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第2話 とりあえずで入ってる椎名さん

 俺は彼女の事を知っている。桂木と時々話しているのを見かけるし、何よりハーレムに対して意欲的な女子たちとは違うように見えていたからだ。今は前髪で隠れていて見えないが、ふとした時に見えたつぶらな瞳が可愛いと思い、印象に残っていたのである。


「えっと、確か椎名さんだっけ?」

「は、はいっ! 椎名唯ですっ! 名前、覚えてくれていたんですか?」

「まあ、去年同じクラスだったからな」


 俺が名前を憶えていたというだけで、椎名さんはぱあっと明るい笑顔を向けてくれた。平均より身長が低い彼女に対して、小動物へ向けるような愛らしい気持ちが浮かんでくる。


 ただ、ここで一つ残念な事実を思い出す。この学校においてどのハーレムにも属していない女子は一人もいない。そう、彼女も例外ではないのだ。一瞬浮かれた気持ちが潰されたことに悲観しつつ、確認してみることにした。


「それで確か、椎名さんも柳田先輩のハーレムに加わっている……んだったっけ?」

「……それは、その」


 さっきまで喜んでいた椎名さんだったのに、俺に釣られてなのか顔を曇らせてしまった。なんだか申し訳なくなっていると、横から桂木があー、と頭を搔きながら割り入って小声で話し始めた。

 

「それなんだけどさー、ここだけの話、唯は私のライバルじゃないんだー」

「柳田先輩の事は別に好きじゃないけど加入している……。なるほど、あれのせいか」

「……はい、あれのせいです」

「ほんっと、メンドイよねー」


 諏知仁玖凛高校の中で広まっている普通ありえない暗黙の了解の事を、生徒間ではあれと呼んでいる。その内容は、女子は誰かしらのハーレムに加わっておいたほうがいい、というものである。

 『学生は何かしらの部活に入っておけ』ぐらいの感覚でハーレムへの加入を薦められているのだ。意味わからん。


 しかし、このルールにもちゃんと根拠がある。どのハーレムにも加わっていないフリーな女子は、学校中のモテない男子達から標的にされてしまう。それはつまり、猛獣の檻に単身で放り込まれるようなものだ。

 かつてハーレムに加わらなかった一人の女子がモテない男子大勢からの猛アプローチを受け続けた事でトラウマになり、不登校にまで追い込まれてしまったという凄惨な事件があった。


 勿論この事件に学校の教員達は動いた。事件の加害者である男子達は停学等の厳罰を受けたし、校内での恋愛沙汰を禁止にした。しかし肝心な生徒達は一度恋愛の味を知ってしまい、拗らせてしまった思春期だらけであり、止めるのは困難であった。

 ならばせめて秩序だけは守ってくれという教員たちの指示によって、今の状況でひと先ずの落ち着きを取り戻したという訳だ。


 改めて思い返してみたが、やっぱりイカれてんな。この学校。


「それで、入学式の後に唯がどうしよーってなってた所を見かけて。とりあえず柳田先輩推しとけばー、って薦めたの」

「桂木の伝手で、隠れ蓑に入れてあげたってわけか」

「そゆこと!」


 実際にこの手段で難を逃れている女子は多いらしい。と言っても生徒全体の四分の三以上はハーレムの中で出し抜くために目をギラつかせているとのことである。女子の戦いとはかくも恐ろしいものである。

 

「由美ちゃん、あの時は本当にありがとね」

「いいってー、あたしも先輩を取り合うライバルにならない友達なら大歓迎だったし! 柳田先輩もおっけーって言ってくれてるし!」

「もう公認なんだな。それなら安心か」

 

 どうやら桂木は椎名さんに救いの手を差し伸べていたらしい。困っている相手を見つけたら垣根を越えて動ける所は尊敬している。ただ俺としては、やっぱりその濃い目のメイクは合っていないような気がしてしまう。

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