5「護衛任務final」
黒蛇の討伐とまではいかないが、撃退することはできた。圧勝までとはいかないが約束は果たした。結果としては万々歳だ。
「カケミチ様、何はともあれ命を救ってくださりありがとうございます。元々黒蛇には合わない予定で、盗賊から守ってもらうために頼んだのですが、あそこまで強かったとは驚きました。」
「こちらも黒蛇から逃げることができてよかったですよ。次はあんなことごめんですね。」
と言っているがまた会うだろうな。あのクソ魔女がそう簡単に引くとは思えない。黒蛇を回収したのもそれが理由だろう。
「少し不躾なことを聞いてもよろしいですかな?」
商会長が気まずそうに口を開く。
「カケミチ様はどこの裏社会から来られたのですか?いや、何故そこまで強いのですか?」
よく聞こうと思ったな。裏社会出身とわかってて聞くとはワンチャン殺されても仕方がないぞ。でも……
「俺は昔、殺されることなんて滅多にないところにいました。勉強だけすれば人生何とかなるみたいなそんな世界です。でも俺は勉強がそんなに得意じゃなくて、頑張って地元じゃー有名な学校に行ったんですけど俺のバカさ加減が余計浮き彫りになって、俺はこれからどうなるんだろうって思ってたんです。そんな時に好きなものに出会って人生生きてても悪くないと思えてきてたんだ。でも、いつも間にか俺の最も嫌いな奴になってしまって、これからどうしようってまた思うようになって、やりたいことも特になくて。しかも前と違って俺がいたら周りに迷惑がかかるかも知れないってわかって俺はこの世界にいてもいいのかと疑問が俺に刺さっているし、中途半端に強いせいで普通には生きれないし、何もわからないんです。何をすればいいかを。だから今、それを探してる最中なんです。」
「カケミチ様……。」
知らない人が聞いたら意味のわからない会話をしてしまった。
「カケミチ様。」
商会長が何か言おうとしている。意味がわからないという怒りだろうか。確かに質問に対する答えではなかったし、仕方がない。
「貴方に何があったかは私のような凡人にはわかりません。でも長年生きているこの老体からなら言えることがございます。 好きに生きればいいんです。周りの目も気にしないで、誰かに不幸が起きても俺には関係ないと考えながら生きればいいんです。商人から言わせれば、人の根源は欲です。あれが欲しい、あれがしたい。そんなことが人を動かし、人生を作るんです。だからこそ周りを気にするなんて愚行する必要ないんです。少なくともそれが他の誰かのためになるのなら誰も文句を言うことなんてできないと思います。好きに生きてくださいカケミチ様。」
胸にグッとくるものがある。熱いものが目から出てきそうだ。
「ありがとう、ありがとうございます。」
「そんなことありません。私は何もしていませんから。」
本当にこの人は商人に必要なものを全て持っている。そう思えるほど。今の言葉嬉しかった。
「カルステン領で降りられるのでしょう。ならまた私がそこで商談をする機会があったら会いに来てください。できる限りの援助することを約束します。貴方は一人のお客様である前に、私の恩人なのですから。」
「ええ、お金を沢山用意させてもらいますね。」
2日目の夕日が沈み始めている。
* * *
三日目の朝、待ちわびたカルステン領に入った。
「カケミチ様、着きましたよ。カルステン領です。」
まだ、この世界に来て早起きが慣れない。時計もないのによくこんな早く起きれる物だ。
「着くのは明日だと思っていましたが、こんな早く着くとは思いませんでした。」
「実は昨日、黒蛇を退治した後、内の執事がずっと怖がっていましてね。休みをとらずに走ってたらこんなに時間を短縮できたんですよ。」
「先日はお恥ずかしいところをお見せしました。」
執事が遠慮気味に言った。
「早く着いてよかったですよ。」
前領主メッカート・カルステンが街の基礎を盤石にし、その盤石性をもっと強くしようとしているのがクルシュ・カルステンだというのが民衆の考え方らしい。
だが実際はクルシュ・カルステンの手腕は父を大きく超えており、国の政治の中心にたった2年足らずで踏み込むことができた天才だとは誰も知らないだろう。
それらが公になるのは王選が始まってからだ。
街並みはザ・西洋といったものでレンガを主体とした建物が連なり、大きな高貴そうな建物には様々な刺繍が施された立派なものが多い。 イギリスとフランスの街並みを足して二で割ったような感じだ。
「何やら以前来た時よりも街が騒がしいですな。何かあるのでしょうか?」
商会長が疑問符を頭に浮かべている。
ピックタットと比べているからか街が騒がしいとはあまり思わないが、長年の商人からしたらおかしいのだろう。
少しして竜車の乗り合い場に着いた。
「カケミチ様、寂しくなりますがここでお別れです。」
商会長がなにやら悲しそうな顔をしている。死地をいっしょに乗り越えて吊り橋効果が起きたのかもしれない。
「また、お会いしましょう。」
と、おれは手を振って中心街で向かった。こういうときに言葉あまり要らないはずだ。それが男の友情だろう。
「お元気でカケミチ様、次あったときには有り金をむしり取る用意をしておりますねー」
……いやそれは違うだろーー! と、俺は思ったのであった。
次回、2月17日
あんまりこういう話得意じゃない