ep.13 「強奪」の力
俺たちは休憩を終えるとまたダンジョンを進み始めた。
しばらく歩いているとさっきの魔物のことをマルクに聞こうと思っていたことを思い出した。
「そういえばさっきの魔物ってどういうやつだったの?」
俺がそう聞くとマルクがハッとしたような表情をして淡々と話し始めた。
「あれはジャイアントホーネットっていうⅭランクの魔物。でも基本的に群れでいるからBランク程度の魔物っていう認識で世間では通ってるんだ。」
ほう、Cランクか。
でも確かにあの数のCランクが集まってればBランク程度になってもおかしくないよな。
俺がそう考えているとマルクが、
「でも、今回戦ったあの群れは危険度Aランク相当だったんだよね。」
と言った。
俺はそれを聞いてその場で固まってしまった。
マルクはそのまま続けて話す。
「今回あの群れの中にボスみたいなやつがいたでしょ?あれは上位種のドラゴンホーネットっていうBランク相当の魔物なんだ。戦闘能力は決して高いわけじゃないけど統率能力が異様に高くて頭がいい厄介な魔物なんだ。」
俺はマルクの説明を聞いてさっきの戦いを振り返る。
言われてみればあのハチどもは隊列を組んで攻めてきてたし、あのボスバチと戦ったときも俺の魔法の詠唱中という無防備な状態を狙って俺の幻影を刺してきた。
そう考えるとあそこでマルクが範囲攻撃の上位魔法を使わなかったら俺たちは確実に死んでたな。
Aランクっていうのはあながち間違ってなさそうだな。
ありがとうな、マルク。
その時俺はとあることに気付いてしまう。
え、ちょっと待てよ。
あの魔物がAランクってことはまさか・・・。
そう思った俺はマルクにとある質問をする。
「まさかこのダンジョンの危険度ってAランク相当じゃないの?」
マルクは静かに頷いた。
さっきマルクがハッとした理由は俺に魔物の情報を伝え忘れてたからってことじゃなくてこのダンジョンの危険度に気付いたからだったのか。
そうなるのならより気をしっかり引き締めないといけない。
なんせ危険度Aランクの魔物は1体だけでも帝国の騎士10人掛かりでギリギリ勝てるかどうかの相手だからな。
もっとわかりやすく言うと銃弾や爆発が一切効かない戦車と戦うくらいのやばさだ。
そのレベルの魔物がここにはたくさんはびこっているってことになる。
少しの油断で簡単に死ねるな。
だが俺たちはここでは死ぬわけには・・・。
すると突然、
「レオン、危ない!」
俺はマルクに突き飛ばされた。
そして俺は地面に倒れる。
すると俺を突き飛ばしたマルクの両足がどこからともなく現れた巨大な岩によってつぶされ俺の上に倒れ込む。
「があああ!」
マルクのその叫び声を聞いて俺はやっと俺たちが魔物に襲われていることに気付いた。
俺は岩の飛んできた方を確認する。
するとそこには巨大な岩のゴーレムらしきものが立っていた。
俺は考え込んでしまっていたせいでこいつの気配に気づけなかった。
さっきまで油断しないようにしようとか言っていたのに・・・。
すると突然俺は地面から魔力を感じた。
(何か来る!)
そう思った俺は俺の上で倒れているマルクを抱きかかえてその場から離れようとした。
しかし地面から土の棘が生えてきてそれが俺の右肩を貫通した。
肩からあふれ出す血。
むき出しになる骨。
そしていくら逃げても止まらない地面からの土の棘。
俺は痛みに耐え負傷したマルクを抱えながらその場から逃げた。
とにかく逃げた。
全力で逃げた。
しかしそんな俺たちをあのゴーレムはずっと追いかけてくる。
すると突然の前の通路が土の壁によってふさがれて俺たちは逃げ道を失った。
まずいこのままじゃ・・・。
すると、
「生命の女神の涙がもたらす恵みと破滅の力を我がものに。水魔法発動。大洪水!」
とマルクが唱えると杖から大量の水がゴーレムに向かって流れ出る。
するとゴーレムが一瞬ひるんだ。
それに加えゴーレムの攻撃がやんだ。
そしてマルクは続けて、
「生命力と恵みの色は爽やかな緑色。世界に広がる溢れんばかりの緑に感謝を。植魔法発動。生命力の鎖!」
と唱える。
すると黄緑色に光ったツタらしきものがゴーレムの手足に巻き付いてゴーレムの動を止めた。
俺がその状況を見て驚いているとマルクが俺に、
「頭だ。あいつの頭の中がある。それを早く壊して!」
と指示を出した。
俺は何が何だかわからなかったがとりあえず動きながら考えることにした。
たぶんそのゴーレムのコアを壊せば倒せるのだろう。
だとするとゴーレムの攻撃がやんだ今がチャンスなのはわかる。
だが俺にあの頑丈そうな頭を吹き飛ばす手段はない。
もし魔短剣で頭ごと切るのなら多分先に魔短剣が折れるだろう。
かといって魔法を使うのだとしたら今の俺が扱える魔法だとあいつの頭を吹き飛ばすのは無理だ。
でもマルクが俺に頼んだってことはきっとマルクは体力的に結構きつくなっているのだろう。
ここは俺が何とかしなければならない。
クソ、いったいどうすれば・・・。
するとゴーレムの足を拘束していた生命力の鎖が切れる。
まずい、早く・・・。
何か、何かないのか・・・。
そこで俺はあることを思いつく。
それは魔力のオーバーヒートで命が危険にさらされるのを覚悟でレベルの高い魔法を放つことだ。
このまま何もしなければ二人とも死んでしまう。
せめてマルクだけでも・・・。
そうして俺は光の上位魔法の詠唱を始める。
「天から差し込む一筋の光、その光が我々を正しき時間へ導いてくれるだろう。光魔法発動。」
いつもだったらここで体に激痛が走るが今日は不思議とその感覚がなかった。
むしろ今までに感じたことのない感覚がしてそれがとても心地いいと感じていた。
俺はそれをとても不思議に思ったが今はそれどころではない。
そこで俺は空中に浮いている光の弓を手に取る。
そして俺は弓をゆっくりと引き静かにこう唱えた。
「黄金の弓矢。」
そうして俺は矢をゴーレムの頭にめがけて放つ。
矢が頭に命中した途端ゴーレムの頭で爆発が起こる。
煙が晴れるとゴーレムの上半身はなくなってしまっていた。
上半身をコアごと吹き飛ばされたゴーレムはその場で崩壊していった。
俺は完全にゴーレムが死んだのを確認するとマルクの方に急いで向かった。
マルクはその場に倒れ込んでいた。
「マルク、俺の声が聞こえるか?」
俺がそう声をかけてもマルクは返事をしなかった。
俺は恐る恐るマルクの脈を確認する。
するとちゃんとドクンドクンと脈を打っていた。
それを感じて俺はホッと安堵のため息をつく。
さっきは光の上位魔法が使えたからもしかしたらと思い俺は出血の止まらないマルクの足に光の上位回復魔法をかける。
「天から差し込む一筋の光、その光が我々を正しき時間へ導いてくれるだろう。光魔法発動。生命回復。」
するとさっきまでボロボロだったマルクの足がどんどん元に戻っていく。
でもマルクの意識は戻らなかった。
きっと疲れているだろうししばらくこのままにしておくか・・・。
そこで俺はマルクの足を完全に治すと通路に土魔法で土の壁を使って休憩部屋を作ることにした。
でもその前にゴーレムの死体が邪魔で仕方がないから強奪でゴーレムの死体をどけよう。
そういえばさっきやったときは片手でやってたけど両手でやればわざわざ2回唱えなくてもよくなるのかな?
そう思った俺は両手をゴーレムの死体の方に向けると、
「強奪。」
と唱えた。
すると予想通りゴーレムの死体から白い光と赤黒い光が同時に出て死体が跡形もなく消えていた。
そしてその光は俺の体の中に入っていった。
「やったぞ!それじゃあ残りは壁を作るか。」
そうして俺は土魔法で壁を作る。
一応土の壁を作る魔法は中位魔法なのだがさっき光の上位魔法を扱えてたし大丈夫でしょ。
俺はそう思いながら、
「母なる大地の威厳と壮大さを形作る力を我に与えん。土魔法発動。土壁。」
と唱えると何の副作用も起こさずに土の壁を作ることができた。
よし、これでいいかな。
するとここで突然右肩にとてつもない痛みが走った。
なんだこれはと思った俺は右肩を見てさっき肩をあのゴーレムに貫かれていたことを思い出した。
きっとさっきまではアドレナリンが凄くて痛みを感じなかったのであろう。
回復魔法は・・・あの時(魔法を使って意識を失ったとき)のことがあってから怖くて使えないからいいか。
とりあえず俺は服の一部を切って肩にそれを巻き付けた。
服の一部を肩に巻き終えると俺はマルクの隣に座ってマルクが目覚めるまで休憩することにした。
休憩している間俺は今俺の体に起こっている異変について考えていた。
(今までは下位魔法の入門レベルの魔法が使えなかったのになんで急に上位魔法が使えるようになったんだ?)
そう思った俺は今日起こった出来事を振り返る。
昼まではいつも通り過ごしてた。
そこからはオーブレストへ魔法の杖を買いに行って・・・。
まさか魔法の杖の影響か?
いやでも、さっきの黄金の弓矢や土壁の時は杖を使ってなかったからそれは関係なさそうだな。
だとするとこのダンジョンの影響か?
いやだとしたらマルクにも何らか異常が起こるはずだ・・・。
そして俺はそこで気づく。
まさか強奪の影響か?
確か強奪を使うと白い光と赤黒い光が俺の体に入っていったよな。
その光が俺の最大魔力量を増大させたと考えたらすべての辻褄が合うな。
そういう風に納得しかけていたが俺はここでさっきのとある出来事を思い出す。
そういえばさっきゴーレムの攻撃をいとも簡単によけていたけど俺ってあれをよけられるほど身体能力は高くなかった気がするんだけど・・・。
それにゴーレムの動きが遅く見えるくらいに思考速度も早くなっている気がする。
もしかしてこれも強奪の影響か?
だとしたら強奪はそうとうやばい力なんだけど・・・。
そうしていろいろと考えていると俺は突然眠気に襲われる。
やばい、なんか急に眠気が・・・。
そうして俺はそのまま倒れるように眠ってしまったのだった。
俺はどのぐらい眠っていたのだろうか。
しばらくすると俺は目を覚ました。
そして起き上がって周りを確認する。
すると俺よりマルクの方が先に起きていたらしく俺が起きたことに気付くとマルクは、
「さっきは助けてくれてありがとう。それに怪我も治ってて本当に助かったよ。」
と礼をする。
俺は元気そうなマルクを見て軽く微笑みを浮かべて、
「俺たちは親友なんだから当たり前だろ?」
と寝ぼけながら俺らしい返事をした。
するとマルクは突然真剣な顔をする。
そして俺にさっきの魔法のことと自分の足のことについての説明を俺に要求してきた。
まあ、そうだよねー。
だって今まで雑魚魔法しか使えなかった奴が急につよつよ魔法を使っていたのにもかかわらずぴんぴんしてるからねー。
そうして俺は寝起きでまだぼーっとしている状態で眠る前にした推測をマルクにすべて話した。
その推測を聞いてマルクは納得してくれたようだった。
俺はまだ寝ぼけていたからちゃんと伝わっているのか心配だったけどなんとかなってよかった。
そして、
「だから僕の足とレオンの肩が治っていたんだ。」
とマルクが言う。
それを聞いて俺はあまりの驚きで目が一気に覚めた。
そして俺は自分の右肩を見るとそこに巻いてあったはず布がなくっており完全に肩が元通りになっていたのだ。
え、俺回復魔法をかけてないよな。
これはいったい・・・。
俺はそのまま自分の肩のことで考え込んでいるとマルクが俺のおでこをツンと指でつついてきた。
そしてマルクは少し呆れながら話を始める。
「ほら、早くいくよ。ここに来てから何も食べてないせいで僕のお腹がやばいんだよ。」
そういわれた俺はとりあえず怪我のことはまた今度考えることにしようと思い壁を解除してまたダンジョンの奥を目指して進み始めた。
ダンジョンの奥を目指している間俺はマルクにさっきのゴーレムのことについて聞いた。
そしてマルクは淡々と話し出す。
「さっきの魔物はストーンゴーレムっていう危険度Aランクの魔物なんだ。」
それを聞いた俺はやっぱりかと思った。
どうやら俺たちの推測は当たっていたようだな。
ここは間違いなく危険度Aランクのダンジョンだ。
そしてマルクは続ける。
「それにあいつはAランクの中でもそこそこ強い魔物で金剛石並みに固いからだと高速で連射してくる土魔法が厄介な魔物なんだよね。」
そうマルクは苦笑いを浮かべながら言った。
金剛石並みの硬さの体、そして魔法の圧倒的物量攻撃か。
確かに厄介だったよな・・・って、ちょっと待てよ。
そこで俺はハッとする。
そしてやっと気づいてくれたかと言わんばかりにマルクがまた話し出す。
「でもそんな奴の攻撃をレオンは人を抱えながらよけて、最後はとてつもなく硬いあいつの体を上半身が跡形もなくなるような威力の魔法で吹き飛ばしてたよね・・・。」
うん、そうだよね。
普通はそんな反応するもんね。
だってそれをやった本人も驚いちゃってるんだもん。
「あはは、やっぱりこの強奪とかいう力は隠したほうがいいかもね・・・。」
俺がそういうとマルクは深く頷いた。
もしこの力が世間にバレるようなことが起これば俺は間違いなくバカンス生活ができなくなる。
たぶん冒険者ギルドや帝国から引っ張りだこになるよな。
それは・・・絶対に嫌!
そう思った俺はこの力を自分の大切なものとバカンス生活を守るためにしか使わないようにしようと誓ったのだった。
そうして俺たちはダンジョンの奥に進んでいった。
しばらく歩くと俺たちはいかにもこの先がボス部屋らしい大きい扉を見つけたのだった。
これ絶対この先がボス部屋だよな・・・。
そう思った俺はマルクに声をかけた。
だがマルクは扉を見て固まってしまっていて俺の声がまるで届いていないようだった。
何回もマルクを呼んだがまるで反応がなかったので軽く小突いてみた。
するとマルクはハッとして、
「どうしたの?」
と絶望に満ちた表情で返事をする。
この扉に何か問題があるのか?
まあいいか。
そう思った俺はさっき聞こうとしたことをマルクに聞く。
「多分この先がボス部屋だよね。」
俺がそういうとマルクはうつむいてしまった。
マルクの様子がさっきからおかしい。
それに今気づいたけど顔色が凄い悪いし、冷や汗もすごいな。
さすがに心配だ・・・。
そう思った俺は、
「さっきから様子が変だけど大丈夫なの?」
と優しく言う。
するとマルクは重い口を開いて震えるような声で話し始めた。
「これはボス部屋なんかじゃない・・・。これは・・・これは・・・。」
するとマルクはそこで膝から崩れ落ちるようにその場に倒れ込む。
その時のマルクが絶望で押しつぶされそうになっているように見えた俺はマルクに大丈夫だよと声をかけながら気持ちが落ち着くまで抱きしめ続けた。
しばらくするとマルクは落ち着きを取り戻した。
だがそのマルクの目には一切の光が宿っておらず体はまるで魂が抜けたようになっていた。
これじゃあこの扉の先のことは聞けそうにないな。
そういえばさっきマルクがこれはボス部屋への扉じゃないと言ってたよな。
「だとしたらこの先にはいったい何が・・・。」
俺がそう口にすると突然、
「その先はこの迷宮の入り口につながっていますわ。ご主人様。」
という声が後ろから聞こえてきた。
それと同時にとてつもないオーラが俺を襲う。
な、なんだこのオーラ・・・。
さっきまではなかったのに突然・・・。
これほどのオーラは今まで俺は感じたことがなかった。
俺は恐怖で押しつぶされそうで後ろを見ることができなかった。
すると、
「もうご主人様ったら余のことを見てくれないなんて・・・ひどいですわ。」
と後ろの化け物が悲しそうに言いながらさっきとは比べ物にならないオーラを放ち始めた。
このまま振り向かなかったら殺される。
そう思った俺は後ろをゆっくり振り向く。
するとそこには白い着物を着ていて狐のような尻尾と耳のある雪のように白い白髪のケモミミ美人が立ってた。
俺が振り向いたのを確認するとその化け物は不気味な笑顔を浮かべて、
「お帰りなさいませ、ご主人様。」
と言ったのだった。