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ラムズ教会 4

 教会に来て2日目の朝。食器の片付け、食堂の掃除を終えて聖堂に向かうと祭壇の前、教壇の近くで司祭とリチア、ミレがが立ち話をしている。

「すみません。遅くなりました」

「遅い、お前はどうやったらそんなにのんびりと仕事ができるんだ?」

ミレがいらだった表情で言う。汚しているのはお前らだろうが。

「これから私と一緒に美品倉庫に行って道具を運びますから。ついて来るように」

人任せにせずちゃんと一緒に運んでくれるんだと思いきや、備品倉庫に着くとリチアは持って来るものを早口で説明すると、なぜか瓶の蓋が入った容器だけを大事そうに持ち行ってしまう。持って行くものは、長いテーブルを2個、椅子を6脚、瓶を50個。祭壇の前にテーブルなどを並べていると、観客なのか係争を求めている者たちなのか人々が聖堂に並ぶ長椅子に座り始める。長いテーブルの一方にリチアとミレが座ると、祭壇に登った司祭が聖像である精霊像を、抱えて持てるくらいのサイズにしたものを大事そうに運ぶと、慎重に教壇の上に置く。

「これより係争に伴う判断を精霊様に伺いたいと思う。判断を求める者は前へ」

司祭の言葉を合図に聖堂の長椅子の1番前に座る男性が、リチア達に向かい合うようにして置かれたテーブル前の椅子に座る。するとどこからか男性が現れ、先に座った男性と間隔を開けるように椅子に座る。

「今日の係争内容は?」

リチアが受付にいる時と同じようにぶっきらぼうな感じで聞く。

「こいつがよう、オレの女房と浮気しやがって。証拠は上がっているのに否定しやがるんだ」

最初に座った男が、後から来た男を睨みながら言う。

「ふざけるな、お前だって俺の女房と浮気してるじゃねかぁ。証拠はねえけどよ」

何ともくだらない相談内容だ。もっと法律的なものかと思えば痴話喧嘩の内容とは。

「それでは両者を判断する形でよろしいですね。両者とも金貨2枚と銀貨5枚を。払えない場合係争内容が確定となります」

最初に座った男は素直に貨幣を机に置く。対する訴えられた男は机に硬貨を投げつけるように置いた。

「ウエダ、瓶を司祭様にお渡しして。2個」

「ぼ、ぼく?」見ているだけでいいと思って部屋の隅にいた僕は慌ててリチアたちが座るテーブルに向かい、足元に置かれているビンを2個持ち司祭に渡す。司祭は精霊像に頭を下げ精霊像の持つ水差しに瓶を差し出すと、その水差しから何かの液体が流れ落ちる。ビンには透明な液体が溜まっていく。7割ほど液体が入った状態の瓶を再び受け取ると、僕はそれをリチアへと渡す。渡されたリチアはその瓶に蓋をすると男たちの目の前に置いた。

「これより精霊様の審判を受けてもらいます。ビンを振っていただき嘘をついていなければそのままの状態ですが、嘘を少しでもついていればその色は黒く変化をします。二人とも相手の奥さんには手を出していませんね?」

「おうよ」「誓って手は出してない」

二人の男はそう言い切る。リチアに促され二人が勢いよくビンを振ると、二人のビンの液体はたちまち黒い色にと変化した。二人とも黒くなったという事は二人とも浮気をしていたと、それもお互いの奥さんと。くだらない内容だと思うのだが、当人たちは当然真剣に悩んでいたらしく取っ組み合いの喧嘩を始める。獣人の二人が駆けつけて仲裁に来るのかと思ったが、リチアが冷静におかえりをと言うのみ。それでも揉めているといきなりミレが怒鳴なった。

「うるさい。結果は出たんだから早く帰れ」

また気持ち悪い視線が向けられたような感覚に襲われ背筋に悪寒が走る。男たちは突然取っ組みあっていた腕を静かに下げると、何かに取り憑かれたような虚ろな目をして静かに去って行った。ちょっと妹のミレが怖いんですけど。

 僕が黒くなった瓶を下げると。テーブルには次の係争判断を求める男女が座る。10代くらいの質素な服に身を包んだ女性と身なりの良さそうな40代くらいの男性。親子じゃなそうだし身なりからして主人と従者だろうか?

「今日の係争内容は?」

「こいつが私のお金を盗んだんだが本人が認めなくてね、どうしたらいいかと聞いたら、ここなら絶対に間違いない答えが出るって聞いたわけよ。だからわざわざ何日もかけて来てやったんだが、本当なんだろうな?」

そう男が言う。わざわざこんな茶番みたいな事をしに?地元には判断する施設はないのか?どうせ主人の意見が認められるだけだろ。

「反論はありますか?」

「私は主人のお金など盗んでいません。信じてください」

「メイドの分際でよくもまあ。わかっていようなぁ?主人のお金を盗めば違反金が発生する事を。お前は一生奴隷だからな」

結局はそこなんだ。良くある奴隷に貶めようってやつだよね。また2個、瓶がいるのかな?僕は瓶を手に取ると司祭に渡す。

「わかりました。それでは金貨5枚を・・・」

男は高級そうな皮の袋を持っていた鞄からとりだすと、袋の中から鷲掴みした金貨を机の上に置く。

「これでお願いします」

男がそう言ってにひるな笑みを浮かべる。机に置かれた金貨は20枚以上はありそうな感じだ。お金持ちってやつはどこまで行っても変わらないんだな。司祭から受け取った液体の入った瓶をリチアに渡すと、リチアが蓋をし二人の前に置く。結果など見なくともどうせ従者の女性の液体が黒くなるんだろと思って見ていると、いくら振っても女性の液体は変わらず、男性の液体はたちまち色を変える。この結果に激情したのは言うまでもなく男性だ。椅子を倒すほど勢いよく立ち上がりリチア達に喰ってかかる。

「お前ら舐めてるのか、この女が真実で俺が嘘を言ってるって?こんな水占いみたいなので何がわかるって言うんだよ」

「精霊様の判断は間違う事はありませんから」

何を言われても動じないリチア。隣で見ているミレの方がだんだんといらっだってくる様子が見てわかる。そしてブチ切れてミレも言い返す。

「うっさいんだよオヤジは、精霊が言ってるんだから間違いないんだよ。ガタガタ抜かさず帰れ。まったく、ちゃんと彼女を手当てをつけて送るんだからな。わかったか?」

男はあれほど激昂していたのにも関わらず、急に虚ろな目になり大人しくなる。先ほどの男たちと一緒の展開なのはどう言う事なのか。激昂するのを見越して薬でも盛っているのか?女性の後をフラフラと着いて行く男を見ながら倒れた椅子を戻すと、すぐに次の係争者たちがやってきては椅子に座った。

 瓶は50個も持ってきたのにすぐに使用済みの物ばかりになってしまい、半分くらい使うと洗いに行き戻しては、また洗いに行く。お昼ご飯を挟んでからも係争判断を求める人はいなくならず。気がつけば日は落ちかけていた。もう夕方なんだ。僕は聖堂の片付けをしてから炊事場で瓶と蓋をきれいに洗いながら、目の前の窓から見える木々に映る夕日を眺めていた。今日の係争判断の液体が色が変わるのはトリックで、精霊がなんら関係していないのはわかった。ただ判断をしていると思われるリチアがどうやって白黒の判断をしているかだ。全く判断が間違っていないと思われるのは、人を使ってその人の素性を調べ上げるホットリーディングをしているからか?にしては来る人が多すぎる。おまけにここの村の以外の人も来るから調べるにしてもお金がかかりすぎる気がする。あとはミレの言動だ。ミレが恫喝した途端、皆の表情が変わりおとなしくなって帰って行く。大の大人が少女みたいな言動をするものに従うものだろうか?わからない。

 炊事場に夕飯が運ばれて来る。もうそんな時間なんだ。ちっとも終わらない瓶を洗う作業の横で、腹を空かした動物のように獣人二人が夕飯の入ったケースの周りを回っている。やがて人族の男二人が入って来て獣人と言い争いをし始める。早くご飯を盛り付けて食堂に行けよ。リチアとミレ、司祭がやって来るとリチアがケースの蓋を開け、司祭が1番に盛り付け、その後をリチア、ミレが盛り付けてゆく。後は人族と獣人が競争するように盛り付け食堂へ移動して行った。瓶を洗い終えた僕はゆっくりと残った食事を盛り付けて食堂に行くと、遅いとばかりに皆がこちらを見て来る。待ってなくてもいいから先に食べていればいいのに。僕が席に座るとリチアがいつものように立ち上がり音頭を取る。

「本日はお疲れ様でした。何かありますか?」

皆が顔を見合わせ、何もないよなというよなと目配せをする。リチアから、それでは食べましょうかとの合図が出ると、待ってましたとばかりに恐ろしい食事風景が展開された。

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― 新着の感想 ―
ほうスキルではなくトリックですか。ワクワク
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