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血より青くて春より遠い  作者: 志村花畑
第三節「白日」
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第四項「上がる音圧」

 薬缶の口から湯気が昇る。祖母が牛乳を温めていた。


 外は何年かに一度とかいう暴風雨だった。家にある事すら知らなかった小型のラジオから聞きなれない男性の声が響いていた。停電は広範囲で起きているらしい。明かりの無い台所は薄暗く冷たい感じがした。


 祖母が私の名前を呼ぶ。猫撫で声が私には耳障りだった。差し出されたのは傍から見てて不安になる量の砂糖を加えガスで温められた牛乳。その時感じていた薄ら寒さを際立たせるように熱くて、なんだか不快だった。でも熱すぎて甘さは程よく感じた。冷める前に飲み終えてしまおうと私は一気に喉に流し込んだ。そんな私を嬉しそうに見つめる祖母がやはり不快だった。母は早く帰って来ないものかと思った。


 電気の無い家は無性に心細く感じる。もしかしたら風で倒れてしまうのではないかと不安になった。祖母が明かりにと付けた頼りない蝋燭の火は心細さに拍車をかける。激しい雨が窓を叩く音を聞いていて、祖母が何か言ったがあまり聞き取れなかった。ふと祖父の葬式のことを思い出していた。


 祖母が亡くなる数年前、祖父もまた一年ぐらい入院してそのまま死んでしまった。祖父が亡くなったのは日中だったから学校の授業中に母が迎えに来た。その日が暑かったか寒かったかは全く覚えていないけど母は少し汗ばんでいた。きっと忙しかったのだろう、言葉少なに私を車に乗せ、途中で昼食を買うためにコンビニに寄った。家に着くと、襖が取り払われ普段より広くなった居間を眺めながら、私はこれからどうすればいいのかと母に尋ねた。


 次の日、家に親戚が集まって来た。私は座布団や菓子などを用意する手伝いをして、それから親戚にお茶を入れて回った。お茶の入れ方なんてほとんど知らなかったから祖父のどういう続柄の人かは分からないが近くにいたおばさんにやり方を教えてもらった。私の入れるお茶はおいしいとやたらと褒められたがそんなはずはないのは分かっていた。徐々に人が多くなるにつれ家は賑やかになった。遠くで雷鳴がした。あの人たちはどんな顔をしているのだらう。そんなことを考えていた。


 祖母は私が不安がっていると思ったのか古びたラジカセを持ち出してきて、きよしこの夜をかけ始めた。クリスマスという季節でもなかったけれど、それぐらいしか祖母が持っているカセットテープが無かったのを私は知っていたから特に何も言わなかった。それにそれを聴くのは悪くない気がした。それから少しだけ祖母と一緒にきよしこの夜を歌った。祖母は楽しそうだったし、私は少しだけ祖母の好意に対して埋め合わせが出来たような気がした。


 歌っている最中も祖母の皺だらけの顔や、骨ばった指や、しゃがれた声や、やや薄い白髪頭がどうにも不快だった。母が帰ってきたのはそれから三十分しない内のことだった。

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