表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

第3話:姫と私の初コラボ・ランウェイ

 朝6時、レイラ・シャルロット・ラフィーネの声が家に響き渡る。


「紬! 今日、革命の火を灯すよ! 準備できてる!?」


 金髪の巻き髪が朝日でキラキラ。

 ゴスロリドレスの裾を翻して、部屋を跳ね回ってる。


 朝からこのテンション、どうしたの!?


 私は藤咲 紬。

 眠気を覚ますように、コーヒーをすすりながら呟く。


「……レイラ、7時まで待って」


 でも、彼女は猫耳パジャマにレースのコルセットを巻いて戦闘モードだ。

 昨日まではこっちが起こす側だったのにどうしたのだろう。


 それにしても、アトリエ・ルミエール学園、入学2日目で体育館のファッションショーって……。

 この学校、完全にぶっ飛んでる!

 とんでもないとこ来ちゃったかも……。


 ◇ ◇ ◇


 私たちは、体育館に足を踏み入れる。

 ペンキと汗の匂いが立ちこめる。


 中央に15メートルの黒い木材のランウェイ。

 白とネオンピンクのスプラッシュペンキがアートギャラリーみたいに輝く。


 LEDスポットライトが青、紫、緑に点滅する。

 体育館という場所に作られた舞台は、チープなのに本気のような謎の雰囲気をかもし出している。

 ちょっとダサいのに、なんかゾクゾクする!


 ◇ ◇ ◇


 そして、私たち1年生の謎のファッションショーが始まった。

 それぞれがペアを組み、モデルと服を手がけた側に分かれて、ショーが幕を開けた。



 BGMはRadioheadの『Kid A』。

「Everything In Its Right Place」の重低音が体育館を震わせる。

 電子音の歪みが空気をピリピリさせる。


 観客席はカオスだ。

 クラスメイト、先輩、地元のファッション好きおばちゃんまで参加していて騒がしい。


 編み物のネクタイ男、羽根だらけの「ほぼ鳥」な子、

 蛍光イエローのオーバーオール先輩がスマホを構える。


 端に立っていたのは、宮ノ下 蒼真。

 ヴィンテージ愛好家の古着男子だ。


 go-getterで買ったと思われる’90年代バンドT、色褪せたブラックにロゴが剥がれかけ。

 N.HOOLYWOODの2002年「Reclamation」にインスパイアされた、オーバーサイズなミリタリージャケット。

 ヴィンテージパッチが縫い付けられたワークパンツ。

 足元は’80年代コンバースのデッドストック。

 まるで存在自体が古着屋の奥で発掘した宝物みたいだ。


 レイラが蒼真をチラッと見て、ニヤリ。


「ふふ、あのお方、as for the Luciferって感じね!」


 レイラがゴスロリな目をキラキラさせる。

 ……as for the Lucifer知ってるってレイラ、本当に何者なの? 


 その隣には東条 凪。

 コムデギャルソンとヨウジヤマモトに心酔するモード系男子。


 オールブラックのジャケットに、シルバーアクセ。

 静かに観察する姿は、ヨウジヤマモトの詩情そのものだ。


 ショーが始まった。

 最初に登場するのは――ハイブリッドとひらめき。

 それに、着心地へのこだわりを詰め込んだ、私の服。

 モデルは飛鳥 りん。

 ゆるふわな読モ女子で、丸襟ブラウスが似合うSNS強者。


 ランウェイに立つと、緊張した顔がパッと自信の笑みに。

「私は心の中で呟く。読モって……すごい」


 服は、sacaiの’99年設立時のハイブリッド美学にインスパイアされ、チョウチンアンコウの「光」を融合。


 トップスはオフホワイトのゆったりニット。

 背面に構築的なプリーツが、シャープに揺れる。

 襟元に細いワイヤーのLEDビーズ。

 りんが動くたび、ピカピカ光る深海の誘引灯。


 高校時代、sacaiの服を見つけたとき、退屈な日常がパッと輝いた――あの衝動を表現した。

 これ、ちゃんと出せたかな?


 ボトムはワイドなチノパンツ。

 裾に透け感のあるオーガンジーパネルで、ふわっと浮遊感。


 スポットライトがドレープに当たると、影と光が交錯。

 服が呼吸してるみたいだ。


 りんが中央で立ち止まる。

 ゆるふわな笑顔でウィンク。

 LEDビーズがキラリと光る。


 観客席から声が上がる。


「え、めっちゃ着たい!」

「あの光、さりげなくていい!」


 我らが情熱担当、デザイン理論のカミーユ先生が最前列で立ち上がる。


「ジュテーム! 紬!

 心の深海に灯るサプリメントよ!」


 ……先生、サプリって何!?

 でも、キラキラした目を見て、胸が熱くなる。


 舞台袖で、りんが降りてくる。


「紬の服、着てて心が軽くなった!

 SNSに上げたら絶対バズるよ〜!」

 笑顔で言う。


 私は照れ笑い。

「りん、ありがとう! でも、バズるって……プレッシャー!」


 その後もたくさんの生徒が、それぞれのファッションを披露した。

 どれも個性があふれていて、私は心を奪われっぱなしだった。



 そして――

 次はいよいよ、レイラの番がやってきた。


 BGMが『Idioteque』の激しいビートに切り替わる。

 体育館がヒートアップする。


 モデルは鳳 小夜子。ゴスロリ戦士だ。

 黒×赤のロングスカートと十字架アクセが、信念の鎧。


 レイラの服を着ると、まるで戦場の女王。

 ランウェイに飛び出した瞬間、会場がどよめく。


「うわ、なんだこれ!?」

 レイラ、規格外すぎる!


 服は、VIRGINIA CREEPER期のラフ・シモンズにインスパイアされたデザイン。


 巨大な黒いパーカー。

 赤と緑のペンキで蔦模様が絡み合う。

 コンクリートを突き破る生命力だ。


 フードの縁はわざとほつれていて。小夜子が歩くたび、糸が暴れる。


 パーカーの下は、破れたデニムと白いチュールのスカートに黒い蔦のデザイン。

 肩から腰まで、まるで蔦が這うような、黒いネックレス。


 足元はチャックテイラーCT70の黒。赤ペンキが大胆にスプラッシュされ、片方の靴紐は紫のレースアップが揺れる。


 袖口には赤い糸で「REVOLUTION」と刺繍。

 グランジ魂が爆発だ。


 小夜子が中央で立ち止まる。

 高貴な視線で観客席を睨む。


 そして――


 両手を広げたかと思うと、バク転。

 ランウェイを蹴って宙を舞うその姿に、観客がざわつく。


 スポットライトが蔦模様をバチッと照らす。

 赤と緑が、炎のように浮かぶ。


 観客席が一瞬静まる。


「すげえ!」

「カオスすぎる!」


 拍手が爆発する。


 カミーユ先生が椅子に立つ。

「ブラボー! レイラ、これは魂の革命よ!」


 舞台袖で、レイラがマイクを握る。


「これぞ革命! 魂で縫い、蔦でコンクリートを突き破る!」

 金髪をなびかせる。ゴスロリドレスはレースに切り込みが入り、VIRGINIA CREEPERのエッジ全開だ。


 小夜子が降りてくる。


「レイラの服……私の“誓い”に火をつけたわ」

 クールに言うけど、目がキラキラ。


 私は呆然としながら思わず言葉が出た。

「革命家と戦士、ヤバすぎ……」


 ほんと、レイラと小夜子の迫力に、笑っちゃう。


 ◇ ◇ ◇


 そしてショーのラストがやってきた。

 最後は、私とレイラのコラボ服。徹夜で作ったから頭フラフラ。


 BGMが『Motion Picture Soundtrack』の幽玄なピアノに変わる。体育館が深海みたいに静まる。


 モデルが登場。レイラだ。

 金髪を揺らし、布と一緒に感情ごと歩いてくるような、あの圧倒的な空気。


 会場が一瞬静まる。


 やばい、緊張やばい。


 ……でも、きっと大丈夫。


 トップスは異素材を組み合わせたハイブリッドな構築ジャケット。

 オフホワイトのウールニットをレイヤードし、肩から流れるドレープが柔らかく揺れる。

 襟元にはチョウチンアンコウの光ファイバー。青と紫のほのかな輝きが、静かに灯るように滲む。


 レイラが「光は魂の鼓動!」って増やしたけど、きっとさりげない革新にハマってるよね?

 ボトムはレイラのグランジなロングスカート。破れたデニムと黒チュール。裾に蔦とLEDビーズがチラチラ光る。

 ウエスト構築ベルトパネル。シャープなシルエットだ。

 足元はCT70の黒。赤ペンキと紫のレースアップで、計算と遊び心が融合。


 レイラがターン。光ファイバーが青と紫の尾を引く。蔦のLEDが床にほのかな輝きを散らす。


 観客席から声が上がる。


「静かだけど爆発してる!」

「完成度やばい!」


 カミーユ先生が叫ぶ。

「ジュテーム! 紬とレイラ、新次元よ!」


 レイラが叫んだ。

「戦乱に一つの風穴を開ける服、世界を変えるの!」


 私は心の中で苦笑いしながら、でもちょっと誇らしく思った。

 ――世界はさすがに大げさ。でも、嬉しいな。


 ……だけどこのときの私は、

 レイラの言う“戦乱”や“風穴”の意味を、まだ知らなかった。


 体育館には熱気が渦巻き、観客がざわつく。

 そのとき、後方の照明が薄暗いエリアで、ゆっくりと人影が動いた。


 黒のハットに、艶のあるシルクロングコート。

 顔は大きなサングラスで隠されている。

 コートの裏地に、赤い糸で刺繍された言葉がちらりと見えた。


「Kindle the Soulfire, and the world shall burn.」

 魂に火を灯せ、世界は燃え上がる――。


 オーラというのは、こういうことか。


 カミーユ先生が振り返り、ぽつりとつぶやく。

「おや、彼女が来てたのか……」


 その“彼女”の名は――霧島マヤ。

 この学園の卒業生にして、いまパリで話題の若きデザイナー。


 マルジェラの解体美学と、エディ期Diorの物語性を融合させたコレクションで、

 “モード界の魔道士”とも呼ばれる存在だ。


 SNSでは「彼女の服、着ると心が覚醒する」とまで噂されている。


 マヤが静かに立ち上がる。

 サングラスを外し、鋭いまなざしでランウェイを見つめた。


 そして一歩前に出て、口元に笑みを浮かべる。


「藤咲 紬、レイラ・シャルロット・ラフィーネ……か。やるじゃない。

 特にこのジャケット――」

 そう言って、レイラが着ていた光ファイバーのジャケットを指差した。


「ねえ、それ。私に、くれない?」


 軽くウィンクした瞬間、観客席がざわつく。


「え、今……くれって言った!?」

「嘘でしょ!?マヤが欲しがってる!」


 ランウェイの端にいたレイラが、すぐに動いた。

 ジャケットをバッと脱ぎ、フリルのゴスドレス姿のまま観客をすり抜けてマヤの元へ。


「これは運命、ですわ!」

 そう叫んでジャケットを差し出した。


「革命とサプリの共鳴、マヤ様に託しますわ!」


 マヤは驚いた表情を浮かべたが、すぐにニヤリと笑う。

「本当に……いいの?じゃあ、遠慮なくいただくわ」


 光ファイバーの発光ラインを、指先でそっとなぞる。

 刺繍の「魂の火」が、まるで彼女の手で再び灯るように、わずかに光を返す。


 私は思わずつぶやいた。

「レイラ……ほんとに、あげちゃったんだ……」


 その瞬間、マヤがジャケットを肩にかける。

 体育館が爆発したような拍手と歓声に包まれた。


 レイラは私の手をつかんで、はしゃぎながら飛び跳ねる。


 ……そのとき、私はなんとなく感じていた。


 この熱気が、今日のショーだけでは終わらないこと。

 この一瞬が、私たちの運命を、確かに変え始めたことを――。


 そして私たちは、まだ知らなかった。


 この霧島マヤが、

 いずれ“師”として、私たちの前に立つ日が来るなんて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ