03_会話
【東京都八王子市 某山中 混血人種本部】
「あなた、転生してきたんでしょ?」
金髪の少女が近づきながらマークに声をかける。
「代表って……」
マークはその見た目の幼さから驚きを隠せなかった。
「話……聞いてるの?早く教えなさい…?」
カチャ
レイナ代表は拳銃を取り出し、マークに向けた。
「いや!?ちょっと待ってくれ!話すから……。」
「はい!良い子ね!」
彼女は笑いながら銃をしまった。
『なんて、物騒なものもってんだ……このガキは。』
マークは心の中で思った。
「私はもともと、日本の国会議員だったんだ。前に居た世界とは日にちも時間もずれていない。」
「へぇ…いくつだったの……。」
彼女は偉そうな口調で聞いてきた。
「54歳だが…。」
「うわぁおっさんじゃん……」
レイナ代表は、仕事帰りのお父さんを見る反抗期の娘の様な目で見てきた。
「んで?刺されてこっちに来たってわけ?」
「そうだ。」
「そっちの世界では、私達みたいな混血の人は居ないの?」
「ハーフっことか?それなら居るには居るが……。」
その時レイナ代表は目を落とした。
「こんな、状況じゃないってことね……。」
「まぁ……」
マークは口が籠る。
「あなたの世界での第二次世界大戦の歴史ってどうなってるの?」
「それは、真珠湾から始まって、1945年に敗戦って流れだろ?」
レイナ代表は目付きを鋭く変えた。
「やっぱりそこが違うわね。この世界では、終戦したのは1947年。長野にあった基地が陥落して戦争は終わったわ。」
「本土決戦と言うことか!?」
「そう。その後に、大量の外国人が移住してきた。そして、私の世代まで続く日本人と西洋人の混血が大量に生まれたの。」
「でも、どうしてこんなにひどい扱いを?敗戦国には変わらないんだ、こんなに殴られたりして、米国が許すとも思えない。」
「……」
レイナ代表は少し間をおいてから話した。
「1960年だったかな……。日本純血連盟っていう政治団体が発足した。そして、ごちゃごちゃしてた日本政治を武力を持って制圧したの。もちろん、西洋諸国も対抗してたんだけど、本国の人間を人質に取られて……。」
「撤退……。」
マークは静かに呟いた。
「そう。人質の本国の人と引き換えに撤退していった。でもそれは、混血は含まれていなかったの。親だけ本国に連れていかれたり、親を連盟に殺されたりして。ここはそういった取り残された混血が集まるキャンプみたいな所なの。」
「……。」
マークはレイナ代表の話を聞き入っている。
「だから、この世界の混血として転生したあなたは本当に運が悪いわね。」
「そう……だな。」
マークは自身が政治家であったときを思い返す。
「私が議員だった時、一般の市民の生活なんて考えなかったな……。いかに自分が私服を肥やせるか、そんなことしか考えて来なかった。そのつけが回ってきたのかもな…。」
「さいてぇ、だね……」
またしてもレイナ代表の視線が厳しくなった。
「まぁ……でも……」
レイナ代表が、静かにマークの目を見つめ直した。その瞳は赤くまっすぐに見つめる。
「その罪を、この世界で償えるかもね……」
レイナ代表は静かに笑う。
「そうかもな…。」
しばらく沈黙の時間がながれる。
マークはずっと聞きたかった事を聞くことにした。
「そういえば、君はこのキャンプの代表らしいが…。なんで、その歳で代表なんかに?」
「どう見ても、年下の男の子にそんなこと言われるの腹が立つわね。」
レイナ代表は少し難しい顔をしながら言った。
「私…伝統ある家庭の生まれでさ。」
「伝統……?」
「鷹司レイナ、私の名前。それで、ある程度の金銭的な余裕もあったし、代々物資も多くもってた。ここ数年で、差別が更に悪化してきてて、同じ混血の人達に物資を渡して回ってたら、『レイナさんに付いていく』とか言い出す人が出てきて、それで私が公家の家系だって知ったら『このグループをまとめるのはレイナさんしかいない!』『レイナ代表万歳!』とか言い出して。」
「なるほど……それで……。」
「私だってこんなに目立つことはしたくないのよ。ここには誰もいないから話すけど……。私はまだ18よ…?」
「君も大変なんだな……」
マークは同情するように話す。
「でも……私はみんなを差別から守りたいの。ここにいる人はみんな笑顔、そして差別、迫害と闘いたいって思ってる。そんな人達を私は導きたいの……。」
今までの会話よりも強い口調でレイナ代表は話す。顔も赤くなっている。興奮しているようだ。
「凄いな……君は。俺は自分の事しか考えて来なかった。口先だけで、良いこといって、何も国民の為と思って行動して来なかった。」
「ありがとう……。その見た目で言われるの少しイラッとしたけど。素直に受けとるわ。
「そこは勘弁してくれ……」
「良かった。本音を言えて。ここに昔からいる人にはそんなこと言えないから……。今日は傷もあるし医務小屋でゆっくり休んでて。」
そう言われ、マークは医務小屋へと戻っていった。