夏の少女、浜辺にて。
浜辺の上に一人の少女が立っている。
夏生まれの その少女は
太陽の下 一人 麦わら帽子
少女以外に 人間はもういない
何もかも 暑くなって 暑くなって
みんな溶けていった。
サラサラとした金髪の三つ編みが
彼女の柔らかな 頬をかすめて
風だけが いつものように
そよいでいた。
海は穏やかで、
何もなかったかのように
波の音だけが 響いている。
鼻の上のそばかすを ちょっと
なぞって
少女は美しく微笑む。
世界はこんなに
晴れやかだったと
誰もいなくなってから気づけた。
ずうっと こうでいい。
ずっと これでいいのだ。
ヤシの木は 風にそよいで
楽しそう。
ヤドカリは のびのびと
背を伸ばしている。
青く、澄んだ
海と空。
足元の砂粒すら
生き生きと動いているよう。
こんなに 美しい世界なら
最初から 受け止めればよかった。
人間がいなくなって
雑音がしなくなってから
やっと 世界の音に気づけた。
真夏の空は どこまでも 続いていく。
海も どこまでも 続いていく。
この夏は みんながいなくなってから
初めて 美しいものになったよ。
もう 歩き出せる。
一人分の 足跡だけが
砂浜に 落ちていく。
もう いっぽ、
もう いっぽ。