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火の都 キルサス2

 「昨日はお楽しみでしたね。って一晩中お酒を飲む事ないだろ?」

僕は怒っている。宿屋に着くなりロメリアはいきなりお酒を要求。持ってきたお酒が気に入ったようでその後に大量に購入。ご飯も食べずにずっと酒を飲み続け、朝を迎える。

「お酒がおひしくてさ」

髪の毛から酒臭い匂いが漂ってくる。その匂いだけで酔ってしまいそうだ。

 昨日の夕方に馬車を降りた広場まで歩いて行くと、たくさんの馬車が並んで止まりお客が乗るのを待っている。僕の乗ってきた馬車は昨日と同じ場所に。まだ朝の鐘が鳴ってないけれど僕が乗ればほぼ満員だ。御者に挨拶をし僕が馬車に乗り込むと、馬車はゆっくりと動き出した。

 今日の馬車に乗っている客層は人族ばかり、行商人風の男性2人、職人風が3人、奴隷かな?身なりの悪い3人に商人と思われる付き添いが1人そして僕の10人を乗せて大きな揺れを伴いながらも順調に走って行く。

今日はゲラタムという村でお昼の休憩をとり、目的地のキルサスに着いたのは夕方になっていた。

 荒れ野の中にあっては目の前に突然あらわれた茶色の巨大な城壁群。そこが火の都キルサスと呼ばれる場所だ。初めて目にした僕は馬車から乗り出し城壁を見入る。夕日に照らされた城壁がピンク色になったりクリーム色になったり、その変化は見ていて飽きることはなかった。丸く突き出た見張り等が左右に配置された大きな門をくぐり、中世の雰囲気漂う別空間へと馬車は入って行く。すると門を入ってすぐの場所で馬車は兵士によって停車を命じられる。いきなりの事に戸惑う御者や乗客。兵士は馬車から全員降りるよう指示し、同じように馬車等から降ろされた人々が並ぶ列へ。列の先頭では4人の兵士が荷物を確認、尋問をしたのち街の中へと入らせているようだ。

『何を調べているんだ?』

僕が小声で呟くと、髪の毛の中でずっと寝ていたロメリアが寝ぼけて落ちて来る。ぼくは慌てて手で受け止めると再び髪の毛の中へと戻す。

「なんじゃ、ずいぶんと物々しいのう」

『だよね。大きな街だから、こんなに入るのを厳しくしてるんだね』

「自由に都市を移動できるような世の中になったと、木で休んでいた商人どもは話しておったが」

『自由にはほど遠いね』

1時間くらい列に並んでいただろうか、やっと自分の番がやってくる。映画の中でしか見たことのないような鎧に身をつつみ、槍を持った兵士2人が僕の前後に立つ。右手には護衛らしき兵士を従えた鎧の豪華さからみて偉そうな立場の兵士。その兵士が手に持った帳面に目を向けなが質問をしてくる。

「名前は」

「上田美咲です」

「はぁ?ウエーダ?」

相変わらずちゃんとウエダってならないんだ。て言うか、なんか空港の入国審査みたいだなぁ。

「で、職業は」

「労働者です」

「この街への目的は?」

何だ?何か疑われているのかな?

「か、観光です」

「・・・観光?どこから来た?」

まさか地球から来たのがバレてなんて事はないから、ここにくる前にいた村の名前を聞かれているって事かな。

「え?ベコハからですけど」

兵士たちが何故かざわめき始める。何か僕はおかしな事でも言ったのだろうか?。

「もう一度聞く。どこから来た」

「ベコハからです」

突然、僕は後ろ手に拘束される。

「連れて行け」

連れて行かれる理由も聞かされぬまま僕は二人の兵士に引き連れられ近くの建物へ、そこから地下へと階段を下り薄暗い廊下を歩いていくと鉄格子で仕切られたいくつかの部屋が。牢獄?そのうちの一つの扉を開くと僕はその鉄格子の部屋へと放り込まれる。すぐさま重く閉ざされる扉。去り際、兵士が僕に言う。

「お前解放軍だろ?ベコハの件もあって強化されてんだは。残念だったなぁ」

はぁ?解放軍?僕が?確かに関わったのは事実だけど、ベコハから来たってだけで投獄しなくても。ちゃんと調べればわかるのに。暗くジメジメとした牢獄、こんな所に立っていても状況は変わらない隅にでも座っていようかと部屋の内側に目を向けると、隅で何かが動く。え、と思って目を凝らすと何かがいる。幽霊・・・そう思った瞬間僕は気を失った。



 「まったく、なぜにそんなに簡単に気絶するのじゃ」

僕が目を覚ますと、呆れた顔をしたロメリアが目の前を飛んでいる。また、気を失っちゃって倒れちゃったのか。

「しかたがないだろ。怖い物は怖いんだから」

「だからと言って毎回倒れるでない。襲われでもしたらどうするんじゃ」

「そんな事はないって」

硬い石の床に仰向けに倒れていたからか、背中が痛い。上半身を起こし座り直したその視線の先、誰もいないと思っていた部屋の隅に何かが座っている。幽霊ではない。それは人間のような姿をしているのだかお尻には先が黒い尻尾がゆらゆらと動き、茶色ベースの髪色に黒の縞模様の毛で覆われた体。おでこにはM字に似た模様と頭にぴょんと立った耳。猫獣人だ。びっくりする僕に猫の獣人がポツリ呟く。

「お前一人で喋って気持ち悪い」

そっか、ロメリアの姿は他の人には見えないし声も聞こえないんだったよな。それなのに誰もいないと思って大声で話していたら、そりゃ気持ち悪いよね。

「すみません。ずっと1人でいたから独り言が癖になっていて」

「あ、そう。勝手に喋ってもかまわないけど、静かにしてもらえる?。ゆっくり寝てられないんだけど」

こんな場所眠るってどんだけ肝が据わっているんだ?。暗くて冷たくて所々湿っている床に座るっだって嫌な感じしかしないのに。

「わかった。君にはもう迷惑はかけないから」

「はぁ?君だぁ?私は女だ。あんたに君呼ばわりなんかされたくないね」

君呼ばわりされたのがよっぽど頭にきたのか、いきなり猫獣人の彼女が目を吊り上げ激昂する。あまりの怒り具合に僕は後退りをしてしまう。

「こわ」

つい口に出た言葉に猫獣人の彼女が反応する。

「あぁ?怖くて結構。女だからって襲おうなんて思ったら噛み殺してやるからな」

そう言って猫獣人の彼女はくるりと身を反転させると部屋の隅に丸くなって座りこんだ。

「面白い。ミサキよ、これは襲うしかないのう」

ロメリアはいつも急におかしな事を言ってくる。今度は小声で話さないと。

『はぁ?僕に死ねと?』

「そうすればわしは自由になれるからのう」

『ぜっっっっったいに行かないからな』

「つまらぬのう」

僕は猫獣人の彼女が目に入らないよう背を向け座る。目の前には鉄格子が立ちはだかっている。

「ミサキよ、腹が減らぬか?」

今は何時なんだろう。そう言われたらこんな場所にいるのにお腹が空いてくる。

『お腹すいたね。何か持っていたっけ?』

「昨日、獣人親子に渡したお弁当の残りがあるぞい。お酒も出していいか?」

『それはダメ。しばらくはお預けだからね』

「ケチミサキ」

『際限なく飲むからだろ。それにこんな場所で酒臭くしたら怪しまれるし」

ロメリアはぶつぶつ言いながらもお弁当とベコハで買った水筒に入った飲み水を床の上にと出現させる。空間収納か、いったいどんな仕組みになっているんだろ?。入れた物は時間が経過せずに重さも感じない。いくらでも収納できる。まあ、違う世界の話だから考えるだけ無駄かな。さあ食べようお弁当の包みに手を伸ばそうとするとロメリアが髪の毛を引っ張る。

「なに?」

「よこ、右手じゃ」

言われて右手を見ると暗闇に浮かぶ猫の細長く光る目。さっきの猫獣人?

「た、たべもの」

「え?食べます?」

鼻息荒く食べ物だなんて言われたらつい答えてしまう。

「欲しいにゃ」

「どうぞ」

手を伸ばしていたお弁当を猫獣人の彼女に手渡す。彼女はそれをひったくるように持ち去ると、再び部屋の隅にと戻ってしまう。

「気を許したわけじゃないからな。近寄ったら噛み殺すからな」

「なんじゃあいつは」

まあまあ、とロメリアをなだめもう一個お弁当を出してもらう。それを2人?で分け合って食べる。小さなロメリアと半分ってなんかおかしな感じがするが、まあ僕があまり食べないからちょうどいい?

 食べ始めてしばらくすると、なにやら背中の方で気配がする?気になって振り向くと猫獣人の彼女がちんまりと座っている。なんだろ?と言う顔を僕がすると、もじもじしながら

「お水、あったら欲しいにゃ」

「あっ、そっか。どうぞ」

僕が地球から持ってきた跳ね上げ式の蓋で、直のみできる水筒を手渡そうとするが、見たことのない物に警戒を示す猫獣人の彼女。いきなりそんなこちらの世界にないものを手渡されても困るよね。このボタンを押して蓋を跳ね上げたら、直に口をつけて飲むの。そうやって見せて手渡すと、すぐに蓋を開けて中の水を飲む。蓋を閉めたら返してくれるのかと思ったら、蓋が跳ね上がるのか不思議らしく、閉めたり開けたりを何度も繰り返してやっている。そのうち僕の視線に気がついたのか、にゃって小さくつぶやいて水筒を僕に押し付けるように返すと、また隅に戻っていってしまう。

「楽しかったからじゃないんだからな。仲良くなんてしないからな」

その様子にロメリアと2人で笑ってしまった。

「変わった獣人じゃのう」

『僕はああいうの、嫌いじゃないけどね』

「悪いやつではないわな」

 夕飯のお弁当を食べ終わったが、牢獄の中だけあってできる事はない。鉄格子の先の薄暗い壁を眺めているか・・・後ろを見れば部屋の隅に丸くなって座り込んでいる猫獣人の彼女がいるにはいるが、目を向けるだけで睨み返してくるし。とてもフレンドリーに話なんてできそうもない。

「どのみち人見知りのミサキでは喋れぬじゃろ」

『こういう時は頑張って話す、よ』

「できもしないのにのう」

 ただ座るのにも疲れてきて、壁に背を預けて座り直す。ロメリアはさっきまで一人で話していたが静かになったところを見ると寝てしまったらしい。部屋の隅では警戒を許さないのか、怪しく光る目がこちらをずっと見つめている。

 この世界に来てからありえない毎日の連続だった。何も知らない山の中に放り出され危うく遭難しかかったこと。たまたま通りかかった商人のザリスと彼女のアリアに助けられベコハの教会に連れて行ってもらい、そのまま勤めさせてもらったんだよな。勤めさせてもらった時はちゃんとした教会なんだと思っていたんだけど、まさか詐欺集団だったとは。教会には父親の年齢のような神父にその娘のような年齢の女性が2人。農業が専門の男性2人に初めて目にした種族、獣人。動物の顔体なのに人間のように振る舞い言葉も喋れる。彼らは見た目通り警備担当兼処刑人?だった。獣人はみんな凶暴だとこの頃は思っていたっけ。なんせためらいなく殺しをする奴らだったしね。その教会が異常だと思ったのは係争判断だったかな、住民の争いの白黒を判断するのに水の色を変わるのを利用していた事。それは精霊が白黒を判断して色を変えているのだと。精霊なんて何を言っているんだって思ったね。だって色を変える事なんて簡単なトリックで実現できるし、精霊を口実にするなんて詐欺の常套句だったし。ただ、僕の目の前に精霊が現れて契約までしちゃったんだから、精霊の存在を信じないわけにはいかなくなっちゃったんだけどね。神父は詐欺師だったけどお付きの女性2人は精霊使いだった。人の心を覗き見れる精霊と、操る事ができる精霊。呪いの精霊だって僕についてきた精霊、ロメリアは言ってた。なんでも悪い想いが溜まった精霊は力を貸す代わりに代償を求めるんだとか。そこまでして精霊使いになりたいのかと思うけど、この世界でにおいてすべの事柄から抜け出せる手段、それが精霊使いになる事しかないんだと。

 詐欺師が宗教の力を使って集金する事は良くある事で、彼らも教会の神秘的な力を使ってお金を稼ぐ事に努力を惜しまず、そればかりか地方の教会が領主から自治権を託されているのをいいことに、税金を払えぬ者から土地を奪い農奴にへと落としては無理な労働を強いる。農業に明るい者が詐欺師にいるだけに収穫はかなりあったようだけれど、それだけの実力があるならば普通に農業を事業として営んだらよかったのではと思うのは素人考えなのだろうか。

 それだけ派手にお金を集めていれば反発する人々に目をつけられるのは必然で、彼ら詐欺師集団が最も恐れたのは解放軍と呼ばれる集団だった。解放軍と呼ばれる集団は各地で教会を襲い、自治権を取り戻すと言う名のもとに活動をする人たちで、今いるキルサスの都市でも警戒するくらいなのだからかなり勢力を伸ばしているのだろう。

 詐欺師に対する解放軍。内情を探ろうと何人もの解放軍の手の者が教会に潜入したようだけれど、心を読む精霊使い率いる教会にバレないように探りを入れられるはずもなく、何人も殺されたようだ。商人をしていたザリスは詐欺師に教会を奪われた上に父母を殺された経歴から、解放軍の一員として詐欺師を倒す事を目標としていたが、これと言った決定打がない中、僕と言う存在が現れる。ザリスは考えた、内情を知るために僕を利用すればいいんじゃないかって。教会は慢性的な人手不足だ。なんせ入ってきた者を片っ端から殺しているんだから誰も働きたががるわけないよね。そんな事だから僕みたいな得体の知れない者であっても即採用になるわけだ。

 神父は精霊使いじゃない。それだけでザリスはなぜに教会を襲撃する計画を実行に移そうと思ったのだろうか?彼女もいて結婚も間近だと言うのに何で復讐に走ったのだろうか。結果ザリスは教会転覆罪とやらで捕縛されてしまう。その頃、僕はといえば精霊使い、そしてシャーマンとやらの能力に目覚めたようで、使役者しか見えないし話せないはずの他人の精霊としっかり会話ができてしまう状態に。今の僕ならきっとザリスを助けられる。その時はどうしてそんな事を思ったんだろう?神父が精霊使いである事を確認するために王都から監査官が派遣され、監査を兼ねて行われるザリスたちの裁判の日。観客に混じって機会を伺う解放軍の観客の中、神父のトリックを僕が暴いた所で不利になった詐欺集団が暴走を始める。監査官を殺され、獣人は手当たり次第に殺しを初めるし、精霊使いはその力を使って観客同士を争わせる。カオスの中ザリスは僕を刺せと言う命令に逆らうため自分で自分を・・・そして僕は自分を失った。あの時は何をしたのか記憶になかっけれど、この頃断片的に思い出す。僕は・・・

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