六 六角鉛筆
くだらない……。
六角鉛筆に振った数字。コロコロと転がしてはその数字を当てはめていく。
全く理にかなってない、くだらない作業。だが、それにすがるしかない自分にうんざりする。
六時間目は数学の小テストだった。
簡単に言えば数値を見つけ、それが正しいかの証明。教科書の基礎の基礎。簡単なはずのそれが今日は解けない。昨晩のことをまだ引きずっているのか? 寝不足なのか? いらいらを募らせてからの足掻きだ。鉛筆が出した数字から適当に当てはめて、正答を予想していく。偶然にも解が見つかった。結局のところ時間切れだったが、部分点はもぎ取っただろう。
「お前にしては手こずっていたな」
きひひと嬉しそうな顔の潤に眉を上げて抗議する。成績はどっこいどっこい。いや、まじめな分は僕が上。ただし要領の良さと直観力は潤が上といったところか。数学は嫌いではないから、毎晩さっと教科書に目を通すくらいはするのだが、ここ数日は心がいっぱいいっぱいでできていないことを反省する。母に何かがあろうとも僕の人生は続いていくわけで、日常は変わらないのだから。
終業のチャイム。決められた日以外は顔を出さない担任をいいことに、ササと支度をして部活に直行。三年生が引退した今、主力メンバーは僕らだ。前に出ることは苦手でも、参加することに意義がある。
田舎のこの町は娯楽がないという理由で、小学校でも部活動が行われていた。たまたま割り当てられたトランペットに縁を得て、中学高校とかれこれ六年以上も続いている。上手くはない。致命的に楽譜が読めないし、リズムが取れないのだから。それでも続いているのは、おそらく部員不足と惰性なのだ。
トランペットは小学校、中学校では花形で人気があった。だが、それも主旋律を奏でる奏者になれればのこと。小学校から一緒のルリの天才的なクラリネットを聞けば、先生や部員は彼女を軸に据えて曲を決めるのだ。だから僕が演奏できるのは引き立て役のパートペットとファンファーレくらい。ああそう、もう一人同じペットの西城も器用で上手い。
プープーピーピー音を取る。チューバの重低音が腹に響いて好きなのだが、体力のないキトは途中で腕がプルプル震える。エイラは適当な座り心地のカバンを見つけて頬づえをつくと、揺れる振動に羽根を同調させてご機嫌で聴いていた。
時計の分針が六を指す頃、僕はそそくさとここを離れて駅に向かう。さすがチキンのキト。すでに鼓動が早鐘を打つ。人生初の路上ライブ。悪いことはしていないけれど、親に言っていないことを思い出し、遅くなると伝言を打って、ほんの少しだけ気を紛らわした。
大丈夫、客寄せのワンポイント。
言い聞かせてポケットの中のエイラと目を合わそうとするが、やれやれ、呑気な妖精は気持ちよさそうに寝入っていた。
※キトは0~9までの数字を以下のように六角鉛筆に割り当てています。
・0、1 ・2、4、8 ・3、6 ・5 ・7 ・9