3「護衛任務first」
3「護衛任務」
「じゃあな若僧。お前さんにはまた会いそうじゃ。神龍のご加護があらんことを。」
「またな婆さん!」
昨日の夜、魔法の真髄を見せてもらったあと、何故か婆さんの自慢大会を開かれて、彼女が他にも火と風の適性も持っていて、そのことを見せつけられた。加護も無しで三属性使えるのはシュハルト・バーネインだけだそうだ。そのあと、婆さんの家に止めさせてもらったのだ。
「思った以上の傑物だったな。先を急がねば。商会の約束の時間に遅れる。」
俺は足を速めた。
✴︎ ✴︎ ✴︎
「イトシ様ー。こちらですぅー。」
日本で言うところの朝5時ごろ、先に商会の人が待っていてくれていた。
「商会長様。おはようございます。」
「こちらこそ、おはようございます。黒蛇に会うかもしれないと言うのにさすが、人で家を貫かせた人は違いますな。 こちらへ。」
この皮肉を含んだ言い方、商会長と言うだけはある。
「見ていたんですか。お人が悪い。」
バレてしまっては仕方ない。素直に謝ろう。
「いえいえ、死者も出ていませんし、強盗犯も捕まえることができました。でも犯人の方は容体がひどくてですね。全身の骨という骨が折れていました。幸い家が逆にクッションとなったようで死んではいません。あと、逃げてしまわれた時にお金を近くに置いていましたよね?」
「はい。家の建て直しに使ってもらえればと思ったのですが…………。」
「あんな置き方では誰もわかりません。私が見ていたからよかったですが、普通の人だったら怖くて使えませんよ。」
それは悪いことをした。そして商会長の話は続く。
「それと、イトシ様が置いて行かれたお金は量が多すぎます。あれだけの額だと、あと家が千戸は建ってしまいかねません。ですから…………」
すると商会長の部下から金の入った袋をもらった。
「被害額を引いた残りは全てお返しします。それとあの量だと嵩張ると思ったので、全て聖金貨に両替させてもらいました。」
これは助かる。有金のほとんどを置いて行ってしまったから、困っていたのだ。
「ありがとうございます。」
「いえいえ、そんなことはございません。 予定より早く来てくださったので、早めに出発しましょう。こちらの竜車に乗ってください。」
そう言って、商会の前にある竜車に乗るように言われた。その竜車は街中を歩いているのもより二回りほどデカく、これに数人しか乗らないとなると広すぎるほどである。これが金持ちの竜車かと感心していると、……
「イトシ様。出発してもよろしいですかな?」
まずい!竜車を見ててボーッとしていた。
「もちろんですよ。商会長。行きましょう。」
と、合意した後、竜車は動き出した。乗組員は俺と商会長、そして運転手兼執事の計三人だ。 すると動き出している時に一般員が口を開いた。
「どうか必ず長を守ってください。」
命令のようで必死さのある声で言われ、これが三大魔獣と会う可能性のある危険な旅路であることを再確認した。
「もちろん、必ずお守りしますよ。」
そう言って俺は気合いを入れ直した。
✴︎ ✴︎ ✴︎
門番を素通りし、普通に街道へと出た。
このジジイ、すでに門番は買収済みということか、食えない爺さんだ。
「お腹は空いてませんかな?これをどうぞ。」
そう言って、俺は美味しそうなサンドイッチをもらった。トマトに似た植物のトメトとキャベツに似たキャビル、そしてチーズの挟んだ簡単なサンドイッチを渡された。今考えると俺はこの世界に来てから何も食べて居ない。…………というわけで頂こう。
「いただきます。」
やはりこの材料で不味いわけがない、丸一日ぶり、いや権能も含めたら2日ぶりの食事だ。舌が落ちるとはこのことかと思うほど絶品である。
「美味しかったです。ありがとうございます。」
「それはよかった。でも実はそれ以前よりも質が落ちているんですよ。」
そうなのか、こんなに美味しいのに…………。
「なんでですか?」
「実はルグニカのチーズのほとんどは北の国であるグステコ産なんですよ。ですが最近、国内が荒れているようで生産が落ちているのだとか。というか穀物やチーズなどのほとんどはグステコ産ですね。」
「では、ルグニカは何を輸出しているのですか?それだとグステコが一方的になりそうですが?」
「ルグニカは基本的に魔鉱石や木材を輸出していますね。あちらは寒いので、魔鉱石の熱で暖を取る必要があり需要があるんです。」
なるほど確かにルグニカは魔鉱石の産出地が多いなとは思っていたが、主要な輸出品だったのか。商人の話はやはり面白いな。
「では、他の国はどうなのですか?」
「イトシ様は好奇心が高いのですね。商人に向いておりますよ。」
やめてくれ、商人にはなりたくない。俺がなったらすぐにノイローゼになって死にそうだ。絶対ならない。
「それと他の国についてですね。まず南にあるヴォラキア帝国は基本的に武器と果物ですかね。最近は戦争中なので交易はしておりませんが…………。そして西にあるカララギは少し変わっておりまして。昔の偉人であり、カララギの始まりである荒地のホーシンから始まったとされる不思議な文化と道具、そして各国の技術や作物を自国生産化することで幅広い品を扱っています。」
「さすがは商業国家カララギといった感じですか。」
「そうですね。私もカララギに行ったことはあるのですが、カワラや木を中心に作られていて、別世界といったものでしたな。」
荒地のホーシン…………、十中八九日本人だろうな。スバルや俺がいるのだ。昔いてもおかしくない。そうじゃないと瓦なんて使わない。会ってみたかったな……。
「それと商会長。俺のことはイトシではなく、カケミチの方で読んでくれませんか?前いた場所ではカケミチの方で呼ばれていて、慣れないんです。」
「そうですか。ではカケミチ様、お渡しするものがございまして。」
そう言って俺に一枚のカードが渡された。
「これは?」
無地の板に、金の舗装ががしてあり綺麗だ。
「お約束の身分証でございます。効力は明日からとなっていますが登録はほとんど完了しました。あとは貴方様の血を一滴かけることでカードの術式が稼働し、身分を保証できます。」
先払いとは気前がいい。いや、信用を得ようとしているのか?そんな風に考えながら指を噛み、血を垂らすと、カードがひかり模様がスーウェン商会のロゴに変わった。
「これで99パーセント、登録完了です。」
そう言われると異世界の住民になった気がして、感慨深かった。