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七   スリーセブン


 ガチャガチャと資材が並べられる。

 バッテリーに繋げられた幾つものコード。椅子にマイク。キーボードやドラムセットを組み立てる。


 ちゃっちゃっとできるからと聞いていたキトは時間ギリギリに飛び込んだことを後悔した。制服の上着を脱ぎ捨てて、路上に停められた恭介の兄の車から、次々と楽器や譜面立てを運んでいく。

 駅裏の広くなった歩道は、車が寄せられる車道から地味に遠く、煉瓦造りの地面がカートの車輪を飲み込んで不規則にはぜる。加えて黄昏る空に視界が奪われていく。

 

 メイクに(いそし)む女性陣を横目に、キトは細くとも男だと運搬に励んだ。

 

 プォーーーー。歪んだ音をチューナーで修正し、何度も合わせていく。緊張で震えるかと思っていたが、ポカポカと息が上がるほどの準備のおかげで、案外に冷静な自分に微笑む。


 うん、悪くない。


 潤も弦を弾いて音の確認を済ませると、ギュイーーーンとエレキらしくピックで遊び、キトと目を合わせる。


 たった一時間の路上ライブが準備のおかげで四十分を切ってしまった。けれど、ボーカルの恭介一人にずっと歌わせ続ける訳にもいかないからと理由づけ、キトは胸いっぱいに息を吸った。


 プゥアパパ、プゥパパ、ーーーーーーー


 思い切り吹いたファンファーレに人々の足が止まる。生まれて初めての、独壇場とも言えるソロパート。ベルに震えるエイラが嬉しそうに笑い、キトは誇らしく吹き続ける。

 恭介のモンキータンバリンが軽快に拍手を誘う。ドラム、キーボードが、潤が、合流すれば舞台はファンタジーの入り口だ。


 いいな。こういうの。

 名残りを惜しみつつ、ボルテージを最高に振り切って、すっと引く。打ち合わせ通り。

 

 ゲーム音楽は途中でぶった斬っても不自然さはなく、マイが上手いことフェルマータで留めおけば、余韻さえ残る。静寂に包まれた裏道の期待は、マイクを持った恭介に集まった。


 両手を広げて小洒落たカーテーシー風の一礼。王子様キャラの彼によく似合う。彼は端的にグループとゲストペッターの僕を紹介した。甘い声に多くの女性が振り返ったように感じた。


 ジャン!

 サエコの渾身のドラムから始まるベタなカバー曲。今年一番のヒット曲だ。甲高い女性ボーカルの声を掠れた恭介が歌うと世界観が一気に変化する。


 凄い!

 舞台で鳥肌が立ったのはこの時が初めてだった。


 「自由に入ってこい」

 恭介と潤の言葉に甘えて、震える気持ちを持て余した僕は、頃合いを見てベルをあげる。まだ一曲目だというのに、玉粒のような汗を輝かせて。


「や、ヤバイ。キッショイッショ。」

 反った背を重ねた潤が呟く。

「俺、夏にさ、親とスロットやったんよ」

 何を言っているのかと眉尻を上げる。

「スリーセブン! 大当たりだったんだ。でも、今日はそれ()()()()()


 ギュヲンーーと予想外の震えを見せた潤。恭介が片手をあげて制した。サエコもマイも余裕の笑顔。跳びはねる()()()に客が一気に湧いた。



 ご機嫌なエイラが、ふわふわと舞い落ちる小雪を追いかけて、踊って歌った。白銀の髪がキラとペットの光を反射させたように見えた。


 

 

 

 

 

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