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アルモンド=ザリス2

 「ザリスさん。ザリスさん」

ぼくはザリスを見つけ声をかける。こんな場所で声をかけてくる人がいるはずもなく、ザリスは空耳だろうと顔をあげこちらを向いてはくれない。

「ザリスさん。ザリスさん」

今度はもっと大きな声で呼びかけてみる。するとザリスはゆっくりと顔を起こす。

「あぁ。ウエーダーさん。なんでここに?」

「アリアさんから冤罪で投獄されたと聞いたもので、大丈夫ですか?」

「なんとか。食事も最低限しか貰えてないので、生かされているって感じですけどね」

『ロメリア。お水とパンとかってだせる?』

「うむ。まだ残っていたと思うが」

パンと水筒に入った水を取り出してもらうと、それを鉄格子から手を伸ばして中に差し入れる。ザリスは食事は他の仲間に悪いからと、水だけを受け取り口に流し込んだ。

「またどうしてこうなってしまったんですか?」

「それは自分が元教会関係者だからですよ」

「元?」

「そうです。先祖代々私たち一族は教会を守る教会守と言う仕事をしながら、領主様に変わって村の執務を代行してきたのですが、今から3年前。国王令により、教会の司祭を務める者は精霊使いでないと認めないと通達があったのです。執行までの猶予期間は7年。それまでに精霊を探して使役するか、精霊使いに頼み司祭を代行してもらうか。父たちは後者を選び彼らを迎え入れたんですが、知っての通り彼の使役する水の精霊は自分の化身となる精霊像から水を出し、その水は時には人を癒し、時には真偽を示す。特にこの真偽を示す水が信じられないくらい当たると話題になり、真偽を求める人々が集まってくるように。それをお金儲けの手段にした彼らの手には莫大な資金が集まったと聞いた。次に彼らがした事は村人から農地の賃借権を買い取る事でした。なぜそんな事をしたのか、彼らの中に農業に詳しい者がいて、収穫量を上げ納める税を増やすことによって領主様からの信頼を得るためだったと。領主からの信頼を得た彼らは名実共に教会の支配者になったわけですが、当然父が黙っているはずもなく、教会本部に直訴するとなったその矢先、父母は逮捕されました。罪状は教会転覆罪。弁解する時間もなくすぐに裁判にかけられ、彼らお得意の水による真偽の判定は有罪。その場で死刑にさせられました。恥ずかしながらその時私は家出中で、その事実を知ったのは数ヶ月も経ってからだったなんて、笑ってしまいますよね。彼女の結婚報告に帰ろうと連絡したらですからね」

「ザリスさんは訳もわからずいきなり捕縛されたって事でしょうか?」

「何となくそんな感じはしていました。いきなり殺した親の子供が帰ってきたんですから、警戒はするでしょ?

きっと仇をとりに来たんだと。悪い芽なら摘み取りたくなるでしょうから、やっぱりきたかったと」

「わかっていたのになぜ帰ってきたんですか?帰ってこなければ捕縛もされなかった」

「何でだろうね、報告をしたかった。たとえお墓の中の両親にだとしても。アリアには申し訳ないと謝っておいてください。早く忘れてくれと」

「まだ決まったわけではないでしょ?死刑になると」

「間違いなく死刑だと思います。精霊が介入した水ですからね、思うような結果にするのは容易いですから」

ザリスはそう言って自分の指を見つめると、固く拳を握りしめた。

「司祭は精霊使いではないですよ。あの色変えは簡単なトリックで説明できる子どもでもできる手品ですから」

「それはどういう事ですか?」

手を見つめたままのザリスが顔を起こしこちらに目を向ける。

「透明な水を色水に変えるのは簡単なトリックだって話です。だから、黒くなった水を透明にする事もできるわけで、もし、黒い水を皆が見る前で透明になったらならザリスさんは無実だってなるかなって」

「それは本当ですか」

ザリスは突然立ち上がると、僕の目の前にある鉄格子にぶつかってしまうのではというほど迫ってきた。

「ええ、本当です。間近で見ていたので間違いないです」

「司祭が精霊使いじゃなかったなんて。父は何でそんな人を・・・ウエーダーさん、司祭が精霊使いじゃないって皆の前で証明できないでしょうか?」

「まあ、できないことはないと思いますが・・・」

「明日、私たちは裁判にかけられます。そこには監査官も来て司祭が精霊使いであるかの監査に来ると聞いています。そこで司祭が精霊使いでないと証明してもらいたいんです。そうすれば彼らを追い出し、虐げられている農民を解放できるはずなんです。ウエーダーさんぜひ彼らを助けてあげて欲しいんです」

僕はただザリスを助けたい、そんな思いでここまで来たが、ザリスは自分の事ではなくこの村の事を真っ先に考えていたなんて、なんか恥ずかしくなってしまいそうだ。

「わかりました。なんとかしてみます」

「ありがとう。アリアには別の言葉を伝えてもらえますか?」

「別れの言葉以外なら」

ザリスが僕がここに来てから初めて笑顔らしい笑い顔をした。

「式は予定通り行うから準備して欲しい」

「わかった。必ず伝えるよ」

ザリスが鉄格子の間から固く握りしめた拳を突き出す。僕はその拳に向かって同じく握り締めた拳を突き合わせると、その場を後にした。


 「全く臭い事をしおってからに。あれだけ自信ありげに言っておったが、本当に司祭が精霊使いではないと証明できるのか?」

留置場からの帰り道、ロメリアが僕の横を飛びながらそう話しかけてくる。

「何とかなるでしょ、ヘタレな親父ですらちゃんと怪異を暴けていたんだし。まあやり方はずっと見てきたしね」

「ほう。お主のような変態でもか?」

「変態は関係ない。まったく、別の世界に来てまでまさか親父たちがやっていた事を真似する事になるとは思わなかったよ」

「親を嫌っていようと、親と同じような道を進んでしまう。運命じゃのう」

「はいはい。トンネル入るよ」

飛んでいたロメリアを髪の毛に座らせると、水路の横に突き出した排水路から教会裏手の井戸の中へ。井戸内の梯子を上がり教会へと戻ってきた。

「この後はどうするのじゃ?」

「そうだなぁ、トリックを暴くための仕込みは夜にならないと出来ないし、アリアにザリスの伝言を伝えに行きたいけどどこにいるのかわからないし、どうしようか?」

何の考えもなく教会の正面にむかって歩いて行くと、教会と大通りを仕切っている門柱にアリアが寄りかかって立っているのが見えた。

「アリアさん」

僕は大きな声で呼びかけると走ってアリアに駆け寄る。アリアも僕に気がついたのかこちらに向かって手を振ってくれている。

「ウエーダーさん、彼、ザリスには会えましたか?」

「はい。会えました、それでザリスさんからアリアさんにと事付けを」

「彼は何と」

「式は予定通り行うから準備して欲しい、だそうです」

「え?」

アリアがびっくりしてこちらを見返してきた。それもそうだ、冤罪だとしても逮捕をされればほぼ間違いなく裁判で有罪、死刑になる事は確実なのになぜ式を予定通りなどと言ったのかと。

「ですよね。あのう、裁判の時に司祭が精霊使いではないことを僕が暴き、この裁判自体が無効だって証明してみせるって言ったんです」

「そんな話」

「信じられないかもしれませんが、信じてください。僕がザリスさんを絶対に助けますから」

不安そうな顔を終始していたアリアだが、彼がウエーダーさんを信じたならと納得をしたようで、式の準備をしますと大通りをテント広場がある南へと進んで行った。

「さてと、ザリスの伝言も伝えられたし夜までどうしようか?」

「ふむ、とりあえず酒と飯じゃ。空腹は感覚を鈍らせてしまうからのう」

「ご飯はわかるけどお酒は関係ある?」

「お酒は人生の潤滑剤というじゃろ」

「潤滑剤?ロメリアのお口が滑らかになるだけだろ?迷惑かからないならいいけどさ」

「うむ。迷惑などかけはせぬ」

どこにでもいそうな酔いどれ親父達より酒癖が悪いからなぁ、飲ませたくはないけど仕方がないか。うまい食べ物とお酒を飲ませろって約束だしな。とりあえず僕は僕でこの世界で手に入る物でどんな手品ができるか早急に調べないと。この世界を僕はまだ知らなすぎる。

髪の毛でくつろぐ自称精霊を連れ、僕は大通りに並ぶ店に向かって歩き出した。

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