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4「黒蛇と巨悪」

4「黒蛇と巨悪」


「起きてくださいカケミチ様。起きてください……。」


 そんなうるさい声で俺は目が覚めた。


「あぁえ、ここはどこ、私は誰、また知らない天井だ。」

「何を言っているんですか、引っ叩きますよ。」


 俺の前世での定番ジョークが伝わらないとは、この男 やりおる…………。まぁーそんなことは置いといて、現状の確認をしよう。

 俺はスーウェン商会長に頼まれて、身分証の発行を条件に黒蛇から守っているのだ。そして今日は2日目、昨日はずっと雑談をしていて、いつのまにか寝てしまった。結局、黒蛇のくの字もないぐらい何もなかったのだ。

 商会長とは話をしているうちに仲良くなりすぎてしまった感は否めないが、その話は置いておこう。


「商会長も今起きたばかりでしょう?頬に寝た跡が残っていますよ。」

「これ失礼、バレてしまいましたか。私も今、執事に起こされたばかりでしてね。」


 そんな話をしてご飯を食べて、また雑談をしていたら黒蛇の話になった。


「そいえば、黒蛇はいつ頃発見されたのですか?あんなに目立つ生き物でしたら、すぐ見つかるのでは?」

「それがですね。少し変で、遠くから来たというより、いきなり街道に現れたといった感じなのですよ。」


「は!」

 あれがいきなり現れただと!警備隊の目は節穴なのか。


「おかしいこともあるものですね。ルグニカは大国の中で最も街道の警備にしつこい国で道端で夜を越しても意外となんとかなるほどなのですが、今回は警備隊も現れるまで気づかなかったんですよ。そのせいで対策も遅れて街道封鎖という強行に出たわけです。」


 元々、黒蛇はルグニカの北側にあり、半魔のハーフエルフのエミリアの出身地であるエリオール大森林に大部分がいるはずだ。それがルグニカを横断して南東のこの街道に現れるなどあるだろうか?

 もしかしたら、この事象自体が俺の知っているリゼロの世界とは違うかもしれない。俺がこの世界に来たことで歴史の改変が起こったのか?いや、俺はまだこの世界で目立ったことはしていないし、変化が起こるには早すぎる。

 何か何かないか。俺に関わりがある変化…………妻の解放?いや違う。盗人の撃破?これも違う。魔女教徒を使った偵察?…………これも違う。

 ………………

 ………………

 魔女教……魔女教……


 俺の中にふと怠惰担当であるペテルギウス・ロマネコンティの顔を思い出した。そしてその俺の好きな小説のある一節…………


『福音書に刻まれし言葉が、愛を物語るそれが! ワタシに行動を決意させるのデス! 愛を貫くために、行いを貫徹するために、障害は不可欠! 障害はあって然るべき! 障害は当然の存在……! 故にこそ、ワタシの日々の勤勉さが、怠惰に抗う信仰が試される、試される、ワタシに与えられし試練のとき――! ――福音の、提示を』


「福音……福音か!」

 屋敷から一様のためと持ってきた福音をバックの中から取り出した。俺がこの世界に来てから一度も書かれていない福音。すでに魔女から見放されたと思っていたが、まさか。


 福音を開く。

「文字が消えている?!」


 福音の最後のページから徐々に文字が消えている。もうあと数ページしか残っていない。なんとかしようとしているうちに…………

 全ての文字がなくなり、白紙の福音となった。

 同時に執事が騒ぎ出す。

「長!前を見てください。黒蛇です。早く逃げましょう!」

「なにぃー!見ていなかったのか?」

「いえ、ちゃんと監視していました。なのにいきなり前に現れたんです。」


 高さは竜車と同じくらいで、上から見たらサッカーグラウンドほどのデカさはある黒蛇が100メートルほど前に現れた。

 しかもこの感じ……。


「こちらに向かって来ています。長!長!」

 半ば泣いている執事を横目に黒蛇を見ている商会長。


 だが二人が黒蛇に夢中になっている時に明らかに場違いの少女が竜車の隣の野原の上で黒蛇を遠くから見ている。光沢を出すほどの白さを持つ一枚の衣を纏い、齢10にも満たないと思われる体付きだが、神と思しき神々しさを放つ異質の少女。エミリアの故郷を壊し、ヴィルヘルムの妻を殺した本当の犯人である、嫉妬の魔女の復活を目論むカルト宗教の最高責任者。


 魔女教の虚飾の魔女


「「パンドラァーーーーーー!!!! 」」

 怒りと混乱、そして恐怖と疑問の混じった大声で俺は叫んだ。


  ✴︎ ✴︎ ✴︎


 竜車に積み込まれていた壺の一つを壊し、その破片を少女側にある壁に向かって投げた。


 破片は壁をいとも簡単に貫通し、少女を穴の空いた骸にせんとごとく飛び続け、少女に当たった。

 少女はバラバラに消し飛び、巨悪は死んだ。かと思われたが、


「貴方はどちら様なのですか?私の記憶にある人とは違うようなのですが。」


 不意に後ろから威厳のあり、頭に残る可愛らしい声で聞かれた。


「全く、どんなカラクリだ。それは。」


 俺は確かに殺したはずだ。なのに今、何事もなかったかのように俺の後ろにいる。不気味を超えて畏怖すら感じる。

 少女の話は続く

「以前の厚顔無恥なコルニアス司教はどちらに行かれたのか。貴方は奥様方全員と離婚したと聞き、はるばるやって来てしまいました。福音も貴方をレグルス・コルニアスだと認めていませんしね。」


「俺を殺しに来たってか」

「いえいえ、そんなことはありません。ただ私は知りたいのです。貴方の心境の変化の理由をその在り方を。それに私は人を殺したことなんてありませんよ。そんなに怖がらないでください。乙女もそんな顔をされれば傷つきますよ。」


 よく言う。このクソ魔女は……。

「よく言うよ。ペテルギウスを使って、最愛のフォルトナを殺させておいて。」


「おかしいですね。何故貴方がそのことを知っているのでしょうか?知りようがないと思うのですが。  …………やはり貴方、特別な存在なのですね。オド・ラグナの意思と言ったものでしょうか? いや、それも違うようですね。」


 何を意味のわからないことを。


「では試させてください。貴方がどんな人でどんな在り方を、意思をお持ちなのか。私は貴方が愛おしいのです。黒蛇にも頑張ってもらいましょう。」


「狂人がぁーー!」

 また破片を投げて、消し炭にすると彼女がまた現れることはなかった。


「何をしているのですか?カケミチ様!仕事を果たしてください。」


 商会長から叱咤を受け、我に戻った。

「今、お前の試しなどを消し炭にしてやるよ。パンドラ」


 黒蛇との戦闘の始まりである。


  ✴︎ ✴︎ ✴︎


「執事さん、そのまま全速力で前に走らせてください!」

「そんなの無理ですよ、黒蛇に飲み込まれてしまいます」


 そんなことはさせない。依頼はきっちり守ってやる。


「カケミチ様、何か考えがあるのですね。」

「ええ、必ず貴方だけはお守りします。」


 すると商会長は

「そのまま進ませろ、後戻りは許さん。」


 さすがは商人。この豪胆さは見習うべきだ。


「さて退場願おうか、黒蛇さんよ。」


「壊風!」

 業風が吹き荒れ、全てを薙ぎ倒さんが如く黒蛇に当たるが、さすがは三大魔獣、少し後ろにのけぞるだけで効いていない。

 ならば、違う技で仕留めてやる。


「アクラ」


 陽魔法の最下級強化魔法をなんとか使えるぐらいには上達した。使えば一般人がオリンピックの世界チャンピオンになれるぐらい身体能力があがる。そして竜車から降り、黒蛇の側面へと向かう。


「壊風!」

 黒蛇を中心に集めるイメージで風を起こす。

「壊風!壊風!壊風!」


 黒蛇は粘性の強いスライムみたいな生物だ。すぐに横に広がるわけじゃない。努力の末、黒蛇をテニスコートまで圧縮し、高さは三階建ぐらいになった。

 一気に仕留めてやる。

 俺の考えた三つの技の内の一つは「壊風」だ。そしてもう一つの風はより多くの代償で権能の15秒の内の1秒を使い、全てを断つか細い風のかまいたち。その名を


『断風!』


 瞬間、黒蛇が大きく二つに弾ける。すると間に竜車が通れるほどの道ができた。

「その道、こじ開けてやる。」


 二本目の扇子も取り出す。

「壊風!」

 一つ一つの体積が小さくなったのでその分飛びやすい。

 道が広くなる。

「早くあの間を行ってください。」

「わかりました!」


 竜車が走り出す。


「壊風!断風!壊風!断風!」


 連続で利用する権能の風の嵐。

 これでも死なないのが恐ろしい。おそらく斬撃じゃダメで、魔法しか倒す手段がないのだろう。

 そんな奮闘をしていると


「黒蛇、突破しました。やりましたよ長!」


「カケミチ様、さすがありがとうございます。」

 いや、まだ突破しただけだ。追いかけてくる。まだ走り続けろと言おうとした時、

「黒蛇が消えた!?」

 

黒蛇が通った跡に残る呪いが綺麗さっぱり消えている。

 また、この現象。あのクソ魔女が関わっているんだろう。

「カケミチ様、これは一体どういう……、」


 黒蛇を倒せなかった。いい武器はそうそう手放さないか虚飾の魔女め。


 するとまた後ろから

「コルニアス司教。いえ、カケミチ司教。一旦、貴方への干渉はおやめします。これだけでは貴方の在り方はわからなさそうです。 ですがこれからは魔女教徒は使うことはできないと考えてくださいね。貴方は他の者たちから裏切り者扱いされていますので、苦しいですがわかってください。これからも貴方の旅路が健やかであることを願っていますよ。」

 殺意は感じないが、内容は殺意に満ち足りている。気色の悪い言い方だ。


「長々とうるさいぞ。魔女が、俺はお前を必ず殺す。それまで首を洗って待っていろ。」

「そうですか。またこちらに戻りたくなったらすぐに言ってくださいね。貴方は前の人よりもこちらに協力してくれそうなので」

「断風!」

 

 斬撃が当たる前に魔女は姿を消した。


「カケミチ様、今のは?」

「貴方方は忘れた方がいい物ですよ。」


 また奴らには会うことになりそうだ。

   

 

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