人様・・・か。
だって2000年も待っていたんだもんね。
2000年も待ってご主人様じゃない人に連れ出されるなんて、この子の努力が全部無駄になるのと一緒だもんね。
すると、
「じゃが、余はここの迷宮の主。ここから出ることはできないのじゃ。それでも余を連れ出すというのか?」
と言った。
そう・・・だったのか。
この子はずっとご主人様を待っていたのではなく待つしかなかったんだ・・・。
俺はそれを聞いて余計心が締め付けられるような思いになる。
きっとこの子は外に出てご主人様を探したかっただろうに・・・。
それができなかっただなんて、あまりにも残酷だ。
こいつのご主人様が生きていたら絶対に一発ぶち込んでたな。
俺はそんなことを考えながら、
「ああ、それでも俺はお前を連れ出してやる。」
と力強く言った。
すると狐っ娘が俺の胸にうずめていた顔をこちらに向ける。
その時の狐っ娘の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。
それに加え、目には一切の光が宿っていなかった。
俺はそれを見て、この子が今まで感じていた辛さが一気に伝わってきた。
いや、全部は伝わっていなかったかもしれない。
だがその辛さは俺が今まで感じてきたものとは比べ物にならないものだった。
「諦めたりしない・・・?」
「ああ、もちろんだ。」
「もし余を連れ出すのが無理なことじゃったら・・・?」
「そんなことはない。俺が絶対にお前を連れ出してやる。」
俺はこんな風に狐っ娘のか絶望に満ち溢れた声に希望の声をかけ続ける。
すると狐っ娘がまた泣きそうになりながらこう聞いてきた。
「約束・・・するのか・・・?」
「もちろん。」
「本当の本当・・・なのか・・・?」
「当たり前だ。」
それに対し俺はさっきの力強いとは違い優しい声で返す。
狐っ娘は俺のその言葉を聞いて泣き出してしまった。
そして俺はそんな狐っ娘に寄り添いながらこういうのだった。
「安心しろ。俺は絶対にお前を見捨てたりはしない。俺は絶対にお前をここから連れ出してやる。」
するとその時、さっきまで絶望のどん底に叩き込まれた狐っ娘の心に希望のはしごがかけられる。
そうして狐っ娘の目に光が宿ると狐っ娘はまたもやしばらく泣き続けるのだった。
思っていたよりも話が進まなくてすみません・・・。
書きたいことが・・・書きたいことが・・・多すぎるっ(死)