ep.11 魔獣の森「ゲファール樹海」
「レオンって、さっきの店員さんみたいな人がタイプなんだ~。」
俺は店を出た後さっそくマルクにそうからかわれてしまった。
「う、うるせーな。別にマルクには関係のないことだろ?」
見事に図星だった俺は必死に否定した。
クソ、なんでマルクはこういう時に限って勘がいいんだよ。
それにマルクはこういうくだらないことに関しての記憶力はやけにいいからこれからずっとからかわれるんだろうなー。
「ふーん、それで本音は?」
俺は一瞬否定しようとしたがよく考えるとこうなったマルクから逃れるすべはないことを思い出したので潔く認めることにした。
「あーもう。そうだよ!」
俺がそういうとマルクはどこからともなくメモ帳と羽ペンを取り出して・・・ってまじでどこから取り出したんだ?
「レオンは童顔でどこかクールで綺麗な感じでスタイル抜群な人が好みっと。メモメモ。」
とメモし始めたのだ。
「っておい!マルクは何をメモしてるんだよ!」
俺がマルクにそう聞くとマルクは、
「レオンの意外な一面をメモしてるんだよ。レオンって子供なのに妙に大人びているところがあるからさ。そういうところを知るとなんか安心するんだよ。だからメモしているわけ。」
とさも僕は何もおかしなことをやっていませんよみたいな顔をしながら答えてきた。
それに加え理由も意味不明だった。
俺の好みを知ることのどこに安心する要素があるんだよ。
「はあ、もういいよ。勝手にやってくれ。」
これ以上言っても無駄だと思った俺はそういった。
そうして俺たちは荷車乗り場に向かって歩き出したのだった。
荷車に乗った俺たちはさっそく杖と魔短剣を買ったときにセットでついてきたベルトを身に着けそこに杖と魔短剣をしまった。
「なんか冒険者になった気分だな。」
俺がそういうと、
「うん、僕もそう思うよ。それにレオンはものすごい様になってるよ。」
マルクが俺をそうほめてくれた。
冒険者みたい・・・ね。
それもそれでザ・バカンス生活みたいでありかもな。
「いや~ありがとうね。そういうマルクも魔導師みたいで結構似合ってるよ。」
俺がそう褒めるとマルクはとても顔を赤くしていた。
俺は普段マルクを素直に褒めないから突然素直に褒められて少しびっくりしたのだろう。
まあ、今回はこの魔短剣をおごってくれたわけだし俺はこれでも中身は大人だ。
褒めるタイミングくらいはわかるさ。
すると、
「クスッ。」
と一緒に荷車に乗っていた冒険者らしき女性が笑った。
俺たちが不思議そうな顔をしながらその女性の方を見ると女性はそれに気づいたのかコホンと咳ばらいをして話し出した。
「笑ってしまってすまないね、君たち。君たちを見ていたら私がまだ駆け出しの冒険者だった時のことを思い出しちゃってさ。」
その女性は少し照れながら話していた。
やっぱり冒険者だったのか。
でも俺たちを見てってことはその時は友人と一緒に冒険者を始めたのだろうか。
でももしそうならここにその友人がいないのはなんでだ?
俺がそんなことを考えてると女性は続けた。
「私にも君たちと同じように仲がとてもよかった友人がいてその子と冒険者を始めたんだが喧嘩別れしちゃってね。だから君たちもその関係はずっと大切にするんだぞ。」
そう話すその女性は笑顔だったがどことなく遠い目をしていた。
なるほど、訳ありってやつね。
よほどひどい別れ方をしたんだろう。
俺も・・・すごい分かる。
だって俺も・・・。
「はい!お姉さんが言うように僕はこの関係をずっと大切にしていきます!な、レオン?」
俺がそんなことを考えているとマルクがそういった。
俺は突然のことだったので少し驚きながら、
「お、おう!俺たちはズッ友だぞ。」
とぎこちなく返事してしまった。
しかしそれでもマルクは最高の笑顔をこちらに向けてくれた。
こういう友達は本当に大切にしていかないとな。
俺は静かに心にそう誓った。
すると体に突然ヒリヒリとした感覚が走り出した。
これはいったい・・・。
それに何か嫌な予感がする。
「なあ、なんか突然ヒリヒリとし始めたんだけど。それになんか嫌な予感が・・・。」
俺がそういうと女性冒険者は突然腰に刺していた剣を取り出して俺たちに、
「今すぐ逃げろ!」
と言った。
俺たちは混乱して動けなくなっていると突然荷車が宙に吹き飛んだ。
そんな中その女性冒険者は俺たちを抱きかかえて荷車が吹き飛ぶ前にの外に脱出したから俺たちは何とか無事でいられた。
無事に脱出できた俺たちは起き上がると衝撃的な光景を目にする。
なんと目の前で巨大なクマと狼が混ざったような魔獣が俺たちの乗っていた荷車を食べていた。
そして俺たちはそこでとあることに気付く。
するとマルクが、
「あっ、あ、か、下半身が・・・。」
なんと俺たちを助けてくれた女性冒険者の下半身があの巨大な魔獣に食べられてしまっていたのだ。
流れ出す大量の血。
飛び出ている内臓。
だんだん冷たくなっていく体。
そして完全に生気を失った目。
それを見た瞬間俺は吐きそうになった。
だがその前に早く逃げないと次は俺たちがそうなる番だ。
でも見た目でわかる。
あれは間違いなく足が速い。
道を引き返したり畑の方に逃げたら間違いなく俺たちは食い殺される。
だとしたら・・・。
「マルク!森の方へ逃げるぞ!」
俺はビビって動けなくなってしまっているマルクを無理矢理起き上がらせた。
そして何かに使えるかもと思いあの女性冒険者が使っていた剣を持ってマルクと一緒に森の中へ向かって走りだした。
俺たちはとにかく走った。
体力が切れるまで走り続けた。
そうして俺たちは何とかあの化け物から逃げ切ることができたのだった。
いや、たぶんあの化け物ははじめから俺たちのことは気にしていなかったのかもしれない。
あの時は焦っていたから気づかなかったが今振り返るとあの魔獣が俺たちを追いかけてくる音がしていなかった。
でも俺は逃げて正解だったと思っている。
「は、はあ。なんとか、逃げ切れたな。」
俺がそうマルクに聞くとマルクは、
「う、うん。そ、そうだね・・・。」
と不安そうな返事をした。
おい、なんでそんな不安そうにしてるんだよ。
あの化け物から逃げれたからもっと安心してもいいんじゃない?
というかなんで息切れしてないの?
そんな風に正直いろいろ言いたいことがあったが俺はそれを言う体力がないほどに疲れてしまっていてその場に倒れ込むように座り込んだ。
するとマルクが、
「逃げ切れたのはいいけど、たぶん休んでいる暇はないと思うよ・・・。」
と言い出したのだ。
「え、なんで?」
俺がそう聞くとマルクは真剣そうに話し出す。
「レオンはここの森の名前を知っている?」
森の名前?
まずいな。
俺はそんなことを覚えるのは無駄とか思っていたからまったくもって知らないんだよな。
もしかして「魔女の森」とかやばい名前をした森なのか?
そんなことを考えていると俺は途端に不安になる。
それに気づいたのかどうかはわからないがマルクは続けてこういった。
「ここはゲファール樹海。別名『魔獣の森』だ。」
その言葉を聞いた途端俺は背筋が凍る感覚がしたのと同時に今の自分たちが置かれている状況をやっと理解することができた。
そしてマルクは続けてこういった。
「そしてさっき襲ってきた魔獣はグリーリル。脅威度Aランクの魔物だ。あの大きさと額や腹の模様からしてその中の最上位種であるアルファグリーリルだと思う。もし本物だったら脅威度S+の魔物になる。」
アルファグリーリル?
最上位種?
脅威度S+?
やばいのはわかったけどまさかそんなすごいやつだったなんて。
俺が驚いているとマルクがそんな俺にとどめを刺すようなことを言った。
「そしてあいつこそがこの森のボスだ。」
え、ボス?
つまりこの森全体があいつのテリトリー?
え、ほんとにやばい。
生きて帰れるの?
俺まだ死にたくないよ。
まだやりたいことがたくさんあるのに。
ちょっとそれはないって。
俺は・・・。
「レオン!少しは落ち着いて!」
俺はマルクのその声で何とか正気を取り戻すことができた。
正気になった俺を見てマルクは少し安心したようだった。
「とりあえずどうするの?俺はもう疲れて動けないよ。それにこの森に入ってから方向感覚が狂っててどこから来たのかがわからないんだよね。」
そうこの森はどこも同じ景色に見えるのに加え日光が入らないせいで方向感覚が狂ってしまうんだ。
そしてさっきの全力疾走で俺の体力はもうゼロに近い。
ここからどうすればいいんだ・・・。
俺たちはしばらく考えた。
するとマルクが、
「とにかく歩き回ることにしよう。この場にとどまっていた方が危険だからね。」
と険しそうな表情でいった。
「でも、俺はもう体力がなくて動けないよ。それはどうするの?」
俺がそう聞くと、
「おんぶするしかない。大丈夫こう見えても体力と筋力はあるから安心して。」
と少し不安そうにマルクが返事をした。
俺はそれ以外の方法が思いつかなかったからマルクの提案に乗ることにした。
そうして俺たちはしばらく森の中をさまよった。
どこに向かっても変わらない景色。
時々感じる視線。
俺はその間マルクにとても苦労をかけてしまっているなと思い非常に申し訳なく思っていた。
「レオン。レオン、起きてってば。」
俺はその声で目を覚ます。
どうやら俺はいつのまにか寝てしまっていたみたいだ。
あーマルク、本当にごめんよ。
俺がこんなにも頼りないせいで・・・。
「あ、やっと起きた。ほらあそこ見て。何か大きな扉があるよ。」
マルクはそういいながら開いている大きな扉の方を指さす。
なんだあの扉は?
何かの建物への入り口か?
てかこんな森の中に建物?
なんか変だな。
「この森にあんなものがあっていいのか?」
俺がそう聞くとマルクは、
「まあ、確かに変だけど確実に言えることとしてあそこは外よりも安全だ。」
と言った。
まあ、確かにそうだな。
外は魔獣がうようよしていていつ襲われてもおかしくないもんな。
そう思った俺は、
「あの中に入ろう。」
と提案した。
俺が寝ている間マルクは頑張ってくれていた。
そのおかげで俺の体力はだいぶ回復していた。
今度は安全な場所でマルクに休んでもらいたい。
そうして俺の提案を受け入れてくれたマルクと一緒にその扉の中へ俺たちは入っていったのだった。
だが俺たちは今自分たちに迫っているとてつもなく険しい試練にこの時は気づいていなかったのであった。