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血より青くて春より遠い  作者: 志村花畑
第三節「白日」
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第五項「成就」

 晴れた高い空は高すぎて、むしろ落ちてくるような錯覚のために息苦しさがあった。秋分が過ぎて日が短くなるにつれ人の息が遠景に映える。腕がもっと長ければ遠くにかざして、ぼやけた指先が全てに触れられただろうけど、腕が痛むぐらいに伸び切った神経の短さ。息ばかりが映える。


「私は多分一緒には死なないと思うよ、沙也。そんな気がする」


「そっか」


「うん、ねぇ……。うん」


「そっか……、そっか」


 遠くの木の枝が風で揺れていて、その下の灰色にわずかな彩を分け合った住宅のいくつかに落ちた影もまた揺れていた。扇風機が首を振るみたいに、その影の中だけは自分の色を忘れて安らげるから、影が揺れてくるのをじっと待っている壁は、あとから思い出せばきっと幸福の象徴だと思う。


 太陽が落ちる速さを追い越すように尺が逼迫して、なるべく早口を抑えようとしてるのが私も沙也も分かってきて、続ければ続けるほどに言葉も息苦しいばかりで、閉じるべき口がぬるい空気を求めて開きそうになる。終わりが来る、言葉が違う。今に全てが壊れてしまいそうになる。それを止めるのは、花を踏まぬを世界で一番重い確信とした帰結としての芸。きっと今だけは無理と道理が罷り通る。手を伸ばすのはその先に何かがあるからじゃなくて、伸ばせるから。それに価値があると思えるのは今私達が世界で一番深いところにいると確信できるから。そしてそれは私達が世界で一番体勢を崩さずに待ったから。


「私はね、沙也と死ぬのが幸せに思えるから、死なないんだよ」


 見るように、見ないように。二律背反の記号が許されるのをずっと待っていたよね。今だけはなにを言ってもいいよ。


「変化は救いじゃないし、救いも無く私達は変化していく。なら私達はいつ救われるんだろう。今持ってるもの、これまでの全部、もういくつ失くして、失くしていくんだろう。怖いよ。あれから、私が怖いって言いたくないって言って、どれくらい経った? もう言えちゃうよ。怖い。怖いよ。死にそびれたんだ、ねぇ、もう私達死にそびれた」


 子供だと思った。子供が泣いていた。風が吹いた。その風は私と沙也同時に吹いた。沙也の口を借りて私が言った。


「それとも全部笑って忘れてしまうしかないのかな?」

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