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第6話 あの時から彼女はずっと

 時は遡って入学式直後、私はクラスの雰囲気が嫌だと感じていた。まだ会ったばかりのはずなのに、女子たちが男子を囲んでイチャイチャし始めていたのだ。気分が悪くなる前にさっさと帰る準備をしなきゃ。


「ねーそこのあんた、椎名さんだっけ?」

「ひゃいっ!?」

「うわっ、ちょっとビビりすぎだしー! クラスメイトの桂木由美だけど、わかる?」

「あ……、はい、わかります」


 突然私の前に現れたのは、私みたいな地味な女子とは正反対と言える金髪のギャルだった。私が何かしてしまったのだろうか、と怖がっていると、彼女は急に話しかけてごめんねーと笑顔を見せてきた。全身に入っていた力が少しだけ抜けた。


「唯さー、まだフリーみたいだけど大丈夫なん? そろそろ誰かについとかないと危ないと思うんだけど」

「え? 誰かにつく……?」

「げー……。唯さ、周りの状況あんまし興味ない感じ?」

「それは……私、興味以前に恐ろしくて見られないんです」

「え、どゆこと?」


 そこで私からは自分がハーレムアレルギーであること、由美ちゃんからは何処かのハーレムに所属していないと危険であることを共有し合った。どうやら由美ちゃんは私がこのままだと危険であることを伝えに来てくれたらしい。とても優しいギャルだった。


「あー、そんじゃさ、いい人見つかるまであたしと一緒にいときなよ!」

「えっ、いいんですか?」

「全然おっけー! 別にあたしのライバルが増えるわけじゃないし、なんかほっとけないし! あと同じクラスなんだから敬語いらないよ!」

「う、うん! よろしくね、由美ちゃん!」


 そう、あの時由美ちゃんに助けられてから関係はしばらく続くこととなった。私は恩返しに彼女の恋が実るよう手伝いをしようとしたのだけれど、柳田先輩を中心に展開されるハーレム空間を前にすると、気分が悪くなってしまう私は無力だった。


 とある日の放課後、柳田先輩たちが遊びに出かけている所に私も流れで後からついていっていた。ついていきつつもあまり視界に入れないようひっそりとしていた所で、ハーレムの一人から提案が出た。

 

「うっし、柳田先輩と一緒にカラオケコースで良い?」

「さんせー!」

「皆、相変わらず僕の意見は聞かないんだね……」

 

 やれやれと言う柳田先輩と、盛り上がっていく女子たち。その空気に私は更に気分が悪くなる。どうにか抜けようと声を出すが、か細くて伝わらない。すると由美ちゃんが助け舟を入れてくれた。

 

「えっと、私カラオケとかは……」

「唯いいって、無理にこれ以上グループに付き合わなくて大丈夫だからあんたはここまで! ほら皆あたしの後ろについてこーい! 早く来ないと柳田先輩の隣はあたしが貰っちゃうよー?」

「あ、ちょっと桂木! 先輩を出し抜くなんていい度胸じゃない!」

「ずるーい! 私は反対の隣もらうから!」


 ありがとう、と呟いて桂木達がカラオケに向かうのを見送った。そして私は帰るために駅へと向かった。けれど、先程までハーレムの空気にあてられていたせいで足元がふらついて吐き気がしてきた。

 

「うぅ……だめ、やっぱり気分が……」


 もう少しで改札、という所で足が止まってしまう。壁際までどうにか移動して休憩するも、しばらく動けそうになかった。どうしよう、と途方に暮れていると近くで男子二人の会話が耳に入ってきた。


「ん? あの子どうしたんだ?」

「うちの制服だよな、なんか気分悪そうだぞ?」

「しゃがみこんじまった、ヤバそうだ!」

「ってお前行くのかよ!? ……俺は女子と話すの無理そうだから、駅員さん呼びに行くわ」

「こんな時にチキン発動するなよお前……、けどそれも必要かもしれないから頼む」

「りょーかい!」


 ぼんやりとする頭で会話の内容を聞き取った。誰かが気分悪そうにしているらしく、彼らはすぐに助けるよう動き出したみたいだ。その行動力は私には無いものだなぁ、なんて事を考えていると、先程の男子が自分に話しかけてきた。


「あの、大丈夫ですか?」

「……え、わ、私ですか?」

「え、この状況で君じゃないことある? あと同じ学年みたいだから敬語じゃなくていい」

「あ、うん。わかった」


 彼らが気にしていたのは、私の事だったらしい。いつも影が薄いなんて言われていたから、自分が注目されていたとは思わなかったのである。優しい声からも彼の親切心が伝わってきて、なんだか緊張してしまう。


「で、どうした?」

「えっと、ちょっと気分が悪くなっちゃっただけで……、大丈夫だから」

「大丈夫には見えないんだけど……。家に帰ろうとしてたのか?」

「はい、最寄り駅に降りたらすぐなのでご心配には……」

 

 彼の気遣いを断ろうとしたのだが、彼は更に私に歩み寄ってきた。

 

「じゃ送る、荷物貸して。あと肩貸すから、ゆっくりなら歩けそう?」

「へ? な、なんで……」

「帰るんだろ? 支えるから手を……」

「そ、そうじゃなくてっ!」


 彼は当然のように私がしてほしいと思っていた事をやろうとしてくれたのだ。同じ学校だけれど、一度も話したことが無い私に、彼は何故そこまで動けるのだろうか。

 

「どうして、そこまでしてくれるの? 初対面なのに……」

「そりゃあ、君が困ってそうだったから」

「っ!?」

 

 私はこの時、新田悟君に惚れてしまったのだった。我ながらとても単純だと思う。けれど、私にとっては初めての体験で、忘れられない出来事だった。



 家まで送ってもらった後日、彼は由美ちゃんの幼馴染だと知った。そして何より、彼はハーレムの波に巻き込まれていないらしく、男友達といつもつるんでいるとの事だ。

 この日までは転校も考えていたけれど、その選択肢は今無くなった。彼とハーレムで無い関係になるために、なんでもしてやるんだ、と私は一大決心をしたのだった。

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