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ベコハ村の街並み

 夕食の片付けを終え大部屋に戻るとまた誰もいなかった。明るいうちにランプに燃料を入れておかないと。備品倉庫に出向き手持ちのランプとオイルライターにもオイルを入れ部屋に戻る。早々とランプに火を入れ、今日もらった銀色のコインを指に馴染ませながら、の書いた手品のネタが書かれたノートを読み返す。

親父はいったいなぜ僕をこの世界に連れてきたのだろうか?お母さんが生きているってどういうことなんだろうか?何時だかわからないまま、夜は更けてゆく。

 翌朝、鳥の鳴き声で目を覚ます。この世界に来て4日目、すっかりと早起きが癖になっているのは不思議だ。早く眠るからなのかな?顔を洗って来ようとトイレまで行くと、女子トイレからまた顔全体に髪の毛を下ろした女性?が出て来る。僕は思わず気絶じゃなかった、その場に倒れて眠ってしまう。どれくらい寝てただろうか?僕は目を覚ますと、そこはやっぱり異世界にある教会のトイレの前だった。夢だったなんてオチはないか。貞子を見たのも夢だと思うんだけどな。顔を洗い炊事場へと。炊事場のテーブルには蓋が開いた食材の入れ物が3個並んでいる。中を覗き込むと料理が半分以上は残っているだろうか?蓋が開いているって事はリチアが開けて司祭が先に取り分けたって事だよな。それなのにこんなに残っているって、いつも先を競うように来てる獣人の二人、人族の二人。どちらか来ていないかどちらも来ていないかだよね。とりあえず自分の食べる料理を取り分けて食堂に行くと司祭とリチア、ミレの3人が座っていた。他の4人はまだなのか。僕が席に座ると、食べましょうか。とリチアが2人に話しかけ朝礼のような光景もなく食べ始めた。あれ?4人を待たなくていいのか?そう思いつつ、皆が食べ始めているしいいかと僕も食べ始める。誰も言葉を発する事なく黙々と食べ、いつものように早く食べ終わった3人がお皿をまとめ立ち上がると、突然リチアが話しかけて来る。

「今日はこれから3人とも出かけますから、昼と夜は街で何か買って食べるように」

いきなりご飯抜き?昨日もらった銀のコインはそのためのものかよ。食堂から出てゆく3人に子供のようにごねても仕方がない。いい機会だから街でも見て来るか。

 食事の片付けを終えると、僕は水筒を手に聖堂から外に出る。誰でも礼拝に来れるようにと、休みの日であろうと扉には夜以外鍵はかけていないようだ。教会の目の前から村の外にまで続く一本の大通りを中心に、左右に4つの地区が存在している。高級店や高い宿が集中する南区。店の入り口には警備員なのか従業員なのか見張りのように立っており、僕のような身なりのものは見ることも許さないなんて雰囲気で睨まれてしまう。その先には左右西区と呼ばれる地区が大通りの左右に渡って広がっている。教会に向かって右方向の右西区には一般庶民が買い物ができるような店が立ち並び、向かって左方向の左西区には住宅が立ち並んでいるのが見える。僕は右西区のお店を見ながらあてもなく歩いてみる。瓶に入った飲み物が銅貨5枚。キャベツが銅貨2枚。トマトが1個銅貨1枚。パンが2個で銅貨3枚。定食のセットが銅貨8枚。感覚的には銅貨一枚は100円くらいの価値のようだ。そうすると手持ちの銀貨1枚の価値は千円くらいという事か?村の入り口に向かって歩いて行くと、たくさんの馬車とテントが立ち並ぶ通称テント広場が見えて来る。野菜に果物が売っているかと右を見れば、こちらには山積みなった古着のような服、向こうの馬車には飲み物に骨董品、こっちのテントではお土産らしきものに薪まで売っている。まるでありとあらゆるものが売っている蚤の市みたいな感じだ。

 通路など人が通行できればいいんだとばかりに無秩序に並んだ馬車やテントの隙間をふらふらと歩いていると、

人混みの中、誰かがこちらに向かって手を振っている。僕に向けてじゃないよね、と思いながらその人物に近づいて行ってみるとその人はアリアだった。

「良くこんな人混みでわかりましたね」

「えへへ、それが私の特技だもん」

「ザリスさんはこの近くに?」

「うん。いるよ。案内するね」

 今居る場所より程近くにザリスの開いた露店はあった。馬車の前に置かれた机には食器にお皿、鍋にフライパン。台所用品を専門に扱っているかと思えば、木製のおもちゃがあったり謎の液体が入った小瓶が並んでいたり、売り物にこだわりはないようだ。ザリスに駆け寄ったアリアが僕が来たことを告げると、ニコニコ顔でこちらにやってきた。

「やあ、ウエダさんではないですか。今日はどうされたんですか?」

「それが今日は教会もお休みらしくて、それなら街を見てみようかと歩いていたら偶然アリアさんに」

「そうなんですかぁ。なら村を案内をしましょうかと言いたいところなんですが、見ての通り大忙しで・・・」

目の前をたくさんの人が通行はして行くが、皆ザリスの馬車の前を素通りしてゆく。忙しそうには見えない。

「またーそういう嘘を言う。ごめんね。私の両親に午後から挨拶に行く約束があってちょっと無理なんだ」

なんでそこで嘘を、それ隠すようなことではないと思うんだが。

「お気遣いなく。あてもなく歩くのも好きですから。そうだ。美味しいお昼を買えるおすすめの店ははないでしょうか?恥ずかしながらあまり手持ちがないんで安いお店がありがたいんですが」

「それなら山やがいいんじゃないかしら」

「そうだな、あそこのパンは安くて最高だからな」

二人が言う場所はここより中央に向かった先、村の入り口近くにある屋台で肉を焼いているからすぐわかると教えてもらった。僕は二人にお礼を言うと早速その店へ。村の入り口近く、教えてもらった山やという屋台はすぐに見つかった。人が途絶える事なく並ぶその屋台からはお肉を焼いている匂いが辺り一面に漂い、一気にお腹が音を立ててハラヘッタと訴えた。

 焼いたお肉にレタスのような葉とトマトをパンのような生地に挟んだその食べ物は、どう見てもピタパンのような食べ物にしか見えない。金額はピタパン一枚で銅貨5枚。夕飯用にもと二枚買い、銀貨1枚引き換えに紙袋に入ったピタパンを受け取る。僕は皆と同じように適当な場所に腰を下ろすと一枚取り出して食べてみる。これは行列に並んでも買いたくなる味だ。持ってきた水筒の水で喉を潤すと、広場をひと回り見て歩いた後、教会に向かって大通りを左側に沿って歩いて行く。

 左西区と呼ばれる地区にある住宅街は、村の入り口近いほど安普請の木造住宅が並ぶのだが、だんだんと教会に近くなるうちに立派な造りになり、庭付き門付きみたいな感じに変わって来る。もう少しで教会かぁと思っていると、教会から1台の馬車が出て来る。その馬車の荷台は鉄格子で囲まれており、中には数人の人らしき者が座り込んでいた。まるで走る牢獄のようだ。いったいどこに行くのだろうと馬車を目で追うと、馬車は教会の右横に広がる森へと消えてゆく。こんな所に道が、何で隠すようにと不思議そうに道の向こうを見ていると突然後ろから声がする。

「お前も犯罪者になりたいのか?あれは檻車。明後日の裁判のために連れてこられた罪人よ。まったく、自分の村で何とかしろって。獣人どもが喜ぶだけだっつうの」

振り返ると髪の毛で顔の右半分を隠した女性が立っている。ミレだ。何でこんな場所に?そう思ってミレを見ていると、あからさまに嫌な顔をして言う。

「いちいち顔を見なきゃ姉ちゃんとの区別もつかねえぇのかよ。クズが。せいぜい北区に行かねぇように気をつけるんだな」

怒らせてしまったみたいだ。教会に入って行くミレを見送り、少し時間を置いてから僕も教会に入ろうと入り口の扉を押すが開かない。閉門の時間になったから閉めた?閉め出された?いるってわかっているんだし声をかけてくれたらいいのに。

 教会の裏手に回り炊事場の扉を開けてみる。こちらは鍵も掛かっておらず素直に開いた。まあ、鍵がかかっていても開けられるけどね。

炊事場に入る。扉が開いているし、もしかしたら夕飯の入った容器が置いてあるかもとちょっと期待していたが、当然のようになかった。ミレはいるみたいだけど夕飯はどうするのだろう?そんな事を気にしても仕方がないか。

大部屋に戻るとまずはランプに火を灯し、ベッドに座り昼に買ったピタパンのような食べ物を食べる。冷たくなった食事を教会の水で流し込む。お昼にはあれほど美味しく感じられたピタパンのようなものも、いまはちっとも美味しくない。これなら東京に住んでいた時と何ら変わらないじゃないか、親父は僕はこの世界にあっているなんて言っていたけど、こんな生活ならマジックを披露できる東京の方がよぽっどいい。僕は食べ物を入れてあった紙袋を丸めて床に投げつけると、そのままベッドに倒れ込んだ。

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