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それでも、手を汚した私たちは

 幼少期のクリスマス、私は親の口喧嘩に耐え兼ね、 ひっそりと家の外に出た。その時思った。あぁ、この世にサンタさんなんていないんだなぁって。ドアの前でうずくまって、もう耳も鼻も手も冷たい。息も真っ白でとぐろを巻いて上に消えてく。私のことも連れて行ってほしかった。そんなことを考えてると、ぶわっと涙が出てきた。でもね、泣きじゃくってる私の耳に聞こえたんだ。鈴の音が。シャンシャン、シャンシャンって。びっくりして、顔を上げたの。そしたら、赤い服を着た人がそこに立ってた。


「サンタ...さん...?」

 その時は本気でそう思った。


「え?あー、そうだよ」


「あはは、サンタさんだ。ねぇ一つ願い事を聞いて」

「...なんだい?」

「お父さんとお母さんの喧嘩を、止めてください」

「...え?わかった」

 サンタクロースのコスプレをしたお兄さんが、警察に電話してくれたらしい。


「とりあえず電話はしたから。配達品、ここに置いとくね。サインお願いしたいんだけど、自分の家の苗字、このペンで書ける?」


「うん、書けるよ」


 幼い文字で「みやた」と書いた。


「ありがとう、えーと、良い、クリスマスを」

「...うん」


 お兄さんはトラックに乗って、こちらに軽く一瞥すると、さっき聞いた鈴の音を鳴らしながら去っていった。鈴の音の正体はタイヤにつけられたチェーンの音だった。


 数分後、サイレンの暴力的な赤色が顔を照らし、耳を痛める音を拡散させる。空を白に染め上げる雪を見ながら私は、サンタクロースなんていなくなればいいのにと思った。

 昇降口で靴を履き替えた。弘樹が先に裏門に向かって、私たち二人も後に続く。


 そこには一人の男の子がいた。高城が驚いた顔をする。


「あれ、生技、何してんの」


「あ、高城君」

 どうやら知り合いらしい。


「お前、部活は?」

「東屋の裏で昼寝してたら大きな音が聞こえて、怖くて逃げてきたんです。高城君こそ、部活動どうしたんですか?」

「あー、普通にサボり。今から俺たちでマック行くんだけど、一緒に行かね?ほら、学校からすごい近いとこの、あの坂下った先にあるところ」


 ん?今からマックに行くのか、すごい、帰りにマック。なんだろう、すごい高校生っぽい。彼らは歩きながら、話を始めた。


「いいんですか!高城君はいいかもだけど、ほかの先輩たちは大丈夫ですか?」

「え、あーいいよ、君、生技君だよね、高城から話は時々聞いてるよ」

「もしかして弘樹君ですか!僕も高城君と話しているときよく名前が上がりますよ!」

「へぇー。そうなの高城?」


 弘樹はにやにやと肘で高城を小突く。


「それはこっちのセリフなんだけど」


 いかにも青春だ。


「そちらの方は?」

「ああ、宮田さん」

「宮田さん、初めまして。」


「初めまして」

 初対面だと、人見知りが発揮してしまう。礼儀正しくて、すごいいい子そうだ。


「え、ありがとうございます」

「あ」


 ここで私の個性を発揮してしまうなんて。

「思い出しました!あなた、職員室にきましたよね、靴ひもの変な先輩だ」

「あぁ!君か!え、靴ひもの変な先輩?」

「なになに、二人とも知り合いだったの?」


「縁は奇なり、だな」

 高城も弘樹もおちゃらけて言う。まさかここで会うなんてねぇ。


「まさかここで会うなんてねぇ?」


「あー、そういうことね」

 弘樹は合点がいったかのように話す。


「あんた、よくぼーっとしてんなって思ってたけど、それが出るからずっと黙ってたのか」


 ばれたか。


「ばれたか」


「うそ、今私喋った?」

「なんかそんなこと考えてそうだなって」

「高城、ひどい」

「高城君、性格悪いですよ」

「うるさい」


 そうこう話をしている間にマックについた。夕日はもう眠り、月が身支度をし始めた頃合い。サンタクロースに願ってもこの時間はプレゼントできないだろう。私は、満足していた。



 マックに着いてから、みんなテーブル席に座った。それぞれが、欲しいものをカウンターで頼むと、他愛のない会話が始まった。学校のことだとか、先生のこととか、宿題のめんどくささとか、修学旅行を楽しみにしてる生技君への熱烈なプレゼンをしてみたりとか。私はこんなに賑やかな放課後を過ごしたことがなく、新鮮で最高だった。


 「お待たせ致しました。こちらテリヤキバーガーのセット、二つのダブルチーズバーガーのセット、ビックマックのセットになります。以上で、ご注文はお揃いでしょうか」

「「はい!」」

 元気いっぱいの返事をする。みんなお腹が減っているのだ。

「伝票をここに置いときます。失礼いたしました」



「じゃあ早速、いただこう」


「...」


 あんな光景を目の当たりにした私たちは、目の前の肉に対して、なんだか触れずらい空気を醸し出していた。だから、ここまで来る会話で、学校の死体について触れてこなかったのだ。多分ここにいる全員、分かっている。


「あれ、みなさん食べないんですか?」

「あ、あぁ食べるよ」

「うん、食べよう」


 高城も弘樹も手が震えている。二人仲良くダブルチーズバーガーを頬張った。私もテリヤキバーガーをいただく。すごい、美味しい。でも、やっぱりあの光景がフラッシュバックする。気分が悪い。モチュモチュと咀嚼する。


「そういえば、三人はどうして学校から出てきたんですか?」


「「ぐふっ」」


 みんなえずいた。


「ちょっと見えちゃったんですよね」

「ああ、それはだな...」


「落としたの、あなたたちですか」


 場に緊張が走る。高城は言った。


「お前、確信してるだろ」

「...はい」

 生技君は少し笑った。


「そうだよ、驚いた?」

 確定させたのは弘樹だった。


「やっぱりですか。まぁ、だからといって、僕も人のことは言えないんですが」

「何があったんだ?」

「あなたたちにならいいか、まず僕は東屋の裏で昼寝をしてたんですけど...」


 生技君は手振りを交えて面白おかしいように語り始めた。驚きの連続だったが、二人は無言で聞き続けた。時折、話が重なる部分があり、盛り上がりを見せた。その話し合いは、傍から見れば賑やかな高校生たちとして見れるが、内容は高校生にふさわしくない、犯罪者らの独壇場であった。


「...って感じで、先輩たちを見かけたわけです」

「なるほど、タイミングが違ったら会わなかったわけか」

「はい」


 マックに似合わない内容だった。だが、今食べてる肉の味は、先ほどと比べたら濃く感じ、喉を通る抵抗はさほど感じなくなっていた。それはみんなも同じだったようだ。ハンバーグを食べ終える。若くして犯罪者になった彼らは、手がひどく汚れていた。


「みんな、手、すごい汚れてますね」


「...あぁ、そうだな」


 平穏な日常が続くはずだった。それでも、手を汚した私たちは、今、何を思っているだろう。


「ティッシュありますけど、皆さん使います?」


「えまじ!生技、気が利くな」


「生技君ごめんね、使わせてもらってもいい?」


「お、生技ありがとう」


「はい」


 高城が手を伸ばす。


「どうも、あ...」


 生技君のドリンクが中身をぶちまけながら地面に落ちる。私たちの足に少しかかった。


「...ごめん」


 こうして問題は、また、一人から始まる。

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