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そして村を去る

 「・・・」どこかからか声が聞こえる。「・・よ・」誰だろう僕を呼ぶのは。「・・美咲」あれ?母さん?お母さんだよね?どこにいるの。ねぇ、どこにいるんだよ。勝手に目の前から急に消えていなくなって、どこにいるんだよ。「まったく情けないなぁ。そんな事で気を失ってしまうなんてな」な!親父か。うるさいな、もうっちょっと寝かせろって。「おう早く起きてやれ、仲間が待ってるじゃないか」ちょっと待てって仲間って誰の事だよ。

「ミサキ」今度は誰だよ「起きぬか、ミサキ」うるさいなぁ、わかったって起きるって。

 「やっと起きたか。このばか者めが」

どこかのベッドに仰向けに寝ている僕の目の前、ロメリアが怒りの表情を浮かべながら飛んでいる。

「あれ?ロメリア。なにしてるんだ?」

「何をしてるだと。神下ろしなどしおって、力尽きて倒れてしまったゆえに心配しておったと言うのに、何じゃその言い草は」

「そっか、ぼくは聖堂での裁判中に起きた混乱の中、倒れっちゃのか」

「まったく、どこまでが計画だったか知らぬが下手をすれば死んでおったぞ。あんなものを呼びおってからに」

「神下ろし?呼んだ?どう言う事?」

「なぬ?あれは無意識だったと言うのか?まったくお主という奴は。よい。ミサキは知らぬ方が。またやられたらたまらんからのう」

「良くわからないなぁ。あの後みんなはどうなったの?」

「まあ見ての通りじゃ。怪我人は多数なのは言うに及ばず、死亡者も多数。まあクーデターなどと言うものは血を見ずに成し遂げられぬという事じゃな」

「司祭たちは皆亡くなった。きっとザリスの願いは叶った」

僕は上半身を起こし周りを見渡してみる。ここは教会の居住部、僕や獣人、人族の男たちが寝室として使っていた場所。違っているのは部屋いっぱいに置かれたベッド。そこには包帯を巻かれた人々が寝かされ、咳き込む声やお見舞い人の話す声、介護に走り回る人々とありえないほど賑やかだ。

「この村には診療所がないらしくてのう、ここは広くて良いからと皆を運び込んだようじゃ」

パタパタと音を立てて若い女性が長い髪を揺らし走って僕に近寄って来る。

「起きられたんですね。もう3日も目を覚さないものだからみんな心配していたんですよ。あ、何か食べられそうですか?お米とか言ううものを煮たのがあるそうですが?」

「うむ、もうお腹ペコペコじゃ」

『何でロメリアが答えるんだよ』「いただきます」

ロメリアとお前はご飯の事しか頭にないのかと言い合いをしていると、お米を煮た物とやらが運ばれてきた。煮たものって聞いたからおかゆかと思ったらリゾットだった。おかゆなんて文化はないか。手渡せられたお皿をひざに置きロメリアと一緒に食べてみる。うわ。何だこの味、おまけに味濃いし。僕は一口だけで食べるのを諦めたが、ロメリアの口にはあっていたらしくパクパクと食べている。お皿のリゾットのような物がなくなった頃、女性が再びやって来る。

「食べられたんですね。じゃあ、お皿もらいますね。そうだ。もし動けるようでしたらリーダーがお呼びですので執務室?この廊下の突き当たりの部屋に居るので、行ってみてくださいね」

そう言って彼女はまたパタパタと走って行った。まあ元気な子だ何歳くらいの子なんだろ。

「年は15歳くらいと言ったところかのう。話し方からしてこの村の者ではなさそうじゃし、革命軍が連れてきた子かのう。まったく手慣れているというか、手早いと言うか。のうミサキ。リーダーとやらに話をつければ差し出してくれるかもじゃぞい」

「あのねぇ、ロメリア。僕を何だと思ってるの?何の権限があってそれを言えるって。それに革命軍って」

「リーダーとやらが呼んでいるんじゃろ?本人に聞けば良い。お主はこの戦いの功労者のようじゃからのう」

僕はザリスを助かるように小細工をしただけなんだけどな。訳わかんないや。再びベッドに横になり目を閉じる。「ミサキよ、また眠ってしもうたのか?」

「一応は起きてる。とりあえずまだ死なないから、期待しても無駄だよ」

「ふん。減らず口を叩けるようなら安心じゃ。ところであの瓶の水はなぜに黒から透明に変わったのじゃ?前日に何かしていたようじゃが?」

「あれね。ヨウ素の錠剤とビタミンCの錠剤を瓶の蓋に取り付けてたの」

「ようそ?びたみん?」

「ヨウ素は海にある海藻とかに含まれる成分で、水に混ぜると黒く見えるの、そこにビタミンCというレモンみたいな酸味のある果物多く含まれる成分を混ぜると、透明な水になって見えるってのを利用して、溶ける順番を調整したら黒くなった水が透明になるって言う手品ね」

「司祭らはどうやって色を変えていたのじゃ?」

「あれはただの練り炭を瓶の蓋に塗っていただけだよ。塗らない蓋を渡せば色は変わらないし、塗ったのを渡せば色が変わる。真実を聞き出せる精霊に嘘か本当か教えてもらって、どちらかの瓶の蓋を選んで渡せるならそれはよく当たるよね。そんな便利な精霊を使役しているなら他に良い使い方はできなかったのかな」

「まあ、無理じゃのう。まず精霊の成り立ちが違う。愛され惜しまれ大切な想いから生まれたワシのような精霊は、使役された相手を幸せにするが、人の憎悪の中から生まれた精霊は人を不幸にする。それがわかっておってもなお人は呪いの精霊を求める。どれだけ精霊に価値を見出しているのやらじゃわい」

「ロメリアは呪いの精霊だったのか」

「ミサキ、今の話聞いておらなんだのか?もう一度言ってやろう。愛され惜しまれ」

「はいはい、わかったから」

僕はロメリアの話を途中で遮ると、ベッドから起き上がり歩き出す。

「なんじゃ急に起きて。どこかに行くのか?」

「お腹が空いて眠れないからね、何かもらいに行きながら、リーダーとやらに会って来ようかなって」

「さっきご飯は食べたではないか。もうお腹が空いてしもうたのか」

「食べてないから。だいたい、さっき食べたのはロメリアだろ?。まあ味が濃くて食べられなかったってのはあるけど、お米があるならおかゆを食べたいかなって」

「なんじゃい?そのおかゆとは。美味しいのか?」

「僕の国では体調が悪かったり、お腹に負荷をかけたくない時に食べるものかな。うん。美味しいと思うよ」

「なら、すぐに食べにいくのじゃ」

「作らないと食べられないからね」

 ベッドから立ち上がり炊事場へと向かう。廊下にも見知らぬ人々が行き来をし、教会が完全に変わったんだと実感をした。食堂だった場所の扉を開けると、室内は野菜やらお米が置かれ食料庫と化していた。ちょうどそにに調理を担当している女性だろうか、僕がのぞいているのに気が付き声をかけてくれる。

「食事でしたら調理室からお出ししますから、廊下から回ってもらえば」

「その、すみません、出してもらった食事の味が濃くて、もしよかったらお米をわけてもらえば食事は作りたいんですが?」

何を言ってるんだろう?って顔をされたが炊事場に通されお米を分けてもらう。お米と水を鍋に入れ20分ほど煮込む。お米が柔らかくなったら塩を少し入れて味を調えたら完成って、ただそれだけの料理なんだけど炊事場にいた3人の女性にずっと質問攻めにあってしまった。出来あがったおかゆをみんなで分けて食べる。お腹にはやっぱり優しいよね。

 炊事場の皆に挨拶をし、元司祭がいた部屋に向かう。いつもは固く閉じられていた部屋の扉は解放され、誰か誰かが出たり入ったりしている。部屋の扉をノックする。

「はい。どうぞ」

偉そうに司祭が座っていた机、そこに今は背の高いほっそりとした男性が座わり書類に目を通している。リーダーとかって言われるくらいだから、普通の人とはなんだか雰囲気が違う気が。偏見かな?

「あのう、お呼びだって聞いたんですが」

「おぉ。英雄殿こっちに。誰か、椅子を頼む」

「はい喜んで」元気が良さそうな若者が小さな丸椅子を持って走ってくる。

「居酒屋かここは」

「ミサキよ心の声が漏れておるぞ。居酒屋などと言われても通じぬぞ」

僕は恥ずかしそうに頭を掻きながら椅子に腰掛ける。

「この度は我ら革命軍を助けていただき感謝する」

目の前のリーダーが深々と頭を下げた。

「頭を上げてください。僕は何も。ただザリスを助けたいそう思って動いただけですから」

「そんな事はない。英雄殿がいなかったら我らだけで奴らに勝てる事はできなかった、それぐらい今回の奪還計画は難航していたんだからね。なんせ奴らときたらこちらの送り込んだ人間をことごとく見抜いて、あるものは裁判という名の見せしめに、あるものは難癖をかけられて切り捨てに、もうやめようかって話になった矢先、ザリスが言うんだ。自分が行きますってね。ここは彼の故郷であり我が家だからどうしてもって思いが強かったんだろうな。あんな可愛い婚約者がいるのにバカだよ。予想通り捕縛され裁判だからね。ザリスから聞いたよ。君があの水の色が変わるトリックを仕込んでくれたんだってね」

「いえ、僕は何も」

「隠さなくてもいいって、ザリスが言っていたから。友達がなんとかしてくれるから今度こそ奴らを追い詰められるって。ザリスは残念な事になってしまったが、この勝利はわが軍に追い風になっているのは間違いない。そこでだ、英雄殿。わが革命軍に入って一緒に打倒教会を目指さぬか?この村を見てもわかるように、教会に虐げられている住民は今なお溢れておる。その人々を支配から開放しようではないか。何、領主なんて心配しなくていい。彼らはお金さえ手に入れば文句を言わぬし、国はすでに崩壊状態。我らにとって変わる日は近い。どうだ、英雄殿なら幹部にいや、国の機関を担うものにだってなれるだろう。こんな素晴らしい話しはないだろ。どうだ、開放軍で働いてみないか?」

「ありがたい申し出ですが、僕はまだこの国の事を知らなすぎるので。すみません」

「そっか、そいつは残念だ。もし気が変わったら我らが統治する所に行ってこれを見せるといい。グラント=エヴァーからもらったと言えば良くしてくれるはずだから」

リーダーと呼ばれる男はポケットから青い石がハマったペンダントのようなものを取り出し、手の平に乗せた状態で差し出してきた。僕はそれを両手で受け取ると顔の近くまで近づけペンダントについている石を眺めて見る。なんか特殊な石かと思ったけど、さほど深い青い色の石じゃないしアクアマリンかなぁ?それにしても不純物の多い石だなぁ。

「ありがとうございます。預からせていただきます。お話はもうよろしいでしょうか?」

「おう。ゆっくり休んで養生するといい」

僕はもらったペンダントをポケットに入れると、頭を下げ部屋を後に。

「あぁ、そうだ。司祭の隠し持っていた財産を知らないか?何やら怪しい商売でかなり貯めていたらしいんだが?」

そう唐突にエヴァーからそう声をかけられる。ロメリアが全部いただきました、なんて言えるわけないじゃんね。僕は振り向き答える。

「僕はただの下っ端でしたから、お金の事は分かりません」

「だよな、悪い足止めしてしまって」

再び僕は頭を下げ部屋を出る。

「君は精霊使いか?」

突然、背中にそう質問が飛んだ。僕は突然の事にびっくりして立ち止まってしまう。そんな事いきなり聞くなよ。ていうかそうだって答えるわけないじゃんか。

「いえ。僕はただの労働者で手品師です。精霊使いだと言うならとっくに名乗っていますよ」

今度は振り向く事なくそう答えると、そのまま司祭の部屋を後にした。

 「名乗らなくてよかったのか?別に隠しておく事もないだろうに。話せばミサキの立場が良くなる事、間違いなしじゃろうに」

居住区の廊下、大人しく髪の毛の中で一連の様子を見ていたロメリアが話しかけてくる。

「言ってどうなる?どうせ都合よく使われるだけだろ?。英雄殿だなんて何を言っているんだか、僕にそんな力はないって言うの」

「本当にそう思っておるのか?」

「当たり前だって、知っての通り喧嘩だってできないんだからね」

「やれやれ、知らぬ方が幸せってことかのう」

「何を言ってるんだ」

「ところでミサキはどこに向かっておるのじゃ?休んでおる部屋は通り過ぎてしまったぞ」

「うん、ちょっと聖堂の様子を見てきたいなと思って」

「わしは見ない方が方が良いと思うぞ」

「だよね、でも何というか、ちゃんと見ておきたいんだよね」

 長い廊下を進み聖堂につながる扉に手をかける。常に閉まってはいなかったけれど、あんな事があった後なのに扉は何の抵抗もなく聖堂に向かって開いた。扉を開けた途端、目に飛び込んできたのは血溜まりのできた床とひどく鼻をつくような血の匂い。衝撃の光景に言葉すら失い固まってしまう。

「だから言ったじゃろ、見ない方がいいと」

それでも僕は起きた出来事の顛末を見届ける必要がある。そう、湧き上がってくる不思議な感覚に惹かれるように、手で口と鼻を押さえながら聖堂を祭壇に向かって歩いて行く。ひどく破壊された長椅子。打ち捨てられた血のついた剣、片足だけになった靴、水をもらった時のだろう空になったビン。気を抜くと何かを踏みつけて転んでしまいそうだ。

 舞台のように一段上がった祭壇と呼ばれる場所を中央から見上げる。水が出ていた教壇は引き倒され、ザリスが投げた小さな精霊像は粉々に壊されていた。強い憎悪がそうささせたんだろうか?そんな場内にあっても変わらぬ姿で祭壇中央部に立つ精霊像。さすがにここにまでは破壊の手が入らなかったようだ。精霊像を破壊するのは気が引けたんだろな。ここに来た時から変わらぬ姿で水瓶を傾ける精霊像。その右下辺りになにやら影がチラチラと動く。僕と同じように侵入してきた物好きかな?良く見ると見たことのある女性の姿。ザリスの婚約者だったアリアだ。なんでこんな場所に。

「アリアさん」

聖堂から声をかけるが、彼女にその声は届かないのか振り向いてはくれない。気が付かないはずはないんだけど。そうだもっと近づいて声をかければいい。僕は腰の高さくらいある段差を飛び乗り祭壇の上に立つ。するとこちらを悲しそうに見つめるアリアと目が合う。

「アリアさん」

声をかけた僕に今度は気がついたはず。しかしアリアは僕の声など聞こえていないかのように後ろを向くと、中央に凛として立ち続ける精霊像に近づき手を触れる。そしてアリアは吸い込まれるように精霊像の中へと消えて行った。

「ロ、ロメリア?アリアが消えたよ?」

「消えたのう」

「何でそんなに落ち着いていられるの?消えたんだよ」

「逆に何を焦っておる。お得意の手品とやらで解決すれば良いではないか」

「わ、わかってるって」

僕は精霊像に近寄りアリアが消えた辺りを触ったり、床をどんどんと足で踏んでみたりする。消失マジックの場合、壁と見せかけて布だったり、床に隙間なんかがあってそこに隠れたり。消えると言うより隠れているという場合が多いのだけれど、今回はそんな場所はなさそうだ。そんなバカな、きっと何かトリックがあるはず。しかしいくら探しても何も見つからない。

「なにか見つかったか?」

「何も見つからないんだよ、そんなバカな事が」

「ミサキが思うほど世の中は手品とやらで解決できることばかりではないという事じゃな」

「ロメリアは消えた現象を説明できるって言うのかよ」

「ミサキは見えておるのにわからぬのか?アリアとやらはもうこの世のものではないのじゃぞ」

「はぁ?何を言ってるんだよ。それじゃアリアはもう死んでしまったって言っているようなものじゃないかよ」

「だからそう言っておるじゃろ。アリアは霊体となって精霊像に入っていたんじゃよ」

死んだ?アリアが?いやいや。その前に霊体などと言う科学的根拠のない物を信じるなんて事できるわけがない。あれは絶対に何かトリックがあるはずだ。

「また何かよからぬ事を考えておるじゃろ?あれは間違いなく本物じゃ。わしが言うんじゃからのう」

「ロメリアの言う事は一番あてにならないだろ」

絶対に信じられない。僕は真相を確かめようと精霊像のあちらこちら触って歩いているうち、上から赤色の何かが腕に落ちてくる。僕はびっくりして上を見上げると、精霊像の目から赤い物がほおをつたい床にと落ちてきていた。

「まさか血の涙・・・』

それは精霊像がまさに血の涙を流しているかのような感じの現象だった。


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「司祭たちは皆亡くなった。きっとザリスの願いは叶った」 これ誰のセリフ? そして唐突に出てきた革命軍。 最初の方、どっかで匂わせてましたっけ? 革命軍とかザリスに裏があるんじゃないかとか、匂わせる程度…
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