4「その旅、破壊あり」
屋敷から人のほとんどがいなくなり、1人大広間で佇むものがいる。
「俺も動かなきゃな」
屋敷の隅にあった物置へ行く。今の俺は権能を常時発動できないので、腹は減るし、睡眠も必要とする。だからこそ必要ものは多くある。食料に水、そして寝床だ。屋敷のものを集めれば簡単に集まる。3日は行けるはずである。それと忘れてはいけないのが変装である。だが、これはそこまで気を付ける必要はない。元々、目立つ顔ではないし、大罪司教としての被害が大きすぎて逆に情報が錯綜しすぎて形が定まっていない。なので髪の色を変えればバレることはないだろう。倉庫を漁れば、レグルスが妻に使ったであろう染色液があったので髪を黒く染めた。
さて、出発するとしよう。俺は屋敷に火を放ち、下山した。
あんな場所消えたがいいだろうと思ったのだ。
冬が明けた初春のこともあり、森の木々には雪が残っていた。肌に針が刺さったような痛みがある。元妻たちは大丈夫だろうか?俺が根を回して、今日ぴったりに行商人がつくようにしたからなんとかなるだろう。
「俺はどうやって移動しようか?」
権能を使えば人の目に見えないほどのスピードで走ることができるがカルステン領までの距離は竜車で3日ということしか知らない。竜車の時速が50キロほどなら大体2000キロほどだろうか。権能の力で全力疾走すればマッハ10ぐらいだから秒速3キロかそこらだろう。つまり一日15秒だとして一日に45キロ進めて、歩くのも加えれば80キロ進むことができる。でも……
「3週間か。長いな……どうにか出来ないものか。」
ナツキ・スバルが来るまで5ヶ月と少ししかない。なので、3週間も移動に使うのは避けたい。
地図を見れば南東に軍事都市ガークラ、そして北西に少し行くと商業都市ピックタットがある。
「ピックタット……この距離なら今日の権能だけで行けるかも知れない。」
商業都市なら竜車がたくさんあるだろうから、そこで竜車を捕まえて行けばいい。そうすれば3日で着くだろう。ならすぐ実行に移さねばならない。
「獅子の心臓、発動!」
当然ながらマッハ10で走れば、周りに衝撃波を加えながら地面を抉ることになる。できれば、誰にも見られたくないし,迷惑もかけられないので一旦北に3秒ほど行ってから西に転進した方がいいだろう。
凄まじい爆発音と共に駆ける。
「5……4……3……2、左折して解除。」
やはり使いやすい。慣性の法則が存在しないので解除しても真下にちゃんと立つことができる。もしかしたら解除した瞬間、音速で地面に激突すると思ったが早計だった。
「さてもうひと踏ん張りだ。」
地面を抉りながら9秒走った後、ついにルグニカの第四都市、商業都市ピックタットの城門を見ることができた。